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橋本徹の続『音楽のある風景』対談 Page.4

2009年9月11日 (金)

interview

橋本徹

●11.How Beautiful / Donna Regina

吉本:ここでちょっと雰囲気が変わって、切なさがこみ上げる“春から夏へ”のスウィートマウスにあたるようなドナ・レジーナ。

山本:ここで涙腺もピークに達します(笑)。

橋本:2000年以降に残された曲の中でも一番ネオアコ心をくすぐられる、言ってみればウィークエンドのアリソン・スタットン系の雰囲気だね。フックの部分がほんとうにメランコリックで、カラオケ・カルクのエレクトロニカ的な感じも加わって絶妙のバランスだし、ジャンルを超えて聴かれてほしいアーティストだな。

山本:切ないですね。ビル・ウェルズ・トリオにも通じる雰囲気ですね。

橋本:こういうジャズ・ヴォーカルでないものを一曲はさむことで、選曲の流れをつくりやすくなるんだよね。一本調子にならずに、ふっと琴線に触れる感じが生まれるというか。




●12.So Many Stars / Paula Oliveira

吉本:これも最近は見かけないアルバムだね。

稲葉:リサ・カヴァナと並んでめずらしい、ポルトガルのレーベルのアルバムですね。

橋本:ポルトガルの女性歌手がセルジオ・メンデスの英語の歌をカヴァーするのがおもしろいね。

吉本:この曲も静かなカヴァーが多いけど、こんな疾走感のあるアレンジはめずらしいよね。

橋本:リサ・カヴァナの「I Can't Help It」にも通じるパターンだね。2000年代初頭にはこういう快いテンポにアレンジされた名曲のカヴァー・ヴァージョンをみんな探していたんじゃないかな。

吉本:イェレーヌ・ショグレンの「I Thought About You」の高速カヴァーにも近い。

橋本:今回の疾走感のあるボサ・ジャズ系の曲は、僕らの中ではイェレーヌ・ショグレンが源流になっているものが多いと思うよ。



●13.When We First Met / Barbara Montgomery

吉本:これも「usen for Café Après-midi」の22時からのグラン・クリュの時間帯にかかっていたイメージが強いよね。

橋本:この曲はほんとうにいいアレンジでいい演奏だと思うな。こういう曲はヴォリュームが高ければあがって聴こえるし、ヴォリュームが低ければそれなりに雰囲気よくしっとりと聴こえるという。

吉本:それはまさに「usen for Café Après-midi」で目指しているところだし、このCDも部屋で聴くときにヴォリュームの調節によって、いろいろな雰囲気が出せると思う。

稲葉:そうですね。それにはまずいい曲であることが大前提になりますよね。

山本:フリューゲルホーンもいいんですよ。そうか、次の曲につながっていくんですね。



●14.Le Marche Aux Puces / Benoit Mansion

稲葉:見事にフリューゲルホーンでつながりました。

吉本:フリューゲルホーンやフルート、フェンダーローズやヴィブラフォンの響きは、今回の『音楽のある風景』の空気にきれいになじむね。

山本:彼はベルギーのシンガーソングライターなんですが、歌声とフリューゲルホーンとの相性が最高ですね。

橋本:彼のフランス語の声の響きもすごくいいよね。ピエール・バルーを思わせる。

吉本:このアルバムから、このやわらかな曲を取り上げるのが、『音楽のある風景』ならではの感性だと思うよ。

橋本:極めつけのワルツの名曲だと思うから、僕はこれしかないと思うんだけど、他のコンピレイションでは違う曲を選ぶのかもね。



●15.Take Five / Two For Brasil

山本:これも変拍子がなんとも心地いいですね。

吉本:デイヴ・ブルーベック・カルテットで知られるポール・デスモンドの名曲「Take Five」だけど、ブラジルのアーティストがこの曲を採りあげるのはめずらしいんじゃないかな?

橋本:ブラジリアン・テイク・ファイヴというだけでコンセプトの勝利なんだけど、スキャットもケニー・ランキンやジョアン・ドナートのように味があるんだよ。

稲葉:確かにブラジルのアーティストにしかできない感じですね。

橋本:90年代くらいまでは、アメリカのアーティストがブラジルの音楽に影響を受けたものをよく聴いていたんだけど、2000年代になって、逆にブラジルのミュージシャンがジャズを解釈したり、ジャズ・ヴォーカルで言えばデリカテッセンが典型だと思うんだけど、ビヴァリー・ケニーやクール期のスタン・ゲッツのようにやっているものがあるんだというのに気づいて、そういうものもよく聴くようになったね。

profile

橋本徹 (SUBURBIA)

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは190枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。

http://www.apres-midi.biz