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【インタビュー】 DCPRG 菊地成孔 × ヒップホップ

2012年3月23日 (金)

interview
DCPRG 菊地成孔 インタビュー



 DCPRG、Impulse! 移籍第2弾にして、実に5年ぶりとなるスタジオ・レコーディング・プロダクツは、SIMI LAB(シミ・ラボ)、ボーカロイド、アミリ・バラカ(ヴォイス・サンプル)、さらには、花の”さんぴん”世代、菊地氏の頼もしき大相棒・MC YOSIO*Oらが、本隊とがっちりスクラムを組んでお送りするヒップホップ・アルバムに!  

 前人未到のアフロ=ポリ・ラウドマシーンが鳴らす、訛りまくったバックトラック。氏自らサッカーMCのアヴァター(?)になりすまし、JAZZ DOMMUNISTERSの盟友MC YOSIO*O、ボカロ大型ルーキー:兎眠りおんとクロス・ディメンションのミラクル・マイクリレーを完遂した「キャッチ 22」で早くも勝負アリ。方や ”べらんめぇスクール”卒のハスラーフロウ、方やジットリ切り込まれるドープライム、そのコントラストを際立たせるのは、今イチバンのビッグバジェット・ボイス。ストリート叩き上げMCのそれとは全く種の異なる悪徳の高さが首尾よくデリバリーされれば、其処は ”JAPAN COOL”を体現した新たなる文系サグ・パラダイスへと様変わり☆ そして対照的な、変幻自在のヒップホップ集団SIMI LAB 4MCズとのフロウをめぐるハングアウト。

 対本国(USA)用に編み上げられた「アイアンマウンテン報告」の第二集、『SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA』の完成を記念して、DCPRG主幹・菊地成孔氏にお話を伺ってまいりました。


インタビュー/構成: 小浜文晶
 



--- 昨年のインタビューでもお話しされていたとおり、今回の『SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA』は紛れもないヒップホップ仕様のアルバムとなりましたが、トピックがあり過ぎてどのあたりから触れていこうかな、という感じでもありまして。まず感じたのは、菊地さんと大谷(能生)さん(=JAZZ DOMMUNISTERS ジャズ・ドミュニスターズ)のこうしたヒップホップ志向や研究がひとつの形になったとも言えるのかなと。

 まぁ、そうですね。この「キャッチ22」が入ったことで、とりあえずJAZZ DOMMUNISTERS的に言えば“パイロット版”になったというか(笑)。

--- さらに、DCPRGに先がけて大谷さんのアルバム『Jazz Abstractions』も出るという状況ですよね。

 大谷くんのアルバムは、別に仲間褒めじゃなくて、傑作だと思いますけど。こっちの方がもろヒップホップですしね。要するに、元ネタがあって、それを抜いてトラック作ってるし。DCPRGは、ラップはやってるけど、生演奏なので。



大谷能生   大谷能生(おおたに よしお)・・・1972年生まれの批評家・音楽家。1996年〜2002年まで音楽批評誌「Espresso」を編集・執筆。様々な雑誌、webへの執筆・寄稿を行ない日本のインディペンデント音楽シーンに深く関わる。著書に『大谷能生のフランス革命』、菊地成孔との共著『東京大学のアルバート・アイラー - 東大ジャズ講義録』シリーズ、『M/D マイルス・デューイ・デイヴィスIII世研究』、『貧しい音楽』、『持ってゆくうた 置いてゆくうた』など。そのほか、mas、sim、mjqtなどのバンドで活躍。ソロ名義の作品としては、2006年に『河岸忘日抄より』、2010年に『みずうみのかもめ』をそれぞれHEADZからリリースしている。2010年に公開の映画『乱暴と待機』では音楽を手掛け、「相対性理論と大谷能生」名義で主題歌も担当した。最新著書に『植草甚一の勉強』、ファイナル・メディア”DOMMUNE”における菊地氏との狂乱の特殊ジャズ番組、その一部始終を収めた『JAZZDOMMUNE』。最新音盤に、≪ブラックスモーカー・エクスペリメンタル≫シリーズ第5弾に登場した『Jazz Abstractions』がある。
Jazz Abstractions / 大谷能生
≪ブラックスモーカー・エクスペリメンタル≫シリーズ第5弾に、菊地成孔との多くの共著や「JAZZDOMMUNE」でも知られ、最近では相対性理論との「乱暴と待機」のリリースや坂本龍一とのフリー・セッションでも話題となっている鬼才・大谷能生が登場。KILLER-BONG/TOGASHI DUBにも呼応するイルなアブストラクト・ヒップホップアルバム。鋭い言葉選びと押韻のセンスを披露したラップ・トラックも3曲収録。


--- 活字版「JAZZDOMMUNE」にもありましたが、JAZZ DOMMUNISTERSの最初のリハでは、大谷さんがとにかく大乗り気というか、そのリハの場に“ギンギンの状態で来て”と(笑)。

 (笑)あのときはまだJAZZ DOMMUNISTERSっていう名前は付いてなかったんだけど。「HOT HOUSE」っていうパーティを大谷くんと二人でやっていて、そこで司会が要るってなったのね。元々はコメディアンの二人組の司会がいたんだけど、それをウチらがやろうってことになって。それにあたり、パーティのPVを作ったんですよ、YouTubeにも上がってますけど。

