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2012年1月1日 (日)

無題ドキュメント
橋本徹インタビュー



橋本徹 インタビュー
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰である橋本氏がAres-midi Records第一弾作品「音楽のある風景」について、 更には独自の音楽に対する思いも語ってくれました。音楽への愛情を感じるインタビューを楽しんで下さい!!




例えば僕たちが60年代のスウィンギン・ロンドンやグリニッチ・ヴィレッジやサンジェルマン・デ・プレに憧れたりするように10年後、20年後にこれを聴いた人が2000年代の東京の空気感や公園通りの雰囲気を感じてくれたらいいですね。

--- メジャー・レーベルでも数多くの選曲をされてきた橋本さんが遂にご自身がプロデュースするレーベル“アプレミディ・レコーズ”を始動するわけですが、まずレーベルを立ち上げるきっかけを教えて下さい。    


橋本徹  レーベルのお話は実は1993、4年頃からあって、でも僕もその時点ではここまで音楽が仕事になるとは考えていなく、当時も音楽リスナーとして編集者の立場で仕事をしていた訳ですが、時が経つにつれて音楽をめぐる状況も変わってきて自分たちの趣味や好奇心、人間関係も含めてそれらを自分たちで守って育てる努力も必要ではないかと感じるようになったんです。2001年にUSENで“usen for Cafe Apres-midi”を始めて良かったのは同じような音楽好きのネットワークが全国に広まったことなんですけど、アプレミディ・レコーズでもそこで一つの世界観を提示することで多くの同好の士と一緒に繋がっていくきっかけになったらという思いがまず一つ。もう一つは今までほとんどのメジャー・レーベルと仕事をしてきた訳ですけどインターネットが普及していく中で小さなレーベルでも直接アーティストや権利者とコンタクトを取ることで自分の音楽生活を満足させて豊かにするような選曲作業が可能になったということですね。2000年代になってメジャー・レーベル同士の音源の貸し借りは多少は可能になりましたが、強くそう感じたのはインディペンデント・ヒップ・ホップの音源ばかり集めた「メロウ・ビーツ・シリーズ」からですね。あとはレコードやCDというフォーマットが無くなって欲しくないという純粋な気持ちですね。


--- “アプレミディ・レコーズ”第一弾の作品は「音楽のある風景」と題して〜春から夏へ〜と季節感が溢れるコンピレーションですがサウンドやジャケットも含めて誰でも聴きやすく手に取りやすい印象を受けました。    


橋本徹 そうですね、季節に合わせて選曲できるということはコンピレーションのイメージの助けになりますね。“季節感”とか“花鳥風月”、“わび・さび”とか歳を重ねるにつれて強く感じるんですよ(笑)。ただ今回の「音楽のある風景は」、二人以上で聴いて素晴らしさを分かち合えるという気持ちでも選曲をしました。それはUSENで頻繁に選曲した曲が多いという事とも通じますけれどもBGMとして選曲する時は二人以上で聴いて曲の良さが共有できることを意識することが大事ですから。


--- ジャズ・シュプリーム・シリーズは橋本さんの個人史的な作家性の高い作品だと感じるのですが、「音楽のある風景」は空間に色を付けてくれるような演出性の高い作品と感じました。    


橋本徹 最近は僕もある程度自分のエゴを出すことが大事だと思っているんですが、「音楽のある風景」に関してはフレンドリーな形でリスナーと繋がれたらいいなぁという気持ちで選曲しました。そういう意味ではジャズ・シュプリーム・シリーズは完全に一人で引きこもって僕の内面をさらけ出した作品ですね(笑)


--- そういった意味では「音楽のある風景」はカフェ・アプレミディ・シリーズの立ち上げ時のテーマ、“午後のコーヒー的なシアワセ”のイメージにも近いですか?    


