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村井 翔 さんのレビュー一覧 

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  • 3人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/09/19

    指揮者には指揮姿と出てくる音楽が完全に一致している人と、そうでもない人がいる。テンシュテットはバーンスタインのような前者の極致ではないとしても、その逆のフルトメンクラウ風の茫洋とした指揮でもない。彼の音楽の特徴である細かな作り込みの大半は綿密なリハーサルの成果だろうけど、前かがみの姿勢で一心不乱に振るおなじみの指揮姿ながら、勘所ではちゃんと的確なキューが出せることは、この映像でも明らかだ。アダージェットの最初など、柔らかい表情が欲しいところは指揮棒なしで振っているのも見もの。さて、その映像は1988年収録なので、それなりの画質・音質であることは覚悟する必要がある。音だけなら既にEMIから出ているCDの方が上。絵も物理的な鮮明さでは同じ年の日本公演ライヴに劣るけれど、ごく真っ当な演奏会映像ながら、カメラワークが的確なのは救い。それに何よりもマーラー5番が見られる有難さは、何にも代えがたい。演奏自体は、既にCDとしても定評あるものなので、多く語る必要もあるまい。私はこの曲ではシノーポリ、ガッティなど、より鋭角的な指揮を好むけど、これも文句を言ったら罰が当たるような堂々たる演奏。音楽の呼吸が深く、大きく、しかも5番の特徴である線的対位法のからみが見事に表現されている。

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     2011/09/16

    まず最初に録音状態についてレポートしておこう。1989年の2番は驚異的な水準だったし、1991年の8番ライヴは以前から映像ディスクとして発売されている通り、若干の混濁が避けられぬとしても、おおむね良好なものだった。1986年の3番ライヴはこの二種や既にEMIから発売されている5〜7番のライヴよりやや落ちるが、1983年の6番ライヴよりは遥かに良い。80年代BBC収録のコンサート・ライヴとしては平均的な水準だろう。演奏は1979年のスタジオ録音と聴き比べてみたが、ライヴの方が緩急のメリハリが強くなっているものの、基本的にはそれほど違わない。つまり、2番ほど巨大なスケールではなく、爆演でもない。でも、やはりいい演奏。マーラーのなかでも(特に第1楽章は)群を抜いて前衛的な音楽であるこの曲は、最近ではまるで現代音楽のように精緻で、解剖学的な手つきで扱われることが多いが、テンシュテットの指揮で聴くと、各部分が有機的にからみあって発展してゆく、れっきとしたドイツ・ロマン派の音楽に戻っている。新プラトン主義的なものなのか、それともニーチェのいわゆる「神の死」後の世界なのか、議論は分かれるにしても、いずれにせよ森羅万象を描き尽くそうとしたこの交響曲に、こうした演奏は実にふさわしい。この指揮者らしい細部の作り込みも健在だ。EMI録音では薄っぺらく聴こえがちだったLPOがここではとても分厚い音を出していて、管楽器の難所が多い曲なのに、ほとんど破綻がないのも素晴らしい。

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     2011/09/11

    今年のBPO来日公演は東京で3回の演奏会が行われるだけなので仕方ないが、事前抽選ことごとく外れ、発売当日は朝からパソコンにかじりついたが、発売から15分で全席売り切れ。結局、チケットを買えなかった。目下、絶好調と思われるこのコンビに対するクラシックファンの期待の高さが分かる。このCDもシェーンベルクという名前だけで敬遠する人がいたら、実に惜しい。ブラームスの第5交響曲と俗称されるピアノ四重奏曲第1番の管弦楽版はそもそも目茶苦茶に面白い曲。ジプシー音楽調の終楽章など、ブラームスらしからぬド派手な音楽だが、そこに目をつけたシェーンベルクもさすが。すでに2度目の録音、ギリシアでのヨーロッパ・コンサートでの映像もあるラトルにとってこの曲はもはや自家薬籠中のもの。どうも弱腰だったブラームスの4つの交響曲とは別人のような積極的な演奏だ。珍しい室内交響曲第1番の大管弦楽版もここまでやるか、というような力押しでオケの名技を見せつける。ところでSACDは今のところ日本だけでの発売のようだが、新録音の少ない現状ではハイクオリティCD、SACDとあれこれ出して、同じ音源で複数のディスクを買わせようという姑息な商策のように見えてしまう。いっそクラシック新譜はすべてSACDハイブリッドという英断に期待したい。

