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橋本徹の続『音楽のある風景』対談 Page.3

2009年9月11日 (金)

interview

橋本徹

●06.Two Kites / Norma Winstone

橋本:僕の中ではこの5年近く、「If I Fell」の後は「Two Kites」って決まっているんだ。心の中で捧げてる人がいるんで(笑)。

吉本:橋本くんが大好きなジョー&トゥッコのヴァージョンも“春から夏へ”に収めていたけど、このヴァージョンもいいね。

橋本:やっぱり「Two Kites」には個人的な思い入れが強くあるんだよね。心臓の鼓動が高まるようなリズムの感じとか、歌詞の内容ももちろんなんだけど。どんな音楽にも胸を掻きむしられる瞬間があって、僕はそれを大切にしたいのかな。例えばエルヴィス・コステロなんかを聴いていてもそういう瞬間ってあるし。

吉本:晩年のジョビンが、20歳以上年下の写真家のアナに恋をしたときの心のときめきみたいなものが表現された不思議な高揚感をもった曲だよね。

橋本:「If I Fell」も「Two Kites」も、もう青春期には戻れない自分に突き刺さった2曲とも言えるね。




●07.Just About Everything / Tutu Puoane

山本:2007年に輸入盤が話題になり、今年になって国内盤が発売されたトゥトゥ・プワネですが、南アフリカ生まれでベルギーで活動しています。

稲葉:南アフリカというのを感じさせない白人的と言ってもいい爽やかでまろやかな歌唱ですよね。

橋本:黒人なのに白人っぽいとか、白人なのに黒人っぽいというのが好きだし、ジョニ・ミッチェルのカヴァーを歌ったり、ノーマ・ウィンストンとコラボしたり、ひとつのイメージで切れないアーティストというのもほんとうに好きだな。

吉本:80年代のディスカヴァリーやコンコード・レコーズのイメージを感じさせる可憐なヴァージョンだね。

山本:ロレイン・フェザーのコンコード盤の『スウィート・ロレイン』ですね。

橋本:ボブ・ドローのカヴァーにはスウィンギーでいいヴァージョンが多いと思うけど、その中でも絶品だね。

山本:このアルバムもお店でかけているとよく売れるんです。



●08.Everything Must Change / Cecilia Stalin

稲葉:クープの「Waltz For Koop」と「Baby」で素晴らしい歌声を披露したスウェーデンのシンガー、セシリア・スターリンですね。

吉本:彼女も憂いのある声がいいね。

橋本:トゥトゥ・プワネから4曲くらいは、クラブ・ジャズ・ファンやDJをやっていたり、やりたいと思っている人たちも耳を奪われる部分があったらいいかなと思って、自然に身体が揺れるような曲をつないだよ。こうすることによって、80分の流れの中でしっとりメロウな曲のよさも、あらためて際立つと思うんだ。

稲葉:この曲は後半にいくほどすごいですよね。

橋本:まさにそうなんだよね。曲が進むにつれて歌が輝きを増していくんだよね。ベナード・アイグナーのこのメロディーを軽快なアコースティック・アレンジで聴かせたところが、さらにフレッシュに感じたよ。

山本:ノーマ・ウィンストンからの流れは女性のしなやかな凛とした強さみたいなものを感じさせますよね。

稲葉:ピアノとギターのインタープレイにしても、バンド自体が熱くなっていく感じが伝わってきて、セシリア・スターリンもそれにのせられてテンションがあがっていく姿に、聴き手としてはとても引き込まれちゃうんですよ。



●09.I Can't Help It / Lisa Kavanagh

稲葉:このリサ・カヴァナは今ではめずらしいアルバムです。UKのマイナー・レーベルでなかなか見つからないんですよ。

橋本:「usen for Café Après-midi」では2000年代初頭からかけていたよね。

吉本:ベース・ラインがほんとうに気持ちよくて。

山本:ジャケットもたまらないです(笑)。

橋本:これはスティーヴィー・ワンダーがマイケル・ジャクソンに書いた名曲をこのアレンジで聴かせたということに尽きるね。メロウなソウルのカヴァーだけでなく、最近はジャズ・ヴォーカルのカヴァーもスタンダード化してきたけど。

山本:ジュディー・ロバーツも『Nights In Brazil』の中でカヴァーしていましたし、グレッチェン・パラートも新作でカヴァーしていますね。

吉本:UKの33ジャズ・レコードからのカレン・レインの2006年のカヴァーは、リサ・カヴァナのヴァージョンをモチーフにしていたね。



●10.I'm The One / Helga Sosted Group

橋本:これは吉本くんがよく選曲していたイメージがあるね。

山本:デンマークのレーベルのミュージック・メッカですよね。

吉本:そう。ミュージック・メッカのほんとうに大好きなテイストだよ。スタントと並んでデンマークのレーベルにはブラジリアン・リズムを取り入れて、英語で歌うアルバムが多いんだよ。オランダのチャレンジやAレコードと並んで良質なジャズ・ヴォーカルが多い好きなレーベルだね。

山本:都会的なイメージや、アメリカのジャズ・ヴォーカルにはないヨーロッパの洒落た雰囲気がありますよね。フルートやパーカッションの響きもいい感じで。

稲葉:この演奏も、セシリア・スターリンのように、バンドにスリリングな勢いがありますよね。

橋本:僕らが大好きなイェレーヌ・ショグレンの「The Real Guitarist In The House」のヴァリエイションと言えるような、こういう世界各国の女性ヴォーカルのボサ・ジャズは、「usen for Café Après-midi」でかなり発掘したよね。

profile

橋本徹 (SUBURBIA)

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは190枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。

http://www.apres-midi.biz