--- こうして見てみますと、やはり4000番台からのアルバムの楽曲が中心となっているわけなのですが、ここで、お三人方それぞれの4000番台におけるフェイヴァリット・アルバムをご紹介頂けますでしょうか?
松岡 今回カヴァーした元曲のアルバムも含めて、「Cantaloupe Island」とか、クラブ・クラシックが多いんですが、こんな感じですかね。(リスト・アップされたノートを見せて頂きました。)
--- こちらの中で、特に“ジャズ入門者”にオススメできる作品と言えば?
松岡 どれだろうなぁ・・・まぁ、でも一番分かりやすいのは、今言ったハービーの「Cantaloupe Island」が入ってる『Empyrean Isles』じゃないですかね。多分パーカッションものはかなりマニアックになるんで(笑)・・・あとは、それこそ今回カヴァーした「Ghana」が入っているドナルド・バードの『Byrd In Flight』とか、ホレス・パーランの「Congalegre」が入っている『Headin South』とかは、入門者にも聴きやすいんじゃないかなって。
--- 松岡さんのセレクトにある、エディ・ゲイル『Ghetto Music』は、かなりマニアックですね。
松岡 エディ・ゲイルの『Ghetto Music』は、単純に聴いてみたくて選んだんですけど。ブラック・スプリット丸出しで、かなりメッセージ性の強いジャケットなんですよ!これがなかなかLPで手に入らなくて・・・
平戸 4000番台では・・・僕も比較的クラシックなんですけど、スリーサウンズの『Good Deal』ですね。
--- 4000番台から、本格的にリード・マイルスがジャケット・アートワークを手掛けるようになるのですが、ジャケット・アートでフェイヴァリットを何枚かご紹介頂けますでしょうか?
松岡 音の好き嫌い、聴いたことのある無し関係なくで選んだんですけど、僕がいちばん好きなのは、ラリー・ヤングの『Into Somethin'』なんですよね。建物の前で佇んでるっていう絵ズラで。すごいかっこいいですね。
あとは、デクスター・ゴードンの『Go』とか、文字要素を強調したタイポ/ロゴ・タイプのジャケットからも結構選びましたね。
--- ブルーノートのジャケット・アートを眺めていますと、ジャズだけに限った話ではありませんが、やはりジャケットは大事なんだなと感じますよね。
一同 大事ですねぇ。
松岡 こだわり抜かれていますからね。
--- なんでも、この取材の前には、赤文字系女性誌の取材を受けられていたとお聞きしたのですが、例えば、こうしたジャケット・アートの部分も含め、「ブルーノート・フォー・レディース」のようなコンセプトで、女性にオススメできるようなブルーノート作品を挙げるとしたら、いかがでしょうか?
平戸 (笑)女性向けですかぁ・・・とは言っても、ブルーノートの作品は、結構スタイリッシュですからね。
松岡 ジャケット・アートだけでいえば、モデルの女性が写ってる作品も、結構多いじゃないですか?デューク・ピアソンの『The Phantom』だとか、ああいうのを集めたら面白いんじゃないかって思いますけどね。
--- では、単純に音だけでいくと、いかがでしょうか?
平戸 音だけでいくと、ハービー・ハンコックの『Speak Like A Child』とかいいんじゃないですかね。ガツガツに弾いてるんじゃなくて、結構、メロウなハービーが聴けるアルバムなんで。で、ジャケットもロマンチックな感じだし、裏ジャケには、二人の子供が遊んでる写真が使われてたりして。あのアルバムはいいかもしれないですよね。
松岡 あとは、あれかなぁ・・・デューク・ピアソンの黒いジャケットにコスモスが写ってる・・・『How Insensitive』。これは、かなり聴きやすいんじゃないですかね。所謂、ピアニストのリーダーものだとか、ヴォーカルが入ってるものになるんじゃないでしょうかね。でも、あえてゴリゴリのを聴いてくれてもいいんですけどね(笑)。
本文中に登場のブルーノート作品はこちら
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4 Herbie Hancock 『Empyrean Isles』
US3によるサンプリング・ネタとしても有名な「Cantaloupe Island」を収録した64年録音の4作目。マイルス・ディヴィス・クインテットのリズム・セクション、若き日のハンコック(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds)、フレディ・ハバード(Cornet)を加えたワン・ホーン・カルテットによる熱気に満ちた演奏が、所謂新主流派的に展開していく。ハービーのブルーノート期を代表する1枚。
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4 Eddie Gale 『Eddie Gale's Ghetto Music』
60年代後半から、黒人社会の過酷な現実を独特のアプローチで表現していたトランペッター、エディ・ゲイル。11人のコーラス隊、ツイン・ベース、ツイン・ドラムに、ピアノレスという奇矯(?)な編成の下、68年に録音されたブラック・パワーに満ち溢れたブルーノート初作。スピリチュアルな「The Coming Of Gwile」などは、サン・ラー好きには堪えられないだろう。それもそのはず、サン・ラー・アーケストラに参加し、その才能が開花したのだ。
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4 Larry Young 『Into Somethin'』
