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EMI クラシックス社長、特別インタビュー

2008年2月1日 (金)

——EMIには、サイモン・ラトルをはじめ注目すべきアーティストが多数所属していますが、どのようなポリシーで2008年のリリース・プランを立てているのでしょうか?

コスタ・ピラヴァッキ社長(以下CP):偉大なアーティスト達の“ベスト”のレパートリーを提供していきたいと思っています。サイモン・ラトルに関しては、まずジルヴェスター・コンサートでのムソルグスキー『展覧会の絵』があり、これはとても重要な録音です。さらに、3月にはマーラーの交響曲第9番、秋にはベルリオーズの「幻想交響曲」がリリースされる予定です。ラトルの他にも幾つかの重要なレコーディングがあるのですが、その中の筆頭としてキーシンによるベートーヴェンのピアノ協奏曲全集(コリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団)がリリースされることになっています。もうひとつ、ソプラノのナタリー・デセイがJ.S.バッハのアリアをレコーディングし、年内リリースする予定です。もちろん、生誕100年を迎えるカラヤン関連のリリースもありますけど、それはもうご存知ですね? あと、日本盤としてのタイトルですが、『CLASSICAL NOW 2008』もあります。こちらはクラシックとクロスオーバーを合わせたコンピレーション・アルバムで、現在大々的なマーケティングを展開しており、順調なセールスと聞いています。また、今後のシリーズ化も検討しています。

——キーシンついてベートーヴェンのピアノ協奏曲以外で、今のところ決まっているリリースはありますか?

CP:ちょうど今月(2008年1月)、ヴラディーミル・アシュケナージ指揮フィルハーモニア管弦楽団でプロコフィエフのピアノ協奏曲第2番と第3番を録音します。あと4月にジェイムズ・レヴァイン指揮ボストン交響楽団と共にブラームスのピアノ協奏曲第1番と第2番を録音します。

——昨年来日したアントニオ・パッパーノはコンサートで大成功をおさめました。日本でも着々と人気をのばしていますね。

CP:それは良かったです。本当にチャーミングで才能あふれる愛すべき方ですから。彼はオペラ指揮者として有名になりましたが、これからはレコーディングの企画をより大きなものにしたいと思っています。その中身は、サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団とのコンビで、ロッシーニの『スターバト・マーテル』、ヴェルディの『レクイエム』、そして幾つかの交響曲といったところです。

——新しい世代についてもお聞きしたいのですが、EMIにはどのような若手アーティストが所属しており、また、今後どのような人が登場してくるのでしょうか。

CP:それはうれしい質問ですね、喜んでお答えしましょう。まず、アルゼンチンのイングリット・フリッターとフランスのダヴィッド・フレイ。ダヴィッド・フレイのCDはヴァージン・クラシックスからリリースされます。この2人は疑いの余地なくファースト・クラスのピアニストです。また、弦楽四重奏団では、フランスからイベーヌ・カルテット(Ebene Quatuor)。素晴らしいグループで、CDはヴァージン・クラシックスから出ます。歌手にも注目すべき人材がいますよ。アメリカのジョイス・ディドナートや、ドイツのディアナ・ダムラウです。ダムラウについてはモーツァルトとサリエリのアリアのアルバムが出ていますが、この後のレコーディングも決まっています。あと、凄まじい才能の持ち主として、中国の若手クラシック・ギター奏者、シュー・フェイ・ヤンも挙げておきたいですね。そして、新人ではありませんが、エマニュエル・アイムは指揮者として本当に将来性があると思います。彼女が新しい聴衆をクラシックの世界に引っぱってきてくれるのではないかなと思っています。

——ピラヴァッキ社長はクラシックのみならず、クラシカル・クロスオーバーにも力を入れていこうと考えているそうですね?

CP:その通りです。クロスオーバーのフィールドでも常に才能のあるアーティストを探してはいますが、今のところサラ・ブライトマンや、ケルティック・ウーマン、リベラ、カール・ジェンキンス、ポール・マッカートニー、そしてティープ・パープルのジョン・ロードなどが主な顔ぶれです。

——クラシックのアーティストやクロスオーバー系のアーティストがそれだけいる一方で、EMIは膨大なヒストリカル音源も保有しています。過去の名盤が何枚も復刻されているとはいえ、多くのユーザーはもっと大々的な復刻を期待しています。現在それらのヒストリカル音源のリリースのプランは、どうなっているのでしょうか?

CP:私たちは常に過去の財産の復刻を試みています。細かいリストが手元にないのですが、これから1年間のリリースで重要なものとしては、ダヴィッド・オイストラフ、ミレッラ・フレーニ、ミケランジェリ、ソロモン、デニス・ブレイン、アンドレアス・セゴビア等のリリースが予定されています。もちろん、ほかにもたくさんありますけれども……。

——ヒストリカルのシリーズは、“Great Recordings Of The Century”がメインになるのでしょうか?

