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hiro さんのレビュー一覧 

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     2016/05/24

    夜の帳が下り始める頃、貴方のいる場所が都会のマンションの一室であろうと、田園風景に佇む一軒家であろうと、このアルバムは、貴方にそっと寄り添ってくれるに違いありません。
    才女・Carla Bley(1936年生)の知的なピアノの響きに、Andy Sheppard(1957年生)の円やかなサックスが共鳴し、その間をSteve Swallow(1940年生)による固めの音色のエレクトリックベースが自在に舞っていきます。
    3人は、ドラムスにBilly Drummondを加えてのライブ・アルバム「The Lost Chords(2004年)」で共演を果たしており、2007年にはクインテットでの「The Lost Chords find Paolo Fresu」もリリース。
    その3人の「Trios(2013年)」に続くアルバムが「Andando el Tiempo」で、旧知の仲間が、正に阿吽の呼吸で演奏を繰り広げています。
    ちなみにSteve Swallowは、Carlaの元夫・Paul Bley(1932年〜2016年)の長年にわたる共演者でした。そして、現在はCarlaの良きパートナーでもあります。
    曲は全てCarlaのオリジナル。Carlaがピアノの前で譜面を鮮やかにめくっているジャケットが物語るように、作曲面に力点を置いた作品でもあるようです。
    Carlaの優れた楽曲を更なる高みに押し上げる3人の演奏能力にも唸らされます。
    子供たちが寝静まった後、大人たちの間で密やかに交わされる会話のようなサウンド、とでも表現すれば良いのでしょうか?
    1曲目「Andando el Tiempo」は3つのパートに分かれており、「Saints Alive!」「Naked Bridges / Diving Brides」と続く47分余り。
    録音は2015年11月、スイス・ルガーノにて。プロデューは、もちろんManfred Eicherです。

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     2016/04/20

    菊地雅章(1939年〜2015年)は、我が国を代表するジャズ・ピアニスト。
    盟友、日野皓正との双頭コンボで日本ジャズ界を牽引した後、Gil Evansなど多くの海外ミュージシャンと共演を重ね、信頼を得ると共に、Miles Davisに拮抗しうるエレクトリック・ジャズの傑作と謳われた「SUSTO(1981年)」で世界を驚かせるなど、その活動は常に注目を集めてきました。
    ピアノ・トリオのファンには、Gary Peacock(b)、Paul Motian(ds)との「TETHERED MOON」の諸作品も忘れられないと思います。
    この「Black Orpheus」は、2012年10月26日、東京文化会館で行われたコンサートの記録。
    日本人スタッフの手になる音源が、オスロのRainbow StudioにてManfred Eicher、Jan Erik Kongshaugによりミックスダウンされ、ECM作品としてリリースされました。
    全11曲で、約71分。アルバム・タイトルでもある「Black Orpheus」は、Luiz Bonfa作曲、映画「黒いオルフェ」の主題歌となった「Manha de Carnaval」。それ以外は全て菊地のオリジナルです。
    中間部で演奏される「Black Orpheus」とラストの「Little Abi」を除き、曲名が「Tokyo Part I」から「Tokyo Part IX」となっていますので、この日のソロ・パフォーマンスはインプロヴィゼーション主体であったようです。
    冒頭から張り詰めた空気が会場を覆っており、このアルバムを外国人が聴けば、あたかも禅の瞑想の世界のように感じられるかもしれません。
    しかし、極めて硬質なサウンドでありながら、何故ここまで惹きつけられるのか?。それは、菊地が紡ぎ出すピアノの旋律に、詩情が溢れているからだと思います。
    全体を通して言えるのは、緊張感が最後まで持続しているということ。
    菊地の心象風景が綴られているのか、心の中に忍び寄るしっとりとした曲もあれば、暗闇を疾走していくような曲、あるいは幾何学模様をイメージするような曲もあります。
    時に空間を切り裂くような音も現れ、聴く側には集中力が要求されますが、基調がリリカルであるが故の心安らぐ瞬間が何度も訪れます。
    特に心に染み入るのは「Black Orpheus」。このボサノヴァの名曲が、一旦は解体され、そして美しく再構築されていく過程を、当日の観客と感動を共有して聴くことができると思います。
    音の煌めきを掬い上げるように奏でられる「Tokyo Part IX」は、このアルバムのベスト・トラック。
    愛娘に捧げた「Little Abi」は、アンコールでしょうか。その優しげな旋律から、プーさんの笑顔が目の前に浮かんでくるかのよう。
    ブックレットに飾られた菊地あび撮影のフォトに音が重なり、心に刻まれた深い余韻はいつまでも消えることがありません。

