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村井 翔 さんのレビュー一覧 

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  • 2人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/08/08

    ハンブルクでの上演もレーンホフ演出にしては珍しくコンセプトにブレがなく、見応えあるものだったが、こちらは指揮・演出の水準がさらに高い。演出は舞台を現代に移し、十字架すら登場しないという宗教色を排したものだが、社会から弾圧されるカルトな小集団の物語として普遍化できることを鮮やかに証明してみせた。したがってエンディングもギロチン処刑ではなく、ブランシュも死ぬために戻ってくるわけではないのだが、実に感動的かつ悲劇的な幕切れになっていて、演出家のアイデアの勝利を強く印象づける。ケント・ナガノの指揮はロマン派の音楽ではロマンティックなふくらみの乏しさを不満に感じることが多いが、ここでは彼の得意とするブルックナーの交響曲のように禁欲的でシャープな音楽が作られていて、見事にハマリ。歌手陣は(フランス語圏以外での上演ではやはり難しい課題である)フランス語発音には課題を残すものの、主役スーザン・グリットンの憑かれたような熱演以下、特に演技の巧さは大いに評価すべきだろう。

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     2011/08/07

    メトの録画がブルーレイで出るようになったのは朗報。これで録画の方が画質が良いと文句を言わずに済む。衣装はリニューアルされているが演出は1987年録画と基本的に同じ。それでも真上からのショットを含めた、以前より機動的なカメラワークと段違いの高画質のおかげで、もう一度見る価値はある。指揮はきわめてスケール大きく、音楽のモダンな特質を斬新にとらえている。時に無機質に響くこともあるが、これも和声の新しさを強調したいがゆえと考えたい。グレギーナは声の威力という点ではマルトンの敵ではない。1年前のバレンシアでの録画と比べてもさらに不安定で、年齢ゆえに下降線をたどっていることは否めない。しかし、マルトンを大きく凌ぐのは巧みな演技力。姫の「弱さ」を見せようとする演唱と考えれば、それなりに説得力がある。ジョルダーニもドミンゴのような安定感、マッチョさはないが、もともと難しい役なので(リューの愛を知りながら、なぜ命を賭けてトゥーランドットの謎に挑もうとするのか、私にはいまだに彼の気持ちが分からない)、彼の一途さは意外に買いかもしれない。ポプラフスカヤは控えめながら、細やかな歌唱。役にはとても合っている。BDは第2幕終わりまで英語字幕のタイミングが大きくずれたままという欠陥商品だが、日本の消費者にはさして問題なかろう。

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     2011/08/01

    ノット/バンベルク響とたまたま同時に発売されることになったが、あらゆる点で対照的な演奏。第1楽章の「夏の行進曲」部には、この演奏の目玉と言える、個性的なテンポの動きがある。テンポの操作は、なるほど理に適っているとも言えるし、特に展開部での暴れっぷりは痛快でもあるが、この曲に関しては、この種の爆演は「暑苦しく、うざい」という印象がどうしてもぬぐえない。オケの能力自体、明らかにバンベルク響より格下で、細部の表現はどうしても雑にならざるをえない。それをカバーするために大芝居を仕掛けていると見られかねないのも、印象の悪いところだ。これに比べれば、第2楽章の副次主題部でテンポを速めるのは、少々速くなりすぎだとしても、楽譜の指示通りで違和感はなく、テンポ・ルバートの美しいこの楽章は文句なく楽しめる。最後の第6楽章も何か大立ち回りがあるのではないかと期待したが、ここは不発に終わった。こういうゆったりした音楽は、まだ現在のフェルツの手には余るようだ。

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  • 7人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/08/01

