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橋本徹の『素晴らしきメランコリーの世界』対談 【4】

2010年11月22日 (月)

interview

橋本徹の『素晴らしきメランコリーの世界』対談

山本:ところで、今回のコンピの“浮遊感”も凄いですよね。全体的に揺らぎがあって。ピアノの残響音が心地よいですよ。

橋本:自然に揺らぎとか、倍音の心地よさって話をいつかしたけど、その“揺らぎ感”はもうリスニング・スタイルのひとつの基準になっているかなぁって感じる。僕たちが惹かれる感じの。

河野:単に静かで柔らかいだけではなくて、どこか翳りを感じさせるところも。

橋本:ちょっと寂しいような。皆が下校した後の誰もいない放課後みたいな。

稲葉:5時のチャイムが遠くから聞こえてくるのが、やけに寂しいみたいな(笑)。今回はジャケットのコンセプトでも“寂寥感”をとても意識していて、あまりスウィートな感じにはしたくなかったんです。使っている紙の質感にもこだわりましたね。

橋本:「すばメラ」のフリーペーパーで、音の映像美って言葉が凄く使われていたんだけど、今の音楽の聴き方として凄く象徴的だなと思っていて。一つの映画のように作っているって感じはこのコンピレイションもまさにそうで。それもストーリーがあってみたいな映画ではなくて、「ミツバチのささやき」みたいな映画のイメージ。色んなイメージの積み重なりだったりとかから、ひとつのセピア色の心象が浮かび上がってくるみたいな。

稲葉:無理にドラマティックにする必要もないんですよね。淡々と流れていくけどそこに深い情感がこもっていれば。

橋本:まさに、淡々としているけど深い情感って感じなんだよね。

山本:本当に欲しているのはこういう音なんですよね。

橋本:トレイシー・ソーンの声質も揺らぎというか沁みる感じがあるよね。今回はライセンスが難しいかなと言われていたこの曲が、ベン・ワットの一存で入れることができたのも嬉しくて。

山本:ワルツの揺れるリズムも何か切ない感覚になりますよね。

稲葉:そうですね。あとバイエルとか、最初にピアノを練習したときに弾く曲、シンプルだけど良いっていう感じの曲も印象的ですね。

橋本:子供の頃の遠い記憶みたいなものと共鳴するんじゃないかな、そういうものって。音楽室で鳴ってたピアノみたいな。オルゴールのピアノとか。

山本:タイトルを最初に見せてもらって素敵だなと思ったのが、“クラシック”でなくて“クラシカル”っていうのが僕らの好きな部分にとても近いと。例えばコリン・ブランストーンの世界観はそうですよね。

橋本:コリン・ブランストーンの『一年間』なんてまさに弦を使ったロックとしていちばん僕らに沁みて来るものがあって。あれも「素晴らしきメランコリーの世界」だと本当に思うし。ジェイムス・テイラーのアップルのファーストの曲とかも申請していたんですけどね(笑)。それと、最後に収録したカルロス・アギーレの曲なんかは、9月にリリースしていたら入れられなかったかも知れない。それはやはり稲葉さんを始め皆さんが今回の来日で彼の信頼を得たからこそ、今回はオファーしたらすぐにOKが来たんだと思う。

山本:今とても入手困難なトライ・ミー・バイシクルはネオアコ好きには絶対に響きますよね。

橋本:それは絶対に自分のルーツにあるからね。トライ・ミー・バイシクルのこの曲は今年の夏から秋にかけていちばん聴いていた曲なんだよね。チェット・ベイカーの寂しさとブライアン・ウィルソンの寂しさが両方入っているんだよね。次のコンピにもドゥルッティ・コラムやサン・キル・ムーンを入れる予定なんだけど、クラシカルやジャジーだけを追ってたら繋がってこないような人たちが入ってくることも、やっぱり「素晴らしきメランコリーの世界」っていう概念の象徴的なことかなと。それから今回はいちばんソウル・ミュージックの哀愁みたいなものを入れるのが難しかったんだけれども、鈴木惣一朗さんが実はカントリーではなくてカーティス・メイフィールドだと看破されていたラムチョップだったり、エディ・メッツのスティーヴィー・ワンダー「Overjoyed」のストイックなカヴァーがあることで、ソウル・ミュージック好きな人たちにも合図を送れたんじゃないかなっていうのがあって。ウィリアム・フィッツシモンズだってブルー・アイド・ソウルって言えばそうなのかも知れないし。

稲葉:この「Overjoyed」なんかは普通にジャズ・ピアノ・トリオの作品なのに、物凄く抑制されたタッチで、ピアノに向かう姿勢としてこのコンピに入っていて全く違和感ないっていうのを凄い感じます。そこからポスト・クラシカルの代表的なゴールドムンドに流れて。

橋本:結局僕らって、カーティスやテリー・キャリアーが好きで、ビル・エヴァンスやキース・ジャレットが好きなわけで、そこの間っていうのは全部入れていきたいなっていうのはあるかな。今Nujabesの好みを思い出しながら話したんだけど(笑)。

稲葉:今回は特にビル・エヴァンスやキース・ジャレットが好きだっていう人には伝わりやすい一枚になっていると思いますね。

山本:あとECMとか北欧音楽の透明感にも通じますよね。

橋本:本当はECMがコンピレイションOKのレーベルだったら、それだけで1枚作りたいぐらいだからね。

山本:でもこのコンピの余白の部分からECMみたいな世界観を喚起させる聴き方もできますよね。

橋本:ECMにも繋がるし、ミナスにも繋がるし、カボ・ヴェルデにも西アフリカのコラやムビラにも、カンタベリーにも繋がる。そういう感じなんですよね。

山本:今回のコンピは『素晴らしきメランコリーのアルゼンチン』と同じように美術館で流れていて欲しいですよね。

河野:まさにアンビエントの定義とも一緒で、BGMとしても聴けるし、でもしっかり聴いても素晴らしいっていう。

稲葉:実際、CD専門店ではないけどCDも選んで置いてますっていう感じのお店からの反応が今回は大きいんです。

山本:店内BGM用に静かなピアノ音楽が欲しいというお問い合わせがありますよ。そういうときは必ずキース・ジャレットとかビル・エヴァンスをおすすめするのですが、これからは一緒にこの『素晴らしきメランコリーの世界』のコンピもおすすめしたいですね。白昼夢的というか。夢と現実の合間って感じがするんですよね。

素晴らしきメランコリーの世界
〜ピアノ&クラシカル アンビエンス
「心の調律師のような音楽」をキーワードに、あらゆるジャンル/年代を越えてグッド・ミュージックを愛し、必要とする人々によって起こった2010年の静かなるムーヴメントの最後を飾る、橋本徹(サバービア)選曲・監修の究極のメランコリック・コレクション!
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橋本徹 (SUBURBIA)

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは200枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。

http://www.apres-midi.biz