Top 100 Albums - No.46

2004年4月8日 (木)

商売っ気＆ガイド的要素なしで選ぶボサノヴァ・アルバムNo.1は？と聞かれたら本企画にて46位に選ばれたカエターノ・ヴェローゾ＆ガル・コスタによる本作『Domingo』を迷わず挙げてしまうだろう。いやぁ、これを挙げる方、結構いらっしゃると思う。この作品からカエターノ作品、ガル作品を漁り、また数々のボサノヴァ名盤と呼ばれる作品に出逢っているが、未だこの作品を超えるものは出てきていない…。カエターノ、ガルのデビュー作であり、最初で最後のボサノヴァ・アルバム。ボサノヴァを軽んじる堅物にだって、本作ならば『コレは別モン』と言い放ってやりたいもんだ。

この作品を紹介するにあたり“トロピカリズモ”という60年代終盤に始まったブラジル音楽革命に触れない訳にはいかない。そのトロピカリズモの中心人物として牽引していたのがカエターノ・ヴェローゾ。この大規模な音楽革命はブラジルを統治していた軍事政権と衝突を繰り返し、逮捕されては拘束され…という激動の日々が続く。モラルの欠如、黒い社会への憤りを表現する自由を奪う政府との戦いの末待っていたのは、カエターノともう一人のリーダー・シップを担っていたジルベルト・ジルの両人が国外への亡命を余儀なくされ途絶える、という哀しい終焉であった。この若きブラジリアンたちの青春群像は1968年トリピカリズモ元年として記録され、のちにブラジリアン・ポップス（MPBエム・ペー・ベー）が台頭、このブラジル音楽シーンの起爆剤的役割を果たしたのもカエターノであった。

一方ガル・コスタといえば、カエターノの妹マリア・ベッターニャと共にトロピカリズモの女神として23歳という若さにして細腕ながら革命を支えた一人であり、カエ＆マリア人脈によりジルベルト・ジルと出会いその音楽性を深化させた、まるでダイヤの原石のような存在であった。

トロピカリズモ諸々詳細は割愛するとして本作『Domingo』について。この作品は、トロピカリズモ勃発の前1967年に発表されたもので、当時25歳のカエターノと22歳のガル・コスタの二人が生んだ奇跡的な作品。

のちにくる嵐を予期するかのような静寂、眩しい木漏れ日と憂鬱な日曜（ドミンゴ）の午後...。ヴィスコンティのような美とインテリの饗宴。信念を貫く鋭い眼光と、異彩を放つ佇まい、そして知的な歌声...。十数年前の私が若かりし頃「カエターノ様」なんて表現もよく耳にした（今や私も信仰者）が、彼が放つ教祖的なイズムが人々に影響を与えていたのは明らかだ。加えて女神の称号に相応しいガルの熟れた果実のような瑞々しく豊かな歌声。最高のテンションで制作されたこの声の共演、これ以上の二人の歌声は他作品では聴くことは出来まい。

カエターノが数々のステージで必ず歌っていた#1コラサォン・ヴァガブンドから、神がくれた余りにも幸福な30分間が始まり、カエターノのメロディメイカーとしての才気をみせる素晴らしい楽曲の数々が並ぶ。ジョアン・ジルベルトもサイケに（?）カヴァーしていた美しく瑞々しい#3のアヴァランダード、ブラジルの音楽祭で最優秀歌詞賞を受賞した#4ウン・ジーア、カエターノによるタイトル・トラック#5ドミンゴ、アルバム中、ガル・コスタのヴォーカルが最も映える佳曲#9ミーニャ・セニョーラ、そして心通わす二人のハーモニーが愛くるしく、優しいそよ風のようなラスト#12ザベレーで幕を閉じる。その余韻微かにながら永続的で、再びCDをディスクに入れたくなる中毒性も大いに有。聴いてもらえばこれぞ本当の『至福のひととき』を体感していただけることだろう。

本作『ドミンゴ』はUSA*Verve（現在廃盤）、 Brazil*Polygram、日本*Mercury（現在廃盤）より過去に発売されているが、オノ・セイゲンによるDSDマスタリングを施し、紙ジャケ仕様にてリイシューされた’02年発売の日本盤（Remaster＆紙ジャケ仕様*Mercury）が残念なことに初回限定盤にて生産を終了してしまっている。

現在では、通常パッケージでの通常リマスター作品日本*Universal（UICY-3520）が良さそう。ウ〜ン、しかし、過去に聴いていた盤では味わえない声の脅威をより再確認できる非常に衝撃的な高音質の紙ジャケ・ヴァージョンが完売とはナンとも哀しい。再発を祈りたいところ。

2006年5月、オリジナル・アナログ・マスター使用、オノ･セイゲンによるDSDマスタリング、プラ・ケース仕様にて再発されています日本*Universal（新型番：UICY-90160）。