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カラヤン -人生・音楽・美学- 第VIII章

Tuesday, October 14th 2008

第VIII章 1966年〜1969年 野望の達成

文●阿部十三

「復活祭音楽祭の創設」

 1966年4月、カラヤンはベルリン・フィルを率いて2度目の来日を果たした。単身での来日やウィーン・フィルとの演奏旅行を合わせると4度目である。すでに日本でのカラヤン人気は定着しつつあったが、大半の世帯に普及していたテレビで大々的に取り上げられたこともあり、今回の来日でその知名度は全国的なものとなった。
 この年の後半は、ある大きなプロジェクトの準備に追われた。「ザルツブルク復活祭音楽祭」である。そもそもカラヤンがこの新しい音楽祭の設立を思い立ったのは1965年のザルツブルク音楽祭でのこと。『ボリス・ゴドゥノフ』を指揮していた際、幕間に突然、自分の音楽祭をやろう、自分の手でワーグナー作品を上演しよう、と閃いたという。
 ある意味、ザルツブルク音楽祭やバイロイト音楽祭を向こうに回した無謀な企てだった。失敗すれば多額の借金を背負い、大恥をかくだろう。おまけにオペラの伴奏をするのは、ウィーン・フィルではなくオペラ未経験のベルリン・フィル。この計画に反対する声は少なからずあったが、カラヤンは必ず実現してみせる、と野望に燃えていた。
 音楽祭の準備と並行して『ワルキューレ』の録音もスタート。多忙なカラヤンはリハーサルをなるべく合理的にしたいと考え、録音されたテープに合わせて歌手達が練習するシステムを採用した。これにより指揮者は必ずしもリハーサルに来なくて良くなったが、この即物主義的なやり方には大半の歌手が反感を抱いた。
 音楽祭が近付くにつれ、カラヤンは神経過敏になっていった。事故や病気で開催できなくなった時に備え、1000万シリングの保険がかけられた。契約の際、彼は保険会社からスキーと飛行機の操縦を禁止された。

「パリ管の芸術監督に就任」

 1967年3月18日、音楽祭開幕の前夜、記者たちを招待してレセプションを開催。当時の記事には「驚くべきことにカメラマンは何度もフラッシュをたくことができた」とある(カラヤンは極度のフラッシュ嫌いで有名だった)。こんなちょっとした妥協で、カラヤンは多くの記者を味方につけることができた。
 翌日、『ワルキューレ』のプレミエは大成功を収めた。またしてもカラヤンは大きな賭けに勝ったのである。同年11月にはアメリカのメトロポリタン劇場で同演目の引っ越し公演が行われ、これも評判をよんだ。
 1968年の復活祭音楽祭は『ラインの黄金』で開幕。前年以上に圧倒的な成功を勝ち取った。ザルツブルク市の名誉市民に選ばれたのも、若い音楽家を育成し、科学研究を支援するためにヘルベルト・フォン・カラヤン財団を設立したのも、この年のことである。しかし、良い出来事ばかりではなかった。7月にカラヤンの友人だった同い年の指揮者ヨーゼフ・カイルベルトが『トリスタンとイゾルデ』を指揮している最中に心臓発作を起こして亡くなったのである。カラヤン自身も60歳を迎えてから体調を崩しがちになり、愛妻と2人の娘との時間を持ちたいと考えるようになった。
だが、その反面、野望もとどまるところを知らなかった。まず、急逝した指揮者シャルル・ミュンシュの後を受け、1969年にパリ管弦楽団の芸術監督に就任。同年5月、ベルリン・フィルを率いたソ連ツアーで空前の成功を収め、9月に自らの名を冠した国際指揮者コンクールを開催。さらに、オイストラフ、リヒテル、ロストロポーヴィチといったソ連の名演奏家たちとの録音をきっかけに古巣のEMIとの仕事を再開させ、翌年にはカラヤンとベルリン・フィルが共にドイツ・グラモフォン、EMIの2社と契約するという異例の共同合意までとりつけた。人気、地位、収入の面で彼をしのぐ指揮者は、もはや一人もいなかった。
(続く)

1966年から1969年にかけての代表的録音&映像作品 ——厳選5タイトル——

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 KKDS-240(DVD)

斬新なカメラアングルと映画のような照明で「音楽の映像化」に一石を投じた傑作。当時ロックスター級の人気を誇ったカラヤンの格好良さが際立つ。もちろん演奏自体も凄い。66年収録。

リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 UCCG-9784(SHM-CD)

荒波のような響きとつんのめるような勢いで突っ切る第1楽章「海とシンドバッドの船」が圧巻。録音でここまで熱くなるカラヤンも珍しい。シュヴァルベのソロが艶やか。67年録音。

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲
ロストロポーヴィチ(vc)/ベルリン・フィル UCCG-9713(SHM-CD)

絶頂期にあったソ連の名手ロストロポーヴィチの雄渾なソロ、カラヤンのスケールの大きな指揮が生み出した名演。カップリングの「ロココの主題による変奏曲」も絶品だ。68年録音。

ベートーヴェン:三重協奏曲
オイストラフ(vn)、リヒテル(p)、ロストロポーヴィチ(vc)/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 TOCE-13077

オイストラフ、リヒテル、ロストロポーヴィチという信じ難いほど豪華なメンバーで録音された大ヒット盤。3人の強烈な個性をゴージャスなカラヤン・サウンドが包み込んでいる。69年録音。

ワーグナー:楽劇「ニーベルングの指環」
トーマス、クレスパン、ヤノヴィッツ他/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 UCCG-9765(SHM-CD)

“室内楽的”とも言われた精妙なアンサンブルと意表をつく大胆な配役(『ワルキューレ』でのヤノヴィッツやクレスパン)がワーグナー演奏の新境地を開拓。14枚組。66-70年録音。

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