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平林直哉 スクリベンダムのムラヴィンスキー 1972年ボックス

2004年2月27日 (金)

ムラヴィンスキー・イン・モスクワ!
-モスクワ音楽院大ホール・ステレオ・ライヴ-


1972年ボックス(3CD)

平林直哉
「スクリベンダムのムラヴィンスキー(1972)について」


 スクリベンダムのムラヴィンスキーの第2弾がようやく届いた。結果は前回同様、素晴らしい音質でよみがえっており、またしても聴きまくった次第である。

 今回発売される音源は1972年のライヴである。前回CD化された1965年の録音は過去様々なレーベルから発売されていたが、今回の1972年録音はそのほとんどがBMGクラシックス時代に発売されたものが最初であり、単純な音質の比較はそのBMG盤のみとなる。
 前回発売でも触れたとおり、BMGクラシックスで先に発売されたのは輸入盤の方であり、これはいわゆるノイズ処理を施したもので、従来のムラヴィンスキー・ファンにはあまり評判は良くなかった。その後、国内のBMGクラシックスからはノイズ処理を施さない、マスター・テープの情報を可能な限り忠実に再現したと思われるCDが発売された。私個人としては、このBMGクラシックスの国内盤こそムラヴィンスキーのCDを語る上で基準となるものであり、音質も望みうる最上のものだと思っていた。
 ところが、このスクリベンダム盤は、そのBMGの国内盤をも明らかに上回った音質なのである。大まかに言うと、今回の音は前回のすっきりと抜けの良い印象に加え、ガツンとくる腰の強さが加わったのだ。おそらくは当時のメロディア録音も数年の間で技術が進歩したのだろう、その痕跡がはっきりと捉えられているのである。

 具体的に触れていこう。べートーヴェンの交響曲第4番は日本公演ライヴや1973年録音と酷似しており、特に触れる必要はないと思うが、重要なのは同じく交響曲第5番の方である。この第5はムラヴィンスキー唯一のステレオによる録音で、ムラヴィンスキーの第5の中でも突出しているだけではなく、あらゆる第5の中でも特筆大書されるべき名演である(私は以前、BMGとロシア・メロディアとの録音契約終了のニュースを聞いたとき、予備のためこのCD=BVCX4029を1枚余分に買ったほどだった)。ともかく、私自身、プロのオーケストラがこれほど燃え立った例はほかに知らない。特に第4楽章、それは身の毛もよだつほどのすさまじさだ。
 ブラームスの交響曲第3番も実にがっしりした、透明な音質に変わっており、改めて聴きほれた。ムラヴィンスキーは生涯でこの交響曲をわずか数回程度しか指揮をしていないと言うが、そんなことはとても信じられないほど、ほかの演奏と全く同様、完全に手中に収まった演奏である。ショスタコーヴィチの交響曲第6番も、冒頭から他の指揮者とは全く違った厳しさと神秘とにあふれた音場が広がり、たちまち金縛り状態となる。第3楽章の羽毛のような柔らかな音色から、引き裂くような強烈な音まで、表現のダイナミック・レンジの広さにも圧倒される。
 最後はチャイコフスキーの交響曲第5番などが入ったものである。チャイコフスキーの第5はムラヴィンスキーのディスコグラフィの中でも最も種類が多いものである。その解釈は誰もが耳にタコが出来るほど知り尽くしているだろうが、音質が良くなった分、それだけ感銘も増幅される。むろんチャイコフスキーの第5も凄いが、手に汗を握ったのは同じくチャイコフスキーの「フランチェスカ・ダ・リミニ」である。この曲もムラヴィンスキーがこよなく愛したものだが、その鬼気迫る味はムラヴィンスキー/レニングラードならではである。そして最後には前回のセットに2種類の録音が入っていたワーグナーの「ワルキューレの騎行」で、これはその時、聴き飽きるほど聴いた。にもかかわらず、今回のそれはより重心の低い、奥行き感の増した音質のせいか、再度、心の底から揺り動かされた。
 こういった過去にいくつも出ていた復刻盤が上書きされる場合、一番困るのが前のものと比べて全然良くないもの、そしてその次に困るのはあれは良いが、こちらは良くないなどのムラのあるものだ。しかし、スクリベンダムのムラヴィンスキーは、過去のCDと比較してただの1曲でさえも失望したものはない。すべて、成功しているのである。  続編は未定というが、こうなればブラームス交響曲第2番、第4番、ブルックナーの同第9番、そして1973年録音のベートーヴェンの同第4番、チャイコフスキーの同第5番なども、絶対に再度CD化して欲しいと願わざるを得ない。

