1955年11月16日、ウィーン国立歌劇場でのライヴ録音。演奏は実にユニーク。まず気がつくのは、ウィーン・フィルに昔風のなんとも味な響きが聴かれる点で、この公演の11日ほど前に、ベームの『フィデリオ』で気負いこんで戦後の再スタートを切ったのがまるでウソのようなリラックスぶりです。
クナの指揮は相当に自由で、さすがのウィーン・フィルもけっこうてこずっているようですが、優雅と武骨、繊細と大胆といった対立概念的ファクターが等分にまじりあうこの作品では、こうした接続曲的な気分の変転は非常に有効と思われます。
あの狂暴な『エレクトラ』(クナの得意演目のひとつ)のあとに書かれながら、というよりもそれゆえにこそ、これほどノスタルジックな性格を帯びることとなったこの人工的な作品に対し、クナッパーツブッシュがとったスタンスは実に情緒豊かなものであり、滑稽で下品な場面にせよ、美しく叙情的な場面にせよ、底流するのはあくまでも豊かに波打つ人間的で幅広い情感そのものであることを、どんな場面でも深く実感させてくれるのがとにかくみごとだといえるでしょう。
演奏によってはパロディにつぐパロディに聴こえかねないこの作品が、ここでは時代背景など乗り越えた人間ドラマとして、堂々とそのヒューマニティを主張しているのです。
そのむせぶばかりの叙情、これでもかと迫る品の無さが頂点に達するのは第3幕であり、演奏のほうもそれに合わせるかのようにどんどんレヴェル・アップして行くのが伝わってきますが、これが本来のオペラというものなのでしょう。
キャストは豪華で、しかも新旧渾然としていますが、まとまりは良く、しかも芝居上手であり、特にオックス役最多出演記録保持者でもあるクルト・ベーメの快活な演技は文句なしの感銘を与えてくれます。もちろん、ギューデンとユリナッチのコンビも高水準であり、全体にウィーンならではの瀟洒な感覚と、バイエルン的な武骨な感覚のバランスがとれているのがポイントとなっています。(HMV)
※歌詞対訳はついていません。(メーカー資料より)
【収録情報】
● R.シュトラウス:『ばらの騎士』全曲
マリア・ライニング(ソプラノ/元帥夫人)
セーナ・ユリナッチ(メゾ・ソプラノ/オクタヴィアン)
ヒルデ・ギューデン(ソプラノ/ゾフィー)
クルト・ベーメ(バス/オックス男爵)
カール・テルカル(テノール/歌手)
アルフレート・ペル(バリトン/ファニナル)
ユーディト・ヘルヴィヒ(ソプラノ/マリアンネ)
ラズロ・セメレ(テノール/ヴァルツァッキ)
ヒルデ・レッセル=マイダン(アルト/アンニーナ)、他
ウィーン国立歌劇場管弦楽団&合唱団
ハンス・クナッパーツブッシュ(指揮)
録音時期:1955年11月16日
録音場所:ウィーン国立歌劇場
録音方式:モノラル(ライヴ)