100人の偉大なアーティスト - No.29
2003年5月24日 (土)
'60年代イギリスが生んだ国民的ヒーローを ビートルズとするなら、'70年代はまさしくクイーンが、イギリスが生んだ国民的英雄といえるだろう。そしてこの言葉に加えて言うならば、’70年代のロックを代表するまでに音楽的に高度な達成を為した偉大なるバンドであるのは当然のこと、現在でも最もファンに愛され続けるバンド、という形容が似合う際立った存在であるということだろうか。そしてクイーンになくてはならない多くの魅力を担っているのが、本稿の主役フレディ・マーキュリーの歌唱だ。クイーンは、ブライアン・メイ(g.vo./1947年7月19日生)とロジャー・テイラー(ds.per.vo./1949年7月26日生)が在籍したグループ、スマイルを母体に結成された。1970年にスマイルが自然消滅した直後、二人はロジャーのかつての仕事仲間であったフレディ・マーキュリー(vo.key./1946年9月5日生)を迎え、更に'71年2月に行ったオーディションでジョン・ディーコン(b./1951年8月19日生)が加入した時点で、クイーンを名乗り活動するようになった。フレディのアイディアによると言われるフランス貴族風のイメージを打ち出した彼らは、ライヴ活動を始め、にわかに評判を集めるようになった。そうこうするうちに彼らはプロデューサーのジョン・アンソニーにすぐさま認められ、彼の仲介によってトライデント・オーディオ・プロダクションと契約。そこでジョン・アンソニーと当時若手プロデューサーのロイ・トーマス・ベイカーの二人の立会いのもとデモ・テープを録音。そのテープはEMIレコードに気に入られ、クイーンは念願のプロ契約を果たした。1973年初めにシングル"炎のロックン・ロール(Keep Yourself Alive)"でデビュー。6月には1stアルバム 戦慄の王女(Queen) を発表し、遂に世間にその全貌を現した。
フレディのオペラの影響も感じさせる個性の塊のようなヴォーカル、ヴァイオリンの音色をも思わせるブライアンのギター、そしてその華麗なキャラクター・イメージと、斬新で独創性に富んだクイーンの出現はかなりショッキングなもので、当時のイギリスでは賛否両論の意見も出たため、デビュー直後から本国で大成功、というほどには及ばなかった。よく知られているように、クイーンを当初から評価していたのはむしろこの日本のファンだったかもしれない(多分にアイドル性がウケたという面もあるが)。それでも1974年にクイーンII (Queen II) (全英5位)、同年11月に シアー・ハート・アタック(Sheer Heart Attack) (全英2位)といった作品を発表していくにつれ、イギリス本国でのクイーン人気は急上昇。特に シアー・ハート・アタック(Sheer Heart Attack) からのシングル "キラー・クイーン(Killer Queen)"が全英2位にランクされる大ヒットとなったことで、名実ともにトップ・クラスのグループとしての地位を得ることになったと言えるだろう。
さらにクイーンの人気にとっての決定打となったのは1975年11月の4thアルバム オペラ座の夜(A Night At The Opera) (全英1位/全米4位)と時を同じくしてリリースされたシングル ”ボヘミアン・ラプソディ(Bohemian Rhapsody) ”の至上空前の大ヒットによってだった。”ボヘミアン・ラプソディ(Bohemian Rhapsody) ”は、シングルでありながら過去にはなかった6分に及ぶ大作で、アカペラによるオペラ風の中間部を挟んだ3部構成という画期的な曲だった。同曲のランキングは全英で9週連続ナンバー・ワン、全米でも初の大ヒットとなり、続く”マイ・ベスト・フレンド(You're My Best Friend)” (全英7位)や”サムバディ・トゥ・ラヴ(Somebody To Love)” (全英2位)も立て続けにヒットを記録したクイーンは一気に世界のトップ・バンドの座に就いた。この出来事と前後して彼らは初の来日も果している。
”ボヘミアン・ラプソディ(Bohemian Rhapsody) ”の大ヒットとオペラ座の夜(A Night At The Opera) で一挙に巨大な人気を誇るスーパー・ロック・バンドとなったクイーン。1976年には5thアルバム 華麗なるレース (A Day At The Race)を発表(全米1位/全米5位)。また再来日がこの頃。1977年に 世界に捧ぐ(News Of The World) 、1978年に ジャズ(Jazz) (全英2位/全米6位)を発表するとともに、シングル"伝説のチャンピオン(We Are The Champions)" (全英2位)、 "バイシクル・レース(Bicycle Race)" (全英11位)、 ”ドント・ストップ・ミー・ナウ(Don't Stop Me Now)” (全英9位)というヒットも放った。またこの頃にはライヴも活発で、総重量75トン以上という大規模な機材を駆使したステージを繰り広げた。1979年にはそうしたライヴ音源をパッケージしたライヴ作 ライヴ・キラーズ(Live Killers) (全英3位)発表し、3度目の来日をこの頃果たした。
1970年代を絶好調なペースで駆け抜けたクイーンは、1980年代に入ると新たな音楽アプローチを見せるようになり、多様でポップな音楽性を持った作品を幾つかリリースし、紆余曲折を経ながらも80年代を乗り切った。
そして悲劇は90年代にはいってから起きた。1991年11月23日にエイズに感染しているという衝撃の発表をしたばかりのフレディが、翌日11月24日、エイズから併発した肺炎によりこの世を去った。享年45歳だった。フレディ抜きのクイーンなど考えられない、との声も聴かれる中、バンドは1995年にフレディの遺したヴォーカル・テイクに演奏をつけ、メイド・イン・ヘヴン(Made In Heaven)として発表。その後もコンピレーションなどがリリースされるたびにクイーン、そしてフレディ・マーキュリー周辺は再評価されるという状況が続いている。
フレディという偉大なるキャラクターからの影響ということで言えば、以降の英国ロック〜ポップ勢のキャラクターの立たせ方にはフレディ的な記号を顕著に見ることが出来る。競演を果たしたジョージ・マイケルのドラマティックさやボーイ・ジョージ、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドのホリー・ジョンソン、ライト・セッド・フレッドの佇まいなどなど。広い意味で言えば70年代以降のポップ・アイコンのキャラクターに、フレディからの影響を見出すことはもっと多いかもしれない。また米国のオルタナティヴ・ロックとみなされることの多かったスマッシング・パンプキンズがリリースした名作アルバム『メランコリーそして終わりのない悲しみ』の楽曲には、クイーンにあったドラマティックなサウンド構成との共通項を見ることが出来る。これはグループの看板だったビリー・コーガンがクイーンやレッド・ツェッペリンなど70年代の音楽に多くの影響を受けていることを示す例にもなっているのではないだろうか。
フレディ・マーキュリーというシンガーの人を惹き付けて放さない魅力や、他の70年代ハード・ロック・グループのヴォーカリストとは一線を画すユニークなその唱法は、これからも永遠に音源という形で語り継がれていくだろう。
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
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