 なお、最近はレコード会社の再編などで、カタログの動きが非常に速くなっている。このような良質盤も何らかの理由で、突然入手が出来なくなることも考えられるので、気になるファンはただちに入手しておいて欲しい。

(ひらばやしなおや 音楽評論家) 

CD1
■ベートーヴェン:交響曲第4番 OP.60
 1972年1月29日 エンジニア:ヴェプリンツェフ
■ベートーヴェン:交響曲第5番 OP.67『運命』
 1972年1月29日 エンジニア:ヴェプリンツェフ
■ワーグナー:『神々のたそがれ』〜「ジークフリートのラインへの旅」
 1972年1月26日 エンジニア:ヴェプリンツェフ

CD2
■ワーグナー:『タンホイザー』〜「ヴェヌスベルクの音楽」
 1972年1月27日 エンジニア:ヴェプリンツェフ
■ブラームス:交響曲第3番 OP.90
 1972年1月27日 エンジニア:ヴェプリンツェフ
■ショスタコーヴィチ:交響曲第6番 OP.54
 1972年1月27日 エンジニア:ヴェプリンツェフ

CD3
■チャイコフスキー:幻想序曲『フランチェスカ・ダ・リミニ』 OP.32
 1972年1月27日 エンジニア:ヴェプリンツェフ
■チャイコフスキー:交響曲第5番 OP.54
 1972年1月30日 エンジニア:ヴェプリンツェフ
■ワーグナー:『神々のたそがれ』〜「ジークフリートの葬送行進曲」
 1972年1月26日 エンジニア:ヴェプリンツェフ
■ワーグナー:『ワルキューレ』〜「ワルキューレの騎行」
 1972年1月26日 エンジニア:ヴェプリンツェフ

エフゲニー・ムラヴィンスキー(指揮)レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

リマスター:イアン・ジョーンズ


1965年ボックス(4CD)

平林直哉
「スクリベンダムのムラヴィンスキー(1965)について」


 スクリベンダムから発売されるムラヴィンスキーのCDが届き、聴き始めたら、これがとんでもないことになった。音質が素晴らしく鮮明なので、全く初めて接したような感動に打ち震え、むさぼるように聴いた。ムラヴィンスキーといえば、最近ではアルトゥスの日本公演ライヴ、あるいはドリームライフのドキュメンタリー映像など、それらの解説を書かせていただいた関係上、個人的にはここしばらくは過度と言えるほどムラヴィンスキーを聴き、観ていたのである。にもかかわらず、今回の試聴盤は2度、3度と繰り返し聴いた。いや、聴き狂っていたと言った方が適切だろう。その間、身体は金縛りのようになり、場面によってはぞぞと鳥肌が立ち、何度も目がうるうるしてきた。凄い、凄すぎる、心底そう思った。

 興奮ばかりしていてはいけない、客観的な情報をお伝えしなければ。ムラヴィンスキーの過去に出たCDは年代順に大別すると以下のようになる。

@ビクター音楽産業盤
ABMGメロディアの輸入盤
BBMGメロディアの国内盤
C今回のスクリベンダム盤

 @は長く日本のファンに親しまれていたもの。メロディアの技師がわずかに残響を加えていたようで、それなりの雰囲気がある。また、LP用としてリマスタリングされていたせいか、中音が豊かで腰の強い音に感じられるものだった。英オリンピアや独ZYXなどはこれと同じような音である。

 Aは最新技術を駆使して客席のノイズなどを除去し、聴きやすく処理されてはいるが、@との印象が違いすぎるということで、特に昔からのファンにはあまり評判が良くなかった。

 BはAで行ったノイズ除去を取りやめ、国内でリマスタリングされたもの。@のような付加された残響などがなく、すっきりと見通しの良い音質で、よりオリジナル・マスターに近いものを感じさせた。しかし、@に比べるとちょっと腰がないと、一部の人には言われていた。

 今回のCは間違いなくこの4種類の中で群を抜いている。@の残響に慣れていた人は最初、このCを聴くと一瞬物足りなさや、音が軽いと錯覚するだろう。しかし、Cをしばらく聴いて@に変えてみると、この@の汚れやレンジの狭さに気がつく。Bも決して悪くはないが、高域の音の抜けや各パートの明瞭さ、奥行き感、定位など、全ての点で今回のCが優れている。

