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てつ さんのレビュー一覧 

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  • 5人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2022/07/17

    私はこの指揮者と相性が悪かったのだが、今回(上からみたいですみませんけど)見直した。正直、1番、2番、エロイカを聞いた段階で「いつも通り」細かい作り込みはあるがそれだけ、と思ったが、4番聞いて、あれちょっと攻めてる?と思い、5番でビックリした。もうナマの推進力バリバリのHIPスタイルである。この方、元々スコアのすべての音を聴かそうとする指揮者だが、狙いと結果が一致していないもどかしさがあった。ところが今回5番で吹っ切れたような、そんな演奏だ。私はこの5番で彼の新境地を見た。元来の狙いがやっと結実した、そんな思いがした。クルレンツィスよりセガンの方が刺激的である。本当にこの5番は名演だと思う。ここからギアが入り、田園でもすべての音を響かせたいセガンの思いとオケの気持ちが一致する。第一楽章からとにかく音が綺麗。これがセガンの求めるものだったのか、と納得した。7番も出だしから滑らすような音で彼ならでは譜読みが結実している。押しては引き、ニュアンスが多彩。これほど弦の刻みが躍動する演奏は聞いたことがない。また、この辺りから金管に強いリズムを刻ませて、あえて刺激的な音を作る。7番4楽章は少々やりすぎの感もあるが、私はあえてここまでやったことを支持したい。ところが8番になると脱力して少し落ち着いた音を出す。全集だからこそのメリハリか。8番3楽章のトリオとか、おいおい君はこう言う音楽できるのかいって感じ満載。それでもやはり9番はちょっと辛い。曲の持つスケール感と今回の前向き推進力が一致しない。それでも全ての音を極力均等に聴かせたいと言うセガンの思いは痛いほど伝わる。4楽章冒頭でブルブル震えるのが件のコントラファゴットか?合唱が入る前の歓喜の歌ではかつてないほど、セガンの曲に対する共感が聴ける。本当にECOを起用して良かったと思う。しかしこのスタイルをフィラデルフィアで再現できるのか?これは一過性の演奏ではないのか、と言う疑念は残る。この指揮者の今後を注視したい。もちろん応援するつもりだが。

    5人の方が、このレビューに「共感」しています。

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     2022/07/15

    田園はこのコンビの新境地かもしれない。ちょっと驚いた。田園はHIP奏法のオケにとっては鬼門のような曲。モダンオケに慣れた耳にはこの曲の叙情性と精神性を表現するにはHIPが一本調子に聞こえてしまうことが多かった。例えばアントニーニも直線的スタイルと曲想がマッチせず苦戦していたと思う。ホーネックも第1楽章はテンポこそ中庸だが、表現はいつも通りのスタイルを貫き、「田舎にバイクで着いた時のちょっとイケイケで愉快な気分」的音楽。これは想像できたので、この後もそうかな、と思っていたら、第2楽章冒頭で「おおっ」と声を出してしまった。なんだ、この柔らかさは!ホーネックからこんな優しい音が聞けるとは。34小節のビオラが暖かいのなんの。ホーネックが従来スタイルをやめたのか、それともHIPの枠内でこういう音を出したのかは、私には正直わからない。しかし、この音が、表現の幅を思い切り広げたのは間違いない。第3楽章もこの暖かい音を使うので、ホルンが強く鳴らしてもそれを和ませる。第4楽章は一転して直線的な従来的アプローチ。しかし第5楽章はまさに感謝で、最初からまた暖かい。このコンビでこのアプローチとは。意表をつかれたがものの、僥倖だった。とにかく第2楽章と第5楽章が白眉。田園の新しい名盤と思う。スタッキーの沈黙の春は、地元の偉人へのオマージュとのことで、各楽章には彼女の著作名がクレジットされている。主旨はよくわかるが、折衷主義的でピンとこない。もちろん私がそんな偉そうなこと言う立場ではないことは重々わかっております。でも、田園だけで凄いですよ^^

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  • 2人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2022/07/10