    5人の方が、このレビューに「共感」しています。

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     2011/08/30

    2002年マリインスキー劇場管、2004年ロッテルダム・フィル、2010年ロンドン響と日本での3回の演奏がいずれも良かったので、ゲルギエフ自身、得意な曲なのだと思う。それをマーラー交響曲シリーズの最後に持ってきたわけだから、大いに気合のはいった録音。79分とCD1枚にかろうじて収まる演奏時間だが、遅いところは結構たっぷりしていて、全体に速いという印象ではない。第1楽章なら提示部末尾、展開部のクライマックス、第2楽章の第2ワルツ、第3楽章(この楽章末尾の猛烈な追い込みは期待通り)など速いところが相当に速いので、ここで時間をかせいでいるのだろう。つまり強弱、緩急の振幅が非常に大きい演奏。ポリフォニーが聞こえないだの、細部の仕上げが粗いだのと文句を言う余地はあるけど、われわれがゲルギエフの指揮に期待する要素は100%満たされているのだから、満点をあげてもいいのではないか。2、3、8番がこの水準で出来ていれば、と後から振り返れば残念なシリーズだったが、終わりよければすべてよし。

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  • 4人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/08/29

    HMVレビューでは演奏会形式上演のライブとあるが、解説書にはライブとの記述はなく、聴いた感じでも名プロデューサー、ジェイムズ・マリンソンの仕切りのもと、5日間を費やしたセッション・レコーディングのようにも思える。2010年9月と言えば、ナタリー・デセイが日本で驚異的な『椿姫』を聴かせてくれた、ほぼ一カ月後にあたる。表現としては全く斬新かつ繊細、彼女にしかできない『椿姫』だったが、すでにあの時、声楽的には高い方が苦しそうだと感じたものだった。彼女としても、これ以上、イタリア語版の録音を延ばすと、もう『ルチア』は歌えなくなると考えていたのだろう。というわけで、これはおそらく万全の準備をし、声のコンディションを整えての録音。声楽的にも、表現としても完璧、グラス・ハーモニカの使用も含めて、史上最高の「狂乱の場」に数えられる出来だと思う。『ルチア』はゲルギエフがマリインスキー劇場で日常的に振っているレパートリーとは思えないが、彼の指揮が思いのほか良い。劇的な振幅が非常に大きく、第3幕冒頭の嵐の場面など凄まじい限りだ。仏語版のエヴェリーノ・ピドとは違うタイプの指揮者を求めたのだろうが、この共演は大成功だ。ベチャワは南欧系テノールに比べれば「低体温」だが、あまりロブストなテノールと組むわけにはいかないから、まあ悪くない。

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     2011/08/20

    1980年の録画なので、それなりの音質・画質だが、経年劣化の痛々しかった前年のパリでのシェロー演出版(かつ日本語字幕が抱腹絶倒の誤訳だらけなのは参った)よりはずっと良い状態だ。演出は写実的で性的描写もごく控えめ。今見ると古色蒼然といった感もあり、前述のシェロー演出がいかに傑出したプロダクションであったかを思い知ることになった。しかし、演奏自体はきわめて充実。明晰かつ劇的起伏豊かな、素晴らしい指揮はやや貧弱な録音からも、ちゃんと聞き取れる。歌手陣ではジュリア・ミゲネスがやはり出色のルル。限られたレパートリーしか歌わなかった歌手だが、映画版『カルメン』と並んで彼女の代表作と言える映像だろう。かつてのルル役、イヴリーン・リアーの堂々たるゲシュヴィッツも見ものだし、ブーレーズ/シェロー版にも出ているフランツ・マツーラ、ケネス・リーゲルも文句なしの名唱。シゴルヒのアンドリュー・フォルディが好々爺といった印象で、無気味さが足らないのがほぼ唯一の不満。

