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2006年10月18日 (水)

連載 許光俊の言いたい放題 第38回

「平林直哉がここまでやった!〜『クラシック100バカ』」

 平林直哉氏が、『クラシック100バカ』という刺激的な題名の本を書いた。
 バカという言葉が付いた本がずいぶんと売れたから、中には便乗しただけのいい加減な内容と思う人もいるかもしれない。
 とんでもない。これは一朝一夕にできあがるお手軽な内容ではない。経験の蓄積と覚悟がなくては絶対に書けない本である。

 アイディアは前から聞いていた。すでにおよそ20年に及ぶ業界歴を持つ氏である。これを言わないでは気が済まないという強い思いがいろいろあることは知っていた。しかし、ここまで思い切って書くとは、想像していなかった。氏はこれからも音楽評論家として生きていくことであろう。であるからには、たとえ本人は厳しい批判を行うつもりでいても、おのずと筆が鈍ってもおかしくない。が、この本はまことに歯切れよく、バカを断罪する。メーカー、愛好家、評論家、すべてがやり玉にあげられる。
 200ページ以上を、このような内容で埋め尽くすにはたいへんなエネルギーが必要だ。たとえば、私にはもうそういうエネルギーはない。こういう本を書いてみようかと5年か10年前には思ったことがある。しかし、「クラシック恐怖の審判シリーズ」で、言いたいことはだいたい吐き出してしまった。熱く、しかも持続的な愛情がなければ、こうした本は書けない。
 もうひとつ意外だったのは、この本が決して恨みつらみの薄汚れた怨念が立ちこめたものではないことだ。なるほど、氏の見解に必ずしも同意できない部分はある。が、少なくとも氏は感情にまかせて言いたい放題を言わないように、自分を抑制しようとしている。それが説得力を増す。

 本来、ある批判が的を射ているかどうかは、それが匿名で行われるか、実名で行われるかとは、まったく関係がなく、ひたすら内容に拠る。だが、近頃は、匿名をいいことに、理性をかなぐり捨てて(いや、最初から理性などろくに持ち合わせていないのかもしれないが)恥じない風潮がある。そのために不快を味わう者のなんと多いことか。だからこそ、「どのような反応に対しても、私には受ける準備がある」というあとがきの言葉は重い。氏には妻があり、三人の子供がいる。長いものには巻かれろという国民性の中で、そう簡単に言い切れる言葉ではないのである。
 クラシックの熱心な聴き手なら、必読である。私はこれを宣伝のために言うのではない。こうしたことも知らないで、あるいは、こういう本があることも知らないでクラシックについてのほほんとした態度をとり続けることは、罪深い怠惰であると言いたいだけだ。
 むろん、業界人ならなおさらだ。理念などありはしない、きわめて底の浅いかけ声しかありはしない日本のクラシック音楽界において、こうした内容で1冊の本ができあがったというのは、ある意味、信じがたいこととすら言える。

 最後に、私から「101番目のバカ」を進呈しよう。

  『クラシック100バカ』を読んで溜飲を下げるバカ。

 あなたがバカに対して、自分自身でただのひとことも文句を言わないのなら、あなたはバカと同じである。いや、バカよりさらにたちが悪い臆病者である。
 もとより、この本は結論ではなく、出発点にすぎない。だが、その出発点すらほとんど存在しなかったことを考えれば、本書の意義は明らかすぎるほど明らかだ。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学助教授) 


