インタビュー:佐野元春【後編】

2008年6月12日 (木)

 
佐野元春 インタビュー
interviewer : Komori/Nishio(HMV online)


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 前編 『佐野元春の近況〜リイシュー制作について』
 後編 『今後のアクション〜30周年に向けて考えていること』


2008-06-5
2008-06-12


『 今は心がもっと開いている 』



--- DVDの映像はあらためてご自身でどう感じられましたか?

佐野元春 ソングライター、パフォーマーであれば誰もが経験することだと思うんだけれど”精神が肉体を超えてしまう”瞬間。僕の場合はそれが30歳から35歳くらいだったと思うんだけど、ちょうどこの『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』のパフォーマンスを見ていると「あぁ、精神が肉体を超えてるな」っていうね、そういう風に僕には見えた。自分以上の表現がそこに成立している。

--- うーん、その感覚は僕にはまだ解らないです…。

佐野元春 でもね、みんなにもきっとあると思う。後になって気づくと思う。「あのときはなんであんなに無理が利いたんだろうなー」とか「あのときの俺の仕事すごかったよね?」みたいなね。そういう振り返りがきっとあると思うよ。

--- はい、そうありたいです。ところで、今後もこういったオリジナル盤のリイシュー企画っていうのは考えられているんですか?

佐野元春 必要であればね。ファンの間で人気のあったアルバムの再編集盤っていうのは成り立つんじゃないかな?例えば「No Damage」は1,2と出てますけど、90年代以降のものはないので、それを「No Damage3」としてまとめて、1,2,3のシリーズでワンパッケージにするとか。あと僕の音楽は80年代は色々な方が語ってくれるけれども、実を言うと僕の作家性ということでいえば90年代の『Sweet16』『The Circle』『Fruits』『The Barn』…僕のソングライターとしての真骨頂はもしかしたら90年代の作品に凝縮されているという見方もある。

--- 僕も90年代の作品には好きな作品が多いです。

佐野元春 そうすると、色々な方が語ってくれる80年代のアルバム群、それともうひとつ90年代の佐野元春をフィーチャーしたコンピレーションとかね、色々と考えられると思う。なので、こうした特別編集盤は僕が現役で新譜を出す限り、ファンのために、ファンの楽しみにつながるということを目的に、これからも出していきたいと思っています。

--- そのほか今後のアクションとして考えられていることはありますか?

佐野元春  2年後に僕はレコーディングアーティストとして出発して30年目を迎えます。だからすでに僕は30年目のことを考えはじめている。とにかくこれまで支援してくれたファン、そして新しく僕の音楽を楽しんでいるファンに、やっぱり「どうもありがとう」ということを伝えたい。そうしたアニバーサリーイヤーというのは、みんなにきちっとした感謝を伝えられるいい機会なんですよね。
だからその年に僕は大きなライブツアーをしたいし、大きな場所でみんなにたくさん集まってもらえるようなそういうライブをやりたい。もちろん新作も出したいし、こうしたリイシュー盤も出したい。やってみたいことはいっぱいあるんだよね。
そのために「今年は何をしなといけないか?」「来年は何をしないといけないか?」…そういったことを今ちょうど考えているところだね。
それと同時に今まで行けなかったような街に行って、僕のパフォーマンスを観てもらいたいというのもある。日本全国に「僕のレコードはずっと聴いてくれているけれども、ライブは1回も観たことがない」という人は意外と多いんだよね。

--- ライブ、是非お願いします。

佐野元春 うん。それとあとは去年僕の母校である立教大学で、ポエトリーの講座を持ったんだけれど、そのアカデミーのほうから引き続きやってくれという要望もずっとあるので、次世代に言葉と音楽の魅力を伝えていくという作業も、どっかで時間をみつけてやっていきたいなと思っています。

--- その立教大学での講座がかなり話題になりましたけど、実際に教壇に立ってみていかがでした?

佐野元春 ちょうど年代でいうと18歳から22歳くらいまでのヤングジェネレーション達が生徒だったね。そして彼らは文学部の学生達だったので、当然”ことば”というものに興味はあるし、クリエイティブライティングというものにも興味がある。そこで感じたのは、やっぱり「表現」に対する飢餓感というのはどのジェネレーションでもそう変わりはないな、ということだった。「携帯が発達して…」「インターネットが発達して…」ということで「若い連中は思考が鈍い」とか言う大人もいるけれども、僕が彼らに接して感じたことは、いつの時代でもユースの彼らの心の中身は葛藤だらけだし、それをどうにか”ことば”というツール使って表現したい、そいう気持ちというのは僕の時代も、新しい彼らにしてもそう変わりはないんじゃないかって。
だからいま、僕が20年なり30年なり現場で格闘してきた「言葉と音楽」ということについて、自分が獲得した方法を知りたいというユースがいるのなら、僕のほうから出かけていってお話するということは一つの喜びであるよね。今まではそんなこと考えもしなくて「そんなものは個人で勝手にしろよ」みたいな感じだったんだけれども、今は心がもっと開いている。それは『COYOTE』のレコーディングセッションもそうだったね。10歳以上も年の離れたミュージシャン達とやったけれども、年は関係ないし良い音楽を作るという点においてはみんな同志だし。
それはこのクリエイティブライティングのコースにも言えていて、18歳や22歳という年齢だけれども「表現したい!」というそのレベルでいえば、僕も彼らも立っている場所は同じで、もし僕のちょっとした経験が聞きたい、ちょっとした経験を知りたいということであれば、どこにでもいって、お話してあげたいなという気持ち。

