サカナクション 山口一郎『NIGHT FISHING』全曲解説！インタビュー

山口　これはもう俺節ですね。全てが。それにメンバーに付いていってもらったという感じです。唯一、岡崎に、“曲頭にシンセをほわ〜んと弾いて”と言っただけですからね。基本的にサビでどかーんと行く曲ですから。でもまあ他にも、AメロからBに行くところをすかすとか。細かいところは指示しましたけど…。
　 もううちのメンバーはみんなおかしな手法や音を鳴らすのが好きなメンバーが集まっているから、この曲に関しては、逆にそのおかしなことをやるラインをぎりぎりのところで抑えるというところが難しかったんですけど。まあ、いたってシンプルに行けた曲ですね。

--- この曲はサビのメロディーと歌詞の絡みが絶妙かつ強烈ですよね。

山口　メロディーと同時に「ワールドワイドな〜」という歌詞が出てきましたから。僕の中でやはりメロディーと歌詞が同時に出る曲は良い曲になるというところがあるので。

--- この「新しい世界」というタイトルは、何かしらの指針というか。こういう世界になって欲しいという希望というか。今ここにいる世界から何かしらの未来を見据えているからこそのタイトルなんでしょうか？　もしそうであるならば、一郎君の中での「新しい世界」というものを詳しく教えてもらえますか？

山口　そうっすね。あの、今、僕にはもう音楽しかないんですよね。欲望としては色々ありますけど、自分が生きていく中での色々な欲望の中で一番なのが音楽の世界で生きていくということなんで、じゃあその音楽の世界で生きて行くにはどうしたらいいのかということになるんですけど。
　 まあ、生きていく中で色々と流されなければいけないところとか、曲げなきゃいけないところもあると思うんですけど、でも、出来るだけ曲げないで生きていきたいじゃないですか？　その、曲げないで生きていく上で、じゃあ、どうしたらいいかというと、自分で新しいシーンを創っていくしかないというか。色んな音楽の聴き方をする人がたくさんいると思いますけど。“カラオケで歌うため”とか、“みんなが聴いているから聴く”とか。そういうのではなくて、気分として音楽が聴ける時代が来たらいいなと思っていて。そういう部分を提唱していける音楽を創っていきたいという気持ちがあるんです。
　 だから、そういう音楽の聴き方をする人が増えれば、きっと一気に音楽が変わっていくと思うんですよ。それって、そういう聴き方を見つけた人にとってみたら新しい世界だと思うし。僕がそういう音楽をもっと創れるようになって創り出して、それを聴いてくれる人が増えれば僕の中での新しい世界も広がると思うし。なんか、そこに僕は今、夢を見ているというか、尽力しているというか。そこを常に見据えていますね。

--- その気持ちが強く込められている曲であると。

山口　そうですね。やっぱ、みんな、変化することを恐れるというか。知らないことを知ったときの喜びをみんな忘れていると思うんですよ。
　 で、今って、そういうものに触れることってあまりないじゃないですか？　例えば仕事とかだったらあると思うんですけど。今まで学生で、新しい仕事はじめて、その仕事の中で新しい世界を知ることってたくさんあると思うんですけど。そうじゃなくて、普段からあるもので新しい世界を知ることってあまりないと思うんですよ。
　 でも音楽はもの凄く身近にあるものだし、普通にあるものなのに、深いところまで知らずに浅いところだけさらっていく人が多いんですよね。そこで、“音楽の深い所を知るとどういうものを得られるのか？”というところをリアルにみんなが解っていくともっと音楽も変わっていくと思うんですよ。
　 友達が、“音って3Dなんだぜ！”って言ってきたら、“え？　それってどういうこと？”って知るような感じで…。あのトリックアートってあるじゃないですか？　2点を凝視していると、“うわぁ立体的に見えた！”っていうの。音楽もそういうものだと思うんですよ。見方さえ解れば、聴き方さえ解れば音が立体的に見えたり聴こえたりするんですよ。
　 そういう風に、知らないことを知らせるきっかけになる作品を創って行けたらなと思っています。

--- 「無知は治なり」の逆をいく発想だよね。

山口　うん。クラブに行くということもそうだと思うんですよ。行かないと解らないから。テクノとか。行って初めて知ることがたくさんあるわけですよ。知ってはじめて解ることが。

--- ある程度の知識で生活が出来てしまう世の中ですからね、今は。

山口　そうですね。だからこそそういうところを掲示していけるように頑張りたいですね…。将来的にはみんなが自由にEQ（イコライザー）をいじれる時代が来たらいいなとか考えていますし（笑）。
　 所謂、“ダンス”とか“テクノ”とか“ロック”とかのコンポについているエフェクター的な簡単なEQのボタンを押して音を変えるだけじゃなく、自分で、“この曲は125kHz上げておきたいな”とか。そういう小学生が出てきたらいいな（笑）。

--- 波形をいじる小学生だ（笑）。

山口　そうそう。それか、結婚相手を自分の好きな波形で相性を見て結婚するとか（笑）。

--- 新たな商売が出来るかもしれないよ？　それ。

山口　そういう結婚相談所があってもいいかもっすね（笑）。

「アムスフィッシュ」へ続く・・・