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100人の偉大なアーティスト - No.15

2003年6月7日 (土)

遺された数少ない ロバート・ジョンソンの写真を、機会を見つけて一度ぜひ見て欲しい。そのギラリとした眼光鋭いまなざし。タバコをくわえながら、ギターのネックを握る長い指、馬鹿デカい手は異様ともいえる迫力だ。それらの写真から伝わってくる雰囲気は殆どワイルドなロック・ミュージシャンのそれである。「ブルースの大御所」なんて形容ではモノ足りないどころか、この佇まいを「込み」にしないと、ひょっとして初めて音だけ聴いた場合、録音の古臭さばかりに耳がいってしまい彼の本質を見誤ってしまうかもしれない。彼がエリック・クラプトンキース・リチャーズらを魅了してやまなかった理由には、こうした「背徳」や「アウトサイダー」的なイメージを感じさせる佇まいも大きく関係していたのだから。

1911年、アメリカ南部のミシシッピー州でロバート・ジョンソンは生まれたとされている。そして死亡したのは1938年のことで、僅か27年ほどの人生だった。このロバート・ジョンソンの死は一種の伝説となっている。嫉妬に狂った恋人に殺されたということだが、その死に方ははっきりとしたものではない。毒殺されたとか、刺し殺されたとか、四つん這いで犬のように吠えて死んだとか、彼の死は「魔術」と関係があったのだと主張する人達まで居る。ロバート・ジョンソンにまつわる話にはこうした伝説が常に付き纏っている。彼はブルースにあるミステリアスな部分を極度に象徴する存在なのだ。

1910年代にカントリー・ブルースの形式を確立したチャーリー・パットントミー・ジョンソンサン・ハウススキップ・ジェイムスらと同様に、ロバート・ジョンソンは自らのギター一本だけを頼りに、激しく劇的な歌を歌った。その歌は1936年から37年にかけてヴォカリオン・レコードにて吹き込まれた29曲の録音物として、現在でも聴くことが出来る。これら29曲のうち12曲の別テイクを加え、全録音41テイクを纏めたのが、1990年にリリースされ話題となった コンプリート・レコーディングス(Robert Johnson Complete Recordings)で、そこに収録された“クロスロード/四辻ブルース(Crossroad Blues)”はじめ、その全てがブルース・クラシックであり、あるいは現在聴かれるロックの原型とも言うべき原石の輝きを今も伝えてくれる宝物である。中でもやはり注目すべきは驚嘆を禁じえないギター・プレイであり、その大きな手を生かし、巧みにベースラインをとりながら、自らの歌に呼応するスライドギターを弾くそのさまは圧巻だ。これを初めて聴いたキース・リチャーズは複数人数で演奏しているものかと思ったという。いわばロック・バンドのコンボ編成に匹敵するようなブルース。というよりギター一本で奏でられるロックンロールと言い換えたほうが当たっているかもしれない。

クラプトンキースが賞賛してやまないロバート・ジョンソンのギターの腕前。ここにも先に書いたようなミステリーが付き纏う。ロバート・ジョンソンのミステリアスな伝説の中でも最も有名なのが、かの「彼は数年に渡る放浪の末、悪魔に魂を売り、ギターの技術を手に入れた」というものだ。

サン・ハウスが語ったところによると、彼がロバート・ジョンソンを初めて見たとき、彼はまだ自らの生命を全うするためにギターを弾くというレベルにはなかった、という。その当時のジョンソンは年配のブルースマンにくっついてまわり、ギターを弾かせてくれとせがむが、誰も相手にはしなかったそうだ。そうこうするうちにやがてジョンソンはどこかへフッと姿を消してしまった。そしてその後数ヶ月を経た土曜日の晩のこと、ジョンソンサン・ハウスらのもとへひょっこりと戻ってきた。そして彼は尚もしつこくギターを弾かせてくれと言う。サン・ハウスらはそんなジョンソンを追い払おうとするが、ジョンソンはどうしても演らせてくれ、と譲らない。そこで客がほとんど居ないときに演奏するぶんにはいいだろう、ということで、彼らはその言い分を聞き入れてやり、彼らは皆ハコから出て行ってしまう。

しばらくすると外で一服していたサン・ハウスらの耳に突如、心を鷲掴みにするような音楽が聴こえてきた。ロバート・ジョンソンの歌とギターだった。素晴らしく冴えたその純粋な響きに誰もが驚いた。こうして後にサン・ハウスは、あいつは悪魔に魂を売り渡してから、あんな風に弾けるようになったのだ、と語ることになる。これは勿論、話が大きくなっている部分はあると思うが、ただ現在でもロバート・ジョンソンの音楽を聴いていると、ミシシッピ・デルタ地帯特有の(現代科学の範疇からすると)いかがわしい魔力の信仰や迷信とも思われるような幽霊話もまんざらウソでもないような気になるから面白い。

ロバート・ジョンソンの歌は、彼の死後も他のブルースマンが歌い続け、また60年代初頭には彼のアルバムがリリースされたことにより再注目を集め、その後のロックに大きな影響を与えることになった。

2〜3年の間に天才的なプレイを残して早逝した人物、という意味では、多くのロック・ファンはジミ・ヘンドリックスの伝説を思い出すかもしれない。事の真偽は定かではないが70年代初頭のエリック・クラプトンは、ジミ・ヘンドリックスの死に際して、自分とヘンドリックスロバート・ジョンソンになぞらえて考えたことがあるとも言われている。余談になるが、名著『ミステリー・トレイン』の著者、音楽評論家のグリル・マーカスはその著書の中で、エリック・クラプトンクリーム時代にハード・ロックの原型のようなサウンドで演奏した、ジョンソンのカヴァー“クロスロード”よりも、むしろデレク&ドミノス時代の自作曲“レイラ”の歌/ギターのほうに、ロバート・ジョンソンの継承を感じる、という意味のことを述べている。これには全くの同感。あの狂おしいまでのダイレクトな情感、リスナーの心の奥底まで射抜くようなシャープで迫力に満ちた感覚は、ロバート・ジョンソンから受けた影響を、表層的な形の相似とは無関係に、クラプトンが最大限に引き出した結果の表現なのではないだろうか、と思う。

ロバート・ジョンソンの歌とギターには、他のカントリー・ブルースにはないヴァイヴレーションと刺激的なリズム感覚があり、大袈裟に言えば彼はロックンロールを演った最初のひとりと言えるくらいだが、その意味で60年代後半から70年代にかけてのロック黄金期に、ロバート・ジョンソンの音楽はダイレクトに繋がっていた。そしてまた数あるブルースの中でもロバート・ジョンソンが紡ぎ出していたミステリアスな独特の弾き語りは、類をみないユニークさで今も光り輝いているのだ。

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