3人の方が、このレビューに「共感」しています。
2012/10/30
そら恐ろしいショスタコーヴィチ. ソ連勢とは違う方向で,非常に深刻,深淵な音楽に仕上がっています. ある意味玄人向けの演奏で,最初に聴くのは勧められません. 西側で初めて本格的にこの作曲家をとりあげたハイティンクですから,悪かろうはずもないのですが,内容は諸氏のレビュー通り.音質はCDなのにマスの響きをしっかり捉えていてしかも鮮烈,ただダイナミックレンジがとても広く弱音と強音の差が大きい. ちょっと高級機向きかな. 最近は本家コンドラシンSKD,ラトルCBSO,インバル都響などの熱く,しかしシニカルさや軽妙さを忘れない凄演に触れ,手に取る機会の減っていたこの盤ですが,改めて聴いてみるとこれらとかなり異なる特殊なタイプの演奏であると再認識. ハイティンクは凡庸とされてきた過去がありますが,ちゃんと聴けばむしろ普通の曲のイメージからはかなり違ったものを目指しているのがわかります. この作品の演奏にありがちな意図的にチープな音色,暴力的な音色は聞かれず,いつものハイティンクらしい質感高いサウンドで,曲が解体されてしまっているかのようなテンポを守り,じっくりと,じわじわと造形し,終始仄暗い冷たさ,恐怖感から解放されません. おどけきらないのです. 盛り上がる箇所も煽ったりしない. この作曲家特有の洒脱感や軽音楽っぽさ,無機的な怪物感は慎重に拭い去られ,まるで世紀末音楽のような音色の重なりが見えます. しかし突き放しきっているわけではない. だからこそ不思議な暖かさが残る. スルメアルバム. この曲が好きで,いろんな盤を聴きつくしてしまったという人に是非薦めたいです. (廃盤ですが彼のチャイコフスキーなども同じ印象)DVDも作曲から初演の経緯について,演奏風景とソ連の風景をPVのごとくドキュメンタリー風に追体験できる意識の高い内容. おまけにしてはよくできてる.