Top 100 Albums - No.35

2004年4月19日 (月)

80年代後半から90年代初期、ギターロックとダンスミュージックの画期的な融合を生み出したマッドチェスター・ムーブメント。その中心的バンドであったストーン・ローゼスの1stアルバム『ストーン・ローゼス』が35位に登場！

このファーストアルバム『ストーン・ローゼス』は、当時低迷していたイギリス音楽シーンを救う作品と音楽誌などで絶賛されていた。彼らのこのファースト・アルバムがそれほどまでに音楽史の中で重要とされるのには、「イギリス音楽シーンの低迷」が一つキーワードとなっているように思う。

当時はどの音楽誌においても、英国ロックの低迷がささやかれていた。が、しかし、それほどまでに低迷期だったのかというと、そうでもないように思える。例えば、ローリング・ストーンズ『スティール・ホイールズ』、エルヴィス・コステロ『スパイク』、XTC『オレンジズ＆レモンズ』、ニュー・オーダー『テクニーク』、プライマル・スクリーム『プライマル・スクリーム』、ビューティフル・サウス『ウェルカム・トゥー・ザ・ビューティフル・サウス』･･･などがこの時期にリリースされていて、ベテランから新鋭までなかなか充実した作品が多く発売されているように思う。低迷というよりは、何か新しい時代を切り開くエネルギーを持ち合わせた作品が少なかったという言い方が正しいのかもしれない。

時代は80年代後期、新しい音楽の風はワールド・ミュージックによってもたらされていた。また英語圏でもヒップホップがひとつの大きな流れを作っていた。デ・ラ・ソウルの『3フィート・ハイ・アンド・ライジング』という金字塔が生まれたのもこの時期であったし、また、ソウル�Uソウル『キープ・オン・ムービング』など、リズムとグルーヴを持ち合わせた作品がチャートを賑わせていた。そんな中リリースされたのが、この『ストーン・ローゼス』だ。アシッド・ハウスだけでなくヒップホップ的グルーヴを持ち合わせた彼らの楽曲は新しく、曲とメロディと同じくらい重要なリズムとグルーヴを持ち合わせていた。まさにその時代が求めていた作品だった。

ストーン・ローゼズは1985年、幼なじみだったイアン・ブラウン（Vo）とジョン・スクワイア（G）が中心となり５人で結成された。その後にベーシストにマニが加入。イアン、ジョン、レニ、マニの黄金の４人がここで出揃う。彼らが生まれ育ったイギリス工業都市のマンチェスターでは、最新の音楽シーンがあるわけでももちろんなく、彼らがライヴをするのは時に鉄橋の下だったという逸話もあるほど。それでも彼らは他バンドの前座はやらないという独自のポリシーを持ちながら、自分達の音楽が鳴らせるならいつでもどこでもできるんだというスタンスを貫いていた。

そして1988年、新進レーベル、シルバーストーンからシングル『エレファント・ストーン』をリリース。同曲はニュー・オーダーのピーター・フックがミックスを担当したことで注目を浴び、彼らの音楽を代表する、サイケデリックなギターサウンドとポップなメロディの決定打といえるシングル曲だった。 　『エレファント・ストーン』　をリリースしてから、ローゼズ人気は鰻のぼりになり、マンチェスターやロンドンでのライヴは軒並みソールドアウト状態になる。そして記念すべき1989年の夏、デビューアルバム　『ストーンローゼス』をリリースする。

ロックンロールとアシッドハウス・カルチャーを融合させた、今までにないその画期的なサウンドで、一大ムーブメントを起こすまでになる。というか、そのムーブメント、カルチャ−の真っ只中に彼ら自身がいた。そして彼らが奏でたポジティヴな空気感をいっぱいにたたえたサウンドは、ハッピー・マンデーズやインスパイラル・カーペッツといったマンチェスター勢、後発のシャーラタンズ、同世代なプライマル・スクリーム、そして弟分的バンドのオアシスらとともにイギリスのバンド音楽シーンの主流となっていった。

アルバム『ストーン・ローゼス』の後にリリースされ、初のトップ１０ヒットを記録した「フールズ・ゴールド」は、ジェイムズ・ブラウンのリズムをサンプリングしたものだ。そして、この曲はRUN　DMCの91年のシングル『ホワッツ・イット・オール・アバウト』でバック・トラックに使用されている。そういった異ジャンルの音楽への接近がストーン・ローゼスの音楽に斬新な響きをもたらしたと思う。

ロック・ポップスのみならず、ソウルやレゲエ、ハウスも聴いて生まれたバンド、ストーン・ローゼス。そんな彼らのミクスチャーな感性が明らかに90年代の音楽シーンに繁栄されていったし、またその時代が求めていたものであった。そして当時のロック・アルバムには見られないそのリズム感が、音楽の価値観を大きく変えたのだと思う。