許光俊 「一直線の突撃演奏に大満足 バティス・エディション1」
2006年3月5日 (日)
特別寄稿 許光俊の言いたい放題第8回「一直線の突撃演奏に大満足 バティス・エディション1」
何だこれは? 発売予告を見てたまげた。バティスの16枚組が2セットも? 単売もたくさん? さすがメキシコ、想像だにしないことが起きる。
しかも、単なるセットではない。なんと豪華プラスチックケース入り。青い空、白い雲、微笑むバティス、踊る赤い音符という、見るからに怪しいデザインだ。ひっくり返すと裏面には得体の知れない赤い模様が印刷されているのも気分が高まる。もしかしてインカの文様か? マニア心をくすぐるぜ。メキシコの富豪は、こういうのをリビングルームに並べているのだろうか。想像はふくらむ。
あまりたくさんが一挙に発売されたので、とりあえず今回はひとつだけ、バティス・エディション1を紹介する。期待にたがわぬ強烈演奏が楽しめる。結論から言おう。年輩者は買わないほうが無難である。頭痛がしても私は知らない。むろん、間違っても病人のお見舞いに持っていってはいけない。
第1のお薦めはショスタコーヴィチの第5交響曲。これは掛け値なしにすごい。最初聴いたとき、第2楽章で耳を疑った。低弦楽器のズビズビといった弾き方は、まるで巨象が何十頭も集まって踊っているかのようだ。可笑しすぎるその様子はさながら「動物の謝肉祭」。ソヴィエト何するものぞ、マルクス主義何するものぞ、バティスが指揮すると何でもユーモア音楽になってしまうのか。唖然。このあとでムラヴィンスキーを聴くと、おとなしくて物足りなく感じられてしまうほど。
そこから一転、ゆっくりした第3楽章はとてもしっとり。が、心を許してはならない。次のフィナーレでは、恥も外聞もない猛烈な突撃ぶりが発揮されるのだ。基準テンポが速い上に、ところどころでアクセルをふかすものだから、たいへんなことになっている。トランペットの咆吼、ティンパニの乱れ打ち、ヴァイオリンの悲鳴・・・ロイヤル・フィルがこんなに野蛮な演奏をしたことなんて、かつてなかったのでは。しかし、やはり叙情的なところは実にしっかり歌って美しいのが表現の振幅を広げている。そして、いよいよやってきました最後のクライマックス。走り出さないで意外とじっくりと進めていくので、じらされてしまう。
ベートーヴェンの第7番もショスタコに負けず劣らぬのすさまじさ。どうせなら大音量で聴こう。特にフィナーレは、あのシェルヒェンがかすんでしまうほどの、全編大絶叫、突撃演奏なのだ。この後先顧みないブラジル・カーニバル演奏、浅草サンバ演奏にはさすがの日本の聴衆も口をあんぐり開けて、ついていけないかもしれない。それほどまでに屈託なく楽器がうなり、うねり、わめき、ビリついている。特にブンブン唸るロンドン響の弦は痛快だ。急速すぎないので、かえって野蛮さが強調されるのがエグくてよろしい。ときどき危なっかしい箇所があってヒヤヒヤ感もアップ。
ブラインドテストをやったら、「さすがフルトヴェングラー、金管の音を割った迫力、機械的でない合奏の味わい」と言い出す人もいるかもしれない。冗談はともかく、こんな演奏を日本でやった暁には伝説になること間違いなしの完全燃焼だ。このあとでやはり新譜の岩城宏之指揮アンサンブル金沢を聴くと、内蔵をむさぼり食らう空腹のライオンと、おとなしく草をはむ子牛くらいの違いに面食らう。もちろん、穏健な人は古都金沢の演奏を聴くべきである。
そして、絶対に忘れられないのが「眠れる森の美女」ワルツ。ガーンと強烈に始めておいてグングン加速していく姿がすばらしく美しい。猛烈にワクワクする。頭の30秒だけで愛聴盤に決定。これだけに限らず、「ローマの謝肉祭」をはじめとする名序曲集も立派な聴きものだ。
このセットを聴いた今、私は完全に理解した。カルロス・クライバーは、中南米の指揮者だったのだ。われわれが何となく思っている以上にラテン・アメリカの人間だったのだ。顔や外見でだまされたが、あれこそ、ゲルマンの顔をしたバティスだったのだ。
もうひとつのセットについては次回述べる。そちらにも、身がよじれるような演奏があった。
エンリケ・バティス・エディションVOL.1&2(各16枚組)!!