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     2016/04/19

    現代音楽の著名な作曲家 Karlheinz Stockhausenの息子であるトランぺッター Markus Stockhausenが、ピアニストとのデュオ・アルバムをECMレーベルからリリース、となれば、聴く前から身構えてしまう方も多いと思います。
    しかし、この「Alba」は非常に聴きやすく、心安らぐアルバム。
    小難しさが微塵も感じられないのは、Stockhausen、そしてピアノのFlorian Weberが大人であるからだと思います。
    全15曲で約62分。1分程度の断章のような曲もありますが、統一感が保たれています。曲は全て2人のオリジナル(共作が1曲)。
    朗々と響き渡るトランペットに寄り添うように奏でられるWeberのピアノは、時に密やかに、時に軽快にその響きを引き立て、美しい情景を喚起してくれます。
    クラシックに近い部分があると同時に、極めて質の高いイージーリスニングのようにも感じられる2人の演奏。
    Stockhausenは、これまでにも「Aparis」など、何枚かの斬新なアルバムをECMからリリースしていますが、こんなに穏やかな作品に接することができるのも、時代の流れでしょうか?
    録音は、2015年7月、スイスのルガーノにて。プロデュースは、もちろんManfred Eicher。
    平凡なようで、様々な出来事が周囲に起こったように感じられる今日1日を振り返りながら聴くのも良いと思います。

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     2016/03/14

    1960年代から長きにわたり第一線で活動を続けるピアニスト、Steve Kuhn(1938〜)の健在ぶりに驚かされ、また嬉しくもなる「At This Time...」。
    ECMからリリースされた「Wisteria(2012年)」と同じメンバー、すなわちエレクトリックベースのSteve Swallow(1940年〜)、ドラムスのJoey Baron (1955年〜)を従えてのトリオ・アルバムです。
    2015年8月7日、ニューヨークにて行われたレコーディングは、Kuhnもバックの2人も、よほど調子が良かったのか、数時間で完了したのだそうです。
    Swallowのベースは、淀みなくスムースであり、Kuhnの歌心を自由に飛翔させています。更に、Baronも明快かつ刺激的なリズムでその飛翔をサポート。
    録音時点で77歳というKuhn。この溌剌とした躍動感はどこから湧き上がってくるのでしょうか?
    音楽を創造する喜びに包まれているとしか言いようがない出来栄え。
    今回は、Sunnysideレーベルからのリリースであり、Manfred Eicherの統制から自由になった分だけ、伸び伸びとプレイできたのかもしれません。ECM盤の素晴らしさはそれとして、これはファンにとって好ましい結果ではないでしょうか?
    1曲目「My Shining Hour」から、スウィンギーで力強いピアノ・プレイが飛び出してきます。そして、唸るようなベースに、派手と表現した方がいいくらいのドラムス。目が覚めるような演奏とはこのこと。
    2曲目「Ah Moore」も、スウィング感に満ちた小粋な曲。Kuhnは心から演奏を楽しんでいるようです。
    ロマンチックな曲調の3曲目「The Pawnbroker」 。Kuhnの持ち味のひとつに、この優雅さがあります。しっとりとしたベース・ソロもKuhnのピアノを引き立てている。
    ボサノヴァ調が心地良い4曲目「All The Rest Is The Same」では、ピアノが正に歌っています。
    5曲目「The Feeling Within」は、美しいピアノ・ソロ。Kuhnのロマンチシズムを堪能して下さい。
    6曲目「Carousel」は、しんみりしたバラード。このトリオの力量が見事に発揮された演奏と言えます。
    7曲目「Lonely Town」では、リリカルなピアノに耳が奪われます。
    打って変わって躍動感溢れる8曲目「This Is New」。ランニング・ベースが実に心地良く響きます。そして、終盤では、Kuhnが華麗な演奏を披露。
    ラスト「I Waited For You」のしっとりした演奏にKuhnの本質が表れているような気がします。同世代で、共に激動のジャズ界を生き抜いてきたSwallowのベース・ソロがことさら胸に染み入り、アルバムは幕を閉じます。

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     2016/03/02

    Steve Reichの「Electric Counterpoint(1987年)」は、Pat Methenyにより初演され、数々のミュージシャンに取り上げられてきましたが、ロック・ファンには、Reichの「Radio Rewrite(2014年)」に収録されたRadioheadのギタリスト、Jonny Greenwood による素晴らしい演奏で知られていると思います。
    私は、日本のタケムラヤスシもこの作品に果敢に取り組んでいることを知りました。
    タケムラヤスシ(竹村安司、1978年〜)は、ギタリスト、DJ、そして作・編曲家でもある才人。
    この「エレクトリックギターによるスティーヴ・ライヒ作品集(2014年)」は、30分にも満たないアルバムですが、Reichの世界を見事に演奏しきった質の高い作品だと思います。
    タケムラのギターが織り成す、Reich独特の寄せては返す波のような反復、その得も言われぬ快感に、すっかり魅せられてしまいました。
    そして、Reichが、ロックやダンスミュージックの分野にまで、大きな影響を及ぼしていることに改めて気付かされました。
    1曲目「Music for pieces of wood(木片の音楽)」は、それこそ木切れを叩いたような打楽器的奏法によるギターの音が面白いと思います。
    2曲目「Nagoya Guitars」に、ノリの良さと共に、何となく日本的な情緒が漂うのは、曲名に「名古屋」が付いているのと、奏者が日本人であるためでしょうか?
    そして、3曲目「Electric Counterpoint : I. Fast」、4曲目「Electric Counterpoint : II. Slow」、5曲目「Electric Counterpoint : III. Fast」。
    タケムラの演奏には躍動感が漲っており、ミニマル・ミュージックとは言え、足が自然にステップを踏んでしまいます。「不思議なダンスビート」と表現したいくらい。
    ラストの「III. Fast」では、多重録音されたベース音が効果的で、タケムラの世界がどんどん広がっていくイメージ。
    増幅されたギターの音色が正に快感で、部屋の空気が振動しているように感じられるのは、ボリュームが大きいのではなく、タケムラの演奏能力が優れているからだと気付きました。
    彼が欧米のミュージシャンに負けないほどのテクニック、そしてセンスを有しているのは間違いないと思います。
    繰り返し何度も聴いてしまう傑作。ジャケットもいい雰囲気です。