CP:それはシリーズのひとつです。ほかに重要なシリーズとして“ICONS”というものがあります。これはアーティストを中心としたシリーズです。これ以外にもスペシャル・ボックス……ジャクリーヌ・デュ・プレ、カラス、カラヤン、オイストラフなどのボックスがあります。こういったヒストリカルの分野において、私たちのチームには素晴らしいディレクターがいます。グレアム・サザンという人物です。今後この名前を知っていると便利かもしれませんよ。

——以前、北ドイツ放送交響楽団の放送音源がEMIからリリースされ、日本では大好評でしたが、このような貴重な放送音源のリリースはもう行われないのでしょうか?

CP:今、リリース・スケジュールのことは具体的には思い出せないのですが、歴史的に価値あるものがあれば常に発売しようと思っていますし、BBCとは今後もコラボレーションしていこうと話をしています。かつてテレビで放送されたクラシックのアーカイブ映像もDVDで発売する予定です。オーディオだけではなく、映像メディアの方でも、復刻を進めたいと考えているのです。

——日本のクラシック愛好家には、ヒストリカル・ファンが非常に多く、収録内容や価格を厳しくチェックします。日本はヒストリカル志向の強いお客様が多い国柄だということはご存知でしたか?

CP:日本のコレクターの性質はよく知っています(笑)。だからこそ日本に来るのが好きなんです。日本の消費者の皆様はものの善し悪しがよくわかっています。本当に真面目に良い仕事ができる国だと思っています。

——現在、世界的な規模で、若者のクラシック音楽離れが進んでいると言われていますが、この状況についてはどうお考えですか?

CP:つい先日耳にしたデータによると、今中国でクラシック音楽を学んでいる子供達の数が8000万人いると聞きました。そういう意味で、将来は明るいと考えています。が、それはさておき、本来クラシック音楽は本当に様々な年齢層の興味を惹くものです。もちろん、若い頃はどうしてもポップスに惹かれる傾向があります。私も個人的にそうでした。ですが、18、9歳の時にクラシックに出会ってからというもの、クラシック音楽への興味が増し、ポップスへの興味が薄れるという現象に見舞われました。同じようなことが多くの方達にあてはまるのではないでしょうか。ある程度人生を経てからクラシックのファンになるという印象がありますし、そういう現象というのは昔から変わらずあるものだと思います。

——クラシックCD全体のセールスについてもお聞きしたいのですが、現在のセールス規模を広げていくには今後どうすればよいとお考えですか?

CP:答えは簡単です、CDショップの数を増やすことです(笑)。昔はショップが沢山ありましたが、今は本当に少なくなりました。だからCDやレコードが売れなくなった。非常に単純な答えですけど、そういう風にも考えられますね。そして、もうひとつ、私達のビジネスの原動力というのは、“大スター”の存在ではないかと思います。過去にはカラヤン、ホロヴィッツ、マリア・カラスなどがいました。今は新しいスター達、サイモン・ラトルやナタリー・デセイ、キーシンなどがいます。やはりこのようなスター達を“大スター”にしていくことが重要なことだと考えます。

——カラヤンやカラスは本当に特別な存在でした。ある分野が栄えるにはやはり時代を象徴するスーパースターが不可欠と思われます。

CP:そうですね。“圧倒的な一人”という存在が今はいないですね。カラヤンもいなければ、パヴァロッティもいない。ああいう巨人がいないのです。

——しかし、最近はサイモン・ラトルのような新しいタイプのスターが現れたことで、状況が変わってきつつあると思います。

CP:サイモン・ラトルはカリスマ性があり、本当に多くの可能性を持っていると思っています。まだ53歳で、指揮者としてはまだ若い。これから彼の時代が来るのではないでしょうか。

——新しいスターを育てるために、どうしたらよいと思いますか?

CP:一番重要な媒体は“テレビ”だと思います。テレビに出る以上、演奏だけではなく、話すことも必要になってきます。もちろん、商業的に成功するようなアルバムを作ることも重要ですが、人々に話しかけることや、ニュースに出る価値のあることをするのがとても重要になってくるでしょう。

——日本でもテレビの影響力は絶大です。

CP:クラシック音楽とテレビというのは、今までそれほど相性のいいものではありませんでしたが、これからはどんどん変わってくるでしょうね。低俗な番組が増えてゆく中、そういうのに飽き飽きしてくる方も増えてくると思います。また、専門チャンネルの普及に伴い、クラシック音楽を聴いてもらえるようなチャンネルが増えてくるのではないかと感じています。

——CDのセールスの話に戻ります。現在、ダウンロード・ビジネスが浸透してきています。CDの売り上げと、ダウンロードの売り上げは反比例するものだと思うのですが、その辺についてはどうお考えでしょうか?

CP:私たちはまだデジタル革命の初期段階にあると思っています。これが浸透していくためには3つのことが必要です。第一に、皆様がこのダウンロードを“簡単”だと認識するレベルまで持っていかなければならない。第二に、CDと同じレベルの音質を提供できるよう技術を向上させなくてはならない。第三に、私たちが保有している音源のカタログを100%皆様に提供できるようにする。これらの3つのことがクリアされればダウンロード・ビジネスもかなり大きなものになるでしょう。

——ダウンロード・ビジネスというものは、CDにとって“脅威”ではありませんか?