橋本徹 そうですね、たしかに近いですね。ちょうどカフェ・アプレミディ・シリーズが始まったのが2000年の夏ですが、今回の「音楽のある風景」はその後日談というかハッピーでピースフルな2000年代の集大成的なコンピシリーズにもなるでしょうね。


--- 橋本さんのプロデュースをするサバービア諸作品の魅力はパッケージやデザインも含めたものであると思いますが。「音楽のある風景」のジャケットも春らしい素敵な色と風合いですね。


橋本徹 そうですね、僕は常にジャケットの質感やレコードやCDのモノとしての魅力を追及しています。それはインターネット上の原稿を先日、発売された「公園通りの春夏秋冬」のように本にまとめたことにも通じるのですが自分自身が本で読んだり音楽はレコードやCDで聴きたい人間なのでそれを守っていきたいということですね。


--- エレンコ・レーベルの創始者アロイージオ・オリヴェイラがレーベルのテーマを「所有する価値のあるもの」としていますが、アプレミディ・レコーズにも通じる部分があると思いますが。


橋本徹 そうですね。このCDが部屋に置いてあるだけで昨日とは“何かが違う”ような、そんな存在であって欲しいですね。あとはジャケット眺めながら、ライナーノーツを読みながら音楽を聴くという楽しみは残していきたいですね。実際に手にした喜びは強く感じてほしいですね。


--- 今回のコンピレーションの収録曲の殆どが90年代以降の新しい楽曲が選曲されているのも印象的ですが。


橋本徹 そうですね、今回、選曲は2000年以降の自分や自分の音楽仲間、特にUSENの選曲の仲間の交流の中で魅力に気付いて、輝きを増した思い入れの深い音源ばかりです。あとは1999年のカフェ・アプレミディのオープン以降のくつろぎとこだわりの両立にフィットした音源も集めています。


--- 橋本さんは旧譜の選曲のイメージがありますけど、実はかなり新譜の選曲も行っていますよね?メロウ・ビーツ・シリーズなんて代表例だと思いますが。


橋本徹 そうですね、フリー・ソウル・シリーズを1994年にスタートして翌年の95年にはフリー・ソウル90’sシリーズを作りましたしね。アシッド・ジャズ・レーベルやその後はトーキング・ラウドも選曲しましたがコンポスト・レーベルもカフェ・アプレミディ・シリーズで選曲をしましたね。


--- やはり選曲においても新譜への反動があるのですか?    


橋本徹 作用反作用的なものですよ。選曲の中でスタイリングする作業は非常に魅力的ですが、旧譜を聴くこと自体は僕のリスニングライフの集合の中ではほんの一部なのにそれが人気となって話題になってしまうと、そのイメージばかりが走りすぎてしまって…それだけに見られてしまうことに対して、違う年代だったり違うジャンルだったり違うテイストを用意してしまう、そういう性格なのかな。


--- 私たちリスナーからしてみると橋本さんが、どの新譜を聴いているかはけっこう気になる所ですよ。特に新譜に対しては色々な媒体によってイメージが先行する中で橋本さんの作品に対する解釈で私たちも新しい聴き方に気付く事もあります。    


橋本徹 それはすごく嬉しいですね。つまりリスナーとしてお互いにシンパシーを感じ合えているということですね。


--- 実際、今回の「音楽のある風景」の収録楽曲のクレジットを見て、インディペンデントなアーティストも多いですし廃盤の作品もあるので驚きました。    


橋本徹 そうですね、入手困難なものはレコードだけではなくCDにもありますからね。ただ、こういった形になることで、ここに収録された曲の魅力はより多くの人たちに伝わると思うんですよ。これらは聴く人を選ぶ音楽ではないですからね。それに、ここに収録されることでこの曲たちが埋もれることはないじゃないですか。後世に残るんでアーティストにも喜んでもらえると思いますよ。


--- 選曲のイメージは当初から固まっていたのですか?    


橋本徹 冒頭の3曲は最初から決まってました。レーベルの第一弾の幕開けに相応しい#1のJAZZINARIA QUARTETはまるで映画のオープニングのような何かが動き出す、ときめくような感じが最高ですね。#2のANGELITA LIのバート・バカラックのカヴァーも風が吹くような感じだし、奇跡の一曲ですよ。あとは#3のGRAZYNA AUGUSCIKはKEITH JARETTのカヴァーですが一瞬にして幸福を運んできてくれるようなピアノの入る瞬間はたまらないですね。この3曲の流れは絶対に外せなかったですね。あとはカヴァー・ヴァージョンで良い曲を探してきた成果もありますね。SADEのカヴァーの#5「LOVE IS STRONGER THAN PRIDE」と#16「BY YOUR SIDE」の2曲とか、A.C.JOBIMの#11「TWO KITES」も本当に心に響いたカヴァー・ヴァージョンですね。STEVIE WONDERの#4「YOU ARE THE SUNSHINE OF MY LIFE」や「MY WAY」のフレンチ・ボサ・カヴァーの#17なども本当に最高ですね。