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     2011/08/13

    この魅力的なオペラの三組目の映像ソフト。演出は穏健だが、舞台後景に水が張られ、その上の手前側に傾いた大きな鏡に上からの眺めが映るのがこの舞台のミソ。第1幕「マリエッタの歌」の終わりでパウルが眠り込むような姿勢を見せるほか、第1幕と第2幕は続けて上演されるのだが、マリーの肖像画ほか前景をそのまま残したまま第2幕が演じられるので、この部分が主人公の夢または妄想であることが、はっきりと見てとれる。インバルは最近の都響との爆演とは違って、手堅い指揮。ノスタルジックな側面をあまり強調せず、20世紀の音楽らしいモダンさを聴かせようとしているのは、それなりの見識だろう。しかし歌手陣はかなり残念な出来。フィンケは小太りのオジサンという主人公にあまりふさわしくない容貌に加えて、二晩のライヴの編集であるにも関わらず、声楽的にもやや不安定。クリンゲルボルンはなかなか魅力的だが、アップになると老けた顔に見えてしまうのが惜しい。

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     2011/08/08

    ハンブルクでの上演もレーンホフ演出にしては珍しくコンセプトにブレがなく、見応えあるものだったが、こちらは指揮・演出の水準がさらに高い。演出は舞台を現代に移し、十字架すら登場しないという宗教色を排したものだが、社会から弾圧されるカルトな小集団の物語として普遍化できることを鮮やかに証明してみせた。したがってエンディングもギロチン処刑ではなく、ブランシュも死ぬために戻ってくるわけではないのだが、実に感動的かつ悲劇的な幕切れになっていて、演出家のアイデアの勝利を強く印象づける。ケント・ナガノの指揮はロマン派の音楽ではロマンティックなふくらみの乏しさを不満に感じることが多いが、ここでは彼の得意とするブルックナーの交響曲のように禁欲的でシャープな音楽が作られていて、見事にハマリ。歌手陣は(フランス語圏以外での上演ではやはり難しい課題である)フランス語発音には課題を残すものの、主役スーザン・グリットンの憑かれたような熱演以下、特に演技の巧さは大いに評価すべきだろう。

    2人の方が、このレビューに「共感」しています。

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     2011/08/07

    メトの録画がブルーレイで出るようになったのは朗報。これで録画の方が画質が良いと文句を言わずに済む。衣装はリニューアルされているが演出は1987年録画と基本的に同じ。それでも真上からのショットを含めた、以前より機動的なカメラワークと段違いの高画質のおかげで、もう一度見る価値はある。指揮はきわめてスケール大きく、音楽のモダンな特質を斬新にとらえている。時に無機質に響くこともあるが、これも和声の新しさを強調したいがゆえと考えたい。グレギーナは声の威力という点ではマルトンの敵ではない。1年前のバレンシアでの録画と比べてもさらに不安定で、年齢ゆえに下降線をたどっていることは否めない。しかし、マルトンを大きく凌ぐのは巧みな演技力。姫の「弱さ」を見せようとする演唱と考えれば、それなりに説得力がある。ジョルダーニもドミンゴのような安定感、マッチョさはないが、もともと難しい役なので(リューの愛を知りながら、なぜ命を賭けてトゥーランドットの謎に挑もうとするのか、私にはいまだに彼の気持ちが分からない)、彼の一途さは意外に買いかもしれない。ポプラフスカヤは控えめながら、細やかな歌唱。役にはとても合っている。BDは第2幕終わりまで英語字幕のタイミングが大きくずれたままという欠陥商品だが、日本の消費者にはさして問題なかろう。