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     2015/12/01

    Yellow Magic Orchestraへの参加でテクノ・ファンの注目を集めたChristian Fennesz(guitar & electronics)がゲストに招かれたFoodの「This Is Not A Miracle (2015年)」。
    Foodは、2000年のファースト・アルバムから、Thomas Stronen(drums & electronics)、Iain Ballamy(saxophone)、Arve Henriksen (trumpet)、Mats Eilertsen (bass)の4人で、エレクトロニクスを下敷きにしたユニークなサウンド作りを行っていましたが、2007年の「Molecular Gastronomy」以降は、StronenとBallamyの2人を中核として、様々なゲストとのコラボを展開しています。
    Fenneszが参加するのは、これで3度目で、全てECMからのリリース。そして、今回は必要最小限のトリオ編成となっています。
    本作やThomas Stronen「Time Is a Blind Guide」、Ben Monder「Amorphae」、David Torn「Only Sky」、Jakob Bro「Gefion」、Mette Henriette「Mette Henriette」など、この2015年にリリースされたECM作品を聴いていると、最近のECMは「非ジャズ」な要素がかなり強調されているような印象を受けます。
    「沈黙の次に美しい音」を生み出すのであれば、ジャンルは問わないというレーベル設立当時のコンセプトを、創始者のManfred Eicherが改めて宣言しているのかもしれません。
    そして、このアルバムでのFoodの2人と、音響派とも呼ばれるFenneszとの密接なコラボは、大きな成果を生み出していると思います。
    エレクトロニクスを多用した雰囲気重視のサウンドは基本的には変わっていません。それは、プロデュースも担当したStronenの方向性でもあると思います。
    Ballamyのサックスがジャズのフレーバーをもたらしているとはいえ、ここにはある種のロックを思わせる雰囲気が漂っています。
    それは、大きくフィーチャーされているFenneszのギター・プレイによるものか?
    視覚的なイメージを音によってどこまで喚起できるか、そんなテーマも3人の演奏に込められているような気もします。
    私は、林立する高層ビルが暮色に染まっていくような情景を思い描きました。
    エレクトロニクスとアコースティックを絶妙にブレンドさせた傑作だと思います。
    録音は、2013年6月オスロにて。

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     2015/10/20

    革新的なベーシスト、Jack Bruce(1943年〜2014年)は、優れた作曲家であり、また、魅力的なヴォーカリストでした。
    この「Sunshine Of Your Love : A Life In Music」は、音楽に生涯を賭けた男のオールタイム・ベスト。ロックの歴史にその名を残すスーパー・トリオ Creamから始まって、ソロや、自己のバンドのアルバムから、代表曲がセレクトされた2枚組です。
    収録時間は、Disc1が約75分、Disc2が約72分という充実した内容で、その音楽人生を網羅した24ページのブックレットも嬉しい。
    Disc1の1曲目「N.S.U.」から8曲目「Doing That Scrapyard Thing」までは、お馴染みのCreamのアルバムから。
    3人が対等の立場でアドリブ合戦(喧嘩セッション)を繰り広げたバンドとはいえ、リーダーシップをとっていたのはBruceであったということを、曲づくり、演奏、そしてヴォーカルから改めて感じました。6曲目「White Room」や7曲目「Deserted Cities of the Heart」は、リミックスによりGinger Bakerのドラムスが、もの凄い迫力・圧力で迫ってきます。
    バンド分解直前の「Goodbye(1969年)」収録の8曲目「Doing That Scrapyard Thing」は、ロックというよりポップスであり、Beatlesを思わせるサウンド。同じアルバムに収録されていた「Badge」と共に、その後のEric ClaptonとGeorge Harrisonの深い交流を予感させる興味深い曲です。
    9曲目「Never Tell Your Mother She’s Out of Tune」から12曲目「Weird of Hermiston」は、1969年リリースのファースト・ソロ 「Songs for a Tailor」から。
    プロデューサーは、Creamのアルバムを手掛けたこともあるFelix Pappalardi。当時、CreamとBlood, Sweat & Tearsの架け橋となるアルバム、と評された傑作です。
    11曲目の「Theme for an Imaginary Western」は、Pappalardiが参加したMountainも「Climbing!(1970年)」で取り上げていた名曲。
    しかし、この「Songs for a Tailor」以降のBruceは、作曲面ではヒネリすぎの感があり、また、演奏においても、ClaptonやBakerといった天才的な共演者に恵まれず、Cream時代を超えるヒットを飛ばすことはありませんでした。
    片やClaptonは、ドラッグの誘惑から決別をはかり、アメリカに渡って、新たな音楽活動に邁進し、レゲエの知名度を高めた大ヒット「I Shot The Sheriff」を含む「461 Ocean Boulevard」を1974年に発表。以後、大きな成功を収めていきます。
    Claptonの成功を横目で見ながら、Bruceの内心には焦りがあったはずで、元The Rolling StonesのMick Taylorや、Bruceの才能を高く買っていたジャズ・ピアニスト Carla Bleyとバンドを組んだり、犬猿の仲と言われたBakerと、Creamを髣髴とさせるトリオ、BBMを結成するなど努力を重ねますが、ブリティッシュ一筋の姿勢は、彼をいつのまにか「孤高の存在」にしていったのでは?
    Disc1の13曲目「Folk Song」以降の「Harmony Row(1971年)」「Out of the Storm(1974年)」からセレクトされた曲は聴きごたえがあるとはいえ、地味な印象はぬぐえず、Disc2へと聴きすすんでいくにつれ、その思いが強くなるのを否めません。
    そんな中でDisc1の19曲目、「Out of the Storm(1974)」収録の「Keep it Down」やDisc2の7曲目、「Somethin’ Els(1993年)」収録の「Ships in the Night」は、目が覚めるような名曲。
    ロックに殉じた男、Jack Bruceの最後の花道は、奇跡ともいえる2005年、Cream再結成コンサートでしたが、このベストでは、天に召された2014年のラスト・アルバム「Silver Rails」から、「Candlelight」など4曲もセレクトされているのも、ファンの胸を熱くすると思います。

