「チェリビダッケの死と変容」
2007年5月25日 (金)
連載 許光俊の言いたい放題 第111回「チェリビダッケの死と変容」
またまたチェリビダッケの新譜である。またかと思うなかれ、ズバリ「死と変容」はまさにチェリビダッケならではのすさまじい音楽だ。CDで聴けるチェリビダッケの最高峰のひとつと呼ぶべきだ。演奏時間はなんと30分。だが、聴けばわかる。数字には、あるいはテンポの比較には何の意味もない。この演奏にはこのテンポが必要なのだ。時間と空間は分かちがたく結びついている。冒頭の暗く神秘的な響きは、絶対にこのテンポを要求している。
5分過ぎからのコントラバスのうごめきは、「トリスタン」のように生々しく、妖しい。その上で鳴るすべての楽器は、これ以外にあり得ないという完璧なイメージをもって奏されている。やがてティンパニの一閃、音楽はグロテスクな高まりを見せる。以下、詳述は止めよう。こんなにドキドキしながら聴ける音楽は貴重なのだから。演奏の立派さはまったく疑いがない。極度の緊張感、あらゆる音が完璧に配置された明快な音響構造。硬軟強弱をはじめとする振幅の信じがたい広さ・・・。チェリビダッケの個性が最大限に発揮されている。
最後、圧倒的なカタルシスのうちに浄化が果たされる。CDで聴いていてもクラクラするくらいだ。推測するに、会場の人々は涙を流しながら聴き入っていたのではないだろうか。この世に存在した最高のクラシック音楽の記録。それだけ言えば、十分かもしれない。
私はこの演奏会に行かなかった。このとき、私はチェリビダッケの生をすでに知っていたが、本当のすごさにはぶち当たっていなかった。だから、来日することはわかっていたものの、出かけなかったのだ。今思えば惜しい気がしなくはない。が、仮にそのときの私がこれを聴いて真価がわかったどうかという問題も存在する。実際、FM放送からはさして感銘を受けなかった記憶がある。芸術との出会いは一期一会である。今、これを聴けたことをよしとしたい。
音質については、おそらく最大限の努力が行われているはずだ。マイクはオーケストラに近いが、近すぎて不自然ということはなく、確かに東京文化会館の音響を思い起こさせる。ダイナミックレンジはもっと広いほうがいいけれど、放送用の音源なのだから仕方ないのだろう。これで文句を言ったら罰が当たるが、演奏がすごければすごいだけ、もっとリアルな音質を望みたくなるとは因果なことだ。
チェリビダッケでは、シュトゥットガルト放送交響楽団との「シェエラザード」のDVDもしばらく前に出た。放送されたりしたので知っている人も多いだろうが、すばらしい演奏である。これまたチェリビダッケの代表的な記録と呼ばれるべきだ。
まだ元気な時代とはいえ、音楽はすでに熟成し切った完成形だ。ミュンヘン・フィルとの演奏では枯れすぎていると感じる人はこっちがいいだろう。フィナーレでは、指揮者が超不満げな顔をしているのがおもしろい。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)
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