ドヴォルザークはブラームスの推薦とバックアップで世に出たので、ブラームスに敬意を払って伝統的な音楽づくりをしてきた。9曲の交響曲やほとんどの作品はその路線上で作られた。
ところが、恩人ブラームスが最晩年で実質上引退した1890年代になると、にわかにワーグナーやリストの「新しい音楽」に接近し始め、歌劇での成功を目指して「ルサルカ」(1901年初演)などを立て続けに作曲したり、交響詩の分野に意欲を示すようになる。一連の交響詩群(「水の精」「真昼の魔女」「金の紡ぎ車」「野鳩」「英雄の歌」)はこの時期にまとめて作曲されている。交響曲第9番「新世界から」やチェロ協奏曲よりも後の、最も円熟した時期である。しかし、その完成度の高さの割にはほとんど演奏されないのは、ブラームス〜ドヴォルザークというプロトタイプ路線から外れているためだろうか。何とももったいない。
このCDには、これら晩年の交響詩5作が最上級の演奏で収められている。交響詩はいずれも題名から想像されるものとは異なる陰惨で怪奇な内容を取り扱っているが、それをドヴォルザークがどのような音楽に作り上げ、それによってどのような「新しい音楽」を目指したのか、実際の音楽を聴きながら想像してみるのもよいかもしれない。「ボヘミアの民族作曲家」で埋もれることを打破したかったのかもしれない。なお、最後の交響詩「英雄の歌」をウィーンで初演したのは指揮者マーラーであった。
もちろん、名高い「スラブ舞曲集」や「序曲」なども最右翼の名演である。ただし愛らしい小品たち(セレナーデ、チェコ組曲など)は収録されていない。