    ますもって、巨匠の新譜が、メジャーレーベルから発売されたことを心から喜びたい。このジャケ写、本当にイエローレーベルの伝統的な趣があり、見るだけで嬉しくなる。このようなLPレコードを買い、封を切る時の喜びが蘇る。また、良し悪しは別として、「NOS.8 UNFINISHED & 9 THE GREAT」のクレジットがオールドファンには堪らない。しかし、この演奏、相当考えさせられる。未完成は最初から少し早めのテンポだが、腰の座ったスタイル。このコンビの最近の特徴とも言える低弦のピッツィカートが効いていて、それが推進力になる。第一楽章第二主題も落ち着いた表現で、素晴らしい。ティンパニのFisも節度がある。第二楽章もしっかりした鳴らし方で、かつスタイリッシュ。巨匠の現在を伝えるに十分である。ところが、グレートは違う。序奏から2/2的フレージング、主部に入っても軽い。この軽さ、昨年のムーティとウィーンフィルの来日演奏を想起させるような音である。あえて力を抜く。そういう演奏であり、第二主題も早い。もしかしたら、このような軽さが欧州におけるこの曲のスタンダードなのか??もう頭が混乱する。私はゲヴァントハウスで、ネルソンスが指揮するこの曲を聴いたが、この時もこういう感じだった。未完成とは明らかに異なる。こういう空に浮くような感じ、私の好みではない。しかし、この曲をこのように演奏するのがデフォルトなのかもしれない。多くの方の意見を伺いたい。

    2人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 5人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2022/06/30

    このようなディスクを名盤というのではないだろうか。企画・演奏・録音とすべて満たされている。調和の霊感全曲が名手の手で聴けるだけでも喜ばしいのに、その曲が国境を渡り、バッハの手で再構築されたという歴史的遺産を見せてくれる。今ですらカバーやリメイクは当たり前かもしれないが、この時代でも、巨匠たちは他の芸術作品にインスパイアされ、違う形で昇華させていた。そういう事実を真摯な演奏で繰り広げてくれる。アレッサンドリーニだけでも素晴らしいのに、ギエルミが参加しているのが有難いのなんの。ギエルミ演奏のバッハのオルガン、例えば有名なBWV.593聴くと、この方らしい品性の高い演奏であることがよくわかる。ギエルミはこねくり回さない。良い意味でキッチリ聴かせてくれる。こういう演奏、意外と他ではない。これを聞くともっとオルガン曲録音して欲しくなる。アレッサンドリーニのBWV.972も格調高い。余裕かくしゃく、それがカッコいい。本当に良いモノを聴かせて頂きました。本当に響きが豊かで、しっかり歌ってくれて、心が満たされる。調和の霊感全曲自体としても白眉だし、私の愛聴盤になりました。

    5人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 0人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2022/06/04

    代名詞というかキャッチフレーズを持っている人は強い。楽聖とか帝王とか鋼鉄の・・とか。代名詞がその人の存在感を一層高める。ピョートル・アンデルシェフスキも代名詞が似合うピアニストだ。名前からロシア人かと思っていたが、この方ポーランド人。母親はハンガリーだそうだ。昨年の演奏会に行き初めて聴いたがとにかく驚いた。このピアニスト中低音が独特で、とても柔らかいのに存在感があり、浮遊しているような・・私なら「中低音の奇跡」とでも呼びたくなる。響きが綺麗でかつバランスが良い。しかしながら紡がれる音楽は禁欲的と言っても良いくらい静謐でそっと心に染み入る。BWV.881のプレリュードを聴いていただければ、この方の音楽について理解できると思う。第2巻全曲ではなく一部のみ、かつ彼の主張を反映して曲順もバラバラ、と一見キワモノ的に見えるディスクだが、聞き通すと違和感がなく、アンデルシェフスキというピアニストの素晴らしさを伝えるに十分である。BWV.878のフーガなど、その静謐さが「侘び寂び」の世界すら感じさせる。彼は日本人の心情にマッチすると私は信じている。そうだ、「中低音の奇跡」よりも彼には「侘び寂びピアニストの名匠」の方がピッタリかもしれない。とにかくこのピアニストは凄い。一人でも多くの方にアンデルシェフスキの良さを知ってもらいたい。

    0人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 2人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2022/05/29

