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森達也 『死刑』創刊記念インタビュー(1)

2008年2月22日 (金)

無題ドキュメント
森達也



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森達也 「私」でもなく「俺」でもない、「僕」という主語ではじまる森達也の諸作品。そのやさしい語りかけとは裏腹に、時に鋭い視点にはっとさせられ、またエモーショナルな文脈はぴたりと心象にシンクロする。そんな彼の久々の書き下ろしが2008年1月に出版された。『死刑』(朝日出版社)という、このとてつもなく深いテーマに、3年という歳月をかけた心の旅とはどんな旅だったのか。代表作『A』『A2』、そして『放送禁止歌』など、示唆に富む過去の作品から系譜を辿りつつ、「僕」の主が語る、長旅の後のオフショット・インタビュー。

(テキスト&インタビュー:



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森達也 『死刑』創刊記念インタビュー(1)
基調低音―『放送禁止歌』


 『放送禁止歌』は僕にとってのキーワードがたくさんあるテーマですね


--- 先日、テレビで阪神淡路大震災と中越地震の追悼記念番組を観たんですよ。森さんが『ぼくの歌・みんなの歌』(講談社)で取り上げられてたソウル・フラワー・ユニオンのライブが放送されてましたね。

森達也 森達也(以下、森:)NHKですか?


---そうです。震災が起きてからちょっと後に録画されたものなんですけど、彼らが被災地に赴いてそんなライブ活動してたんだ、ってその放送で知ったんです。
リアルタイムではメディアは報じていなかったんですよね。彼らの方でも取り上げてほしくない的な意向もあったようなんですが。

森: 放送禁止の楽曲が多いと噂されるソウル・フラワー・ユニオンがNHKに出演している状況って、ちょっと嬉しくなりますね。


---ハイ、けっこう昔からのファンだったんで。でも震災から13年経って、彼らのそういうライブ活動をやってる映像を目にして、違和感と同時に忘れちゃいけないんだよ、っていう彼らの心情もあったのかなって。
ところで、森さんの音楽に関する作品と言えば『放送禁止歌』(※1)がインパクトが強くて。「放送しない」判断基準とは、規制するのは何?誰?というすごく素朴な疑問を解明する作品でしたから。 TVドキュメントの映像と書籍(知恵の森文庫)と両方拝見して、え、こんなことだったの?的な衝撃で新鮮だったというか。そういう規制によって禁止された歌をテーマに選んだことには何かきっかけってあったんですか?

森:僕の世代は団塊より一回り下。つまり遅れてきた全共闘世代です。中学や高校時代にいろいろ政治的な刺激は受けながら、大学に入ったときにはすっかり終わっていた。インプットばかりでアウトプットがないという感覚は共通しています。だから芝居や映画に進む人が多かった。放送禁止歌について言えば、やっぱり高校時代にラジオの深夜放送でさんざん聴いていたということがまずはありますね。放送禁止歌はたくさんあったし、それが当時の時代状況や青臭い意識と繋がって、権力への怒りみたいな感情にもなっていました。
ところがドキュメンタリーの仕事を始めて放送禁止歌について調べてみると、権力の弾圧などどこにもないらしいことが何となくわかってきた。つまり共同幻想です。自主規制に名を借りた他律規制。過剰な忖度。主語を失った述語の暴走。結果的に『放送禁止歌』という作品は、その後の僕にとってのキーワードがたくさんあるテーマとなっていますね。

(※1)放送禁止歌〜歌っているのは誰?規制しているのは誰?〜
ドキュメンタリー映画「A」発表後の1999年11月6日に放送された作品。そもそもの企画の出発点は「過去の規制の検証」、つまりタブーの変遷を検証するはずだったが、撮影が進むにつれ放送禁止歌の実体が実はどこにもないことが見えてくる。そして、「現在の規制の主体を炙りだす」という、森達也的視点が冴える。各局のドキュメンタリー番組担当からは「放送禁止歌を放送できるわけがない」と一蹴され続けるが、フジテレビNONFIXで放送が実現。歴代の放送禁止歌ライブ映像、山平和彦本人による『放送禁止歌』の弾き語りなど、音楽映像作品としても楽しめる。放送後、同名の「放送禁止歌」も出版されている。

【関連記事】
>特集:時代に翻弄された歌〜放送禁止歌〜


 表現は人を傷つけます、僕も大勢の人を傷つけていると思う


--- なぜ規制し、なぜタブー視するのか。その理由を探ってみると実体はどこにもなかった、ということでしょうか。

森:うん、ある場合もあるしない場合もある。


--- 規制されることでその核心に触れることがないという安心感もあるわけで、タブーに触れることのすごく漠然とした恐怖が背景にあるんでしょうね。これに触れたら何かものすごい深刻な問題に発展するんじゃないか、って。

森:すべて実体がないとは僕も言い切れないけれど、でも実体がないのに恐怖や不安ばかりが発動している場合はとても多いんじゃないかな。人は不安や恐怖がとても強い生きものです。だから群れる。そして暴走しやすい。つまり一人称単数の主語を放棄する。放送禁止歌という実態なき制度が業界のルールとしていつのまにか定着していたその理由のひとつは、規制や制度がない状態が怖いという心情が働いているからだと思います。無意識に規制や統治を求めている。日本人はこの傾向がとても強い。だからこそ死刑制度を手放せない。悪に対して厳然たる処罰を与える強圧的な権威、つまりお上が存在していてほしい。それがないと不安になる。そんな感覚は間違いなく働いている。今ふと思ったけれど、一神教における絶対的な神の機能を、この制度は部分的に担っているのかもしれないですね。だから諸外国に比べても、死刑存置を主張するパーセンテージが突出して高い。


--- 確かに、(規制やルールに)黙って従ってさえいれば、自分の頭で考える必要がないですし、例えば『竹田の子守唄』を放送することで、もしかしたら誰かが傷つくかもしれない、などと悩んだり葛藤しなくてもいいから、自分も心を痛めることもないですよね。

森:表現は人を傷つけます。たぶん僕も大勢の人を傷つけていると思う。それは当たり前のこと。それが辛いのならこんな仕事をすべきじゃない。



続く・・・

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   森達也(もりたつや)
森達也
映画監督/ドキュメンタリー作家。
1998年オウム真理教の荒木浩を主人公とするドキュメンタリー映画「A」を公開、各国映画祭に出品し、海外でも高い評価を受ける。 2001年、続編「A2」が、山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。著書に『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』、『クォン・デ〜もう一人のラストエンペラー』『世界が完全に思考停止する前に』『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい』(晶文社)、『下山事件』『東京番外地』(新潮社)、『池袋シネマ青春譜』(柏書房)、『いのちの食べかた』『世界を信じるためのメソッド』(理論社)、『戦争の世紀を超えて』(講談社)、『ドキュメンタリーは嘘をつく』(草思社)、『王様は裸だと言った子どもはその後どうなったか』『ご臨終メディア』(集英社)、『悪役レスラーは笑う』(岩波新書)など多数。

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