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小西康陽「和モノ」について -前編

Tuesday, May 20th 2008




ピチカート・ファイヴでの活動期から、作曲家、編曲家、プロデューサー、リミキサー、DJとして、日本の音楽シーンを刺激し、牽引し続ける小西康陽さん。

今年4月、コロムビアレコード創立100周年を目前にした、「コロムビア*レディメイドのコロムビア100年。」と題した小西さん監修の紙ジャケ復刻シリーズがスタートということで、今回、無類のレコード・コレクターとしても、日々是レコ屋に足を運ぶ小西さんに、「和モノ」の魅力をお聞きし、さらには、秘蔵のコレクションをご紹介していただくこともできました。レコード・コレクター紳士録とも呼ぶべき、レコ愛溢れた興味深いお言葉は、まさにヴァイナル・アスリートたちの明日への活力!

まずは、その前編をお楽しみください。


  -- 小西康陽 --

高浪敬太郎(g,key,vo)、鴨宮諒(key)、佐々木麻美子(vo)らと1984年に結成したピチカート・ファイヴの頭脳として、アイドル/歌謡曲、GS、モッド、ソフト・ロック、R&B、ソウル、ボッサ、ゴダール、サンプリング、コラージュ、TV・・・様々なキーワードを用いたポップ・サウンドを発信。その後、88年から90年までは、田島貴男(vo)が在籍し、91年には、野宮真貴(vo)が加入。2001年に解散するまで、東京・音楽シーンの最重要ユニットとして活躍。解散後も、その独自のポップ・センスと幅広い知識を活かし、数多くのアーティストの作詞、作曲、編曲、プロデュース、リミックスを手掛けてきた。また、屈指のレコード・コレクター+映画好きとも知られ、その蓄積された豊富なアイディアと饒舌な文章で、所謂「レコメンド本」系のはしりとも言えるコラムやエッセイ等を執筆。同時に、コンパイラーやクラブDJとしても、国内外で高い評価を得ている。

小西康陽×常盤響『いつもレコードのことばかり考えている人のために。』

小西康陽×常盤響
『いつもレコードのことばかり考えている人のために。』

うたとギター。ピアノ。ことば。Columbia Redymade サンプラー

小西康陽プロデュース
『うたとギター。ピアノ。ことば。』

2000年には、自らの個人事務所レディメイド・エンタテインメント内にプライベート・レーベルを設立し、クレイジーケンバンドの作品などをリリース。2001年には、レディメイド・インターナショナルを設立し、池田正典、夏木マリ、野本かりあ等の作品をリリースしている。

そして2008年4月、コロムビアレコード創立100周年を目前に、「コロムビア*レディメイドのコロムビア100年。」と題した小西康陽・監修の紙ジャケ復刻シリーズがスタート。第1弾は、石川晶、沢田駿吾といったニッポン・ジャズの大名盤から、フォンティーヌ・シンガーズ、サンドラ・アレキサンドラといった、さすがの選球眼と唸るしかないレアな名品まで、計9タイトルがリリース。

> 「コロムビア*レディメイドのコロムビア100年。」第1弾はこちら

デザイナー/フォトグラファー、またDJ/レコード・コレクターとしても知られる常盤響との共著『いつもレコードのことばかり考えている人のために。』も刊行される。全160ページフルカラー仕様で、コレクター人生を通じて入手したレコードの中から厳選した1500枚についての解説、さらには2人の長時間におよぶ対談も掲載されている。

また、コロムビア*レディメイドからは、「アーティストの皆さんへの、作曲家/編曲家/プロデューサーであるぼくの売り込み用サンプラー」と本人曰くのレーベル・ショウ・ケース作品『うたとギター。ピアノ。ことば。』がリリースされている。




-今回、「コロムビア*レディメイドのコロムビア100年。」の第1弾として、9タイトルが復刻されたのですが、セレクトされる上で、どのようなテーマやコンセプトをお持ちになっていたのでしょうか?

「コロムビアの100周年ということで、音楽をわりとマクロな視点で見てみたいなと思ったんですよ。ものすごい数のカタログを持っている会社なので、総括的に網羅できるシリーズにしたいなと思って。ただ一方で、シリーズが続くためには、やっぱり第1弾が、ある程度「派手」だったり、セールスも伸びないといけないだろうなと思って、このラインナップになりました。」

「今回はジャズや、所謂「和モノ」といったようなカタログばかりですけれど、それは、あくまで狙ったところがあって。だから、最終的には、もっと全体的に(様々なジャンルのものを網羅した)幅のあるラインナップにしたいなと思っているんですけどね。」

-小西さんのコンポーザー/アレンジャーからの視点で、最も興味深かったり、勉強になった作品というと?