    第1楽章「冬の主題」部でオブセッションのように繰り返される葬送行進曲の三連音符、普通はもっと重々しく「もっさりと」奏されるものだが、この演奏では徹底して切れ味鋭く、シャープに造形されている。一方、「夏の行進曲」部ではポリフォニックな対位旋律が全部透けて見えるように聴こえ、本家ブーレーズ以上にブーレーズ的だ。つまり、下手な大芝居を打つのは避けて、細部を徹底的に磨き上げることによって、この破格の大交響曲の威容を浮かび上がらせようとするアプローチで、このコンビのこれまでのマーラー・シリーズと基本的には変わらぬやり方だが、3番ではそれが格別、成功しているように感じられる。ジャケットに使われているココシュカのフォーヴィズム(野獣派)的な絵とは正反対のアプローチと言えよう。第1楽章に劣らず前衛的な第4楽章も、おそらく史上最長の演奏時間を要して、きわめて繊細な手つきで演奏されている。藤村実穂子も貫祿の名唱だし、第5楽章では故意にアルカイックな、むしろ稚拙な感じを出しているのも面白い。一方、第6楽章のように音楽書法としては比較的伝統的な部分では、このコンビはやや「手持ち無沙汰」のように感じられるが、非常に丁寧な演奏であることは変わらない。

    7人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 2人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/07/25

    「トロイの木馬」がコンピューターウィルスだなんて、あまりにベタで笑うしかないが、演出家はパロディどころか大真面目らしいのは、もっと笑える。トロイの女たちの集団自決の場では派手に血糊を見せるが、ワイヤー吊りにこだわった結果、緊迫感ゼロの凡庸な場面になってしまった。地中海が宇宙空間に置き換えられれば、こういうことになるだろうという、すべて予想通りの舞台で、『指輪』はあれでもまあ何とか見られたが、どうやらアイデアは種切れらしい。『指輪』のネタの使い回しで何とかなるだろうという安易な姿勢は買えないし、批評眼がないというか、演出のアイデアがこんなに陳腐では見られたものではない。指揮は素晴らしい部分と凡長なページが混在する大作を手際よく聴かせてくれるし、マトス(カサンドラ)はいささか「憑依」が不足で能天気すぎるが、ライアン、バルチェッローナの両主役とも立派な歌いっぷりなだけに、この間抜けな演出が何とも恨めしい。

    2人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 3人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/07/24

    マリインスキー劇場来日公演『影のない女』でもセンスのいい舞台を見せてくれたジョナサン・ケントの演出が素晴らしい。舞台はフランコ政権下のスペインで、登場人物は20世紀の衣装ながら、無国籍ではなく南欧の香りがあるし、社会の閉塞状況を象徴する威圧的な装置もいい。第1幕の終わりは『甘い生活』(フェリーニ)風の乱交パーティー、「地獄落ち」の場もホラー映画タッチの新テイストだ。第2幕のセレナードは多くの演出でハイライト・シーンとなっているが、聴く者もいない、雪の降りしきる暗闇でただ一人歌うドン・ジョヴァンニの孤独は痛々しい。指揮はピリオド・スタイルを自家薬籠中のものとしており、表現力ではオケがあまり協力的でないハーディング/VPOを凌ぐほど。なお、完全なウィーン版で最終場もちゃんとあるが、プラハ版に比べると少しカットがあって、これまで聴いたことのない音楽が聴かれる。フィンリーはやや陰影に欠けるが、ダンディーで悪くない主役。主人との同性愛さえも匂わせるピサローニのレポレッロはさらに良い。女声陣ではサムイルがさすがの声と表現力。ヴィロフランスキー(ジャケットの女性)も定番通りの小悪魔ぶり。声は少し非力だが、ロイヤルのかなり露骨なシュヴァルツコップ・コピーも面白い。

    3人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 7人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/07/03