    日本の楽壇に一番貢献しているピアニストは誰かと言えば、間違いなくメジューエワだろう。毎年質の高い演奏会とディスクを出し、教鞭も取り、若手育成に力を入れ、新書まで出して啓蒙までしてくれる。来日して何年なのだろうか。感謝してもしきれない。私は彼女のファンだし、何度も演奏会に足を運んだ。彼女は間違いなくロシアンピアニズムの系譜を引き継き、強い打鍵を聞かせてくれる。しかし、いつも少し不満に思うことがある。煌びやかな高音が聞けないのである。中低音中心の音楽になる。このベートーヴェンでもそれは同じ。私は絶対に信じているが、彼女は高音が出せないわけではない。こう言う音楽を志向しているのである。それがもどかしい。また彼女は演奏会でも楽譜はピアノに置くものの、実際は暗譜である。楽譜はあくまで曲に対するリスペクトであり、その真摯な姿勢にはいつも心打たれる。それでも、私は「できるのにやらない」メジューエワの演奏に心の底から共感できない。だからこのベートーヴェンは、私にとって極めて質の高い予定調和的演奏に聞こえる。それでも私はメジューエワの演奏会にこれからも足を運ぶだろう。優勝を願い、決して応援を辞めない阪神ファンみたいな心境である。

    2人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 2人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2022/05/29

    確かに冒頭から「凄い」。他とは違いすぎる。ジュリーニとの演奏がいいと思っていたが、とんでもなくこちらが凄い。何が凄いか、といえば音の結晶である。皇帝は名曲だからあまた名演は多いが、このミケランジェリは別格である。でもチェリビダッケは、ミケランジェリへの対抗心丸出し、いつもの通り細いところに拘りすぎなのでで、それがちょっと引っかかってミケランジェリを少し妨げる。でも良く聞けば、チェリビダッケが拘るのはオケ部分だけ。ピアノが入れは、ミケランジェリに全て譲る。聴かせどころはテンポ落としてミケランジェリに華を持たせる。これじゃミケランジェリも文句は言えまい。皇帝中の皇帝。これを聞かないと皇帝は語れない、くらいの名盤。74年のフランス国立放送管弦楽団との演奏を聞き比べたが、こちらの方がピアノは煌びやかだが、オケは74年盤の方が王道。両方並び立つように出来ているのがなんとも言えません。

    2人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 7人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2022/05/29

    ハイドンの弦楽四重奏曲は、この演奏があれば私にとって「現在のところ」他はいらない。曲、演奏、録音の三拍子揃った典型がここにある。「ひばり」の冒頭を聞けば全てわかる。俗に言う「決定盤」の最高峰がこのディスク。聞いていない方は是非ご堪能いただければ、と願っております。

    7人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 1人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2022/05/22

    1番、2番と同じ路線を期待すると少々肩透かしを喰らう演奏。3番は重心が低くドッシリ構えたオールドスタイル。もちろん巨匠の到達点なのだろうが、もう少し「重くないブラームス」を想像していたのでちょっとビックリした。クナッパーツブッシュを想起したくらいだ。この路線、決して悪くない。この曲の冒頭はシューベルトの弦楽五重奏曲の冒頭の引用という説があるが、巨匠はおそらくそれを知っているから、二小節目に大きくクレッシェンドして、主題に入る。第二主題もゆったり。その反行形の弦楽部分も歌う。この曲、ブラームス自身が小さい交響曲と呼んだといわれているが、巨匠はハンス・リヒター言う通り「ブラームスの英雄」的要素がある、と踏んでいるに相違ない。2楽章もしっかり響かせるし、3楽章は「こってり」である。このシリーズ共通であるコントラバスのピッツィカートが強調されている。4楽章も堂々とした音楽。終結部は安らぎではなく、決然としたPPで終わる。名演と思う。4番も同じ路線。堂々とした演奏。ゲヴァントハウスもこういう音が出せるなら、この路線で行って欲しいと思う。ネルソンスの時とは全く違う音がする。加えて、両翼配置でこれだけドッシリした演奏は過去になかった。ブラームスの意図した掛け合いがハッキリ聞けたのも収穫。このシリーズ、1番2番はインテンポ、3番4番は遅めのスタイルと前半後半で色を変えてきた。この懐の深さが、巨匠ならではなのだろう。また素晴らしい全集が増えた。これは後世に残したい。