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     2015/10/07

    Thomas Stronen(1972年〜) は、ノルウェーのドラマー、作曲家。
    Arve Henriksen、Eivind Aarset、Bobo Stenson、Sidsel Endresen、Bugge Wesseltoftなど、共演者は数知れず、北欧のジャズ・シーンになくてはならない存在。
    ノルウェーのユニークなレーベル、Rune Grammofon を主な舞台として、エレクトロニクスを多用したFoodやHumcrushといったバンドのアルバムもリリースしてきました。
    更にECMからは、別のバンドのアルバム「Parish (2006年)」、そしてFoodの「Quiet Inlet (2010年)」、「Mercurial Balm (2012年)」をリリースしています。
    そして、この「Time Is A Blind Guide (2015年)」。
    アルバム・タイトルであり、バンド名でもあるTime Is A Blind Guideのメンバーは、Thomas Stronen (ds, perc)、Kit Downes (p)、Hakon Aase (vln)、Ole Morten Vagan (double bass)、Lucy Railton (cello)、Siv Oyunn Kjenstad(perc)、Steinar Mossige (perc) 。今回は、アコースティックなサウンド作りに専念したようです。
    アルバムは、Sun Chung(ピアニストMyung-Whun Chungの子息でAaron Parksの「Arborescence」などをプロデュース)とStronen自身のプロデュースにより、2015年6月、ECMの本拠地とも言えるオスロのRainbow Studioにて録音されました。
    ECMにしては、録音からリリースまでの期間が驚くほど短いのは、Manfred Eicherが細部まで関与していないためか、それとも「旬の音」を少しでも早く、リスナーに届けたかったためか?

    1曲目「The Stone Carriers」は、オーケストラの音合わせのような雰囲気から始まります。チェロとヴァイオリンとベース、そしてパーカッションが織りなす、予期された不協和音。そこにピアノが加わることにより、不確定なサウンドは徐々に方向を定め、一定のリズムが生まれ、更にチェロとヴァイオリンの絡み合いから、無国籍風の旋律が生み出されていきます。ピアノの闊達なソロが登場すると、リズムも激しさを増し、曲はダイナミックに展開されていきます。
    ネイティブなパーカッションの鼓動が響き渡る2曲目「Tide」。
    3曲目「Everything Disapears Pt.1」は、美しいピアノの響きとパーカッションが音で描く抽象絵画。
    4曲目「Pipa」では、一転してクラシカルなサウンドが、チェロとヴァイオリンのピッツィカートにより演出されます。その旋律はエキゾチックであり、Stronenの作曲能力の高さにも驚かされます。
    5曲目「I Don’t Wait For Anyone」も弦楽器が強調されており、ECMのレーベル・カラーによく馴染んだ曲調。あくまでもアコースティックにこだわったStronenの強い意思を感じることができます。極めて映像的であり、美しい情景を喚起させるピアノ・ソロも素晴らしい。
    パーカッションの残響が部屋を満たすかのような6曲目「The Drowned City」では、ちょっと深刻な表情のヴァイオリンが曲を支配します。ピアノが加わる刹那は、全体が明るく彩られますが、またも弦楽器が重いサウンドを形成していきます。
    鮮やかなピアノの響きから始まる7曲目「Lost Souls」。ピアニスト、Kit Downesの参加は、このアルバムを成功に導いたようです。パーカッション、ヴァイオリンそしてピアノの対話は、大きなサウンドの波、親しみのあるメロディを形作っていきます。
    8曲目「Everything Disappears Pt.2」は、打楽器のみで構成されています。曲の配置としては効果的で、耳の緊張感が途切れることはありません。
    9曲目「Time Is A Blind Guide」は、前曲の延長のように鳴り響くパーカッションから始まります。ベース、ピアノ、更にヴァイオリン、チェロが加わっていくと、このアルバムの基調をなす、美しくも郷愁を帯びたサウンドが立ち現れます。
    10曲目「As We Wait For Time」は、どこか民族音楽的。雅やかでリズミカルなサウンドは、このアルバムのハイライトとも言うべき出来栄え。
    ラストの「Simples」は、雅楽を思わせる曲調。ここでも鮮明なピアノの響きが印象的で、夢の続きを見たいような心持ちにさせられ、アルバムは幕を閉じます。

