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橋本徹の続『音楽のある風景』対談 Page.2

2009年9月11日 (金)

interview

橋本徹

●01.Blackbird / Bye Bye Blackbird / Sara Gazarek

橋本:ビートルズの「Blackbird」はポール・マッカートニーの中でも特に好きな曲でもあるんだよね。いろんなカヴァーも集めてて。

山本:サラ・ガザレクはカナダのトロント出身のアーティストで、とても人気のあるアーティストです。ピアニストのジョシュ・ネルソンがミュージカル・ディレクターを務め、彼はソロ作品もリリースしています。

吉本:“秋”という季節にチェロはよく合うよね。チェロとピアノの組み合わせというのは、ジャキス・モレレンバウンのジョビン・トリビュートの楽曲であったり、中島ノブユキの楽曲であったり、すごくしっくりとなじむ組み合わせだよ。

山本:室内楽的な雰囲気がまた秋を連想させますね。

橋本そうした楽器のアンサンブルが象徴的かもしれないけれど、これまでは楽曲の“輝き”や“瑞々しさ”を大切に選曲してきたんだけど、今回はそれに加えて秋ということで、“翳り”や“憂い”も大事にしたいと思ったんだよね。このヴァージョンはミナス・サウンドみたいな浮遊感を感じさせるところも好きだな。




●02.Shaker Song / Lorna Cifra

稲葉:ロアーナ・シーフラはフィリピン出身で今は日本在住のジャズ・ヴォーカリストですね。彼女は今回のコンピレイションに採り上げられたことをとても驚いたようで、すごく喜んでいましたよ。

橋本:本当に? 前作のヘレン・サッシュ(&レックス・ジャスパー)もそうだったんだけど、彼女が大好きなシンガーのパトリシア・バーバーと一緒にコンピレイションに収められたことが、すごく嬉しかったようで、周りの人に勧めているからCDをたくさん買わせて欲しいと連絡があったんだ。

山本:素敵なエピソードですね。

吉本:そうやってアーティストが発表した作品がコンピレイションに入って新しい価値を生んで、それを知ったアーティストが喜んでくれて、ほんとうに音楽のいい連鎖だね。

橋本:最初はスパイロ・ジャイラやマンハッタン・トランスファーの人気曲のカヴァーということで注目したんだけど、ひっそりと埋もれていたヴァージョンが輝きを増して、さらに多くの人に伝わって、アーティスト本人も喜んでくれるというのは、ほんとうに選曲家として嬉しいことだよね。

山本:イントロのギターにスキャットが入るアレンジも凝っていますし、ギターの音色もいいですね。

橋本:彼女の素晴らしさを初めて聴いて驚く人も多いと思うんだけど、颯爽としたイントロのスキャットを聴くだけで、これはスマイリーないいヴァージョンだと確信できるはずだよね。



●03.When About To Leave / Sofia Pettersson

吉本:このソフィア・ペターソンのピアノのイントロには、ほんとうに胸が締めつけられるようだよ。

橋本:いやあ、ほんとうにイントロのピアノから切ない気持ちにさせられるラヴソングだね。ジャンルは違うけれど、コリーヌ・ベイリー・レイなんかを聴いていても感じる、胸が熱くなるこみ上げる感じがある。

山本:このピアノの響きはほんとうにいいですね。

橋本:フリー・ソウルの魅力のひとつが、あの心地よいギター・カッティングだとするなら、『音楽のある風景』ではこのピアノの感じがそれにあたるのかなって思う。

山本:この作品はスウェーデンのレーベルのプロフォンからなんですけど、北欧のピアニストのタッチはほんとうに瑞々しく澄んだ音がしますね。



●04.Be Yourself / Janita

橋本:僕の中では、ソフィア・ペターソンの後はジャニータっていう流れは決まっているんだ、近年。

山本:このピアノのエンディングから、イントロのギターへのつなぎもいいですね。

稲葉:彼女も北欧のアーティストで、フィンランド出身でニューヨークで活動しています。2006年のセカンド・アルバムでブレイクするのですが、この曲はインディー時代のアメリカのレーベルのファーストからです。

橋本:耳で聴いて心地よい流れだから選曲したんだけど、結果的にルーツは北欧でつながっていたんだよね。

吉本:彼女の声には、「usen for Café Après-midi」ではよく流れるフランシエン・ヴァン・トゥイネンやキャロル・デュボックにも通じる色気と、ほどよくアーバンなR&Bの香りを感じるね。

橋本:ブレイクするセカンド・アルバムに比べると瑞々しさが残っていて、ほんとうにメロディーがこみ上げるようないい曲だな。

山本:この曲はフリー・ソウル・ファンにも響きますね。



●05.If I Fell / Nando Lauria

一同:さあ、いよいよ来ましたね!

吉本:この曲を初めて聴いたときの吸引力はすさまじかったな。

橋本:なんだろうね、この吸引力は。どんなタイプのパーティーでかけても、かならず「これ誰ですか?」って問い合わせがあったよ。イントロのキラリとした澄んだ輝きと、儚い疾走感や哀切というか。

吉本:ビートルズの数あるカヴァーの中でも屈指のクオリティーだと思うし、原曲の優しさを勇敢に奮い立たせて、さらに新たな魅力を付加した感じがあるね。ケニー・ランキンのビートルズ・カヴァーに優るとも劣らない強いオリジナリティを感じる。

橋本:ジョン・レノンの心の震えが伝わってくるような原曲を、さらにこの域にまで高めて、純化しながら疾走していったという感じだね。

吉本:パウロ・コエーリョの小説『アルケミスト』の少年が砂漠や荒野を進んで、運命に立ち向かっていくような勇敢さだね。

橋本:悲しみを抱えながらも前に進んでいく感じ。

山本:僕も最初に聴いたときには、トニーニョ・オルタの「Aqui O」のようなミナスのサウダージ感を感じました。ブラジルのアーティストならではの空気感なんでしょうね。

稲葉:僕も最初に聴いたときは、とにかく力強くて迷いがないと感じました。

橋本:こういうのを“奇跡の1曲”と言うんだろうね。

一同:いや、ほんとうに“奇跡の1曲”です!

profile

橋本徹 (SUBURBIA)

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは190枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。

http://www.apres-midi.biz