--- お次は、ホレス・シルヴァーの「Sayonara Blues」。
松岡 これは、『SOUNDS OF PEACE』のリリース・パーティの時に、ジャザノヴァのユルゲン(・フォン・ノブラウシュ)が遊びに来てくれて、その時に彼が、「ホレス・シルヴァーが日本にインスパイアされて作った曲を、あえて日本人がカヴァーしたらかっこいいんじゃない?クオシモードでやってみたらどう?」って言ってくれてたというのを聞いて、取り上げたんですよ。
--- 「Sayonara Blues」は、白木秀雄さんのカヴァーもとても有名なのですが、他にこの曲のカヴァーでオススメなものはありますでしょうか?
松岡 最近見つけたんですよね。仙台にライブとDJで行った時に、オーガナイザーの方が教えてくれたんですけど、ニューヨークのブロンクス・ホーンズっていうグループがやってたんですよね。90年代の作品なんですけど。往年のラテン・プレイヤー達が集まって、ホレス・シルヴァーの曲を、全てラテン・アレンジでカヴァーしてるって内容なんですよ。「Senior Blues」とか、「Home Cookin'」とか。これは、かなりオススメですね。
--- 平戸さんにとってのホレス・シルヴァーの魅力と言いますと?
平戸 ホレス・シルヴァーは、ピアノ・スタイル以前に、楽曲が素晴らしいですよね、やっぱり。あの当時に、あれだけの量の曲を書いて、あれだけキャッチーなメロディを、アルバム毎にコンスタントに作れるっていうのはすごいことですよ。作曲家としてすごく尊敬してますね。しかも、アルバム1枚を通じてのストーリーもあって、楽曲のアレンジも緻密に練られているっていう。
あの時代、ジャズのコンポージングをするっていう時に、割りと単発で終わってしまうっていう人はいっぱいいたし、アレンジも勢い任せの部分が結構多かったりするんですよね。ここは、フリーなところだから、自由に演っちゃおうみたいな。勿論、それもそれでよいんですけど、ホレスの楽曲は、ここでちゃんとテナーが来て、ここでトランペットが被さると、こういうハーモニーになるとか。ドラムにしても、通常の4ビートじゃなくて、きちんとループされたものが表現されていたりとか。だから、今のクラブ・ジャズに精通する何かが、ホレスの表現にはあるんで、そこは常々勉強させてもらってますね。ピアノのパターンにしてもそうだし。
--- では、マッコイ・タイナーの「African Village」。一般的にですと、ジョン・コルトレーンのレギュラー・カルテットに在籍していたインパルス期や、70年代からのマイルストーン期が目立ってしまって、ブルーノート期は、結構、スルーされがちになってしまうかと思うのですが。この「African Village」収録の『Time For Tyner』の他に、マッコイのブルーノート期でお好きな作品というのは?
平戸 『Tender Moments』が好きですね。すごくかっこいいです。でも、今おっしゃっていたマイルストーンに移る時っていうのは、面白い時期なんですよ。コルトレーンが67年に亡くなるじゃないですか?マイルストーンに移籍するのが72年ぐらいだから、ちょうどブルーノート在籍時っていうのは、コルトレーンのバンドで演ってきたことを自分なりにどう昇華していこうかって、すごく模索する時期なんですよ。だから、楽曲の作り方ひとつとっても、インパルス時代のマッコイも聴けるし、マイルストーンでやろうとしていたことも聴けるから、すごく面白いんですよ、混ざってて。
--- そのお話を聞くと、ブルーノート期のマッコイには、聴くべきものが多そうですね。
平戸 多いですね。編成にしても結構面白い人たちと演ってるし。マイルストーンに行っちゃうと、割りと固定されたメンツで作り込んでいくっていう感じなんで、そういった部分でもブルーノート期の作品は面白いんですよね。
本文中に登場のブルーノート作品はこちら
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4 Horace Silver 『Tokyo Blues』
「Too Much Sake」、「Sayonara Blues」、「Ah! So」など、ホレス・シルヴァーが62年の初来日後に吹き込んだ日本へのオマージュ的1枚。その曲名やジャケットから、オリエンタルな曲調が多数を占めると思いきや、彼ならではのファンキーな曲が多く並ぶ。
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4 McCoy Tyner 『Time For Tyner』
ボビー・ハッチャーソン(vib)を含むヴァイブ・カルテット編成の68年リーダー作。先進的とも言える特徴あるリズム・パターンで迫る「African Village」がとにかく白眉。マッコイの流麗なピアノと、ハービー・ルイス(b)、フレディ・ウェイツ(ds)による重量感のあるリズム隊とのコントラストも面白い。
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4 McCoy Tyner 『Tender Moments』
亡きコルトレーンの影響下、アフリカ回帰志向に少しずつ向かい始めた67年の録音。そのコルトレーンに捧げた「Mode To John」を収録。リー・モーガン(tp)、ベニー・モウピン(ts)、ジェイムス・スポルディング(as,fl)など、総勢6管のホーン・アンサンブルは圧巻。
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ルディ・ヴァン・ゲルダーの
録音技術があまりにも優れていて
ライヴに行ってがっかりする人が多かったとか(笑)
--- こうしたブルーノートのラテン/アフロ・キューバン・ラインの作品というのは、同時代の他の名門ジャズ・レーベルから出ている作品とは、やはり異なった質感があるのでしょうか?
