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うーつん さんのレビュー一覧 

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  • 1人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2018/09/12

     我々日本人にとって、自然の牙が剥き出しになって襲い掛かった2011年3月11日は忘れることができない「分岐点」となることであろう。 「体験」が「記憶」になることが将来的に何をもたらすのかまだ判らないが、音楽を通してその痛みや喪失、そしてそこから立ち上がる再生を考えるのも一つの方法と思う。


      このディスクに収録された曲はすべて軽い気持では聴けないものばかり。ただ、それでも聴かずにはいられない。そして、あの震災に、自然の驚異に想いを馳せずにはいられない。

      音楽の語法は細川俊夫らしいものであるが、そのパレットに描かれた風景の激しさといったら…。 氏の既存の作品とは一線を画す、圧倒的に痛烈な自然の凶暴さをそのままに表現していく。対して小さな存在である人間は、か細い声でしかその存在を表現できない。

      「嘆き(2013 ver.2015)」はディスク化を切望していたものだけに真っ先に聴いたが、他の曲も聴くうちに「4曲全体でひとつの作品」と思えるようになった。先の震災をテーマにしてはいるが、もっと根本では「自然への畏れ」でつながっているからだ。


      ライナーノートからの引用を行わせてもらうが、「嘆き」の曲冒頭に歌われるこの一節をご覧いただければこのディスクのメッセージが少しでもご理解いただけると思う。

      『・・・最近、恐ろしい出来事があり、私はもはやその影から逃れることができない。敬愛する友よ、私の人生はわずか数日の間に筆舌に尽くしがたいほど無残に壊された。そして痛みをも拒む無言の苦悩だけが残っている・・・

    (ゲオルく・フォン・トラークルが友人に宛てて書いた手紙の一節、当盤解説ノートより)

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     2018/06/25

     ピアノ・ソナタ作品集とならずに小品や変奏曲を織り交ぜた愉しいアルバムです。直球と変化球を変幻自在にコントロールしてくるベズイデンホウトの才気溢れるディスク。モーツァルトの多面性を愉しむにはもってこい、誰もが奏でる「耳タコ」とも思われがちなK.545のソナタも正攻法的でありながらひねりも加えた新鮮な演奏、そこからさまざまな方向に曲を紹介し、2枚目最後のK.576まで単調にならないところがさすが。かっちりしすぎるとつまらなくて居心地が悪くなり、崩し過ぎると趣味が悪くなるモーツァルトを自然に聴かせてくれるのが一番のポイントでしょうか。ソロ演奏と並行しての協奏曲集もどんどんリリースを進めてほしい、これからも楽しみな演奏家の愉しいモーツァルトをお薦めします。

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     2018/06/24

     ヴァイオリンとオーケストラによる親密な室内楽の様相。ヴァイオリン協奏曲ではないから、そのいきおいで考えると肩すかしくうのでご注意。じっくりと耳をそばだてて聴いている(ひたっている)と思いがけない表情が見えてきて面白いですよ。遅々として進行していない…と思いきや新しい楽想や音空間が開けて、新たな場面や色相が登場し、飽きずに愉しむことができます。音楽理論的なものは抜きにして、こういう作品がもっと多くの方に知ってもらえたらいいですね。というわけでお薦めします。

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     2018/06/11

     日本には四季があり、それぞれに味わいがある。思索もそれぞれの季節で変化するものだが、このディスクはそんな「秋」にぴったりな演奏が詰まっていると思う。 かなり奇矯な感想になるが、聴いてもらえれば何となく理解してもらえると思う。   まず、音楽が実に渋く、それでいて芳醇。シフ&塩川夫妻による滋味深い音色 −− 特に、品良く静的にくすんだヴァイオリンは、京都・実相院において、紅葉が木張りの床に映りこむような程よい艶加減と光のバランスを連想させる。−− と掛け合いにぐっと惹きこまれるのだ。バッハ、ブゾーニそしてベートーヴェンともに外向的な音は一つもなく心の内側に凝縮されるような音楽作りがなされている。


    冒頭のバッハはヴァイオリンとピアノの音の線が、お互いを聴きあいながら会話するかのように豊かに絡み合っていく。   ブゾーニは見かけの晦渋さよりも安定した音の運びで見通しがよく、バッハのコラールによる変奏は非常に美しい。バッハのソナタの後にくるから余計にそう感じる。   ベートーヴェンも、およそ派手に技巧をちりばめずに、中身勝負の曲であることをしみじみ実感できる、最期を締めくくるにに相応しい充実した音楽に満ちているように思う。


      「秋」といってもそれらしい風情が希薄になってきているが、こんな音楽に耳をかたむけるのも秋の愉しみになるのではないだろうか。一聴を薦めたい。(HMVサイトのよく分からないサイト改定でアカウント再設定させられ、レビューのニックネームも取り直しになってしまいましたので、再投稿させてもらいます)

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     2018/05/31

     ベルリン・フィルが初めて来日公演を行った年から数えて70年。2017年の公演をメモリアル・アルバムとして追った当盤。公演に参加できた方がうらやましいくらいに魅力的な演奏をディスクで追体験できた。残念ながらチケットが取れなかった私にとって、そして日本の音楽ファンにも嬉しいプレゼントであろう。