    1人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 5人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2022/04/22

    このディスクに限らないが、内田光子を聞くと、ピアニストというのはどれほど厳しい仕事なのだろうと思う。ディアベリ変奏曲、難曲中の難曲である。あんな変哲な主題から始まり、途中でモーツァルトのアリアを借用してウサを晴らし、技巧をつくし、最後に穏やかなメヌエットで締めくくる、1時間もかかる大曲。私なら「暗譜すら無理」である。でも、内田光子はケタが違う。冒頭主題から「違う」のである。こう言うやり方があったのか、と納得する。第一変奏も「あーそう来たか」と嬉しくなる。こう言う発見と集中が、最後まで続く。なんでベートーヴェンが最後にメヌエット置いたのか、内田の演奏を聞くと心から納得できる。 

    この難曲、ハンマークラヴィーアと同じくピアニストにとってのエベレストだから、挑むピアニストは多い。しかしこの内田光子ほど、完全に登頂したディスクはない、と、私は思う。昨年の実演も聞いたが、こうやってディスクに残ることを喜びたい。掛け値なしに内田光子は世界最高のピアニストであることを実感できる。
    彼女のインタビューを読むと、準備に物凄い時間を費やしているのがわかる。ピアニストと言うのは本当に精根尽くして名曲に対峙するのだと、心から感嘆する。

    ジャケ写も良い「MITUKO UCHIDA」と大きくクレジットされているのが私にとっては心から嬉しい。ユニバーサルはもっとこの巨匠の録音を後世に残すべきである。

    5人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 8人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2022/03/31

    弱冠26歳にしてパリ管の首席?マジかよ、と訝っていたが、聞いてビックリ!ホンモノどころじゃない。私はマケラの日本ファンクラブを設立して会長の座に付きたい、すら思える名盤である。

    私はシベリウスが好きだが、スコアの速度記号通り演奏するとせせこましくなるといつも思っていた。だからあのベルクルンドさえ、あっさりし過ぎだと思っていた。ところがこのマケラ、オスロフィルの少し薄い響きを活かして、極力スコア通りに演奏しつつ、基本的に腰の座ったじっくりしたテンポで歌いまくる。これですこれ。私はこういうシベリウスが聴きたかった。シベリウスのスコアは複雑で難しいと思う。音が絡み合っているからじっくりしたテンポを取りにくい。余程しっかり読み込まないとメチャクチャになる。マケラはそれに挑み成功させた。具体的にいうと、1番は出だしから抑え気味ながら余裕を見せている。だからスケールが大きい。あと細かい動きをしっかり拾っているので、こういう音がするのか、という発見も多い。特に4楽章最後のじっくりした作り込みがいい。2番も同様のアプローチだがもっと優しい。私は冒頭だけで泣きそうになった。暖かいシベリウスって想像もしていなかった。4楽章のメリハリも心に沁みてくる。最後など、なぜ皆スコア通りにやらないのか私は疑問だったが、マケラは本当にスコア通り、かつG6→Dの最後の和音を心からの共感で締めくくる。私は3番が雑な全集は嫌いだが、ここでもマケラはしっかり歌ってくれる。1楽章コーダを聞けばマケラの真摯さと優しさがわかる。3番は名曲である。4番は厳しさと優しさの交替で成り立っている。最後も絶望ではなく、そこはかとなく救いが見える。5番はもともと曲が優しいから、鳴らしすぎないように良い意味で抑制している。お若いのにそんな抑えなくても・・と思うが、マケラは自己抑制できるオトコなんです。1楽章の最後など、マケラが一番バランスよく演奏していると思う。私は6番が一番好きだが、この曲こそせせこましい演奏が多い。マケラは最初から落ち着いたテンポでこの名曲をしっかり歌い上げる。曲の冒頭は冷徹な歌い込みだが、終楽章はゆっくり暖かくなる。練習番号LのAllegro assai をしっかり歌ってくれるのが本当に嬉しい。こういう演奏だから7番が良いのは当然である。マケラは楽章の終わりには常に相当気を配っており、理想の鳴らし方をする。あの難しい7番の終わり方、マケラが絶対いい。あと3つのフラグメントは聞けただけで嬉しい。これはシベリウスそのものだ!マケラにとってこ全集が実質のデヴュー盤。これだけ鮮烈なデヴューはカルロス以来と絶賛したい。というかシベリウスの全集としてもヴァンスカと並ぶ最右翼である。