--- わかりました。あとは最近の話題として、杉真理さんのコンサートに急遽出演されて伊藤銀次さん達と共演されたというニュースなんかもありましたね。

佐野元春 そうね、シークレットということだったんで公表できなかったんだけど、杉君の方からラブコールがあって。彼もデビュー30周年ということで僕の同志みたいなものなんだよね。だから何かの形で貢献したいなと思っていて、「キーステーション」という曲、それから僕の「バイバイCボーイ」という曲を杉君がカバー、それから銀次と杉君と僕というナイアガラつながりで「A面で恋をして」を演奏しました。
このリクエストは杉君から出てきたものだけど、さすがだなと思いましたね。それで「リハーサルの様子をみてうまくいきそうだったらやろう」と思っていたんだけれど、もうバンドは完璧に練習してくれていて、僕はただ歌うだけでよかった。だからとっても楽しい気持ちで本番をやれた。
「バイバイCボーイ」なんかは僕のステージでは一度も歌ったことはないし、人が歌ったのを聴いたのはこれが2回目(笑)。「A面で恋をして」を歌ったのもこれが2回目で、1回目は大瀧詠一さんのヘッドフォンコンサートだった。
僕のライブでは、1曲1曲が全部意味を持って関連しているようなセットリストなので、どうしてもそういう初期の独立したポップ曲というのは外れがちでね、それを今回の杉君のカバーで聴けたというのは幸せだったね。また歌ってみるとこれがいい曲なんだよね(笑)。「なんで自分のステージで歌わなかったんだろう?」って。

--- あははは。

佐野元春 それをいつでも人から教えられるんだよね。僕が90年代に「THIS」というロックンロールショウケースを企画したときにも、GREAT3が僕の「サンチャイルドは僕の友達」という曲をカバーしていて、それまで僕はそれを一度もステージで歌ったことはなかった。だけれどもそのときに「これいいな」と思ったので、その次のツアーからはちゃっかり自分で歌ったりしてね(笑)。
だから、自分の曲が人にどう響いているかっていうのを聴くチャンスはほとんど無いんだけれど、そうやってカバーして目の前で演奏されると「あぁ!」って気づくことはあるよね。そうした意味でも杉君のアニバーサリーライブに参加できたっていうのはとても有意義でした。

--- では、そろそろ最後になるんですがHMV ONLINEをご覧の方へのメッセージをお願いします。

佐野元春 日本語のロック音楽を聴くときに、言葉の表現や詩の内容というものに気がいくリスナーは結構多いと思うんです。そこで「何が歌われているか?」ということに関心を持ってるリスナーがいると思う。
そうした”ロックンロール音楽の中のことば”というところに興味があるリスナーに是非聴いてもらいたいアルバム。
それが僕からのメッセージかな。


--- ありがとうございました!


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 【Other Contents】

佐野元春、アルバム『COYOTE』リリース時インタビュー

 



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Limited Edition!

佐野元春『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』

 CD  
ナポレオンフィッシュと泳ぐ日


-Disc1
(ORIGINAL TRACKS)-

1.ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
2.陽気にいこうぜ
3.雨の日のバタフライ
4.ボリビア-野性的で冴えてる連中
5.おれは最低
6.ブルーの見解
7.ジュジュ
8.約束の橋
9.愛のシステム
10.雪-あぁ世界は美しい
11.新しい航海
12.シティチャイルド
13.ふたりの理由

-Disc2
(RARE TRACKS)-

1.新しい航海(The Heartland demo version)
2.シティチャイルド(The Heartland demo version)
3.愛のシステム(The Heartland demo version)
4.愛することってむずかしい(Album out take)
5.枚挙にいとまがない(Unreleased)
6.ナポレオンフィッシュと泳ぐ日(Studio Live mix)
7.ジュジュ(Studio live mix)
8.愛のシステム(Studio live mix)
9.モスキート・インタリュード(Album out take)
10.雪-あぁ世界は美しい(The Heartland demo version)

-Disc3
( DVD/1989年8月「横浜スタジアム'89・夏」LIVE映像)

1.新しい航海
2.ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
3.シティチャイルド
4.ふたりの理由
5.愛することってむずかしい
6.ボリビア-野性的で冴えてる連中
7.愛のシステム
8.俺は最低
9.ジュジュ
10.シェイム-君を汚したのは誰
11.ストレンジデイズ-奇妙な日々
12.月と専制君主
13.99ブルース
14.ハッピーマン