松岡 それはあるでしょうね。ルディ・ヴァン・ゲルダーの録音技術によるところが大きいと思うんですけどね。色々と試行錯誤していた時でもあるんで。
ドーハムの『Afrodisia』の録音に関しては、僕らのエンジニアさんにも色々と聞いたんですが、当時、スプリング・リヴァーヴが初めて世に出たぐらいの時らしくて、それを導入しているんじゃないかって。コンガの音がピョンピョンってしてるんで、「これを出したいんです!」って言ったら、そう教えて頂きました。
他のレーベルも聴くと大体判るじゃないですか?「これインパルスっぽいな」とか、「これアトランティックっぽいな」とか。その中で、ブルーノートは「ああ、ブルーノートの音だな」って、特に4000番台とかは。
--- 一貫した音の作りはありますよね。
松岡 何かで読んだんですけど、ルディ・ヴァン・ゲルダーの録音技術があまりにも優れていて、ライヴに行ってがっかりする人が多かったとか(笑)。あまりにもクリアーな音で録っていますからね。
--- ボビー・ハッチャーソンの「Little B's Poem」では、ハービー・ハンコックがピアノで参加しています。今回の選曲の中には、ハービーがピアノを弾いている楽曲が3曲ほどありますよね。ブルーノート時代のハービーの魅力といいますと?
平戸 マイルス・デイヴィスのグループに在籍していたじゃないですか?マイルスがあれだけの人なんで、その時は、ものすごい緊張感のあるプレイをしているんですよ。でも、ブルーノートでは、比較的自分と年代の近い人たちと演ってるっていうこともあって、すごくリラックスして伸び伸びと弾いてるっていうイメージはありますね。さっき、松岡が言ったように、ルディ・ヴァン・ゲルダーの音質もあると思うし、アルフレッド・ライオンの「好きなようにやっていいよ」っていう一言なんかも背景にあると思いますけどね。マイルス・グループの時は、なかなかそういった感じにはならないと思うんですよね(笑)。
--- 同じ話は、ウェイン・ショーターにも言えそうですよね。『Night Dreamer』は、マイルス・クインテットへの入団直前の初リーダー作品になります。
平戸 そうですね。マイルスのバンドでできないことを、自分のバンドでやっているっていう部分はあると思うし、楽曲の盛り上げ方にしても、マイルス・バンドの時と、自分のリーダー・バンドの時とでは、やっぱり違うような気もしますしね。
本文中に登場のブルーノート作品はこちら
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4 Bobby Hutcherson 『Components』
ウェイン・ショーター(ts,ss)、ジョー・ヘンダーソン(ts)、アンドリュー・ヒル(p)らと並ぶ”新主流派”の代表プレイヤー、ボビー・ハッチャーソン(vib)の65年録音の2ndリーダー作。人気作『Happenings』同様、ハービー・ハンコックが参加し両者の多彩なコンビネーションを楽しめる。「Little B's Poem」は、後にディー・ディー・ブリッジウォーター(vo)が『Afro Blue』で取り上げ、クラブ・ジャズ界隈でその人気に火が点いた。
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4 Wayne Shorter 『Night Dreamer』
1964年4月録音、ブルーノートにおけるショーターの記念すべき第1作目。リー・モーガンとの2管編成による作品。リー・モーガンが持つ時代感と、ショーターが志向する方向性の明らかなズレこそがこの作品を面白くさせている大きな理由のひとつだ。多くの名曲を作り出したショーターの作品がここにも収録されている。
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