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     2015/06/09

    瑞々しいピアノの響き、それを更に引き立てようとサポートし、時に見事なソロも披露するベース。小橋敦子とFrans van der Hoevenが紡ぎ出すサウンドは、まさしく楽器による対話そのもの。
    冒頭の「Snow Flies」は2人のオリジナル。たぶん、インプロヴィゼーションだと思います。
    続く「Waltz for Debby」は言わずと知れたBill Evansの名曲。Evansにインスパイアされての演奏といった趣きで、かなり大胆にアレンジされており、始めからそれと気付く方は少ないと思います。ここにあるのは、Evansへの畏敬の念か?
    3曲目「Introduction for I.L.」は、文字通り、4曲目「Ida Lupino」への序奏。
    非常に素直に演奏される、その「Ida Lupino」が面白いと思います。Paul Bleyのように突っ掛るところがまるでなく、小橋は、原曲のメロディが内包する美しさをありのままに表現しています。
    小橋のピアノの魅力は、この衒いのなさ、素直さなのだと思ったりもします。
    5曲目「Angela」は、メロディを噛みしめるようにしっとりと奏で、6曲目「In My Soulitube」も、原曲の良さを充分に活かした説得力あるプレイを。
    Ralph Townerらしい密やかなメロディを掬い上げるかのような7曲目「Drifting
    Petals」も見事。
    また、ベーシスト、Steve Swallow作による8曲目「Peau Douce」では、Hoevenのベース・ソロが光ります。
    5曲目から8曲目まで、ひとつの流れのように続く、しっとりした演奏には心安らぎます。
    9曲目「Black Ice」は、2人のオリジナル。後半へのインタールードでしょう。
    10曲目「Morro Velho」は、Milton Nascimentoのスケール感あるメロディが、これまた素直に演奏されており、作者への敬意が感じられます。
    Johnny Mandel 作の 11曲目「A Time for Love」では、切々と歌うピアノに、ベースが絶妙な距離を保ちながら寄り添い、本アルバムのベスト・トラックと言えそうな出来栄え。
    12曲目「Remember」は、優雅なワルツで、趣味よく飾られた部屋に朝陽が差し込んでくるイメージ。
    13曲目「Estrada Branca」は、Antonio Carlos Jobimが生み出したメロディがくっきりと浮かび上がってくるようで、心は更に和みます。
    ラスト14曲目「Searching for Debby」は、「Debbyを捜し求めて」という意味でしょうか?2人のオリジナルですが、「Waltz for Debby」の変奏曲のような雰囲気が漂い、Bill Evansに強く影響されたことを正面切って宣言している小橋のピアノには、ちょっぴり余裕も感じられます。
    現在、オランダで活躍する小橋は、Steve Kuhn に師事したとのことですが、このアルバムからはBill Evansへの思慕が強く伝わってきます。
    全体に押し付けがましさがないので、何か考え事をしながらでも聴けますし、真正面から集中して聴き込んでも、色々な発見がある傑作だと思います。

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     2015/06/09

    「Dualtone」とは、2つの音色という意味なのでしょうか?
    ピアニストのデュオ・アルバムといえば、相方はベーシストと思いがちですが、これはちょっと趣向を凝らした、小橋敦子と、ドラマーのSebastiaan Kapteinとのデュオ。
    1曲目「Blue in Green」、2曲目「Falling Grace」、4曲目「But Beautiful」、6曲目「Icebreaker No.2」は、ピアノ・ソロにドラムスがアクセントを添えるような曲。
    そして、5曲目「I Remember You」、7曲目「Very Early」、8曲目「How Deep is the Ocean」では、ドラムスに触発されてか、小橋のピアノは、いつになくリズミカルに歌っています。
    そして、Kapteinも負けじと応戦するのは、 11曲目「Two by Two」。ドラムスが正に歌っています。
    ジャケットには、小橋、Kapteinと録音技師、Frans de Rondの3人が並んだフォトが掲載されており、音質の素晴らしさの自信の表れだと思います。
    その美しいピアノの響きを聴いて、小橋のBill Evansに対する畏敬の念を、改めて確認したような気持になりました。
    録音は、2012年4月、現在の小橋の本拠地、オランダにて。
    この後、小橋は、2013年2月に、ベーシスト、Frans van der Hoevenとのデュオ・アルバム「Waltz for Debby」を録音し、更にKapteinを加えたトリオで、2014年3月に「Lujon」という素晴らしいアルバムを録音しています。
    その「Lujon」、当初は「2+2=3」というタイトルにするつもりだったとのこと。つまり、ドラマー、ベーシストのそれぞれと充分に対話を重ねた上でのトリオ作品というわけです。
    「Lujon」に至る道程として、この「Dualtone」を捉えるのもいいし、唯一無二の作品として、2人の慎み深い対話に耳を傾けるのもいいと思います。