 そのとき、すでに大谷くんが、チャーリー・パーカーだとか、ビバップ・パーティのラジオ番組の有名な司会者の声だとかを抜いてマッシュアップした、所謂ビバップ・オールドスクーラー対応のヒップホップ・トラックみたいなものを用意してきて。パーティの開催を告げるラップをやるんだって。でも別にそれは、「ラップとかいいよね」って二人で話し合ったわけじゃなくて、大谷くんの中で「もう当然でしょ」っていう流れで(笑)。 

 大谷くんと僕では、世代で言うと1シーズン違うんですよ。僕はオールドスクールからで、大谷くんはミドルスクール、それこそ“さんぴんCAMP”世代。で、お互いオーヴァーグラウンド、アンダーグラウンド問わずヒップホップのヘヴィ・リスナーだっていうことも知ってると。ただまぁ、仕事柄あんまりそういうことは表に出ない、というか大谷くんなんて全然出ないから。朗読のCD(『「河岸忘日抄」より』)とか、演劇の音楽(『みずうみのかもめ』)作ってるぐらいだからさ(笑)。まさかヒップホップ・マニアだなんて思われないんだけど、でも大谷くんも僕もすごく好きなんですよ。


  さんぴんCAMP・・・ECDの呼びかけで、1996年7月7日に日比谷野外音楽堂で開催された伝説のヒップホップ・イベント。ユウ・ザ・ロック、ランプ・アイ、ZEEBRA(キングギドラ)、ライムスター、デヴ・ラージ(ブッダ・ブランド)、シャカゾンビ、ソウル・スクリーム、MUROら現在第一線で活動している日本のヒップホップ・アーティストが多数集結。「耳ヲ貸スベキ」(ライムスター)、「人間発電所」(ブッダ・ブランド)、「空からの力」(キングギドラ)、「バスドラ発スネア行」(MURO)、「証言」(ランプ・アイ)など、ジャパニーズ・ヒップホップ史に燦然と輝く”クラシック”が矢継ぎ早に披露された。


 そういう流れもあって、ビバップのパーティをやるんだったら「当然司会はラッパーでしょう」っていう。それはコミック・ラップというか、パーティの内容やメンバー紹介をラップすると。そのためにリハをやったって話しなんですけど、大谷くんはその時点でもうトラックを作ってきたし、リリックもすでに付いてたからね。  

--- 先手、先手で(笑)。

 (笑)それに当て込んで僕もリリック作って。それが二人で初めて2MCでラップしてレコーディングした最初の経験なんですよ。

 大谷くんは「JAZZDOMMUNE」の初期でも、テープ止まったところで、勝手に自分でトラックかけ始めてフリースタイルでラップやってたりしてたの(笑)。簡単なトラック鳴らしながらね。それが一部で「大谷くんのラップはヤバい!」って話しになって(笑)。もちろん僕もすぐ横で聴いてたんですけど。

 僕らコンビ組んでもう長いんで...今年で10年ぐらいになるのかな? だからお互いのことはよく分かってて、でまぁ、ラッパーとしてだけじゃないんだけど、大谷くんってすごくいい意味で自身満々の人で、「いやぁ、俺なんかイイっすよぉ」っていう感じがまったくないの。もう、どんどんトラック作ってきて、どんどんラップ入れてくるわけ(笑)。

--- ラッパー向きですね(笑)。

 すごく。メンタリティ的にはオーヴァーグラウンドのギャングスタ・ラッパーに近い(笑)。

--- (笑)

 常に「俺は最高なんだ」っていう(笑)。大谷くん酔っ払うとね、「俺は、文章は日本で1番、サックスは日本で...まぁ色々巧い人がいるから大体100番ぐらいかな」って、それをシャレじゃなくて本気で言う人なんですよ(笑)。すごい自信家なの。頼もしいっていうか、まさにラッパーですね。ビーフのないラッパー(笑)。

 というわけで、そのPVを作ったパーティっていうのが、去年の3月14日に予定されてたから、ちょうど1年前ですよね。それから、僕のラジオ番組(TBSラジオ「菊地成孔の粋な夜電波」)で今年の1月に「ヒップホップ特集」をやるってときに、オープニング用に二人でまたラップやろうかって。それが2回目。その間に大谷くんはこの『Jazz Abstractions』を用意してたから、もうヤル気に火が点いたっていうかね。

 JAZZ DOMMUNISTERSって正式な名前を付けて、実際「DCPRGのトラックにフィーチャリングされる形でやらない?」っていうのは、レコーディングする三日ぐらい前に思い付いて(笑)。 

--- そうなんですね。前回インタビューさせていただいた時点(2011年10月)で、アルバムでお二人でラップすることは構想としてすでに固まっていたのかと思いました。

 固まってはいたんですけど、名前を決めたり、「DCPRGでやればいいんだ」ってなったのは本当直前ですね。

--- その頃、SIMI LAB(シミ・ラボ)とやることは決まっていたんですか?

 うん、決まってた。今回一番前からやろうと決めてたのが、アミリ・バラカ(リロイ・ジョーンズ)で。彼の「DOPE」っていう演説のテープを高見(一樹/プロデューサー)くんが持ってきたのね。それをマイルスの「Duran」に、僕がCDJプレイでミックスするっていうのはライヴで実はやってて。これをレコーディングしようっていうのが最初に決まってたことなんですよ。


  アミリ・バラカ(旧姓リロイ・ジョーンズ)・・・1934年生まれ。アメリカを代表する詩人、作家、ブルース〜ジャズなどの音楽評論家。それら多岐的な活動に加え、黒人思想家・運動家としても強い求心力を持つ。最も有名な著書『ブルース・ピープル 白いアメリカ、黒い音楽』(1963年)では、ブルースの成立と発展、さらにはジャズの登場からビバップまでの成立過程を、奴隷としてアフリカから連れて来られて以来の新大陸における黒人の社会的・宗教的な地位やアメリカ社会全体の変化とともに描いている。50年代後半から60年代にかけては、詩を朗読するときに悲鳴や怒号を交えたり、足を踏み鳴らしたり、リズムと詩文を微妙にずらすなど、ポエトリー・リーディングにパフォーマンス・アートの要素を持ち込み、ラップ・グループの元祖とも言われるラスト・ポエッツなどに大きな影響を与えた。


 ちなみに、アミリ・バラカはまだ存命なので、テープ使用の許可を得るため何度もあたってもらってるんですけど、現状まだ返事が来ないままで...