 この音質で聴くと、前から高く評価していたバルトークの《弦、チェレ》やオネゲルの交響曲第3番が、いっそう凄まじく聴こえる。前者の精妙さ、そして後者の空間を引き裂くような、悪魔的な音塊。あまりにも有名なグリンカの《ルスランとリュドミラ》序曲も改めて感動したし、ワーグナーの《ローエングリン》第3幕前奏曲、《ワルキューレの騎行》なども生で聴いた凄さを思い出し、思わず「これだ、これこそムラヴィンスキーの音だ!」と心の中で叫んでしまった。モーツァルトの《フィガロの結婚》も、以前はやたらと骨張った演奏だと思っていたが、今回、その真価が分かったような気がする。リャードフの《ババ・ヤガー》も、その表現力の幅広さに驚いた。さらに、ヒンデミットの《世界の調和》のような、個人的には全然好きではない曲でさえも、今回のCでは一気に聴き通してしまった。

 次回は1972年のものも発売されるらしいが、予定に入っていないシューベルトの《未完成》やブルックナーの交響曲第9番、そしてモノーラルながら驚異的な熱演であるR.シュトラウスのアルプス交響曲などもCの音での再発売を切望したい。

 なお、演奏内容とは実質的には関係ないが、今回のCDでは交響曲のような大曲の場合、楽章間のインターバルもノー・カットで 収められており、その点でもマニアには喜ばれるだろう。

(ひらばやしなおや 音楽評論家) 

CD1
■グリンカ:『ルスランとリュドミュラ』序曲
 1965年2月26日 エンジニア:ガクリン
■ムソルグスキー:モスクワ河の夜明け
 1965年2月21日 エンジニア:ヴェプリンツェフ
■リャードフ:バーバ・ヤガー
 1965年2月21日 エンジニア:ヴェプリンツェフ
■ショスタコーヴィチ:交響曲第6番
 1965年2月21日 エンジニア:ヴェプリンツェフ
■グラズノフ:『ライモンダ』第三幕への前奏曲
 1965年2月21日 エンジニア:ヴェプリンツェフ
■ムソルグスキー:モスクワ河の夜明け(別テイク)
 1965年2月21日 エンジニア:ヴェプリンツェフ
■リャードフ:バーバ・ヤガー(別テイク)
 1965年2月26日 エンジニア:ガクリン
■ワーグナー:『ローエングリン』より第三幕への前奏曲
 1965年2月
■ワーグナー:『ワルキューレ』よりワルキューレの騎行
 1965年2月

CD2
■モーツァルト:『フィガロの結婚』序曲
 1965年2月23日 エンジニア:グロスマン
■モーツァルト:交響曲第39番
 1965年2月23日 エンジニア:グロスマン
■シベリウス:トゥオネラの白鳥
 1965年2月23日 エンジニア:グロスマン
■シベリウス:交響曲第7番
 1965年2月23日 エンジニア:グロスマン
■ワーグナー:『ローエングリン』より第三幕への前奏曲(別テイク)
 1965年2月23日 エンジニア:グロスマン
■ワーグナー:『ワルキューレ』よりワルキューレの騎行(別テイク)
 1965年2月23日 エンジニア:グロスマン

CD3
■ヒンデミット:交響曲『世界の調和』
 1965年2月26日 エンジニア:ヴェプリンツェフ
■ストラヴィンスキー:バレエ音楽『ミューズの神を率いるアポロ』
 1965年2月26日 エンジニア:ヴェプリンツェフ

CD4
■ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
 1965年2月28日 エンジニア:ガクリン
■バルトーク:弦楽器、打楽器とチェレスタの為の音楽
 1965年2月28日 エンジニア:ガクリン
■オネゲル:交響曲第3番『典礼風』
 1965年2月28日 エンジニア:ガクリン


エフゲニー・ムラヴィンスキー(指揮)レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

リマスター:イアン・ジョーンズ


→特別寄稿 許光俊の言いたい放題 第19回
『驚天動地のムラヴィンスキー!』


⇒評論家エッセイ情報
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ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。

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価格(税込) : ¥2,640
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発売日:2013年05月29日

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ムラヴィンスキー

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