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     2015/05/04

    イタリアのピアニスト、Giovanni Guidi (1985年生)の、ECMからは「City Of Broken Dreams(2013年)」に続く2枚目のトリオ・アルバム「This Is The Day」。
    ECMのピアノ・トリオと言えば、Keith Jarrettの「スタンダーズ・トリオ」があまりに有名ですが、Keithがアーカイブ主体にリリースを重ねている今、Manfred Eicherは、新たな才能の発掘に注力しているのでは?
    非常に繊細に奏でられる1曲目「Trilly」。その煌めくピアノの響きから、真っ直ぐにGiovanniの世界に惹きこまれます。
    2曲目「Carried Away」も情感に溢れたリリカルな演奏に終始。
    徐々に自由度が高まり、フリーに突入しそうな4曲目「The Cobweb」や、Paul Bleyを思わせる6曲目「The Debate」のような演奏が続く中で、Nat King Coleの歌唱で有名な8曲目の「Quizas quizas quizas」は意外な選曲。
    Venus RecordsからThe BeatlesやBjorkの曲を取り上げた「Tomorrow Never Knows(2010年)」をリリースしているGiovanniの多彩さが、よくあらわれていると思います。
    全体を聴いて思うのは、Giovanniは「理性」よりも「情」が勝るピアニストではないか、ということ。
    特に、10曲目「Trilly var.」は、これでもかと情感が込められており、このアルバムを代表する曲だと思います。
    続く「I’m Through With Love」も、題名通りロマンチックで、女性ファンにも受け入れられそう。
    リズム・セクションは、John Abercrombie やMasabumi Kikuchiとの共演でECMファンにもお馴染みのThomas Morgan (double b)、そしてJoao Lobo (ds)。
    録音は、2014年4月、スイス、ルガーノのAuditorio Stelio Moloにて。ここは音響がいいようで、Andy Sheppard Quartetの「Surrounded by Sea(ECM 2432)」、Paolo Fresu/Daniele di Bonaventuraの「In maggiore(ECM 2412)」の録音にも使われています。
    Giovanniの美しいピアノの響きを、余すところなくとらえた傑作。

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     2015/04/21

    Elina Duniの「Matane Malit(2012年)」に続くECM2枚目のアルバムは「Dallendyshe(ツバメ)」と名付けられました(表題曲は、アルバムの最後に収録されています)。
    ECMらしい、英語圏以外の国の言語によるヴォーカル・アルバムであり、ジャズというより民俗音楽の香りが漂います。
    Duniは、1981年アルバニア生まれの女性シンガー。10歳からスイスでクラシックやジャズを学んできましたが、近年は、母国アルバニアのトラディショナル・ミュージックを積極的に取り上げています。
    ドイツ生まれのイラン人女性シンガー、Cymin Samawatieを中心とするCyminologyに似た雰囲気を持っており、ピアノ・トリオをバックに女性が歌うという基本的構図も同じ。
    Duniのヴォーカルを支えるのは、Colin Vallon(ピアノ)、Patrice Moret(ベース)、Norbert Pfammatter(ドラムス)。
    全12曲中、冒頭2曲を除き、全てアルバニアやコソボのトラッドをメンバーがアレンジしています。録音は、2014年7月、フランスにて。
    演奏面では、スイスのピアニスト、Colin Vallonの流麗かつ叙情的な旋律が印象的。それは、Cyminologyのピアニスト、Benedikt Jahnelと同じ役割を担っていると思います(尚、ちょっとイチロー似のVallonは、ECMから「Rruga(2011年)」「Le Vent(2014年)」というピアノ・トリオ・アルバムをリリース)。
    Duniの節回し、その異国情緒あふれるメロディは、日本人の心の琴線に触れるものがあると思います。
    ECMからリリースされなければ、積極的には購入しないようなアルバムですが、このような演奏を聴いてこそ、ジャズ以外のジャンルにも視野を広げることが出来るわけで、Manfred Eicherの姿勢は偉いと思います。ECMにしては珍しくパステル・カラーで飾られたジャケットも素晴らしい。
    休日の昼下がり、紅茶にブランデーを数滴注いで、ジャケットに掲載された英語訳の歌詞を眺めながら、切々と語りかけるようなDuniの歌声に耳を傾けるのもいいかもしれません。