    一つだけ難癖。ジャケ写がダメ。Wiki見るだけでもっといい写真あるんだから使ってあげなきゃ。メジャーレーベルのデヴュー盤だよ。もっと気を遣ってあげなよ。と心から文句言いたくなる。

    それにしても、パリ管の慧眼恐るべし。あの響きの良いホールでこのコンビが聴けたら、本当にファンが増えるだろう。これからもファンクラブの会長として、マケラを応援したい!
    早く実演が聞きたい。

    8人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 2人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2022/03/08

    ロンドーは今回初めて聞いたが、これは恐るべき説得力を持つゴルトベルグだ。最初のアリアを聞けば、一音一音考え抜いて弾いているのがわかる。テンポは遅い。最初のアリアだけで5分半もある。通常すべてのリピートを実行した録音は80分前後のものが多いが、これは108分!30分近くも長い。しかし、聞いていてなんの違和感もない。遅いなぁとも感じない。この傑作を録音する方は全て考え抜き、またグールドという高い壁の存在に畏怖しつつも、自らの可能性を探っていると思うが、それにしてもこのロンドーの演奏は何かが違うと感じる。私が思うに、ロンドーの最大の特徴は、この曲のメロディをしっかり鳴らすことで、旋律線が必ずきれいに描かれる。他の演奏では、伴奏の分散和音が旋律線の邪魔をすることもあるが、ロンドーは伴奏が旋律線と重ならないよう細心の注意を図っている。また、「響き」にもこだわるので、必然的にテンポが遅くなるが、その効果は抜群である。例えば第16変奏の最後の寂寥感や、曲の最後のG音の深淵さとか、音で精神世界を描き出す。リピートでも同じ「繰り返し」を拒否し、演奏の可能性をトコトン追求する。最初のアリアと最後のアリアはテンポも装飾も響きも異なる。そのためにロンドーは楽譜から楽器まで、多大な労力を払っているのだろう。その姿勢が、演奏以前の蓄積こそがロンドーなのだ。この名曲に新しい命を吹き込んだ傑作ディスクであると、私は心からそう思う。齢30にてこの姿勢は怖さすら感じる。何かを犠牲にして削ぎ落としている感もする。優れた古楽器奏者はマンロウもスコット・ロスも早世した。失礼だし、不謹慎とも思うが、ロンドーにそういう哀しみが訪れないように祈りたい、とすら思った。最後に、録音についてだが、音自体は明晰であるものの、若干残響感が引っかかる。これを是とするかどうか、この点だけは意見が分かれると思う。

    2人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 3人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2022/03/07

    今回もジャケ写が秀逸である。前回のベートーヴェン チェロソナタで、笑顔結社ヨーマーに身を投じたアックス、早くも完全に同化して宗家よりも満面の笑みを讃えるに至った。そこに勧誘されたカヴァコス 、彼らの上部組織、S・クラシカルの意向にも逆らえず、参加はしたものの、「俺は感化されないぞ」というカヴァコスの心の揺れを映し出しており、またも笑いを誘う素晴らしい出来である。さて、本題だが、演奏自体は完全にヨーヨーとアックスのペース。彼らは決して出しゃばらず、自然な流れを重視している。特にヨーヨーは編曲のせいもあるかもしれないが、完全に一歩引いている。言い換えれば、ヨーヨーとアックスのサポートの下にカヴァコスが得意の美音を響かせているようなアルバムである。2番だと、ファウスト・ケラス・メルニコフの名盤があるが、あちらが颯爽として、推進力中心の音楽作りなのに比べ、こちらは余裕の大人という感じ。いつもの通り力は抜けているが、スケールは大きい。ところで、この2番のピアノトリオ版はベートーヴェン本人の編曲と思っていたが、アックスがワシントンポストのインタビューで、この編曲はフェルディナント・リースが編曲し、ベートーヴェン が監修した、と述べている。ここでの演奏もベートーヴェン編曲とされている楽譜を使用しているが、本人編曲ではないことを初めて知った。また5番は有名なコリン・マシューズの編曲。新しい響きを模索していると思う。それにしても、ヨーヨー・マは先程のインタビューで言いたい放題。「マシューズはあまり好きじゃない」とか挙げ句の果ては「カヴァコスは本当は俺たちとやりたくないんだ」とか。アックスも「カヴァコスは他で忙しいからな」とフォローしている。どこまでが本気でどこまでがジョークなのか(笑)。カヴァコスがこの二人と距離を置いたあのジャケ写は当然なのかもしれない。