    大成功を収めたバイロイトのクプファー演出以来、読み替え演出の格好のターゲットである『オランダ人』。心理演出の大家であるクシェイとしても、一度はやってみたかった演目だろう。クプファー版では舞台が19世紀であることが、読み替えの欠くべからざる前提だったが、この舞台では時代は完全に現代。第1幕では豪華船でクルーズを楽しむ金持ち一行が、嵐と幽霊船に遭遇するといった趣向。第2幕はスポーツジムの女性更衣室で、そこでただ一人、糸紡ぎに励む時代錯誤のゼンタは完全に皆から浮いている。ゼンタとオランダ人、双方とも相手に救済の願望を投影したあげく、すれ違い、つまり悲劇に至るという過程はよく描けているが、各種読み替えが氾濫する中では、いまひとつの決定的なインパクトに欠けるか。普通とは逆に幽霊船の船員たちを手前側に配し、この演出家らしい群衆処理の巧みさを見せる第3幕第1場が一番見応えがある(ちなみに、ディスクにはバックステージの特典映像があるが、演出家自身が出てきて、ベラベラ演出意図を喋ってしまわないのは好印象)。指揮は素朴な手作り感が取り柄だが、カラヤンのような金ぴかで滑らかな音楽の方が、演出意図には合ったかもしれぬ。ネイグルスタードは歌、演技とも素晴らしく、この上演の大収穫。スキンヘッドのウーシタロも「異世界人」ぶりは文句なしだが、声が立派なだけではなく、歌そのものに演技力があれば、なお良かった。ダーラント、マリー、エリックはオリジナルと全く違った人物設定だが、いずれも好演。特にクプファー版ではゼンタの身を思いやる善人だったエリックは、第2幕ではプールに侵入した幽霊船の船員たちを撃ち殺してしまう危ない男で、人物配置上ではオリジナルの位置に戻っているが、これがエンディングの伏線にもなっている。

    7人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 5人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/07/03

    二年続きのマーラー・イヤーを現代最高のマーラー解釈者であるティルソン・トーマス/サンフランシスコ響が見過ごすはずもなく、昨秋5番の録画が行われたというニュースも流れたが、1番の方が先に出た。BD2枚組のため、かなり高い商品だが、コンサート2晩分のライヴ、ドキュメンタリーも1番のアナリーゼにとどまらず、マーラーの生涯全体を追った2時間近い長編と充実の内容だ。ドキュメンタリーは特に新味はないものの、いつもながら「啓蒙的」な内容、MTT自身がマーラーゆかりの地を訪ねて収録という丁寧な作り。個人所有のため、普段は見ることのできないヴェルター湖畔のマーラー別荘の内部が見られるのは貴重だ。
    お目当ての1番の演奏だが、私は2001年録音のCDをすでに、この曲のベスト・レコーディングと考えてきた。今回の演奏では第1楽章の提示部反復が省かれ、基本テンポが心持ち速くなったため、一段とシャープな印象。オケが指揮者の解釈を完全に血肉化し、マーラーの語法を自家薬籠中のものとしているため、細部は非常に精緻にできているが、実はテンポは緩急自在。ラトル/BPOがこれまでの演奏慣習をいったん白紙に戻した上で、冷徹に総譜を読んだ演奏とするならば、こちらはバーンスタインなどの演奏伝統の上に、さらに独自の読みを付け加えた演奏と言える。つまり、まぎれもなくロマンティックな演奏だ。いつ見ても惚れ惚れとさせられる「キーピング・スコア」シリーズの機動的なカメラワークは、今回も実に素晴らしい。

    5人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 8人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/06/26

    ゲーテの名作小説を古臭いなどと言うと非難の集中砲火を浴びそうだが、これが物語として成り立ったのは、視点の限られる書簡体小説という形式にうまくハマッたがゆえ。それをそのまま普通にオペラにしてしまうと、救いがたく古風で凡庸だ。つまり現代人の感覚からすると、煮え切らないヘタレ主人公に終始いらいらさせられる話なので、主役が感情移入できるような歌+演技をしてくれるかどうかがオペラとして成り立つかどうかの鍵になる。カウフマンの声自体は重く暗いが、テクニックの引き出しが豊富な人なので、様々な手練手管で塗り固められたような感はあるものの、容姿も含めて説得力あるウェルテルを描いている。アルバレスは論外だし、恋愛学講義を聞かされるごとく説明的なバリトン版のハンプソンも願い下げなので、映像ソフトでは唯一のまともに見られる主役と言える。ズボン役以外の役が初めて見られるコシュ(コッホ)も素晴らしく、プラッソンの指揮も文句なしだが、ただ一つ気に入らないのはジャコの映像演出。映画版『トスカ』でも録音セッションの映像を枠のように使っていたのと同じ趣向かと思うが、音楽が始まってから舞台裏の映像を挿入するのは止めてほしい。こういう映像によって、観客のオペラに対する親しみが増すと思っているようだが、全く逆効果だ。プロセニアムの中は虚構の世界という、ジャンルとしての最低限の約束事は守ってもらわないと。

