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2011年4月4日 (月)

連載 鈴木淳史のクラシック妄聴記 第29回

「爽やかフランク。愉悦のベートーヴェン」

 たった一ヶ月前のことを思い返す。遠い昔のことを振り返るように。あのときは、コンヴィチュニー演出の《サロメ》(東京二期会)に熱狂、その興奮醒めやらず、という状態だった。今は、そのときに見た舞台の情景がまるごと首都圏で再現されているかのようだ。震災被害の大きさに胸を痛めつつ、大気と水の汚染に恐怖し、その出口が見つからぬことに、無力さ、無気力さだけが横行……。

 前回紹介したネルソンスの新譜の実物が入荷したので、早速聴いてみる。《アルプス交響曲》は、多様な音楽素材をうまく整理しきれているなあと感心。さすが若手注目株だけあって、新鮮な音楽をやりよる。
 《7つのヴェールの踊り》も、繊細にして雄弁な演奏だ。一つひとつの情景が目に浮かぶような。もちろん、わたしが思い浮かべるのは、先月観たコンヴィチュニー演出の《サロメ》の一シーンだ。出口を求めてもかなえられず、人々は無益な争いを繰り返し、そして絶望。しかし、饗宴の机の下から少女が飛び出して、倒れているサロメを抱き起こす。まだ物語は続く。希望はまだある、という演出家のメッセージに涙がにじむ。それにしても、この音楽をこれほど切実なものとして聴くことになろうとは。

 今度の震災、そして原発の事故は、戦後の日本の問題点をすべて明らかにした。1945年の敗戦が、明治以降に積み重ねてきた問題を明晰に示したように。その課題を飄々とうまくやりすごしちゃうのか、それとも、それを変化の出かかりにできるのか、とてつもない大きな転換期に立っておるのだなあと、R.シュトラウスを聴いていても、そんな考えが頭を過ってしまう。

 次に手に取った新譜も《サロメ》。といっても、こちらはフローラン・シュミットの《サロメの悲劇》だ。R.シュトラウスのオペラほど強烈な音楽ではなく、「海上の誘惑」はドビュッシーの《海》を彷彿とさせるといった二番煎じの気配もどこか否めないのだけど、シュミットならではの独特なヌルさ、わたしは嫌いじゃない。ストラヴィンスキーやシェーンベルクが台頭する時代に、退廃に陥らず、先鋭に走らず、孤高といっていい立場を保ちつつげた音楽だ。
 ネゼ=セガン指揮メトロポリタン管弦楽団の演奏は、とかく明晰。そして作品に淀むロマンティシズムをよく引き出す。変な力みがないのがよいのだね。

 ディスク後半に収録されたフランクの交響曲が身に染みるほどいい。ドイツ風な重厚さから離れ、かといって、フランス風にサバサバと疾走するわけでもなく、実に丁寧、風通しの良い演奏なのである。ゆったりとしたテンポから、一つひとつの和声が広がりをもって心地よく響く。第一楽章展開部でのうねうねと響くヴィオラ・パートを強調したり、最終楽章の展開部での主題への和声付けなど、ゾクッとくるような濃厚な場面もある。
 フランクの交響曲は、憂鬱から取ってつけたような勝利を表現してるんじゃなく、もっと光に満ち、爽やかで軽やかでなければならぬ、という積年の思いを代弁してくれるような演奏に巡り合えた喜びを胸のなかでじっとり味わう。

 ゆったりテンポ系の新機軸といえば、デイヴィッド・グリマルによるベートーヴェンもユニークな演奏だった。
 ヴァイオリニストであるグリマルが弾き振りをした協奏曲は、一つひとつの和声を愛おしむかのように奏でられ、最近ではあまり耳にすることが少なくなった、タップリ響かせるベートーヴェンである。
 コンマスとして挑んだ交響曲第7番も、かなり不思議ちゃん系。第一楽章、序奏からしてヌルヌル遅い。克明に和声を鳴らし、アレグロ主部に入っても、決して走らない。オーケストラの音自体は、ピリオド系といっていいような、ソリッドな小編成なのだけど、金管の突出も抑えられていて、全体的に丸みを帯びた印象。互いの楽器の音を聴き合い、そこから一つの響きを作り出そうという姿勢が、この愉悦的な演奏を生み出しているのかもしれない。
 終楽章、今まさにこの音楽が作られているのだといった生々しいアンサンブルを耳することで、一瞬だけ色々な憂鬱から解放された気分になった。

(すずき あつふみ 売文業) 


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