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     2015/04/01

    Julia Hulsmannは、1968年ドイツ生まれの女性ピアニスト。ECMからピアノトリオ作品「The End Of A Summer (2008年3月録音)」「Imprint (2010年3月録音)」、そしてトランペットが加わった「In Full View(2012年6月録音)」といったリーダー・アルバムを発表してきました。
    この「A Clear Midnight - Kurt Weill and America」には、更にヴォーカルが加わっており、Julia Hulsmann(ピアノ) 、Tom Arthurs(トランペット・フリューゲルホーン) 、Marc Muellbauer(ベース) 、Heinrich Kobberlingt(ドラムス) そして、Theo Bleckmann(ヴォーカル) の編成。録音は2014年6月、オスロにて。
    Bleckmannは、1966年ドイツ生まれのヴォーカリストで、Winter&Winterレーベ
    ルなどから数多くのアルバムをリリースしています。
    革新的なヴォーカル・パフォーマンスで知られるMeredith Monkの「mercy(2002年3月録音)」「impermanence(2007年1月録音)」(共にECM作品)に参加しているのが興味深いところ。
    そのBleckmannのヴォーカルは、12曲中10曲にフィーチャーされています。
    本作は、タイトル通り、12曲中9曲がKurt Weillの作品で、残りがHulsmannのオリジナル(7.8.9曲目)。
    Weill(1900年〜1950年)は、「三文オペラ」で有名なドイツの作曲家で、後の音楽家、ロック・ミュージシャンなどにも大きな影響を与えてきました。あのThe Doorsも「Wiskey bar(Alabama Song)」でWeillを取り上げています。
    よって、聞き覚えのある曲が多く、演奏もヴォーカルもソフトであり、すんなりと
    この世界に浸ることが出来ると思います。
    曲調は、全体にスロー又は、ミディアムテンポで大人のムードが充満。そして、ミュージカルのような雰囲気が漂うのは、Weillの作品を取り上げているからで
    しょうか?
    Bleckmannの中世的なヴォーカルが、このアルバムの印象を決定付けているように思えます。
    言葉を噛みしめるように歌うBleckmannのヴォーカルは夜のイメージで、ECM作品の
    中でも飛び抜けて美しく響くHulsmannのピアノは昼のイメージ。この2人の絡み
    は、時の移ろいを音で表現しているかのよう。
    そんな中で9曲目の「Beat! Beat! Drums!」は、かなり現代的なアレンジで、BleckmannがMeredith Monkのアルバムに参加したことが理解できるような、斬新な歌唱を披露。
    更に、10曲目「Little Tin God」も、モダンなアレンジで、演奏の自由度も高くなっています。
    また、フロント楽器のトランペットは控えめで、ヴォーカルの引き立て役のようで
    もありますが、6曲目「River Chanty」では、ヴォーカルに代わって見事なソロを聴かせてくれます。
    本作は、Hulsmannの才能が十分に発揮されたアルバムであり、これからも意外な
    ミュージシャンとのコラボレーションを期待したいと思います。

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     2015/01/26

    ECMレーベルでピアノ・トリオというと、真っ先に頭に浮かぶのがKeith Jarrettの「Standards」でしょう。
    レーベルを代表するこのトリオが偉大すぎるのか、ECMにおけるピアノ・トリオのリリース数は、他のレーベルと比較して少ないような気がします。それとも、「Standards」の存在により、他のトリオがかすんでしまっているのか?
    ただ、Keith達は、年齢的な制約のせいか、最近はめっきりとリリースが減っており、ECMにおいて、新たなピアノ・トリオの誕生が切望されているのも事実だと思います。
    そんな中でリリースされたのが、Vijay Iyer(1971年生)のトリオ作品「Break Stuff」。
    メンバーは、Vijay Iyer (p)、Stephan Crump (double b)、Marcus Gilmore(ds)。録音は、2014年6月、ニューヨークにて。
    しかし、一般的なピアノ・トリオのイメージで聴くと、肩透かしを食らうかもしれません。と言うより、リスナーを挑発するような演奏に終始しているように思えます。
    ダークな雰囲気の「Starlings」からアルバムは始まります。ひたひたと満ちてくるような旋律。個性派のIyerのこと、斬新な音が飛び出すのでは、と身構えるこちらの心が少しだけ緩みます。
    続く「Chorale」は、淡々とした、あてのない散歩のような冒頭から、一転して3人のカラフルな演奏が始まります。ここからがいよいよ Iyer トリオの世界か?
    シャープな音が次々と繰り出され、3人の才気がほとばしるような「Diptych」。リスナーに媚びない演奏というのでしょうか?
    「Hood」は、ミニマル・ミュージック風であり、少ない音階の中で、パーカッシブに展開される曲。同じECMの「Nik Bartsch’s Ronin」をふと思い出しました。
    どこか外したような旋律が、時にユーモラスでもある「Work」。やはり、Thelonious Monkへのオマージュだそうです。
    ここまで、聴き進んで、このトリオの評価は大きく2つに分かれると思います。新しい何かの訪れを期待して、更に耳を澄ますか、既存のトリオ演奏からの逸脱に眉をひそめ、無視してしまうか・・。
    「Taking Flight」では、ピアノがめまぐるしく駆け回り、ベース、ドラムスが追随していきます。メロディを追う、と言うより、3人の息詰まるような交感により形成されていく曲。
    静かな展開の中にも、緊張感が溢れ、ジャケット通りのモノクロの世界が広がる「Blood Count」。思索的であり、このアルバムのベスト・トラックと言えるのでは?
    続く「Break Stuff」は、ドラムスが不思議なアクセントを付け、グイグイと進んでいきます。どこか日本の民謡風。
    「Mystery Woman」では、ダイナミックな演奏が繰り広げられます。ドラムスは、リズムの山を積上げていく感じ。ベースは、あくまでボトムに徹し、ピアノはそこを縦横無尽に駆け巡ります。
    ベースのボウイング奏法が幻想的な雰囲気を醸し出す「Geese」。ピアノが刺激を与える中で、ドラムスが遠くから現れ、曲は徐々に盛り上がっていきます。しかし、リスナーは置き去りにされたような・・。
    Iyerのピアノ・テクニックが光る「Countdown」。ドラムスも手数を増やして迫ってきますが、乗りたくても乗れないリズム。考えるジャズでしょうか?
    緩やかに上昇していくような感覚にとらわれるラスト「Wrens」。落ち着いた雰囲気で、前曲とは全く別のトリオのようです。
    このアルバム、あくまでもECM作品として臨むのが賢明かもしれません。
    しかし、ここに記録された音は、新たなピアノ・トリオの可能性を秘めているのでは・・?