(ユニバーサル担当・斉藤氏) ついこの間来ました。OKだそうです。とても喜んでいて、使ってくれてありがとうと。

 来たんだ! すごいなぁ(笑)。それで話を戻すと、ラッパーとコラボレーションしたいっていうのも当初から決まってたの。要するに僕の頭の中にあったのは、新しいメンバーで『アイアンマウンテン報告』の10年ぶりのセルフ・カヴァーをやるっていうことと、そこにラッパーとのコラボレーションがあるっていう二点だけだったんですよね。

--- ラッパーとのコラボを具体化する過程で、SIMI LABに声を掛けた理由というのは?

 SIMI LABは、2009年ぐらいからYouTubeにPVを落としてて、それを観て純粋にいいなと思ってたの。こんな風に言うとよっぽど美談みたいに聞こえるから、あんまり言いたくないんだけど(笑)、SIMI LABは完全に僕の一目惚れ。その時期の自分のサイトにも、彼らの名声を決定的にした「WALK MAN」っていう曲のトラックを聴いて「コラボしたい」って書いてあるぐらいで。でもそのときは「できるワケがない」って思ってたから、「相模原のアンダーグラウンドにすごくいいヒップホップ・グループが出て来て、多分この後かなりの大騒ぎになると思います。僕もDCPRGか何かで、どんな形でもいいから彼らとコラボできたらいいと思うんですけどね」っていう程度だったんですよ。その頃は、今回のアルバムが出るどころか、DCPRGが再結成するかどうかっていう時期だったんで、まさか一緒にやるなんて思ってなかったから。



SIMI LAB (シミ・ラボ)

SIMI LAB(シミ・ラボ)・・・神奈川に突如として発生したドス黒い巨大な染み。それぞれが個性を持ちはじめ、人間となって行動を起こし始めた。見た目とは裏腹に温かい染み達によるブラックネスを、嫌と言う程浴びせかける。QN、OMSB'Eats、MARIA、DyyPRIDE、DJ HISPECを中心に、その構成メンバーは総勢十数名から成る。その形は常に変化し続け、明日でさえどうなっているのか誰にも予想出来ない。ともかく今日もSIMI達が何処かでまた何か企んでる。
Page1 Anatomy Of Insane / SIMI LAB
QN、Earth No Mad、DyyPRIDEら各MCのソロ・デビュー後さらに謎が深まり、ヒップホップ・シーン内外からも注目度が高まっていた変幻自在のヒップホップ集団:SIMI LAB(シミラボ)のグループとしての1stアルバム。客演なし、参加プロデューサーなし。彼らにしか出来ない音楽を、彼らにしかできないやり方で構築した純度100%のデビュー・アルバム。例えようのない音楽が少なくなってきた昨今、この作品は何にも例え難いオリジナルな空気を放っている。QN、OMSB'Eats、DJ HISPECによるバラエティに富んだサウンドに、油断していると価値観を揺さぶるような言葉を吐き出すMC連。その言葉は時に”毒”であり”薬”。そんな事はおかまいなしに好き勝手に活動し続けるSIMI LAB。これはそんなシミ研究所から送られて来た一通目の研究結果報告書である。



 SIMI LABの魅力っていうのは多角的に見てもいっぱいあって、去年の初アルバム(『Page 1 : ANATOMY OF INSANE』)で「ブライテスト・ホープ」を総ナメにしているし、“アンファンテリブル”っていうか、恐るべき子供たちっていうね。ものすごく若くて、どこのクルー傘下というわけでもなく相模原アンダーグラウンドから突然出てきたっていう。まぁ、日本のローカル・アンダーグラウンドって大抵そうですけど。尚且つああいうキャラで、才能の塊の集団で、いいところ挙げればキリがないんですけど、決定的だったのは、その「WALK MAN」っていう曲のトラック。トラックの方がフロウしてるわけ。キック、スネア、簡単なハイハットにベースっていうすごくシンプルなトラックなんだけど、“ヨレて”貼ってあったの。

 ヒップホップはご存知のとおり、カチンカチンのトラックにラップが好きなだけフロウするっていうのが大抵じゃない? だけど、僕の頭の中では、トラックもヨレてる、つまりポリリズム的に“訛ってる”っていうのが出てきたらすごいなっていうのは昔からあって。ウチらDCPRGの演奏はそっちを指向しているんで。要するにヒップホップ用語で言うところの「フロウ」しているんだと。ヒップホップはマシン・ミュージックだから、なかなか”ヨレて”打ち込むっていうことが難しいじゃないですか。だけど、「WALK MAN」は、手打ちみたいにヨレてるトラックを延々と貼ってて、「これはすごい」と思って。ひょっとしてこの感じがかっこいいと思ってる人達だったら、ウチらとできるかもって思ったんですよね。