天才ドラマー、トニー・ウィリアムスのグループ、ライフタイムにジョン・マクラフリンと共に参加したことでも知られるオルガン奏者ラリー・ヤング。64年、ブルーノートに吹き込んだ代表作。ジミー・スミスと同じく伝統的なオルガン・トリオ+テナーという編成をとるが、「オルガンのコルトレーン」とも言われたモード手法を駆使したプレイを導入し、革新的なサウンドを作り上げた。
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4 Dexter Gordon 『Go!』
ソニー・クラークの参加が本作の価値を高めているが、その上、62年の時点で、復活し縦横無尽に吹きまくるデクスター・ゴードンのスリリングで骨太なフレーズは健在。ソニー・クラーク・トリオをバックに従えたワン・ホーンによるブルーノートへの録音。朗々と吹くバラード・プレイと、豪快に吹き上げるアップテンポの曲が交互に登場する、ファンにとっては堪らない構成の作品。
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4 Duke Pearson 『The Phantom』
60年代後期に入ってからのデューク・ピアソンは、その多彩な音楽性を発揮すべく、プロデューサーとしても活躍する。本アルバムは、そんなピアソンのいわばトータル・ミュージシャンとしての新局面を記録したもので、ピアソンのリリカルで繊細なピアノの演奏を、そのままグループで表現したところが大きな魅力。ブラジル色豊かな「Bunda Amerela」、「The Happy Eyes」は絶品。
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4 Herbie Hancock 『Speak Like A Child』
68年、ピアニスト、作曲家として名声を確立したハービー・ハンコックが、この作品ではアレンジャーとして優れた手腕を発揮する。ギル・エヴァンスのテクスチャーを拝借した、中低音重視のホーン・アンサンブル上をピアノ・トリオが自在に動き回るという趣向は斬新。
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4 Duke Pearson 『How Insensitive』
すでにこの時代になると、ピアニストというよりは、トータルなミュージシャンとして音楽に臨むようになっていたピアソンだが、その繊細な表現と描写力は、まさに“Tender Feelin's”そのもの。本アルバムでは、アイアート・モレイラ&フローラ・プリム夫妻を起用するなど、積極的にボサノヴァに取り組んでいる。
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4 『ブルーノート・アルバム・カヴァー・アート 新版』
1950年代半ばからの10数年間、モダン・ジャズが最もモダン・ジャズらしかった時代、つまりブルーノートが最もブルーノートらしかった時代のアルバム・カヴァーを、カラー図版233点のうち原寸大51点で紹介。ジャズ・ファンだけでなく、デザイナーをはじめ、すべてのクリエイターたちのバイブルともなっている1冊。
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現在のジャズとして
さりげなくヒップホップが導入されている
そういった先見の明というのが
息づいているなって思いますね
--- リード・マイルスのジャケット・アートから離れたところで、例えば、90年代以降から最近の作品に至るまでの中に、「おっ!」と思う秀逸なジャケット・アートはあったりしますか?
松岡 ・・・最近のものになると、正直あんまり知らないんですよね。やっぱり、4000番台だとか、こっちをまずは押さえたいなっていうのがあるんですよね(笑)。LAシリーズにしても相当な数がありますしね。
LAシリーズの中だと、原盤は、パシフィックなんですけど、ジャズ・クルセイダーズの『The Young Rabbits』(未CD化)は、すごい好きですね。あとは、あえてリコの『Man From Wareika』も選んでみたんですけど。ラインナップにレゲエもあるっていう洒落た感がいいですよね。僕はレゲエも大好きで、バンドもやっていたんですよ。この『Man From Wareika』のLPは、2枚ぐらい持ってるんですよ、本当に好きで(笑)。
--- 1500番台からも、同じくフェイヴァリット・アルバムを何枚か挙げていただいたのですが、逆に、クラブ・ジャズを標榜とすると、1500番台から大量の枚数をピックアップするっていうのは、なかなか難しい作業だったのではないでしょうか?
平戸 そうですね。ソニー・クラークの『Cool Struttin’』とか、本当に王道なものに限られちゃうところもありますしね。
松岡 パーカッションが入ってるものだと、サブーの『Palo Congo』とか、ホレス・シルヴァーの『Horace Silver Trio』とかですね。
--- 1500番台からフェイヴァリットを多く挙げるリスナーとなると、私たちの世代より二回りぐらいは上の、所謂”ジャズ喫茶”に足繁く通っていたような世代の人ということにもなりそうですよね。
平戸 そうですね。もろハード・バップを聴いてきたみたいな人たちでしょうね。
--- ”ジャズ喫茶”世代の人というところでは、平戸さんのお父様は、わりと1500番台をよく聴かれていたのではないでしょうか?