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  • 5人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/06/18

    ユジャ・ワンといいブニアティシヴィリといい、ソロ・デビューのアルバムでロ短調ソナタを弾くなんて、一昔前の常識から言えば正気の沙汰とは思えないが、結果は大成功。指の回りの見事さはいまさら言うまでもないが、音楽に対する踏み込みの良さが半端じゃない。はっきりとテンポを速める冒頭主題の確保部からして、早くもスケールは極大。フーガ風の展開から最後のクライマックスまでの、一音たりとも弾き逃すまいという気概も凄い。フォルティッシモを強く叩き過ぎるため音が歪む、叙情的な部分がやや淡白(クレーメルのように、ロマンティックになることを故意に避けていると思われる)など、まだ望みうることがないではないが、現時点でも超弩級の才能であることは明らか。何よりも評価したいのは、主要主題が様々な調で「変容」を繰り返した末、ほぼ無調に至るという曲の構造を彼女が完全に把握していて、それをちゃんと聴き手に伝えてくれることだ。その証拠に、ソナタの次に「メフィスト・ワルツ第1番」と「悲しみのゴンドラ」を並べて、その推移を「再演」してくれている。

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  • 4人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/06/13

    昨年11月のN響との共演では、あまりに熱い表現主義的な指揮にオケの底の浅さが露呈してしまうところもあったが、来日に先立って録音されたこのCDでは全演奏者が本当に献身的で、超一流とは言い難いギュルツェニヒ管が必死に指揮者の棒にくらいついているのは、なかなか感動的だ。指揮は、ユダヤ人指揮者によくある粘った感じ、つややかな美感には欠けるものの、速いところはより速く、遅くなるところでは猛烈にリタルダンドをかけるという一途に表出力の強い解釈。第1楽章再現部前の強烈なリタルダンドはラトル並みだし、終楽章で行進曲風の展開部に移る前の(後にベルクが『ヴォツェック』第3幕でパクることになる)二度の長大なクレッシェンドは、いつ果てるとも知れぬ。確かに生硬と言えば生硬かもしれないが、完成時に作曲者はまだ34歳という若書きの交響曲にはむしろふさわしいし、私にこの曲の魅力を教えてくれたバーンスタイン/ニューヨーク・フィルのCBS録音を思い出した。

    4人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 1人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/05/30

    ショスタコの14番、ヴァインベルクの歌劇『パサジェルカ(乗客)』(比較の対象がない演目だが、この指揮も凄かったと思う)に続く新譜で、今度は古楽オケとしては王道と言える曲だが、またしても誰にも真似のできない演奏。もちろんノン・ヴィブラートで音色は地味、オルガンも加わっておらず、色気を削ぎ落としたモノクロームといった印象だ。しかし、激烈な部分と柔らかく慰撫するような部分、強音と弱音のコントラストが凄まじく大きい。ジュスマイヤー補筆部分はほぼそのまま演奏されていて、バイヤー版に近い印象だが、「ディエス・イレ」など、これまで聴いてきたものとあまりに違う。「ラクリモーサ」の後には、東方教会風の鈴の音をブリッジとして、アーメン・フーガが続くが、補筆はされず、モーツァルトの筆の途絶えた所で打ち切られている。ピリオド・スタイルの行き着いた果てに、このような、なまなましい表現主義が出てくるというのは実に興味深い。