 ただその頃は、具体的にSIMI LABとは思わずに、DCPRGが漠然と何でもいいからラッパーをフィーチャーして、しかもボカロまで入って、それがもしもインターナショナル・サイズで出るのであらばおもしろいんじゃないかなと、まぁ誰もが考えつきそうなことではありますけど(笑)。でも、ラップは積年の思いでもあったんで、ユニバーサルの斉藤くんにラッパーとコラボしたいってことを伝えたんですよね。そのときは特に深く考えず、SIMI LABのことも頭の片隅にあった程度でお願いしたんですよ。

 そうしたら、斉藤くんがいきなり「とりあえずコモンにメールしました」って(笑)。

--- とりあえずコモンですか(笑)。

 もう腰抜けちゃって(笑)。ユニバーサルの担当者に相談するといきなりそんなことになるんだと思って。さすがに一瞬SIMI LABのことが頭から消えたんだよね(笑)。すげぇビックリして。コモンなんて超好きだしさ。で、その後に斉藤くんから「コモンはスケジュールの都合諸々でダメになりました、菊地さん」って。それもすごい一報だと思いますけど(笑)。


  コモン(Common)・・・1992年『Can I Borrow A Dollar?』でデビュー以来、激動のヒップホップ・シーンで20年近くに亘り第一線で活躍し続け、コンシャスなリリックとタイトなライム・デリバリーで多くのヘッズの心を射抜くカリスマMC。94年の『Resurrection』リリース後、コモンセンスから「コモン」に改名。その後も『One Day It'll All Make Sense』(97年)、 『Like Water For Chocolate』(00年)、『Electric Circus』(02年)と、”出せばクラシック”とまで言われる名作を連発。04年には同郷シカゴ出身のカニエ・ウェストのレーベル=G.O.O.D. Musicと契約しアルバム 『Be』をリリース。グラミー賞で4部門にノミネートされ、プラチナ・アルバムにも認定された。再びカニエと組んだ 『Finding Forever』(07年)、ファレル・ウィリアムス&ネプチューンズらの制作陣を起用し新たなアプローチに挑戦した『Universal Mind Control』(08年)を発表後、2011年にワーナーブラザーズと電撃契約。昨年、移籍第1弾アルバム『Dreamer The Believer』をリリースした。


 で、「まぁダメか」と。でも今はトラック作って送ればラップ入れて返してくれるんで、出来ないことはないんだけど。そのときにフッと「そっか、SIMI LABがいるじゃん」って。当初は、何となくインターナショナル・サイズの発売ということから、英語のラップを乗せるんだって決めてかかってたんですよね。だけど、半ば挑発的になりますけど、日本人ラッパーによる日本語ラップの方が逆にエキゾチックでおもしろいんじゃないかって。そう思い付いた瞬間、盲点だったというか、SIMI LABがいたじゃんっていう。

 そうなったらこの際SIMI LABに声掛けてみようって。もうすでにコモンに声掛けてますから、怖いものなしですよね(笑)。SIMI LABに声を掛けるに際しても、友達にジャパニーズ・アンダーグラウンド・ヒップホップに詳しいヤツが何人かいるんで、そういう連中に「SIMI LABとDCPRGが一緒にやったらおもしろいかな?」っていうメールを出したら、調査してくれたんですよ。そうしたら、「彼らはクリーンだし、どこかにスジ通さなきゃいけないっていうこともないし、絶対一緒にできますよ。超おもしろいと思います」っていう返事が来たんで、「コレはいける」と思って声掛けたんですよね。

 とは言え、その段階は結構遅くて、去年の年末なんですよ。だから、これで断られたら、ラップは全部僕と大谷くんでやるんだっていう(笑)、そのぐらいの覚悟で投げたの。そのときすでに、「ラッパーが入るんだったらこのトラック」っていうものを録り終えてて、つまりセルフ・カヴァーの「キャッチ22」と今回書き下ろしの「マイクロフォン・タイソン」。この2曲のトラックをすぐ投げられる状態にしていて、まずはSIMI LABに投げたの。彼らはさっきも言ったように、去年の主要ヒップホップ・サイトでほとんど「ベスト・アルバム」を獲ってると。しかもあの辺の世代って「フィーチャリング、フィーチャリング」じゃないですか。だから、多分ものすごい数のオファーが来てるだろうから、まぁヘタしたらさ...

--- スケジュール的にNGの可能性はかなり高そうですよね。

 それもあるし、あとはやっぱり相手を選ぶだろうから。僕も「トラックがヨレてる」っていう直感だけで頼んだからさ。いくらトラックがヨレてるとは言え、知らないおっさんたちのジャズのグループとやるのはゴメンだって言われればそれまでだから(笑)。半ばダメもとで投げたんですよ。そうしたら結構早く「やる」っていう返信が来たんですけど、2つ投げたトラックのうち、「キャッチ22」は「できない」ってなったの(笑)。トラックがヨレてるとは言え、「ヨレすぎ」っていうことで(笑)。

--- さすがに乗せにくいと。

 やっぱりクリックが取れないからね。で、「マイクロフォン・タイソン」だけやりますってなったんで、早速彼らと年末に会ってミーティングして。実際彼らもフィーチャリングの話はいっぱいあったらしいんだけど、全部断ってて。だけどウチらとはやるって言ってくれたので、それはすごくありがたいなと。

 ただし、1曲は退けられたわけじゃないですか。「キャッチ22」は。でもこれは別にラップを乗せなくてもいいかなって、漠然としたまま年越しを迎えたんですが...年明けの納品間近になって「やっぱラップ入れたかったなぁ」っていう感じになってきちゃったんですよ(笑)。TD(トラックダウン)も終わっていたんで、そのままインストで出そうと思えば出せる状態になってはいたんですけど。