--- さきほど今回のCDは誰でも手に取りやすい内容というお話をしましたが、しかし一歩、作品に踏み込んでみるとそこにはサバービア、橋本さんの世界観を感じます。特に印象的だったのが#14のSWEETMOUTHですよね。この選曲には橋本さんのネオアコ魂を感じました(笑)。    


橋本徹 SWEETMOUTHは最高ですよね。SWEETMOUTHが出た頃は本来そういう音楽が好きなのにレア・グルーヴやアシッド・ジャズなどクラブミュージックに夢中になっていてトラッシュ・キャン・シナトラズもそうですけど高校生の時に出会っていたらもっとのめりこんでいた筈なのにと、歳を取って思うようになって、それに対する恩返しというか彼らに対して共感や共鳴を形にして残しておきたいということですね。


--- 今回の選曲はこういうサプライズ感があって橋本さんらしいですよね。あとは#9のJOSE GONZALESの存在感も素敵ですよね。    


橋本徹 JOSE GONZALESは僕にとって特別な存在で、彼が入ることでこのコンピレーションがサロンジャズ的に捉えられてしまいがちな所にひとつ芯というか骨を作れるかなというところもあって絶対に入れたかったアーティストの一人ですね。音楽を真剣に聴いている人たちとこの曲を通じて繋がりやすくなると思います。だからINDEXで見るとクッションがあるかと思われますが実際に聴くと、そこにドラマがあるところはフリー・ソウルをはじめサバービアの多くのコンピレーションと同じ事ですね。


--- ということは今回の「音楽のある風景」に収録された曲たちがサバービアのニュー・クラシックスになり聴き継がれますね。    


橋本徹 そうですね、例えば僕たちが60年代のスウィンギン・ロンドンやグリニッチ・ヴィレッジやサンジェルマン・デ・プレに憧れたりするように10年後、20年後にこれを聴いた人が2000年代の東京の空気感や公園通りの雰囲気を感じてくれたらいいですね。


--- 橋本さんの選曲の魅力は「切ない幸せ感」というか日本人の持つ独特の「サウダージ」だと感じるのですが・・・。    


橋本徹 そう、“切ないけど少し希望が見える感じ”、まさにサウダージですよね。ヴィニシウス・ヂ・モラエスの言う「希望のある悲しみ」ですよね。


--- 個人的な話で恐縮ですが私は高校一年生の時に初めて橋本さんが選曲したフリー・ソウルの「COLORS」と「LOVERS」を聴いたのですが今、聴いてもあの頃の“やるせない気持ち”がこみ上げてくるんでよ(笑)    


橋本徹 それは嬉しいですね(笑)。音楽は一瞬にして思い出とか記憶にタイムスリップできる存在ですよね。今回の「音楽のある風景」もまた多くの人たちに思い出と一緒に聴いてもらえたら嬉しいですね。


--- まさにそれは、“人生のサウンドトラック”ということですよね。    


橋本徹 音楽を聴いて物語が始まるような感じがあったらいいなと何時も感じるんですが、この「音楽のある風景」がそういうきっかけになれば嬉しいですね。


--- しかも、今回の選曲は普段、旧譜中心の音楽生活を送っているリスナーにはかなり刺激があると思います。    


橋本徹 そうですね、90年代以降もこんな素晴らしい音楽があるんだと気付いてほしいですね。普段、打ち込みしか聴いていない人にも聴いてほしいですけどね。どちらに対しても新鮮な驚きを感じてもらえると思いますから。


--- 今後のアプレミディ・レコーズの活動を教えて下さい。    


橋本徹 「音楽のある風景」は季節ごとに年に4枚、発売されますがコンピレーションだけではなく、アーティストの作品の制作や再発も手掛けたいですね。せっかくこういう場が生まれたのでこの舞台で色々な楽しいことが出来たらいいなと思います。


--- どうもありがとうございました!    





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