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  • 10人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/05/29

    ヤンソンスとは対照的に好き嫌いが極端に分かれそうな演奏。かなりヴィブラートの強いキンキンしたトランペットの音色だけで、我慢のならない人が出てくるだろう。しかし、私は大いに感服した。映像付きの演奏では、ヤンソンスの所で挙げたエッシェンバッハ/パリ管とラトル/ベルリン・フィルが凄いが、音だけのCDでは、発売以来愛聴してきたティルソン・トーマス/サンフランシスコ響と肩を並べる出来と言っても過言ではない。レコード会社はホーネックが長らくVPOの団員であったという過去の経歴から「ウィーン風」という宣伝文句で売ろうとしているが、この演奏に「ウィーン風」なところがあるとは思えない。ホーネック/ピッツバーグ響はむしろ現代マーラー演奏の最前衛だ。第1楽章では冒頭主題が「夏の行進曲」に乗って展開され始める所(273小節)でのクラリネットの対位旋律の強調がまず印象的。行進曲を茶化すようなホルンのトリルの騒音効果も、かつてないほどの強烈さだ。
    第4、第6楽章とのコントラストを強くしないように第5楽章の明るさを抑えているのも面白いし、終楽章では短調主題(私は「苦痛の主題」と呼ぶ)の最終変奏での急迫が凄まじい(ベルティーニを思い出した)。その後の金管合奏に始まるアダージョ主題最終変奏の少しも急がぬ、スケールの巨大さも圧巻だ。

    10人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 7人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/05/22

    2番の新録音ラッシュの次は3番のラッシュか。この二ヶ月ほどの間に注目すべき三種類の新録音が出るが、まず第一弾のヤンソンスは誰にも嫌われそうにない普遍的な出来ばえ。既に放送された録画は2月3日の一発ライヴで、さしものコンセルトヘボウも金管にちょっと危ういところがあったが、CDは三日間のライヴを編集したもので全く危なげなし。第一に印象に残るのは、響きの厚みとポリフォニックな彫りの深さ。ただし、ティルソン・トーマスの盤では主旋律/伴奏のヒエラルヒーが崩壊して音楽がスーパー・フラット化しているが、ヤンソンスはそこまではやらない。伝統的なオーケストラ・サウンドの枠内でマーラー流のポリフォニーを最大限に生かしている。そんなに大きくテンポを揺らす演奏ではないが、第1楽章末尾の音楽の広げ方(つまり、ちょっと減速+最後に加速)などは実に見事で、音楽に四角四面でない伸びやかさをもたらしている。いずれも映像で見られるエッシェンバッハ/パリ管やラトル/ベルリン・フィル(前者は全9曲録画中のベストだし、後者は2番以上に精細な指揮。BPOの名技連発には唖然とするばかりだ)のようにもっとシャープかつ表現主義的に振ることもできるが、こういう包容力のある、(語弊を恐れずに言えば)女性的・母性的なアプローチも十分にその存在を主張できる曲だ。

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  • 3人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/05/08

    昨年から続いた2番の新録音の連打もこの辺で打ち止めかな、と思うがこれもまたいい演奏。基本テンポは速めで、この曲を振る指揮者が往々にしてハマリがちな事大主義、低回趣味に陥らないのがいい。しかし、テンポはよく動く。両端楽章の勘どころで計3回にわたって減速+急加速をやるので手の内が見え過ぎる感もあるが、表現に迷いがないのは好印象。この人は音そのものに対する感性がとてもシャープで表現主義的だという印象があるが、木管の何でもないひと節の浮き上がらせ方、ピツィカートの鋭い弾かせ方などからも、そう感じる。独唱者では、特にストーティンが過剰に深刻にならぬ歌唱で良い。あの馬鹿でかいロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのライヴとは思えぬほど、音そのものも良く録れている。

    3人の方が、このレビューに「共感」しています。

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