 話が前後しますけど、ボーカロイドを入れようっていうのは、もうちょっと前から決まってて。だけど、ボーカロイドにラップさせるっていうアイデアまでには至ってなかった。10年前のファースト・アルバム(『アイアンマウンテン報告』)では単なるボイス・サンプリングだったんですよね。今回はそのボイス・サンプリングをボカロにしようっていう...でも実はボカロってよく知らなかったんだけど(笑)。

--- 僕もお恥ずかしいながら、ボーカロイドは未だに実態がよく掴めないままです。

 「ボカロ、ボカロ」って名前ばかりでね(笑)。「ボカロと言えばアキバ」ぐらいな感じで、ただ漠然と。ボカロを愛してる人に失礼なぐらいの(笑)。でも、どうせひと声ぐらいだから、日本人のオタクなら誰でもすぐ判るようなブランディングのあるボーカロイド、例えば初音ミクだったりの声が入ってて始まるっていうのは、一応対米仕様ということではアリかなと。

 そのボカロに関しても、僕の生徒でめちゃくちゃ詳しいヤツに訊いたら、色々情報を出してくれたのね。何のことだか全然分からないから(笑)。さらに高見くんにも揉んでもらったら、「YAMAHAがタダでボカロを提供してくれる」って言ってすごいプッシュしてくるわけ。最終的に「この三人の中から選んでください」って言われて、「坂本美雨」とかあったんですけど、この「兎眠りおん」を特に理由もなく、何となく決めたっていう(笑)。

--- 初歩的な質問で恐縮なのですが、見た目の差異はもちろんでしょうけど、声質や歌い方にも大きな特徴の差があるものなのですか?

 あるある。全部違う。今回扱ってみて、ボカロすごいなって(笑)。でも、1回使ってみて分かったけど、オペレーションが面倒くさすぎて、もういい(笑)。もっと手軽だと思ってたから。鍵盤に喋らせる言葉を置いて、ピアノみたいにそれを弾きゃできるのかと思ったんだけど、そうはいかないみたいで。調教師ってボカロのトラックを鳴らす人がいるんだけど、まぁ大変な作業だなと。もし天才調教師みたいな人がいて、ボカロの声でフィメール・ラッパーみたいなものを作り出せたら話は別ですけど(笑)、現段階でこれ以上の声的なボキャブラリーは引き出せないんで、とりあえずはこれっきりだと思います。

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 「キャッチ22」は、ボカロがひと声入って演奏が続くトラックだっていうことで話が進んでいったんですね。でもギリギリまで、せっかくSIMI LABも入ったし、これはもっとどうにかしたいなって思ってたときに「あぁ、そうか!」っていうさ。やっぱり締め切り間近でバタバタしてると忘れちゃうんですよね。「大谷くんがいたよ!」っていうことをそこでやっと思い出して(笑)。もう納品ギリギリの段階で僕と大谷くんでラップをやることにして、だったらせっかくだから、ボカロにもラップさせようって。ボカロと一緒にマイク回しするって随分と悪趣味だけど、おもしろいなっていうことになり、決定したんですよね。

 大谷くんに「1週間後なんだけど、DCPRGのアルバムにラップで入ってくれない?」って言ったら、自信満々だから「えーっ! 急に何すか!?」とは言わずに、「あ、いいよ、やるやる」って(笑)。「俺じゃなきゃできないでしょ、アレは」って(笑)。チーム名の候補も3つぐらい考えてたんだけど、「それだったら、JAZZ DOMMUNISTERSでしょ」って(笑)、それに決まり。締め切りも余裕綽々で、自宅で録ってきたラップのトラック持ってきて、「音質だけチェックさせて」とか言ってさ(笑)。

--- ボーカロイド・兎眠りおんのリリックはどちらが?

 それは僕。で、自分のリリックも書いて。大谷くんもそうだけど、僕もほとんど1回でラップを入れて。サックスは何十回と入れ直すんですけど、ラップは1、2回。フックも大谷くんと一緒に入れて、アッと言う間に録り終えたんですけど、みんな唖然としてて、「コレが入んのか...」って(笑)。

--- (笑)

 「コレが入ります」的な感じで(笑)。

--- (笑)バンド・メンバーの皆さんも面喰ったんではないですか?

 バンド・メンバーはその場にはいないから。トラックの演奏だけして帰されてるから、とっくに終わってるのね。だから、高見くんと斉藤くんとエンジニアとでずっと作業しているところへ、いきなり大谷くんが来たわけよ(笑)。

 でやっぱり、SIMI LABとは本当に対照的って言うか。SIMI LABは “ブランニュー・スクーラー”だしさ。彼らとのレコーディングは深夜・早朝にまで及んで。各MCハンパじゃない数、40テイクぐらいやり直したりして。若いなと思った。だから、ウチら的にはなかなか体力的にキツいレコーディングだったんだけど、SIMI LABが夜から早朝にかけてずっとラップしてるのを見て、あまりにもかっこよくてみんな感動してるの。それは安心できる感動っていうかね。大谷くんみたいな不安な感動じゃなくて(笑)。ちょっと音楽やってて良かったなって思うぐらい感動したんですよね。

 それに対して大谷くんは一発だから(笑)。レコーディングにしても、実際にはトラックを流し込む時間しか掛かってないぐらい。とにかく周りのみんなが「大丈夫なの!?」「コレでいいのか!?」って慄きながら感動してるっていう(笑)。僕はもう最初から絶対的に「大谷くんは最高だ」って思ってるし、大谷くんも「自分は最高だ」と思ってるんで、揺るぎない最高のヴァイブが出てるわけなんですけど。結果、相当な数のMC、8MCが入るっていうことになりましたね。

--- それでも、バンド・メンバーにはそれなりに「ヒップホップのリテラシーを付けてほしい」というようなリクエストを出したりだとかは?

