森達也 『死刑』創刊記念インタビュー(2)
2008年2月10日 (日)
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森達也 『死刑』創刊記念インタビュー(2) 『A』、『A2』から『死刑』へ
森:うん。『A』がテレビから排除された理由は、オウム信者の普通さを描いたからです。あんな凶悪な事件を起こした信者たちは狂暴であってほしい、あるいは洗脳された不気味な集団であってほしいとの市民社会の欲望や願望に応えていないからです。でもここは大事なところで、普通に善良で優しいからこそあんな凶悪な事件が起きたんです。ここは何度でも強調したい。でもこの事実を認めることは、普通に考えられている善悪の境界が融解することでもあるんですよね。だから市民感覚としては認めたくない。さらにドキュメンタリーに興味を持ついわゆるリベラルな層は、国家とか権力に対しての抗いや反発がどうしても前面に出てしまうので、市民社会に牙を剥いたオウムを被写体にしたということで、やっぱりこの作品を毛嫌いする。
--- では1月に出たばかりの『死刑』についてお話を伺う前に、ちょっと余談になってしまうんですが、実は社内で森さんに『死刑』のインタビュー記事を載せたいと言ったら、「HMVらしいポップな切り口で」ってクギをさされたんですね。もちろん重いテーマだし、慎重にやらないと危険だと。けれど、死刑について考えたことがなかったような人たちにも読んでもらえるような内容になれば、と…。そういう意味での「ポップ」です。こんな難しいテーマをポップに取り上げるのは、なかなか難しいことなんですが。 森:まあポップにできればそれに越したことはないとは思うけれど(笑)。 --- 社内でも森さんのファンは多くて、映像作品なんかは殆ど全部見ている人もいて。でも森さんに取材のOK頂きました、と報告したら、不安や心配する声が出てきて・・・何かあったら、なんて深刻なニュアンスだったのでちょっと驚いたし、一瞬戸惑いました(笑)。 森: よく言われます。インタビューが終わってから「普通の人なんですねえ」って(笑)。作品のイメージのせいなのか、エキセントリックで攻撃的な男と思われるみたい。さっきも言ったようにこのイメージはオウムにも繋がるし、死刑制度にも重複するのかもしれない。眼を逸らしたくなるんですね。まあでもこの場合は別に、強大な権力がHMVに圧力かけてきたとかじゃないでしょ(笑)。使いたい自由もあれば使いたくないっていう自由もある。よく勘違いされるのだけど、規制はあって当たり前。放送禁止歌を放送するかどうかはその人の判断です。だから森は使いたくないという判断はあっていいんです。 HMVさんでも、森を使うなと言ったわけではなく、ポップにやれって指示をされているわけですよね? --- はい、やると決めたからにはちゃんと見せたい、と。 森:じゃあポップに進めます。がんばる。基本的にはその路線に賛成です。 --- ありがとうございます、森さんにそう言って頂けると心強いです。もう再来年春までに迫った裁判員制度を前に、他人事ではないこの『死刑』について、1人でも多くの人に興味を持ってもらえるように、伝えられればと思います。
続く・・・
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| 森達也(もりたつや)
映画監督/ドキュメンタリー作家。 1998年オウム真理教の荒木浩を主人公とするドキュメンタリー映画「A」を公開、各国映画祭に出品し、海外でも高い評価を受ける。 2001年、続編「A2」が、山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。著書に『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』、『クォン・デ〜もう一人のラストエンペラー』『世界が完全に思考停止する前に』『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい』(晶文社)、『下山事件』『東京番外地』(新潮社)、『池袋シネマ青春譜』(柏書房)、『いのちの食べかた』『世界を信じるためのメソッド』(理論社)、『戦争の世紀を超えて』(講談社)、『ドキュメンタリーは嘘をつく』(草思社)、『王様は裸だと言った子どもはその後どうなったか』『ご臨終メディア』(集英社)、『悪役レスラーは笑う』(岩波新書)など多数。
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