平戸 うちの父親は、比較的何でも聴くんですが、特にコルトレーンが好きなんで、ブルーノートのアルバムで言ったら『Blue Train』とか、あの辺はよくオススメで聴かせてくれたりしましたけどね。あと、コルトレーンがサイドマンで入ってるのがちらほらあるんで、それはよくチェックしてましたね。コルトレーンがサイドマンで入ってる作品っていうのは、1500番台までなんですよね。その後は、インパルスに行っちゃうんで。そういう意味では、僕自身も、1500番台はよく耳にしていましたね。
--- 先ほど、90年代以降のブルーノート作品には、あまり食指は伸びていないとおっしゃっていましたが、例えば、ハイ・ファイヴ、ロバート・グラスパーのような、クラブ・ジャズ・フィールドにも需要の高い、ごく最近のブルーノート・アクトの作品については、どういった感想なりをお持ちでしょうか?
平戸 それも、やっぱり、アルフレッド・ライオンの遺志が引き継がれているところですよね。ヒップホップとジャズが強く結びついて、それを洗練したカタチでブルーノートがリリースしていると。単純に、「ヒップホップ・ジャズ」みたいな括りではなくて、現在のジャズとして、さりげなくヒップホップが導入されているのを、ちゃんと具体化しているっていう部分で、そういった先見の明というのが、息づいているなって思いますね。すごくリスペクトしています。
本文中に登場のブルーノート作品はこちら
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4 Rico Rodriguez 『Man From Wareika』
70年代ルーツ・レゲエ・インスト名盤中の名盤と名高いリコ・ロドリゲスの『Man From Wareika』。ボーナス・トラックとして、当時発売されずに消えた幻の音源集『ミッドナイト・イン・エチオピア』からの傑作曲を収録。76年オリジナルLPは、ブルーノートからリリース。
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4 Sonny Clark 『Cool Struttin'』
ほとばしるファンキー・ジャズのエッセンス全てが詰まったアルバム。タイトル曲をはじめ、特に、日本で高い人気を誇るソニー・クラークの魅力を最大限に表した、58年、ジャズ史上空前の大ヒット・アルバム。ちなみに、「Cool Struttin'」とは、「気取って歩く」、「すまして歩く」の意。
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4 Sabu Martinez 『Palo Congo』
アフロ・キューバン・ジャズ大隆盛の50年代のニューヨークで、ディジー・ガレスピーらと活躍した名コンガ奏者、サブー・マルティネスの残したブルーノート史上に残る異色作にしてアフロ・キューバン・ジャズの大傑作。“マンボの創始者”と称えられるアルセニオ・ロドリゲスを共演者に迎えた本作は、単なる“リズムの饗宴”以上に内容が創造的だ。
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4 Horace Silver 『Horace Silver Trio』
タイトルを見て分かるように、1950年代初頭においては、ホレスの序列が明らかにブレイキーを凌駕しており、後のジャズ・メッセンジャーズの内紛も頷ける。実力、作曲能力、そして、売り上げ的なブルーノートへの貢献において、実は最終的にもホレスが上回っていた。本作は、そうしたビバップからハードバップへの移行期におけるホレスが輝いていた時期の演奏であり、ジャズ史上最もジャズらしいと言ってもいい作品「Opus De Funk」を収録。
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4 John Coltrane 『Blue Train』
リー・モーガン、カーティス・フラーというジャズ・メッセンジャーズのフロントを迎え、ケニー・ドリュー、ポール・チェンバース、フィリー・ジョー・ジョーンズをリスムに起用し制作された、ジョン・コルトレーンという存在を明らかにした作品。ブルーノート・レコードのカラーが、ほんの一瞬コルトレーンと一致した稀有な瞬間を捉えた、今から考えると貴重な録音。
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4 High Five 『Five For Fun』
2002年に結成し、ファブリッツィオ・ボッソを中心とした5人組ハイ・ファイヴの通算3枚目となるブルーノート・デビュー作品。各々のエネルギッシュでパワフルで爽やかなプレイ、さらには、その高いテクニックには注目度大。オリジナル曲に、シダー・ウォルトン、マッコイ・タイナー等の楽曲を交えた超クールな1枚。
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4 Robert Glasper 『In My Element』
ミニマルなクラブ・ミュージック然としたセンテンスで新たなるジャズの地平を切り拓く、新進ピアニスト、ロバート・グラスパーの'07年ブルーノート2作目。レディオヘッド曲、ジェイ・ディー追悼曲を交えつつ、サム・リヴァース「Beatrice」、ハービー・ハンコック「Maiden Voyage」などでは、これまでになかった斬新な解釈を聴かせる。”新感覚ピアノトリオ作品”の看板にウソ偽りなしの秀逸作品。
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