 ちょっとだけした。楽器のソロをフロウさせようと思って、スタジオでみんなでSIMI LABの「UNCOMMON」を聴いたのね。それがこのアルバムに入ってますけど、「UNCOMMON UNREMIX」っていうSIMI LABのカヴァー曲で。「ラッパーのフロウみたいにソロやってみない?」って。でもその程度ですよ。

--- そのリクエストはかなりハードルが高そうですね。

 これはかなり難しい。僕も今サックスでその練習をしてますけど。普通のジャズの録音は、当たり前だけど打ち込みじゃないから、低速再生するとヨレてる、つまりフロウしてるの。チャーリー・パーカーとか。逆に低速再生してもフロウしないのは、クラシック。バッハとかね。速いと分からないんだけど、あまり魅力ないなっていうサックスの人は、低速にするとフロウしてないんだよね。クラシカルに吹いてるわけ。何か色気あるよなっていう人は大抵フロウしてる。

 パーカーやコルトレーンみたいな人たちは、低速にするとどんどんフロウしてきて、高速だと分からないんだけど、フロウの情報が入ってるんだよね。要するにスピード・ラーニングみたいな感じで。

--- それはアフロ・アメリカン特有のものでもあるのですか?

 アフロ・アメリカン特有というよりか、フロウする“理由”っていうのが、ポリリズムに起因してるっていうところで。フロウっていうのは、例えば視覚的に言うところのフレーミングなんかと同じで、“二重秩序“があるとボヤけてくるっていう。結局ポリリズムのことなんですよね。

 アフロ・アメリカンもそうだけど、あとは地方在住者ね。「方言と共通語」っていう二重秩序があると、そこから”訛り“っていうものが出てくるわけで。日本のアンダーグラウンド・ヒップホップなんか聴くと、お国訛りだったりするのもいるじゃない。韻踏合組合とか、餓鬼レンジャーとか、方言どんどん出してきて、そういうフロウなんだっていうさ。

都市伝説 DVD / 韻踏合組合
アルバム『都市伝説』の発売後より開始された全国ツアー、2010年の最後を飾った大阪BIGCATでのライブをノーカットで完全収録した、純粋な韻踏合組合のライブとしては、初のDVD。過去のオリジナル・メンバー(だるまさん、AMIDA aka EVIS BEATS、MINT)も参加した全員集合ライブはもう二度と観れないかもしれない...まさに永久保存版。韻踏オリジナル・メンバー揃い踏みの「前人未踏」、「ジャンガル」、「揃い踏み」は必見!
リップ サービス / 餓鬼レンジャー
火の国・熊本を中心に活動するヒップホップ・ユニットのデビュー・ミニアルバム。ロックな精神を振りまくそのヤンチャぶりと、ライブで培ってきたであろう絶妙な“間”の感覚がもたらす高揚感は、そんじょそこらじゃ味わえない。1998年、突如としてシーンを飲み込んだ衝撃の1枚。90年代”お国訛り”ラップの最高峰としても殿堂入り。


 結局、“二重秩序“がフロウを生むわけなんで、それは第一義的にはアメリカの黒人だし、二義的には、どの国でも地方在住の人はみんな訛ってるっていうことなのね。身も蓋もないような話ですけど(笑)。それがラップに反映されてるっていう話だから、黒人・白人っていうよりは、体質もあるけど、例えば楽器の修得の段階で「クラシカルな発想で練習して、クラシカルな体になっちゃった人」は、低速再生してもまったくフロウがないわけ。だけど、ストリートな感じで、喋るみたいに吹いている人は、高速だと分からないけど、グッとピッチを落として再生するとフロウしてるわけ。さっき言ったようにスピード・ラーニングと同じで、速くしちゃえば「キュルキュルキュルキュルッ」って言ってるだけでさ(笑)、誰が何言ってるか分からないけど、常速か低速にするとどんな具合か分かってくるっていう。ジャズはスキルフルにすごい高速で吹くけど、低速にしたときにそれが分かっちゃうっていう。ラップは高速再生性がないからさ。

--- 表現において色気や深みが失われるという意味では、修練の賜物がやや逆効果になっている、という言い方もできるような...

 修練の賜物っていうよりは、コンセプトじゃないかな? 楽器をクラシックみたいに練習して、その練習の成果をとにかく技術として出すんだっていう人と、練習してるときにラッパーみたいにどんどん喋っていくんだっていう発想でやってる人と、言葉にするのはちょっと難しいんですけど、その違いじゃないかなって思いますけどね。



(次のページへつづきます)