「フォンティーヌ・シンガーズ 『ニューサウンド '70』、サンドラ・アレキサンドラ 『サンドラと12人の侍たち』、ジュヌ・エトワール 『ニュー・ヤング・コーラス』 、この3枚かな。」

-『ニューサウンド '70』のいずみたくさんは、やはり多大な影響を受けられたと。

「そうですね。いずみたくさんは、すごいプロデューサーだと思っていますね。自分がそうなりたいという気持ちもあるぐらいに。」

-若い世代のリスナーにも、今回の復刻アイテムは特に耳にしてほしいのではないでしょうか?

「やっぱり、音楽をあまりジャンルで括って、聴かないでほしいんですよ。特に最近の若いコレクターの人やDJって、自分の好みをかなり絞って聴くじゃないですか。僕の本当の狙いは、逆のベクトルのところにあるんですよ。今、良さが分からなくても、とりあえず聴いておいてほしいみたいな感じなんですよ。いつか、音楽って分かるんですよね。例えば、飯吉馨さんの『ソウル・トリッパー』って、昔から持っているんだけれど、昔は良さが分からなかったもん(笑)。飯吉馨さんっていう人にすごい興味があって、90年代半ばぐらいに初めて聴いたんだけれど、正直、なるほどねぐらいのものだったんですよ(笑)。でも、これ、意外と売れているんですよね。不思議なんだよな(笑)。」

-20年の時を経て、聴こえ方も変わってくるという・・。

「そうなんですよ。だから、今、即戦力ではない音楽も聴いて欲しいんですよね、本当に。紙ジャケで出したっていうのも、そういう部分があって。買わないとなくなっちゃうでしょ?だから、とりあえず買っておいてほしいんですよ。で、良さが分かったりするのは、ゆっくりで構わないんですよね。」

-むしろ、内容を分かってて買うよりも、ジャケットに惹かれて買ったり、興味本位で買ってみたりという方が、自然だったりするんでしょうね。

「そうそう。そういうのが理想ですね。だからね、音楽にとって一番大切なものは、僕は好奇心だと思っているんですよ。その好奇心をくすぐるものとして、ジャケットがあるんですよね。今回の9タイトルは、特に狙ったわけではなく、たまたま全部ダブル・ジャケットだったんですよね。」

「ある種、僕も含めて、かなり奥まで行ったレコード・コレクターというのは、自分が見たことのないレコードは全部欲しいんですよ(笑)。つまりそういうことなんですよ。最近の若い人って、誰かが何かで紹介してたとか、そういうので買うことが多いじゃないですか。でも、そのもうちょっと先まで行くと、とにかく見たことないものは、全部買うっていう感じになると思うんですよね(笑)。」

-聴いたことがないではなくて、見たことがない。

「そうそう。極端な話、見て聴かなくてもいいわけだし。そこまで、皆さん早く来て欲しいですね(笑)。」


フォンティーヌ・シンガーズ / ニューサウンド '70
>フォンティーヌ・シンガーズ 『ニューサウンド '70』

「見上げてごらん夜の星を」、「いい湯だな」から、アニメソング「ゲゲゲの鬼太郎」まで、
作曲家としてセルフ・プロデュースの才に長けた、いずみたくの1970年発表作品。終生
に渡って日本のスタンダード・ソングの必要性と、こだわりを標榜し続け、自らそれを実践
した。




Sandra Alexandra / サンドラと12人の侍たち
>サンドラ・アレキサンドラ 『サンドラと12人の侍たち』

セクシーな容姿と、魅力的なハスキー・ヴォイスで話題を振り撒いた「元祖黒船」リズム
&ブルース・シンガー、サンドラ・アレキサンドラの1970年作品。川口真、浜口庫之助、
筒美京平、中村八大といった当時の歌謡界を代表するヒット・メイカー12人の楽曲を歌っ
た日本独自企画盤。




ジュヌ・エトワール / ニュー・ヤング・コーラス
>ジュヌ・エトワール 『ニュー・ヤング・コーラス』

日本のシャンソン歌手の草分け、深緑夏代の門下生によって結成された7人組コーラス・
グループ、ジュヌ・エトワールが、吉村英世クインテットとシャルル・オンブル楽団の伴奏
を得て1969年に録音した作品。「恋はみずいろ」、「想い出の瞳」他、ビージーズ曲や
「さくらさくら」などをユニークにカヴァー。




