サカナクション 山口一郎『NIGHT FISHING』全曲解説！インタビュー

--- 大作ですね。6分をも超える。

山口　はい。裏リード曲です（笑）。アルバムを聴いてもらえれば、僕らがこの曲に一番力入れてるなっていうのが解ると思いますね（笑）。この曲に一番時間をかけましたし。

--- とにかく一聴して度肝を抜かれました。

山口　実はこれ、保坂さんが書いた雑誌『MUSICA』（注：１）のレビュー、クラムボンの『Musical』（注：2）のレビューを読んでかなり焦ったのがきっかけだったんですよ。
　 昔からいつかミュージカル的な、クラシック的な曲をやりたいという気持ちがあって。で、レビューを読んだときに、“は！　もしかして先にやられてしまったかも！”って焦って。急いで「ナイトフィッシングイズグッド」に手を付け始めて（笑）。
　 でも実際に、クラムボンの『Musical』聴いてみたら、自分の意図していたミュージカル的な要素とは違っていて安心したんですけど。

--- そしてその後に、クラシックを大胆にも導入したくるりの『ワルツを踊れ』（注：3）がリリースされてさらに…。

山口　焦りましたね（笑）。ディレクターに、“ちょっと、くるりっぽいよ”って。“クラシックの要素が似てるよ”って言われて。でも俺は、“いやいや、これはクラシックではなくて、どっちかというと合唱なんだ！”って言い返しましたけど（笑）。

--- ということは、もうかなり前からこの曲の構想はあったということなんですよね？

山口　はい。あったんですけど、メンバーにどう説明しようかなってずっと考えていて。悩んでいましたね。僕はいつもメンバーに創った曲を発表するとき、スタジオで俺がギター1本で弾いて聴かせるんですよ。
　 でもこの曲を聴かせたときは、みんなして、“え！？”って顔をしていて。曲の構成が複雑ですから、“どれがAメロでBメロでサビでCメロで、Dまであるの！？”みたいな（笑）。“だから、ここから四打ちになって”とか、“ここはブレイクで”とか。説明するのにかなり苦労しましたし、メンバーも理解するのにかなり苦労していましたね（笑）。

--- （笑）。この曲が突然様変わりする瞬間。2分半過ぎた辺りでピアノだけが鳴る展開。このアレンジはどうメンバーに説明したの？

山口　もうひたすら、言葉で説明しつつ、アコギをミュートして“ガガガガガガガガ…”って弾いて（笑）。

--- “え！？　ビートは入らないの！？”みたいな？

山口　そうそう。“そしていきなりこの後にクイーン（注：4）みたいになるんだよ！”って説明して。でも理解してくれる人が少なくて。だからもう拉致があかないから、“じゃあ2曲に分割して創ろう！”と。曲前半部分と、様変わりする後半部分を分けて創ろうと。そのあとくっつけてリアレンジしようということになったんですよ。
　 で、岡崎はクイーンを知っていたから、すぐ理解してくれて。 “これはコラージュなんだから、まんまクイーンでいいからね”って説明して。“クイーンを知っている人が笑ってくれればそれが本望なんだから”と。そうしたら岩寺もふざけて、クイーンのリフをまんま入れてきて。そして、コーラスワークのところ重要ですよね。
　 ここは本当は、子供とかおじいさんおばあさんとか、色んな人を集めて合唱団みたいにやりたかったんですけど、予算的に無理と言われて（笑）。なので、みんなでひたすらクイーンを聴きまくって、“これは4人の声を2回に分けてレコーディングしているよね”とかを発見して。

--- かなりマニアックな話になってきてる…（笑）。

山口　（笑）。でも聴き始めると色々出てきて。“これ、男の高い声必要だよね？”とかが見えてきて。試行錯誤ですよ。でもこれは主に草刈がコーラスワークを創ってくれて。それに対して僕が色々と判断していって…。
　 そういう意味で言うと、この楽曲をきっかけに改めてバンド内の役割分担が明確になった感じですね。あと誰が歌が上手くて誰が下手かというのも改めて解ったし（笑）。

--- 一番歌が上手かったのは誰？

山口　一番は岩寺ですね。

--- 一番下手だったのは？

山口　江島ですね（笑）。江島はまだ慣れてない部分があるからしょうがないけど。江島の声の低いパートは一番時間かかりましたね。

--- 基本的にメンバーみんな歌は歌えるということ？

山口　そうですね。でもまあ、岩寺はあまり歌い続けすぎると声がかれちゃうし、草刈りは低い声だとはまるけど、高くなると可愛くなっちゃうし、岡崎の場合はアニメ声（笑）。みんなで、“アニソンだ、アニソン！”ってからかってた（笑）。でも、岡崎は絶対音感の持ち主なんで。

--- まあ、なんだかんだいいながら、歌の面でもいびつながらもバランスがとれていると。

山口　そうかもしんないっすね（笑）。

「雨は気まぐれ」へ続く・・・