Second Report From Iron Mountain USA / DCPRG
菊地成孔率いる11人のドープな特殊部隊DCPRG。昨年Impulse!と電撃ディールを結び、2枚組ライブ盤『Alter War In Tokyo』を発表した彼らの移籍第2弾は、活動再開後初となる5年ぶりのスタジオ・アルバム。待望の新曲に加えて、ライヴの定番レパートリー(「サークル/ライン」、「キャッチ 22」)の新録音やマイルス・デイヴィスのカヴァー(「デュラン」)を収録。さらに今回は多彩なラッパーを大胆にフィーチャリングし、新機軸をプレゼンテーション。日本アンダーグラウンド・ストリート・シーンの最前線を行く、ネクスト・ブレイクの最右翼ヒップホップ集団SIMI LAB (シミラボ)が2曲で参加するほか、MC YOSIO*O とMC 菊地(大谷能生と菊地成孔)によるアブストラクト・ジャジー・ヒップホップ・チーム「JAZZ DOMMUNISTERS」と、ボーカロイド「兎眠りおん」が奇跡のマイク・リレー! 現在の“JAPAN COOL”のハイでドープな側面を体現する強力作。ジャケットは新進気鋭のイラストレーター、Dragon76 による描き下ろしライヴ・ペインティング。




菊地成孔 今後のライブ/イベント・スケジュール


Ron Zacapa presents DCPRG

【日時】2012年4月12日(木)
【場所】新木場STUDIO COAST
    [開場] 18:00 [開演] 19:00
【料金】スタンディング 6,500円 指定席 7,000円 当日券 7,500円(税込)
    ローソンチケット (L コード:72970)
    ゲスト:SIMI LAB
    オープニングアクト:KILLER SMELLS
    ※6歳未満入場不可
【問い】サンライズプロモーション東京 TEL. 0570-00-3337


”Dance” Party, for Couples
「NARUYOSHI KIKUCHI PRESENTS ”HOT HOUSE” @CAY」

【日時】2012年3月30日(金)
【場所】青山・CAY
    [開場・開演] 19:00
【料金】オールスタンディング 5,000円(税込・ワンドリンク付き)
    ローソンチケット (L コード:71598)
【出演】MC:菊地成孔&大谷能生 (JAZZ DOMMUNE)
    DJ: NADJA / 菊地成孔
    BAND: REAL BOPPERS FROM TOKYO
    坪口昌恭(p)、安藤正則(ds)、永見寿久(b)、津上研太(sax)、市原ひかり(tp)
    LINDY HOP INSTRUCTOR: AMORE&LULU(Swing Gigolo)
    BEBOP/FUSION DANCE: IZM.(STAX GROOVE)+Steppin Jazz Dancers
【問い】CAY TEL. 03-3498-5790





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    DCPRG × ヒップホップ

    菊地成孔率いるDCPRGのImpulse! 第2弾は、現在の“JAPAN COOL”を体現した5年ぶりのスタジオ作! SIMI LAB、ボーカロイド、大谷能生氏参戦のヒップホップ・アルバム!

  • 【インタビュー】 DCPRG 菊地成孔

    【インタビュー】 DCPRG 菊地成孔 (2011年11月)

    アルバム『Alter War In Tokyo』がImpulse! から遂に到着。活動再開から1周年を迎えた新生デートコースのここまでとこれから。主幹・菊地成孔さんに色々と伺ってまいりました。

  • 【特集】 DCPRG、リユニオン

    【特集】 DCPRG、リユニオン

    新生デートコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデン(DCPRG)の今年6月恵比寿LIQUIDROOMで行なわれたライブが名門IMPULSE! から音盤化。ゲストにはアート・リンゼイ! 帝王カヴァーも・・・

profile

菊地成孔(きくち・なるよし)

 音楽家/文筆家/音楽講師、1963年千葉県銚子市生まれ。25歳で音楽家デビュー。山下洋輔グループ、ティポグラフィカ(今堀恒夫主宰)、グランドゼロ(大友良英主宰)を経て、「デートコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデン」、「スパンクハッピー」といったプロジェクトを立ち上げるも、2004年ジャズ回帰宣言をし、ソロ・アルバム『デギュスタシオン・ア・ジャズ』、『南米のエリザベス・テイラー』を発表。現在ジャズ・サキソフォニストとして演奏するほか、作詞、作曲、編曲、プロデュース等の音楽活動を展開。主宰ユニットに「ペペ・トルメント・アスカラール」、「ダブ・セクステット」をもち、そして2007年に解散した「デ−トコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデン」を2010年に活動再開させ、2011年Impulse!より『Alter War In Tokyo』をリリースしワールドワイド・デビューを果たす。今年2012年には、5年ぶりのスタジオ・アルバムとなる『Second Report From Iron Mountain USA』をリリース予定。音楽、音楽講師、また執筆(音楽にとどまらずその対象は映画、料理、服飾、格闘技と幅広い)をよくし、「時代をリードする鬼才」、「現代のカリスマ」、「疾走する天才」などとも呼ばれている。






DCPRG 2012 その他のメンバー


坪口昌恭 坪口昌恭
(つぼぐち まさやす)


いまやDCPRGの副司令官とも言える結成当初からのメンバーのひとり、坪口昌恭。菊地氏とはDCPRGとほぼ時を同じくして、自動変奏シーケンスソフトがリズムを刻む、多重力的エレクトロ・ジャズ・ユニット、東京ザヴィヌルバッハを立ち上げているのは広く知られているところ。ラップトップ・テクノの鬼才numbとのコラボ活動や、自身のソロ作品におけるエフェクティブ手法やポリ・スイングの実践などを行なう一方で、ソロ・ピアノやトリオ〜小編成コンボではアコースティック・ジャズ・ピアニストそのものの魅力をアピールするなど、菊地氏に負けず劣らぬ「アンビバレンツ(両面性)」を兼ね備えている。


丈青 丈青
(じょうせい)