    3人の方が、このレビューに「共感」しています。

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     2022/02/23

    5番の録音が2019年5月だから、録音してすぐにこのコンビは来日して同じ曲を演奏した。当然と言えば当然だが、私も聞いたこのコンビの演奏会の記憶とこのディスクはマッチする。確かに綺麗だったが、これがブルックナーかと言われるとちょっと首を傾げる。もちろんネルソンスはそんなことはわかっている。その上で5番ではこういう演奏を繰り広げている。ブラームスと同じように、ブルックナーも「必要以上に重くなりすぎていないか」という彼なりの問題提起であり、しっかり響かせながら、流線型を目指しているのだろう。こういうネルソンスを聞くと、私は自分に自信が持てなくなる。なんとなく同郷の先輩であるヤンソンスと同じ香りがする。ネルソンスもヤンソンスも同じように「美しさ」を求めている。しかし、私にはあまり響かない。でも彼らは大スターだ。私の感性がおかしいのだろうか、と思ってしまう。でも、なんとなくわかってきたようが気がするのだが、ネルソンス、ドイツ物以外の方が良さが出るのではないだろうか。ベートーヴェンもつまらなかったし、ボストンでもブラームスよりショスタコーヴィッチの方が良いと思う。ところで、なぜかブルックナーの1番はある意味5番より力が入っていて、私には好ましかった。

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     2022/02/18

    ポゴレリチがソニークラシカルと契約してから、新譜が出るようになって嬉しい。また、ショパンに回帰してくれたこともますます嬉しい。このアルバムではポゴレリチ節ともいうべき、明晰なタッチで濃厚な音楽がたっぷり味わえる。インテンポ、と楽譜に指定のある場所であっても一音一音を大切にするポゴレリチには関係ない。微妙なテンポの揺れで歌いまくる。普通はこれをやられたら、中トロだけの寿司みたいに辟易するのだが、ポゴレリチの明晰なタッチで楽譜通りのリズムを刻むので、もたれない。言い換えれば「あっさりしたコテコテ」というような矛盾した概念を実体化する演奏であり、引き続き賛否は分かれるかもしれないが私は諸手を挙げて賛同する。なぜならこの演奏、テンポはさておき、表現自体は楽譜を読み込み正確な再現を図っているからである。まず最初の夜想曲2曲はもはやバラードと呼んでいいくらいの深さを出してくれる。幻想曲に至っては、何と16分!普通の演奏の1.5倍である。主たる理由はLento Sostenutoの中間部で、まさに「Lento」のテンポでコラールを繰り広げる。これが滲みてくる。また行進曲の部分もコラールの続きのように音を響かせてくれる。正確に刻みながら、即興的にアルペジオも響かせたり、まさに幻想的かつ構成的でこの曲の大名演と思う。メインのソナタだが、このポゴレリチの主張とソナタという形式美が若干食い違う気がする。重くなり過ぎるという理由からだろうが、第一楽章提示部のリピートを省略するのはいただけない。また、ちょっとしたルバートやタメが連続するので、ソナタとして見たら好みが分かれると思う。しかしソナタだろうとノクターンだろうとアプローチがブレない。これぞポゴレリチ。次は是非ともバラードが聞きたい。今の彼にピッタリだろうから。

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