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     2015/01/19

    Kenny Wheeler(1930年1月14日〜2014年9月18日)は、イギリス・ジャズ界の重鎮でした。一時は、フリー・ジャズの世界に身を浸していましたが、ECMを主な活動の舞台として以降は、その美しいトランペット、フリューゲルホーンの響きで、多くのジャズ・ファンを魅了してきました。
    ECMからは、Keith Jarrettの参加で注目を集めた「Gnu High (1975年)」でデビュー。その後も数々の名作をリリースし、とりわけ、John Taylor、Norma Winstoneと結成した「Azimuth」は、いかにもECMらしい透明感溢れるサウンドで、後続のミュージシャン達にも影響を与えてきたと思います。
    また、ロック・ファンには、David Sylvianのアルバムに参加したことでも知られています。
    さて、2013年12月に、ロンドンのアビーロード・スタジオで録音されたこの「Songs for Quintet」は、残念ながらWheelerの遺作になってしまいました。
    ECMとしては珍しいデジパック仕様で、これまでのアルバムが紹介されているブックレット付きというのも、また、発売日の2015年1月14日がWheelerの誕生日だというのも、ラスト・レコーディングだからでしょうか?
    プロデュースは、Manfred EicherとSteve Lakeの連名となっています。曲は全て、Wheelerのオリジナル。
    穏やかなアンサンブルを聴かせてくれる「Seventy-Six」。まろやかなJohn Parricelliのギターが耳に心地良く感じられます。Wheelerのフリューゲルホーンは、朗々と響き渡り、80歳を超えているとはとても思えない堂々たる演奏ぶり。
    センシブルで正統派のジャズを感じさせる「Jigsaw」。Stan Sulzmannのサックスと、 Parricelliのギターがクールさを強調します。
    哀愁のこもったフリューゲルホーンが聴ける「The Long Waiting」。フリューゲルホーンに続くギター、サックスのソロにも情感が溢れています。
    Chris Laurenceのベースが先導し、全員のアンサンブルが前へ前へと進んでいく「Canter No.1」。浮遊感のあるギターがアクセントを付け、サックスが艶やかで流麗なソロを奏でます。
    「Sly Eyes」は、Martin Franceの小気味よいドラムスからスタート。どこかスパニッシュ風のサウンドが、ミディアムテンポで繰り広げられます。全員が一丸となった分厚い演奏。
    サックスとギターによるフリー風のからみから始まる「1076」。その後も、特定のリズムはなく、コレクティヴ・インプロヴィゼーションが展開されます。
    「Old Time」は、前曲の余韻の中からリズミックに立ち上がってきます。軽快なフリューゲルホーンに続くクールなサックス・ソロが印象的。ベースも前に出てきます。
    深い余韻を残すギターに続いて、フリューゲルホーンとサックスがテーマを繰り返す「Pretty Liddle Waltz」。フロント3人の思いが込められた演奏には、哀感が沁み渡っているかのよう。
    ラストの「Nonetheless」からは、本作の美しいジャケットのような風景が浮かび上がります。フリューゲルホーンが軽やかに曲を引っ張り、ギターのリズミカルなソロに続いて、サックス・ソロがサウンドに厚みをもたらします。ベース、ドラムスの控えめなサポートも見事。5人の音のアラベスクは、静かにその幕を閉じていきます。
    ここにあるのは、極めて上質で端正な、大人による大人のためのジャズ。
    Wheelerの「白鳥の歌」を聴いて下さい。

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