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橋本徹の『素晴らしきメランコリーの世界』対談 【2】

2010年11月22日 (月)

interview

橋本徹の『素晴らしきメランコリーの世界』対談

山本:僕は「すばメラ」コーナーを立ち上げるときに、自分の好きなテイストについて考えたんです。そこで思い起こすと、例えばアプレミディ・コンピの『クレムー』の冒頭の、アレトン・サルヴァニーニからジミー・ジュフリー、そしてジョアン・ジルベルトにつながる、あの世界観がすごく好きで、結局そういった自分のルーツも「すばメラ」にはかなり反映しました。

橋本:カフェ・アプレミディのシリーズは作品を重ねるにつれて、だんだんああいう風になっていったんだよね。『リラ』はマリオン・ブラウンの「Vista」で始まったりとか。

山本:フリー・ソウルにもそういう瞬間っていうのが時々あるじゃないですか? ブッカー・Tの「Jamaica Song」だったり、ヴァレリー・カーターの「Ooh Child」がエンディングに収められている、そういう安らかな選曲が今でも好きですね。

橋本:心が落ち着くというか、鎮まるというか、穏やかになるような感じっていうのは、フリー・ソウルでもアプレミディでもそうだけれど、ジャズ・シュプリームでも例えばエリオット・スミスで終わったりとか、自分の中では自然に出てくるものだったんだけれども、それをほぼアルバム一枚80分通してやれるような時代になったっていうのは凄く嬉しいことだし、幸運なことだと思ってるよ。『素晴らしきメランコリーのアルゼンチン』が正直あそこまで高く評価してもらえるとは最初は思わなくて、今まで自分が作ったコンピの中でも、いちばん地味かな(笑)みたいな。でも「良いですね」って言ってもらえる機会が凄くあったんで、励みになりました。

稲葉:手ごたえが凄くありましたよね。今や大ロングセラーです。

河野:聴いて感激した方から、お店に電話がかかってきたんですよ。感動で仕事が手につかないって(笑)。全国的にも静かに広がっていきましたね。

橋本:クラブ・ミュージックの中のチルアウトみたいなテイストもある程度滲ませたりはするんだけど、ダンスと対比させる概念としてのチルアウトやアンビエントじゃなくて、むしろメロウ・ビーツが好きな人が、少し切ないような寂しいような感じなんだけど、逆に心が慰撫されるような感覚で自然に聞いてくれているような気もしますね。

山本:この静かに心に響く感じはグラン・クリュ・シリーズが好きな人にも訴えると思いますよ。

橋本:そうですね。このピアノ感というか、MPSやコンコードのグラン・クリュ・コンピとかに通じますね。

山本:チェロとかストリングスを取り入れた優雅な雰囲気もそうですよね。

橋本:今回のコンピは特にそういうクラシカルな室内楽的なアンサンブルの曲っていうのをピアノ曲と一緒に混ぜていくような感じにしているので。クロノス・カルテットのビル・エヴァンス・カヴァー集から選んでいるのはもちろんなんだけど、例えば、ビル・ウェルズとかトライ・ミー・バイシクルなんていうのは、その弦の感じとかにそういうニュアンスを感じてもらえたら嬉しいと思って。

河野:ビル・ウェルズの「Brown Recluse」が入っているのは嬉しいですね。アルバムとしてはメランコリックかつエクスペリメンタルな要素も強い作品なので。この作品はHMV渋谷店の「すばメラ」コーナーでも、あえてこういう感触のものも並列して置きたいと思って展開していたんです。そこに橋本さんが反応して下さって、今回コンピに収録されたっていうのは感慨深いですね。

山本:でも、こういう曲はコンピレイションだからこそ映えますよね。オリジナル・アルバムで聴くというよりも。

橋本:そう、ビル・ウェルズの熱心なファンでもこれは買いそびれていたりすると思うんですよ。そういうものを入れていきたいっていうのは当然あったし。

河野:あとラムチョップも。

橋本:今回、『素晴らしきメランコリーの世界』っていう名前を拝借するからには、自分なりにあの売り場やフリーペーパーから感じ取ったものって何だろうって考えて。象徴的な盤として、やっぱりラムチョップの『Is A Woman』とか、ラドカ・トネフ&スティーヴ・ドブロゴズの『Fairytales』、ウィリアム・フィッツシモンズの『The Sparrow And The Crow』などの名盤があって、当然それは選曲リストに加えていったんだ。この辺はやっぱり「すばメラ」を名乗らせていただく以上は収録したいと思って。

山本:でも僕たちのように、ジャンルを越えてこういう心地よさや温度感を大切に聴いているリスナーにとっては、このコンピはそういう意味で本当に「静かな決定打」ですね。

橋本:「静かな決定打」、いいですね。やっぱり自分がやるからには、そういう風に色んなジャンルのものを混ぜたいっていうか、クラシカルなピアニストだけにしたくなかったっていうのもあるし。そこでラムチョップだったり、トレイシー・ソーンだったりっていうのは凄く重要視していて。そこに2010年の象徴的なアルゼンチンやブラジルのピアニストが入ってくるわけで。アンドレ・メーマリ、フアン・スチュワートあたりもそうだけど、後半なんかまさにそういうテイストで考えていて、デリア・フィッシャー&エグベルト・ジスモンチ、ウリセス・コンティが入っているのはやっぱり、2010年ならではのあの売り場の存在感によるものが大きくて。

素晴らしきメランコリーの世界
〜ピアノ&クラシカル アンビエンス
「心の調律師のような音楽」をキーワードに、あらゆるジャンル/年代を越えてグッド・ミュージックを愛し、必要とする人々によって起こった2010年の静かなるムーヴメントの最後を飾る、橋本徹(サバービア)選曲・監修の究極のメランコリック・コレクション!
profile

橋本徹 (SUBURBIA)

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは200枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。

http://www.apres-midi.biz