DCPRG 第三シーズンの中核を担うであろう、ドスの利いた「爆音ジャズ」「デスジャズ」でシーンに風穴を開けまくるSOIL&PIMP SESSIONS (別働トリオ・プロジェクトに J.A.M.)のピアニスト/キーボーディスト、丈青。2003年に音源も出さないままフジロックに出演するというSOILの快挙は、2000〜01年上半期までにスプリット・シングル『全米ビフテキ芸術連盟』 1枚こっきりの作品目録でライブハウスを夜毎熱狂させたDCPRGの徹底的な現場主義と共通している。


大村孝佳 大村孝佳
(おおむら たかよし)


坩堝感がさらに極まった新生DCPRGの中でも一際異彩を放つのが、2011年2月20日の「巨星ジークフェルド」がお披露目公演となった新加入ギタリスト、大村孝佳の存在。様式美ヘヴィメタル/メロディック・ヘヴィメタル・ギタリストの「最速王」というのがそのスジでのふれこみ。従って「ザッパ・バンドのヴァイみたいに弾いてくれ!」(©菊地氏)という明瞭なパラブルと明確な着地場所がきちんとあってこそのヘッドハンティング、ということになる。しかもこのメタリックなギタリズムが、化学反応という意味合いも含めて、とてつもなくDCPRGにフィットしている。そして巧い。スピードを競うソロよりは、堅実な刻みや音の出し入れみたいなものがハンパなく手練れている。


千住宗臣 千住宗臣
(せんじゅ むねおみ)


PARACOMBOPIANOウリチパン群など幅広い活動で爽やかに暗躍するドラマー、千住宗臣。メタルやハードコアから、ファンク/グルーヴ・ミュージックへと向かい、さらにNO WAVEとテクノを通過しながら、民族音楽と現代音楽を同時に貪る。「聴き手の意識を変容させていくようなビートの創出」を無機質的に表出することで、その独特とも言える空間芸術が生まれている。数々のレコーディング/ツアー・サポートに引っ張りだこなのも納得だが、この若さにして菊地氏や大友良英はおろか、ビル・ラズウェルアート・リンゼイ高橋幸宏細野晴臣ダモ鈴木(!)といった一筋縄ではいかない巨匠ドコロと共演歴がある。


大儀見元 大儀見元
(おぎみ げん)


背中一面にバカでかい「雷神」を刻んだ、泣く子も黙るパーカッション・リズムマスター、大儀見元は、菊地氏と同級生の初期メンバー。オルケスタ・デ・ラ・ルスの初代リーダーとしても知られ、脱退後の1991年にN.Y.へ移住し、サルサ界の大御所シンガー、ティト・ニエベスのバンドでコンガを叩くようになる。帰国後の97年、総勢11名からなるリーダー・コンボ、サルサ・スインゴサを立ち上げ、07年にはフジロックにサルサ・バンドとしては初めての出演を果たしている。ラテンのみならず世界各地のリズムを吸収した幅広いプレイスタイルと抜けがよく迫力のあるサウンドは、エムトゥーメのそれにも全く引けをとっていない。


津上研太 津上研太
(つがみ けんた)


2000年加入のアルト/ソプラノサックス、フルート奏者の津上研太。同じく初期メンである大友良英ONJQ/ONJOにも2007年まで参加し、ゼロ年代東京の緊迫した裸のジャズの在り方をケイオスに吐き出した。2000年に南博(p)、水谷浩章(b)、外山明(ds)と旗揚げしたリーダー・バンド「BOZO」ほか、村田陽一オーケストラ、渋谷毅との活動などでもその骨太でエレガントなブロウを聴くことができる。


類家心平 類家心平
(るいけ しんぺい)


DCPRGの「トランペットの王子様」「傷ついた美男子」(©菊地氏) 類家心平。海上自衛隊大湊音楽隊に在籍していたという驚くべき経歴を持ち、退隊後の2003年に6人組のジャム系ジャズ・コンボ「urb」に参加。2007年には、マイルスと並び敬愛してやまない菊地氏の当時の新バンド、ダブ・セクステットに加入し見事その念願を叶え、以来若手No.1 トランペッターの名を欲しいままにしている。その甘いお顔立ちからは想像できないほど激しく燃え上がるアドリブで、DCPRGファンからアッパーギャル層のハートを総ざらいしていることは、あの『美男子JAZZ』に堂々フィーチャーされている点においても顕著。2011年9月には、自らが率いるワンホーン・カルテット、類家心平 4 Piece Bandの2ndアルバム『Sector b』もリリース。プロデュースはもちろん親方・菊地氏。氏書き下ろしのポリリズミック・チューン「GL/JM」、DCPRG若衆が寄ったジャズバンド「アンフォルメル8」の三輪裕也が書いた「アトム」、さらにはレディ・ガガ「Poker Face」のカヴァーなど、かなりバラエティに富んだコンポジションが散りばめられている。


田中教順

アリガス

高井汐人
田中教順 (たなか きょうじゅん)
アリガス
高井汐人 (たかい しおひと)

「DCPRGを聴いて育った世代の成長ぶりにとにかく驚かされた」と語っていた菊地氏肝煎りの新メン・トリオ。2010年、ダブ・セクステットのフジロック公演で本田珠也のトラも務めたドラマー、田中教順、ベースのアリガス、テナー/ソプラノ・サックスの高井汐人。いずれも「朱雀大路」というインストバンドのメンバーで、主幹の私塾「ペンギン音楽大学」出身でもある言うなれば「菊地成孔チルドレン」にして腹心。「新人の腹心」「腹心の新人」という実体があってないようなものを起用するというこうした人材育成・開発メソッドは、まさにエレクトリック期以降のマイルスのそれに追随している。