BAKA INDEX

BAKA001 NHKのバカ
BAKA002 演奏の途中でメモをとるバカ
BAKA003 音楽評論家になりたがるバカ
BAKA004 東京文化会館は時代遅れの遺物だと思い込むバカ
BAKA005 廉価盤をパラダイスだと勘違いするバカ
BAKA006 音楽学者こそ有能な音楽評論家だと思い込むバカ
BAKA007 国内盤は音が悪いと信じ込むバカ
BAKA008 楽譜が読めないと言って卑下するバカ
BAKA009 ノイズを気にしすぎるバカ
BAKA010 絶対音感をありがたがるバカ
BAKA011 記者会見で愚問を発するバカ
BAKA012 演奏中にプログラムをながめるバカ
BAKA013 最初に聴くCDに神経質になりすぎるバカ
BAKA014 批判の効用を考えぬバカ
BAKA015 コンクールをいまだにありがたがるバカ
BAKA016 アイドル歌手をバカにするバカ
BAKA017 予定を決定と思い込むバカ
BAKA018 投書はムダだとあきらめるバカ
BAKA019 世界的評価を気にしすぎるバカ
BAKA020 日本のオーケストラが欧米並みの技量だと吹聴するバカ
BAKA021 ブライトコップのバカ
BAKA022 香水をつけすぎるバカ
BAKA023 アンコールは必ずあるものだと思い込むバカ
BAKA024 フルトヴェングラー・バカになりすぎないように
BAKA025 ファンをバカにしている音程評論家
BAKA026 行間を読もうとしないバカ
BAKA027 バカのためにバカバカしいほど繰り返される、人をバカにしたアナウンス
BAKA028 CCCDにこだわるバカ
BAKA029 ウィーン・フィルとベルリン・フィルが最高のオーケストラだと思っているバカ
BAKA030 とりあえず、クラシックを聴かせればいいと思い込むバカ
BAKA031 ブルックナーをさんざんバカにしていたウィーン・フィル
BAKA032 古楽器が当時の演奏様式を伝えるものだと勘違いするバカ
BAKA033 再生装置を全く気にしないバカ
BAKA034 広いことがいいことだと勘違いするバカ
BAKA035 ロイヤル・コンセルトヘボウのバカ指揮者二人
BAKA036 「育てる」と「甘やかす」を混同するバカ
BAKA037 ブーイングははしたない行為だと思い込むバカ
BAKA038 楽屋裏を知りたがるバカと見せたがるバカ
BAKA039 新聞記者に原稿を依頼するバカ
BAKA040 アーティストを聖人化したがるバカ
BAKA041 演奏会に行った回数を自慢するバカ
BAKA042 演奏会でのバカ親子
BAKA043 演奏会でのおバカな人々
BAKA044 解説なんかなくてもいいと思うバカ
BAKA045 演奏会での服装を全く気にしないバカ
BAKA046 演奏家こそが最高の音楽評論家だと勘違いするバカ
BAKA047 女性用トイレに気を使わないバカ
BAKA048 懲りないバカ編集者の面々
BAKA049 タダでも書きたいと息巻くバカ
BAKA050 自分のCDを後生大事にしすぎるバカ
BAKA051 あきらめが早すぎるバカ
BAKA052 ロシアの演奏家を色メガネでしか見ないバカ
BAKA053 子供に楽器を教えたがるバカ親
BAKA054 廃盤になったとたんに騒ぎだすバカ
BAKA055 生演奏を聴こうとしないバカ
BAKA056 リマスター=音をよくする方法と、いまだに勘違いしているバカ
BAKA057 新聞記事が一流だと思い込むバカ
BAKA058 裏をとらない、とろうともしないバカ
BAKA059 通信販売の便利さを活用しないバカ
BAKA060 音楽評論家をバカにするオーディオ評論家、オーディオ評論家をバカにする音楽評論家
BAKA061 アンプ類で音質補正をしないバカ
BAKA062 首席クラスを集めれば優秀なオーケストラができると錯覚するバカ
BAKA063 原典版にこだわりすぎるバカ
BAKA064 人名表記にこだわるバカ
BAKA065 尊大な態度をとりたがるバカなクラシック・ファン
BAKA066 中古盤で小遣い稼ぎをしようと思うバカ
BAKA067 SPを知らないくせに、SPを引き合いに出したがるバカ
BAKA068 最新録音が間違いなく優秀だと思い込むバカ
BAKA069 イの一番に拍手したがるバカ
BAKA070 マニアをバカにするなかれ
BAKA071 楽譜の改変にいちいち難癖をつけるバカ
BAKA072 ブラヴォーとはっきり言えぬバカ
BAKA073 ブランド物だけを聴きたがるバカ
BAKA074 アマチュア演奏が文化だと勘違いするバカ
BAKA075 マイナーであればあるほど喜ぶバカ
BAKA076 お金がないと嘆くバカ
BAKA077 バーンスタインのCBS時代を軽んじるバカ
BAKA078 推薦や特選にこだわるバカ
BAKA079 モーツァルトだけが癒しの音楽だと思っているバカ
BAKA080 聴き方をいちいち指図するバカ
BAKA081 拍手のときだけ起きるバカ
BAKA082 ザンデルリンクをほうっておいたバカ
BAKA083 気分を壊したがるバカ
BAKA084 レパートリーに無頓着なバカ
BAKA085 ネット上の発言を気にしすぎるバカ
BAKA086 難解であればあるほど喜ぶバカ
BAKA087 黒子を主役と勘違いするバカ
BAKA088 曲の長短、編成の大小で優劣が決まると思っているバカ
BAKA089 守備範囲を広げたがらないバカ
BAKA090 クラシック音楽のビジネスに安易に飛びつくバカ
BAKA091 おバカな書き間違い・思い違いの数々
BAKA092 CDは詰め込めばいいと思うバカ
BAKA093 民主主義的な音楽が優れていると思うバカ
BAKA094 ウンチクを傾けたがるバカ
BAKA095 巨匠=テンポが遅くなる、枯れると思い込むバカ
BAKA096 バカなヤツと思われそうだが
BAKA097 勝手な省略形と愛称をごちゃまぜにするバカ
BAKA098 自慢にもならないことを自慢したがるバカ
BAKA099 テンポを自分で決めようとしないバカ
BAKA100 われながら、バカなことをしてしまった



⇒評論家エッセイ情報
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ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。

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クラシック100バカ

本

クラシック100バカ

平林直哉

ユーザー評価 : 2.5点 (37件のレビュー) ★★★☆☆

価格(税込) : ¥1,760

発行年月:2004年10月
通常ご注文後 2-5日 以内に入荷予定

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平林直哉

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