Top 100 Albums - No.28

2004年4月26日 (月)

「どれだけ道をあるいたら 一人前の男として認められるのか? いくつの海をとびこしたら 白いハトは砂でやすらぐことができるのか? 何回弾丸の雨がふったなら 武器は永遠に禁止されるのか? そのこたえは、友だちよ 風に舞っている こたえは風に舞っている」

並木道をこの歌詞を語りながら歩く、鈴木保奈美、江口洋介、唐沢寿明ほか数名… この歌詞が、10年前ぐらいの某トレンディドラマ(主題歌は浜省!)で使用されたときは、正直ひきましたが…いまさらながらボブ・ディランの歌詞を隅々まで読み直してみると、なかなか感慨深いものがある。奥深いといっちゃぁ、それまでだが。この名曲「Blow In The Wind(風に吹かれて)」も然り。社会不安に揺れていた'60年代初頭のアメリカ、公民権運動の嵐や、ベトナム反戦運動の萌芽期といった社会背景のもとにディランが制作し、当時の人々がそれを前提に聞いた楽曲であることは確かですが、現在、そんなことをいちいち気にして聴く方もほとんどいないでしょう。しかし、このいつでも新鮮さを失わない楽曲の魅力はディランならではである。

その楽曲を収録した彼のセカンドアルバム『フリーホイーリン』 (1963年)であります。 60年代のディランの代表作といえば、今作と『追憶のハイウェイ』 (70年代なら『血の轍』でしょう)だと一般的にはいわれます。そして、好むと好まざるとに関わらず、結果的にディランがプロテスト・フォーク・シンガーとして確固たる地位を築いた作品でもあり、のちの彼の基盤ともなった作品でした。(オリジナルが2曲だけであった前作と違い、このアルバムでは11曲目の「コリーナ・コリーナ」を除いてはすべて彼のオリジナル曲) さて、アルバムの紹介に入る前にこの独特の作品を生み出した時代背景を語るべきでしょう。フォークソング・リヴァイバルの中、長い間歌い継がれてきたトラディショナル・ソングをアレンジして歌うアーティストと、新しい自分なりの楽曲を歌うシンガー・ソングライターが登場し、この2つの関係性の間に立ったのが当時のディランでした。若い頃からブルースやホーボー・ソングを愛し、やがてウディ・ガスリーに心酔し旅を経験したディランは、冬のニューヨークの街でフォーククラブの仕事も見つけられない日々を送った若いフリークのひとりでした。今作をはじめ、初期の作品には旅を題材にした楽曲も多く、その一方、強い意志に沿った彼独特の世界は、一般的な放浪者のそれとは大きく違い、今作でその魅力が弾けています。

このアルバムのレコーディングは、前作とは打って変わって1962年7月から1963年4月まで、約9ヶ月という長期に亘って断続的に行われたそうです。アルバムに収録されたのは13曲だが、この時期のディランの変遷はめまぐるしいものがあり、実際にレコーディングされたものの、残念ながらアルバムに収録されるに至らなかった多数のアウトテイク曲がある。(それらは別の音源集などで聴く事ができます、どれも素晴らしい!)

そして、まず今作の素晴らしい点はそのジャケット!ディランの当時のガール・フレンド、スーズ・ロトロと肩を寄せ合って冬のニューヨークを歩く姿は、映画『タクシードライバー』のジャケット並みに印象的。で、収録曲も言わずもがなな1曲目の「風に吹かれて」をはじめ、先に登場のスーズ・ロトロのことを歌ったといわれる2曲目「北国の少女」、ほとんどワンコードの強烈なプロテストソングの3曲目「戦争の親玉」など、アルバム冒頭から名曲が続く。名曲「風に吹かれて」は現在までディランは長いこと歌い継いでいるが、正直、原曲を何度もアレンジ変更して演奏してきたため、ライブでは新たな曲に生まれ変わっているといっていい。他の曲も歌いだしてもなんの曲かわからないことが多い…

また今作のなかでも名曲と誉れ高い7曲目の「くよくよするなよ」。この楽曲で歌われるのは、男と女の別れ。しかしながらここで歌われる男は、当時の弱い立場である放浪者ではなく、強い立場にたった加害者としての男であった。こういったところからもディランが、当時のフォークの概念とは違った世界観をもっていたことが伺える。また人種問題を歌った9曲目の「オックスフォード・タウン」など社会性を持った楽曲と、未練がましい恋の唄「ダウン・ザ・ハイウェイ」などの対比もまたおもしろい。

アコースティックギターとハーモニカを主軸に、シンプルな演奏とディランの歌声だけで一枚を聞かせ上げる今作。社会性が強いとも言われやすいが、シンプルなだけに、はまると奥深い。そして、この魅力はディラン作品に共通していえる事でしょう。いかに時代が経とうと、このシンプルな故の強烈な個性と、攻撃性は損なわれることはないだろう。

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Freewheelin

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Bob Dylan

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発売日:1997年02月01日

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