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     2011/08/01

    ノット/バンベルク響とたまたま同時に発売されることになったが、あらゆる点で対照的な演奏。第1楽章の「夏の行進曲」部には、この演奏の目玉と言える、個性的なテンポの動きがある。テンポの操作は、なるほど理に適っているとも言えるし、特に展開部での暴れっぷりは痛快でもあるが、この曲に関しては、この種の爆演は「暑苦しく、うざい」という印象がどうしてもぬぐえない。オケの能力自体、明らかにバンベルク響より格下で、細部の表現はどうしても雑にならざるをえない。それをカバーするために大芝居を仕掛けていると見られかねないのも、印象の悪いところだ。これに比べれば、第2楽章の副次主題部でテンポを速めるのは、少々速くなりすぎだとしても、楽譜の指示通りで違和感はなく、テンポ・ルバートの美しいこの楽章は文句なく楽しめる。最後の第6楽章も何か大立ち回りがあるのではないかと期待したが、ここは不発に終わった。こういうゆったりした音楽は、まだ現在のフェルツの手には余るようだ。

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  • 7人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/08/01

    第1楽章「冬の主題」部でオブセッションのように繰り返される葬送行進曲の三連音符、普通はもっと重々しく「もっさりと」奏されるものだが、この演奏では徹底して切れ味鋭く、シャープに造形されている。一方、「夏の行進曲」部ではポリフォニックな対位旋律が全部透けて見えるように聴こえ、本家ブーレーズ以上にブーレーズ的だ。つまり、下手な大芝居を打つのは避けて、細部を徹底的に磨き上げることによって、この破格の大交響曲の威容を浮かび上がらせようとするアプローチで、このコンビのこれまでのマーラー・シリーズと基本的には変わらぬやり方だが、3番ではそれが格別、成功しているように感じられる。ジャケットに使われているココシュカのフォーヴィズム(野獣派)的な絵とは正反対のアプローチと言えよう。第1楽章に劣らず前衛的な第4楽章も、おそらく史上最長の演奏時間を要して、きわめて繊細な手つきで演奏されている。藤村実穂子も貫祿の名唱だし、第5楽章では故意にアルカイックな、むしろ稚拙な感じを出しているのも面白い。一方、第6楽章のように音楽書法としては比較的伝統的な部分では、このコンビはやや「手持ち無沙汰」のように感じられるが、非常に丁寧な演奏であることは変わらない。

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  • 2人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/07/25

    「トロイの木馬」がコンピューターウィルスだなんて、あまりにベタで笑うしかないが、演出家はパロディどころか大真面目らしいのは、もっと笑える。トロイの女たちの集団自決の場では派手に血糊を見せるが、ワイヤー吊りにこだわった結果、緊迫感ゼロの凡庸な場面になってしまった。地中海が宇宙空間に置き換えられれば、こういうことになるだろうという、すべて予想通りの舞台で、『指輪』はあれでもまあ何とか見られたが、どうやらアイデアは種切れらしい。『指輪』のネタの使い回しで何とかなるだろうという安易な姿勢は買えないし、批評眼がないというか、演出のアイデアがこんなに陳腐では見られたものではない。指揮は素晴らしい部分と凡長なページが混在する大作を手際よく聴かせてくれるし、マトス(カサンドラ)はいささか「憑依」が不足で能天気すぎるが、ライアン、バルチェッローナの両主役とも立派な歌いっぷりなだけに、この間抜けな演出が何とも恨めしい。

    2人の方が、このレビューに「共感」しています。

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     2011/07/24

    マリインスキー劇場来日公演『影のない女』でもセンスのいい舞台を見せてくれたジョナサン・ケントの演出が素晴らしい。舞台はフランコ政権下のスペインで、登場人物は20世紀の衣装ながら、無国籍ではなく南欧の香りがあるし、社会の閉塞状況を象徴する威圧的な装置もいい。第1幕の終わりは『甘い生活』(フェリーニ)風の乱交パーティー、「地獄落ち」の場もホラー映画タッチの新テイストだ。第2幕のセレナードは多くの演出でハイライト・シーンとなっているが、聴く者もいない、雪の降りしきる暗闇でただ一人歌うドン・ジョヴァンニの孤独は痛々しい。指揮はピリオド・スタイルを自家薬籠中のものとしており、表現力ではオケがあまり協力的でないハーディング/VPOを凌ぐほど。なお、完全なウィーン版で最終場もちゃんとあるが、プラハ版に比べると少しカットがあって、これまで聴いたことのない音楽が聴かれる。フィンリーはやや陰影に欠けるが、ダンディーで悪くない主役。主人との同性愛さえも匂わせるピサローニのレポレッロはさらに良い。女声陣ではサムイルがさすがの声と表現力。ヴィロフランスキー(ジャケットの女性)も定番通りの小悪魔ぶり。声は少し非力だが、ロイヤルのかなり露骨なシュヴァルツコップ・コピーも面白い。