飯吉馨 / ソウル・トリッパー
>飯吉馨 『ソウル・トリッパー』

ガロ楽曲などの編曲者としても知られるジャズ・ピアニスト、飯吉馨のリーダー・ユニット、
The Wip(ウイップ)の1968年録音作品。飯吉のソウルフルなオリジナル楽曲他、ビートルズ、フランシス・レイ、ピート・シーガーのカヴァーなどを交えた幅広いジャズ・ロック・ス
タイルを聴かせる。




いずみたく / このままでいいのだろうか
>いずみたく 『このままでいいのだろうか』

いずみたくが、自身のレーベル=ガーリック・レコードから71年にリリースした唯一の自
作自演作品。ほぼ全ての詩曲を書き下ろし、ヴォーカルもすべていずみ自身が担当。ジ
ャズ、ブルースをベースとして世情、人生をシニカルな視点で捉えたペーソス溢れる大人
のための作品集。和モノ定番「手にハンマーを」収録。






-そのお話に関連して、「ジャケット・アート」で小西さんが気に入られている「和モノ」の作品というと?

「ついこの間買ったんですけれど、都はるみの二十歳になった記念に作られたレコードで、『思い出に咲く花〜二十才をむかえて』というのがあって、それは、アルバム1枚が全曲書下ろしのコンセプト・アルバムなんですよ。東宝のシナリオ・ライターの人がシナリオを書いて、それに基づいて、作詞家の石本美由起さんと、作曲家の市川昭介さんが書き下ろした曲が入っているんですよ。全8曲で、曲と曲の間を、都はるみ自身のナレーションでつないでいるというコンセプト・アルバム。ジャケットは、中を開くと、20ページの撮り下ろしの写真が入っているんですよ。その写真が、すごくかっこいいんですよ。」

「それから、もう1枚、同じようなスタイルで、中に20ページのブックレットが付いている、舟木一夫の『その人は昔』っていうレコードがあるんですよ。そのジャケットもまたヤバい!実物はないんですけど、これ(発売前の『いつもレコードのことばかり考えている人のために。』を見せていただき、)で常盤響さんが紹介していて。これなんですけど、舟木一夫の写真が1枚もないよっていう(笑)。芸術祭参加作品ですね。内容はまぁまぁ(笑)。ちょっと重いんだよね。ここまでいくと、ジャケが良すぎて、もう聴かなくてもいいって感じですよね(笑)。」

「さらに、常盤さんが持っているもので、千賀かほるの『青春のシルエット』、それから、水垣洋子の『洋子のひとりごと』。どっちもブックレットが付いているんですよ。『洋子のひとりごと』は、ハッキリ言って中身はヒドイんですが(笑)、僕はこれを是非復刻したい!」




-話が前後してしまうのですが、小西さんが初めて、こういった日本の歌謡曲やジャズを耳にしたのはいつ頃だったのでしょうか?

「1969年ですかね。やっぱり、いずみたくさんが最初だったんですよね。ピンキーとキラーズ。当時の小学生は、全員ハマってましたけどね。」

-今回の復刻アイテムと出会ったのは、いつ頃になるのでしょうか?

「今回、初めて出会ったのもありますよ。サンドラ・アレキサンドラ 『サンドラと12人の侍たち』とか。現物は持ってないです。よく聞かれるんだけど、この(9タイトルの)現物、全部持ってるって思われてるのかな(笑)?そんなヤツいないと思うんだけどなぁ(笑)。要するに、持ってないから欲しいっていうのもあったんですけどね。ジュヌ・エトワールは、持ってたんですけどね。」

-サンドラ・アレキサンドラ は、原盤LPを見たことないですねぇ。

「これは、本当に見たことないですよね。The Hairのあいさとうさんが持ってたんですよ。聴かしてくださって、「うわぁ、スゲエ!」って思ったんですよね。」


ピンキーとキラーズ / 恋の季節(スーパー・セレクト昭和40's)
>ピンキーとキラーズ 『昭和フォーティーズ - 恋の季節』

ピンキーとキラーズのベスト・アルバム。デビュー曲にして、歌謡史に残る空前の大ヒッ
ト曲「恋の季節」は、いずみたくが作曲。小西さんも「最高のソフト・ロック」と絶賛の「恋
人の讃歌」は、いずみの弟子でもあった渋谷毅が作曲を担当。パンチの効いたピン
キーこと今陽子の歌唱で「バラが咲いた」などのカヴァーも楽しめる。




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