      全体に「合奏するソリスト」のようなBPOの様子をきれいに収めてあると思える。ズン!とくる音の迫力は薄い気がするが、それを忘れさせるスリリングな調和がある。  各メンバーが主体性をもって主張しあいながら、合わせることも万能にこなす。これが現在のベルリン・フィルの特徴と考えているが、そこに指針を指し示すのがラトルの存在意義だったのだろう。 特に『ペトルーシュカ』は、このコンビの特長を一番物語っていると感じた。彼の指揮姿でよく見る「左手指を細かく動かし歌を煽る」仕草などで歌がうねりとなって押し寄せてくる。彼の指揮とベルリン・フィルによって現代音楽でも歌にあふれる曲に聴こえてしまうのもまた彼の功績と思える。当記録はアジア・ツアーの記録にとどまらず、協奏曲・交響曲・管弦楽曲・現代音楽を網羅し、ここまでラトル&BPOのコンビが行ってきた協働を俯瞰できる記録でもあると思う。

       要するに「これは買い」とお薦めしたい。

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     2018/05/17

     SHM-CD盤(2018年05月23日 発売予定)での視聴でないのであらかじめ星印を1つ減らして評価しますが、演奏の評価は星印5つの満点を出したい銘盤です。


       なによりもヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂での収録による、のびのびとした響き、明るく煌びやかな歌声と演奏が見事。屋内ゆえ当然天井があるわけだが、聴いていると天井の存在を忘れて音がそのまま天まで伸びていくような音響。声部のまとまりと分離がバランスよく混在し、しかも瑞々しい。あいにく同曲で他の盤を持っていないので聴き比べはしていないが、これも「この1枚で十分」と考えてしまえる美しさがあるため。

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     2018/05/06

     私たち音楽を聴く者は多かれ少なかれ「音楽のフィナーレ」に向けて聴き方を予想しているのではないだろうか。主題が提示され、展開し、再現され結末を迎える…、形式は様々あろうがおおむね音楽における「今どこ?」が分からず、フィナーレが見えてこないと恐らく大概の人は不安に駆られるのだと思う。  そこでフェルドマンだが、かれの作品を聴いていてその種の不安は(個人的には)出てこない。その静寂と微視的に時間が流れていくような音響にむしろ安心して身をひたすことができる。この『バニタ・マーカスのために』も同様だ。外道な聴き方かもしれないが、聴きながらボーっとしてみると非常に贅沢な時間を過ごせたと思ってしまう。音楽として聴かない音楽、と言えばよいだろうか。  ・・・おすすめです。

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     2018/05/04

     自由にくずして弾きすぎると曲がダメになるし、楽譜通りにやってもつまらないものになる。  ショパンのピアノ曲はこのバランスが難しいのかな、なんて思うことがある。 そこにきてルイサダのショパンはそのバランスのギリギリの線をいっている気がする。人によって彼のショパンはクセがありすぎると感じてしまうのではないだろうか。バラードのような語り物系こそルイサダの個性がうまく出せる(そして人によっては「語り過ぎ」と思われる)作品だと思う。私的には当盤は「面白い!」となる。これがバラードの代表盤とは言わないが、バラードらしい演奏としてお薦めしたい。

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     2018/05/04

     学生時代に聴いてからずっと、これがモーツァルトのホルン協奏曲における「基準値」になってしまっている。

        落ち着いたテンポでのびのびと奏でられる弦、協奏曲というより室内楽といえそうな親密さ(ソリストというより楽団員の一人だからこそだが…)、なによりも少しくすんだというか朴訥とした色調のホルンの音色。 底抜けに明るくてはっきりした輪郭のホルン演奏と違った独特の味が気に入っている。これがウィンナ・ホルンの音色なのか断言できる耳を持ってはいないが、ホッとするいい演奏なのは解る。 おそらく我々がこの曲集に求めている明るさ・愉悦感・ローカリズムなどを自然な形で表しているいるから今でも聴かれ続けているのだろう。

        キレイな音がよい演奏になるわけではないし、技術があるから銘盤になるわけでもない。もっと内的な蓄積や思い入れがコクと言ってもよいような「不思議な何か」を生むんだ、と思わせるのがまさに当盤の特徴だと思う。

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     2018/05/03

     2018年2月、新国立劇場での「松風」にも村雨役で熱演していたS.ヘレカントのすばらしい歌唱が光るモノドラマ。テキスト(邦訳をネットで探して参照しながらですが… )が深遠で、だからこそ音による表現が多様に行えるのか音楽の重力が大きい。実際に舞台作品として上演したのかはわからないが、面白い演目になるのではないだろうか。松風のように能をベースにしても物語が活きてきそうだ。むしろ実際の能舞台の上で上演するとこれはかなり刺激的で重層的な作品になるような気がする。能舞台の橋掛かりがかなり重要なスペースとして使われそうな演出が望ましいと思う。少なくとも当盤を聴けばその手の想像が各々に働くのではないだろうか。