バティス・エディション・VOL.1
EB1
「有名序曲集」
ヘンデル:サバの女王の入場、ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲、
メンデルスゾーン:フィンガルの洞窟、ブラームス:大学祝典序曲、
モーツァルト:「フィガロの結婚」序曲、シューベルト:「ロザムンデ」序曲、
ロッシーニ:「泥棒かささぎ」序曲、ベルリオーズ:ローマの謝肉祭
ロイヤル・フィル
EB2
チャイコフスキー
:@交響曲第5番、A「眠りの森の美女」〜ワルツ、B「くるみ割り人形」組曲
@ロンドン・フィル
A,Bロイヤル・フィル
EB3
チャイコフスキー:@交響曲第6番「悲愴」、A「白鳥の湖」組曲
@ロンドン・フィル
Aロイヤル・フィル
EB4
プロコフィエフ:@「三つのオレンジへの恋」組曲、A古典交響曲、
B組曲「キージェ中尉」、Cピアノ協奏曲第1番
@〜Bロンドン・フィル
Cロイヤル・フィル、ホルヘ・オソリオ(P)
EB5
アルベニス:@イベリア組曲(アルボス、セヴラック編)、
Aピアノ協奏曲第1番、Bカタルーニャ
@ロンドン響、A,Bロイヤル・フィル
Aチッコリーニ(P)
EB6
@グローフェ:組曲「グランド・キャニオン」、「ミシシッピ」組曲
Aコープランド:「赤い子馬」組曲
@ロイヤル・フィル
Aメキシコ州立響
EB7
トゥリーナ:@幻想舞曲集、A交響的狂詩曲、Bセビーリャ交響曲、
Cロシーオの行列、D闘牛士の祈り
Eグラナドス:「ゴイエスカス」間奏曲
@〜Bロンドン・フィル
C〜Eメキシコ・シティ・フィル
EB8
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番、ロシアとキルギスの主題による序曲、
ノヴォシビルスクの鐘、交響詩「10月」
ロイヤル・フィル
EB9
@ストラヴィンスキー:ストラヴィンスキー(1947版)、サーカス・ポルカ、花火
Aボロディン:だったん人の娘の踊り、だったん人の踊り
@ロイヤル・フィル
Aメキシコ州立響
EB10
リムスキー=コルサコフ:シェエラザード、「サルタン皇帝の物語」
フィルハーモニア管
EB11
ベルリオーズ:@幻想交響曲、Aハンガリー行進曲、
B序曲「ローマの謝肉祭」、C序曲「海賊」
@Aフィルハーモニア管
BCロイヤル・フィル
EB12
グリーグ:ピアノ協奏曲、ドホナーニ:童謡の主題による変奏曲、
リトルフ:ピアノと管弦楽のためのスケルツォ
ロイヤル・フィル
ホルヘ・ルイス・プラツ(P)
EB13
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番、大学祝典序曲
ロイヤル・フィル、ホルヘ・オソリオ(P)
EB14
ベートーヴェン:@交響曲第7番、A「エグモント」序曲、
B「レオノーレ」序曲第3番
@Aロンドン響
Bロイヤル・フィル
EB15
@モーツァルト:「フィガロの結婚」序曲
Aビゼー:「アルルの女」第1,第2組曲、序曲「祖国」
Bボロディン:「イーゴリ公」序曲、Cスメタナ:「売られた花嫁」序曲
@ロンドン響
Aメキシコ・シティ・フィル
Bメキシコ州立響、Cロンドン・フィル
EB16
ワーグナー:@「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲
A「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死、B「タンホイザー」序曲
C「リエンツィ」序曲
@〜Bロンドン・フィル
Cメキシコ州立響
バティス・エディション・VOL.2
EB17
モーツァルト:@「フィガロの結婚」序曲、A交響曲第31番「パリ」、
B交響曲第36番「リンツ」、Cピアノ協奏曲第24番
@ロイヤル・フィル、A〜Cロンドン響
Cホルヘ・フェデリコ・オソリオ(P)
EB18
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番、第5番「皇帝」
ロイヤル・フィル、オソリオ(P)
EB19
@ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」Aブラームス:大学祝典序曲
@ロンドン・フィル、Aロイヤル・フィル
EB20
サン=サーンス:@交響曲第3番「オルガン付き」、
A死の舞踏、
Bウェディング・ケーキ〜カプリース・ワルツ、
C動物の謝肉祭
@ロンドン・フィル、ロースソーン(Org)
Aメキシコ州立響、トース(Vn)
Bロイヤル・フィル、オソリオ(P)
Cメキシコ・シティ・フィル、サルバドル(P)
EB21
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番、パガニーニの主題による変奏曲
ロンドン・フィル、ホルヘ・ルイス・プラツ(P)
EB22
シューマン:ピアノ協奏曲、フランク:交響的変奏曲、
ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
ロイヤル・フィル、
ホルヘ・フェデリコ・オソリオ(P)
EB23
@アルベニス:スペイン組曲(ブルゴス編)、
Aヒナステラ:ハープ協奏曲
@メキシコ州立響Aナンシー・アレン(Hrp)メキシコ・シティ・フィル
EB24
プロコフィエフ:@「ロメオとジュリエット」組曲、Aピアノ協奏曲第1番、
Bリムスキー=コルサコフ:序曲「ロシアの復活祭」
Cチャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」
@Aロイヤル・フィル、
BCメキシコ・シティ・フィル
Aホルヘ・フェデリコ・オソリオ(P)
EB25
@ラヴェル:ボレロ、Aブリテン:青少年のための管弦楽入門
Bプロコフィエフ:ピーターと狼
@ロンドン・フィル
ABロイヤル・フィル
EB26
@ロドリーゴ:アランフェス協奏曲、Aトゥリーナ:幻想舞曲集、
Bファリャ:スペインの庭の夜
@ロンドン響、アルフォンソ・モレーノ(G)
Aロンドン・フィル
Bロイヤル・フィル、チッコリーニ(P)
EB27
ロドリーゴ:@セレナータ協奏曲、Aある庭園のための音楽、
Bギャラント風協奏曲
@ロイヤル・フィル、ナンシー・アラン(Hrp)
ABロンドン響、Bコーエン(Vc)
EB28
@ドヴォルザーク:交響曲第8番、Aムソルグスキー:展覧会の絵
@ロイヤル・リヴァプール・フィル
Aロンドン・フィル
EB29
ヴィラ=ロボス:ブラジル風バッハ@第5番A第1番B第7番
ロイヤル・フィル、@フォックス(Vcソロ)、
バーバラ・ヘンドリクス(S)
EB30
@ショパン:ピアノ協奏曲第2番、
Aビゼー:組曲「子供の遊び」、Bフォーレ:組曲「ドリー」
@ロンドン・フィル、エヴァ・マリア・ズク(P)
ABメキシコ・シティ・フィル,Aモレーノ(G)
EB31
チャベス:共和国序曲「チャプルテペク」、ポンセ:市の立つ日、メキシコ点描
レブエルタス:トッカータ、ポンセ:夜の版画
ロイヤル・フィル
EB32
@ポンセ:ヴァイオリン協奏曲、
Aガリンド:ソネス・デ・マリアッチ、Bレブエルタス:マヤの夜、
Cモンカーヨ:ウアパンゴ
@ロイヤル・フィル,ヘンリク・シェリング(Vn)
ABメキシコ・シティ・フィル
Cメキシコ州立響
⇒評論家エッセイ情報
管弦楽曲最新商品・チケット情報
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
VOL.1(16CD)
4ミリ厚
特製アクリル・ケース入り
輸入盤
Enrique Batiz Edition Vol.1
価格(税込) :
¥24,079
会員価格(税込) :
¥20,950
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販売終了
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エンリケ・バティス
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輸入盤
Comp.symphonies: Batiz / Mexico State.so
シューマン、ロベルト(1810-1856)
ユーザー評価 : 3.5点 (3件のレビュー)
価格(税込) : ¥2,959
会員価格(税込) : ¥2,575発売日:2003年04月18日
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販売終了
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輸入盤
交響曲全集 バティス&メキシコ州立交響楽団
ブラームス(1833-1897)
ユーザー評価 : 4点 (5件のレビュー)
価格(税込) : ¥2,959
会員価格(税込) : ¥2,575発売日:2003年04月18日
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販売終了
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輸入盤
Comp.symphonies: Batiz / Mexico State.so
ベートーヴェン(1770-1827)
ユーザー評価 : 3.5点 (4件のレビュー)
価格(税込) : ¥8,899
会員価格(税込) : ¥7,743発売日:2002年08月31日
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販売終了
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輸入盤
Comp.symphonies: Batiz / Mexico State.so
チャイコフスキー(1840-1893)
ユーザー評価 : 5点 (1件のレビュー)
価格(税込) : ¥7,249
会員価格(税込) : ¥6,307発売日:2002年06月29日
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販売終了
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輸入盤
オーケストラ作品集 バティス / ロイヤル・フィル、メキシコ・フィル(3CD)
ビゼー(1838-1875)
ユーザー評価 : 4.5点 (15件のレビュー)
価格(税込) : ¥2,970
会員価格(税込) : ¥2,584発売日:2002年02月25日
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販売終了
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