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     2011/07/03

    大成功を収めたバイロイトのクプファー演出以来、読み替え演出の格好のターゲットである『オランダ人』。心理演出の大家であるクシェイとしても、一度はやってみたかった演目だろう。クプファー版では舞台が19世紀であることが、読み替えの欠くべからざる前提だったが、この舞台では時代は完全に現代。第1幕では豪華船でクルーズを楽しむ金持ち一行が、嵐と幽霊船に遭遇するといった趣向。第2幕はスポーツジムの女性更衣室で、そこでただ一人、糸紡ぎに励む時代錯誤のゼンタは完全に皆から浮いている。ゼンタとオランダ人、双方とも相手に救済の願望を投影したあげく、すれ違い、つまり悲劇に至るという過程はよく描けているが、各種読み替えが氾濫する中では、いまひとつの決定的なインパクトに欠けるか。普通とは逆に幽霊船の船員たちを手前側に配し、この演出家らしい群衆処理の巧みさを見せる第3幕第1場が一番見応えがある(ちなみに、ディスクにはバックステージの特典映像があるが、演出家自身が出てきて、ベラベラ演出意図を喋ってしまわないのは好印象)。指揮は素朴な手作り感が取り柄だが、カラヤンのような金ぴかで滑らかな音楽の方が、演出意図には合ったかもしれぬ。ネイグルスタードは歌、演技とも素晴らしく、この上演の大収穫。スキンヘッドのウーシタロも「異世界人」ぶりは文句なしだが、声が立派なだけではなく、歌そのものに演技力があれば、なお良かった。ダーラント、マリー、エリックはオリジナルと全く違った人物設定だが、いずれも好演。特にクプファー版ではゼンタの身を思いやる善人だったエリックは、第2幕ではプールに侵入した幽霊船の船員たちを撃ち殺してしまう危ない男で、人物配置上ではオリジナルの位置に戻っているが、これがエンディングの伏線にもなっている。

    7人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 5人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/07/03

    二年続きのマーラー・イヤーを現代最高のマーラー解釈者であるティルソン・トーマス/サンフランシスコ響が見過ごすはずもなく、昨秋5番の録画が行われたというニュースも流れたが、1番の方が先に出た。BD2枚組のため、かなり高い商品だが、コンサート2晩分のライヴ、ドキュメンタリーも1番のアナリーゼにとどまらず、マーラーの生涯全体を追った2時間近い長編と充実の内容だ。ドキュメンタリーは特に新味はないものの、いつもながら「啓蒙的」な内容、MTT自身がマーラーゆかりの地を訪ねて収録という丁寧な作り。個人所有のため、普段は見ることのできないヴェルター湖畔のマーラー別荘の内部が見られるのは貴重だ。
    お目当ての1番の演奏だが、私は2001年録音のCDをすでに、この曲のベスト・レコーディングと考えてきた。今回の演奏では第1楽章の提示部反復が省かれ、基本テンポが心持ち速くなったため、一段とシャープな印象。オケが指揮者の解釈を完全に血肉化し、マーラーの語法を自家薬籠中のものとしているため、細部は非常に精緻にできているが、実はテンポは緩急自在。ラトル/BPOがこれまでの演奏慣習をいったん白紙に戻した上で、冷徹に総譜を読んだ演奏とするならば、こちらはバーンスタインなどの演奏伝統の上に、さらに独自の読みを付け加えた演奏と言える。つまり、まぎれもなくロマンティックな演奏だ。いつ見ても惚れ惚れとさせられる「キーピング・スコア」シリーズの機動的なカメラワークは、今回も実に素晴らしい。

    5人の方が、このレビューに「共感」しています。

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