      朗読が最初のトラックに入っているのでそこでじっくり「予習」して音楽に臨むこともできるのはうれしいところ。


      文章で追うだけだと只の文学になる所に、細川俊夫の音を入れることで現実と夢幻が徐々に入り混じって自分が果たして「現実」にいるのか「夢幻」に来てしまったのか、解らなくなる様なドラマが展開されていく。大鴉とは、本当に家の扉の外から来たのか、それとも心の中の扉に潜んでいたものなのか…それを考えていくのは、これを聴いてもらい各々が感じてもらえれば。と思う。

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     2018/05/02

     いつものことながらクレーメルの審美眼とそれを送り出し人口に膾炙させるまでのバイタリティーには感心させられる。どれもが独自のメッセージを持ち、クレーメルのたぐいまれな表現力によって時間に耐えうる芸術の建造物となっていく。ヴァインベルグもその一人だろう。その前にも取り上げられてはいるが、ここまで多方面の音楽を使ってヴァインベルグを紹介することはそうないことだと思う。クレーメルが歴史に名をのこすとするならば、この審美眼とそれを実証する実力と行動力によるものになるのではないだろうか。


      2018年2月に行われた彼のコンサートでもヴァインベルグを取り上げ、ポートレート写真(「失われた時」をテーマにした写真作品)をスクリーン上映しながらソロで50分近く弾ききった迫真の演奏(とその取り上げ方の工夫の素晴らしさ)は彼しかなしえないものだと思う。ディスクはその延長に過ぎないが、それでも当盤の価値が減るものではない。

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     2018/05/02

     いつものことながらクレーメルの審美眼とそれを送り出し人口に膾炙させるまでのバイタリティーには感心させられる。どれもが独自のメッセージを持ち、クレーメルのたぐいまれな表現力によって時間に耐えうる芸術の建造物となっていく。ヴァインベルグもその一人だろう。その前にも取り上げられてはいるが、ここまで多方面の音楽を使ってヴァインベルグを紹介することはそうないことだと思う。クレーメルが歴史に名をのこすとするならば、この審美眼とそれを実証する実力と行動力によるものになるのではないだろうか。


      2018年2月に行われた彼のコンサートでもヴァインベルグを取り上げ、ポートレート写真(「失われた時」をテーマにした写真作品)をスクリーン上映しながらソロで50分近く弾ききった迫真の演奏(とその取り上げ方の工夫の素晴らしさ)は彼しかなしえないものだと思う。ディスクはその延長に過ぎないが、それでも当盤の価値が減るものではない。

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     2018/05/02

     以前からカンチェリの作品は聴いてきたが、以前の作品が持っていた、霧の中からいきなり悲劇が飛び込んでくるかのような衝撃は少ない。レビューにもあるような内面との対話の性格があるからだろうか。内面を抉り出すような動的な表現でなく、内面を丹念に描き出すような静けさの要素が強いように感じる。   以前のカンチェリにあった強靭な力と葛藤、そして祈りへの昇華はそれほど感じないが、表現の放出から内側への収斂を行うことで人間を見つめる眼差しのあたたかさを感じる。クレーメルのヴァイオリンはいつも通り切れ味鋭くカンチェリの長いフレーズをモノローグのように語り、同時にオケと、そしてカンチェリの思想に寄り添って歌い上げている。

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  • 5人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2018/05/02

     まず驚かされること、それは当盤がライヴ録音であること。ピュアな音質(いかにもECM!)と自由闊達な演奏、愉悦感に満ちた雰囲気がどのトラックからも体感できる。バッハの権威と言ってしまうと堅苦しくなりそうなところだが、これほど自由さを保ちながら明晰な解釈を、ライヴで行ってしまうのがシフの凄いところ。  ピアノ演奏の醍醐味を味わいつつ、堅苦しくないバッハを舌鼓をうち、それでいておなか一杯にバッハを満喫したい方にお薦めしたい。
     

    5人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 1人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2018/05/01

     偏った見方かもしれないが、ゴージャスで美しいデュメイのヴァイオリンと詫び寂びで凛としたピリスのピアノでは相反するような気もする。それなのに何故か聴き入ってしまうくらいしっくりくるのだから不思議だ。渋めの茶碗を絢爛たる金で継いだような独特の美しさがこの二人にはある。

      ブラームスの若かりし頃の切ない情熱とそこに流されまいと構築された音楽の骨格がマッチした作品8が特に好みだが、デュメイとピリス、そしてその中を実直につなぐワン(上述の金継ぎ茶碗の例えを使うなら、漆の役割?)の3人の演奏がとてもマッチしており、理想的な音楽が聴こえてくる。もちろん作品87の仄暗い情熱もやはりブラームスらしい鬱屈さがあり聴きものだ。

      ピリスが引退・・・の時期(2018年4月)ゆえ、改めて聴きなおしている。いつ聴いても美しい演奏で、それぞれ3人が目指す美学が結晶化されたディスクになっている。やはり、ピリスの引退は非常に惜しい・・・。

    1人の方が、このレビューに「共感」しています。

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