CP:全くないです。私たちにとってはそれがダウンロードであろうと、CD、DVD、LP、カセットであろうと変わりませんから。

——CD発売より前にダウンロードのみ先行販売といったものが出てきそうですか?

CP:そういったケースはどんどん増えてくると思います。新人アーティストのリリースなどについては、「CDでは出さず、ダウンロードのみ」というような形も出てくると思います。

——その中でダウンロード数が多ければCD化される、と?

CP:もちろんです。ダウンロードの方で本当に成功すれば、それがCD化される可能性は十分にあります。

——ところで、DVDについてはどのようにお考えですか?

CP:DVDは非常に重要なメディアだと思っていますので、今後も増やしていく予定です。その一例として、最近メトロポリタン歌劇場と大きな契約を結び、5枚のDVDが来年発売されることになりました。ご存知かもしれませんが、ハイビジョンで配信されているライブビューイングをDVD化したものです。それと似たようなものを英国のロイヤルオペラハウスでも出しますし、クラシックのアーカイブもありますし、それとはまた別のプロジェクトもあります。DVDの分野では積極的に今後展開していきたいと思っています。

——ピラヴァッキ社長ご自身が、レコーディング現場などに顔を出して、アーティストと交流を持つことはあるのでしょうか?

CP:私は全ての所属アーティストを直接知っています。親しい方とそうでない方はいますが。レコーディング・セッションに顔を出すのは最適なタイミングではありません。アーティストは仕事(=レコーディング)に集中していますから、人間関係を築くという意味ではあまり良い場所ではありませんね。レコーディングが終わった後、一緒に食事をしたり、そこでちょっとビールやお酒をいただいたり、そういう場面で絆を深めていくのがベストだと考えています。

——ピラヴァッキ社長はずっとクラシック畑で働いてきたと思うのですが、何がそこまであなたをクラシックに夢中にさせてきたのだと思いますか?

CP:答えはとても簡単で、一番好きな音楽の世界だからです。たくさんのアーティストを知っていますし、向こうも私のことを知っている。一番居心地のいい場所ですし、今さら職種を変える歳でもありませんから。

——ちなみに、若い頃に影響を受けた作曲家なり指揮者なり演奏家、刺激を受けたレコードなどはあるのでしょうか?

CP:かなり長いリストを作ることになりますね(笑)。カラヤン、カール・リヒター、スヴィヤトスラフ・リヒテル、ダヴィッド・オイストラフ、ナタン・ミルシティン、アルトゥーロ・トスカニーニ、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、ホロヴィッツ、ルービンシュタイン、セゴビア、パブロ・カザルス、そして私自身ギリシャ出身ということもあり、ディミトリ・ミトロプーロス、マリア・カラス……ずっとリストは続きますよ(笑)。あと、シュナーベルとギーゼキングを忘れてはいけません。

——まさに“ヒストリカル”そのものですね。

CP:まあ、私が若い頃、彼らはまだ“ヒストリカル”ではなかったんですけどね(笑)。お会いした方も大勢いますよ。ちょっとしたエピソードですけど、私が音楽業界に入った第一日目のことをお話ししましょう。1973年3月のこと、その時はカナダにいたのですが、私はエミール・ギレリスのリハーサルを見ることができました。彼はベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番をやっていました。ランチの時間になると、私はギレリスのレコードを買いに行こうと思い立ちました。演奏はクリーヴランド管弦楽団、指揮はジョージ・セルの盤です。私がいつも通っていたレコード店に行くと、女性マネージャーが「クラシック売り場の人が急に辞めてしまった」と言い、カンカンになっていました。そこで「僕、ヒマなんだけど」と言ったら、その場ですぐに雇ってくれたのです。22歳の時のことです。大学に行っている間、3年間そのアルバイトをしていました。私はお客様と接しているのがすごく好きでしたね。お客様の方が詳しくて、色々教えていただきました。本当に私にとって最高の教育の場でしたし、レコード店で働くことは、音楽業界に入りたい人にとって、学ぶのに最高の場所だと思います。

——最後の質問です。ピラヴァッキ社長は2006年9月にEMIの社長として就任されたわけですが、この歴史ある会社のトップとして、EMIをどのように変えていきたいと思っているのか、何をやりたいと考えているのか、お聞かせください。

CP:おっしゃるとおり、この会社は非常に歴史のある会社です。私は110年の歴史の中で5人目の社長であり、それを考えると非常に謙虚な気持ちになります。私は、EMIという会社をより柔軟性のある、よりオープンな会社にしていきたいと思っています。同時に、アーティストの数も増やしていきたいですし、ヴァージン・クラシックスも拡大していきたい。あとは、オーディオ・ビジュアルのコンテンツをどんどん増やすこと、パッケージされているCDからデジタル配信ができるような状態にすること……私がここにいる間にそれらのことができるようになればいいなと考えています。

——ありがとうございました。


2008年1月16日 EMI MUSICにて、
インタビュー&文:阿部十三

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ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。

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