橋本徹の続 『素晴らしきメランコリーの世界』対談 【3】
Friday, December 24th 2010
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稲葉:後半に入って、エレクトロニカ〜フォークトロニカ系のアーティストもうまく登場してきますね。
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橋本:やっぱりそのへんは2010年ならではの感じというか、電子音とかノイズとかが温かみのあるメランコリーやアンビエントになっている音楽ってすごくここ何年かの成果だと思うんですよね。ドールボーイやロング・ロストは特にそういうものの代表として選んだというか。何て言うのかな、音響センスの素晴らしさや、音をトリートする行為と楽器を演奏する行為のバランスという意味でもね。ドールボーイならタンと交流があって、ロング・ロストならサヴァス&サヴァラス直系だったりして、どちらも僕がすごく好きなアーティストの兄弟ともいえる2組をここに収録できてよかったなと。
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山本:タンを引き合いに出すなら、やっぱりニック・ドレイクともつながっていきますね。あと、前回の『ピアノ&クラシカル・アンビエンス』に入っていたストームスのような流れもありますね。
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橋本:ああいうエレクトロニカともアンビエントともつかないような音楽って、実際家で流している時間がとても長いので。聴くともなしに聴いているというか。昨夜もハロルド・バッド/ブライアン・イーノ/ダニエル・ラノワやティム・ストーリーを聴いていて。今回はそれこそブライアン・イーノとかクラスター&イーノとかの現代版というかね。
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山本:既成の概念でのエレクトロニカとは解釈が違って、あくまでSSW的だったりブラジル音楽的だったりするところも橋本さんの選曲の特徴ですね。
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橋本:やりすぎてないことが重要なのかもね、「素晴らしきメランコリーの世界」では(笑)。ギターを爪弾くようにエレクトロニクスを操っているというか、機材を操っていても生楽器を弾くように接している感じだよね。
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山本:生楽器のような温かい感じがして、例えばリチャード・クランデルとかと並んでいても違和感がないですよね。民族楽器とエレクトロニクスが一緒に並んでいるという。
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橋本:まさにそうですね。リチャード・クランデルのムビラや、彼がその前に弾いていたジョン・フェイヒーみたいなギターとか、アンビエントやミニマル・ミュージックにも通じるような内省感にも繋がっていきますね。それから『美しき音楽のある風景〜素晴らしきメランコリーのアルゼンチン』に収録したアレハンドロ・フラノフのメディテイティヴな作品とか。
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稲葉:特にロング・ロストのこの曲は「ジムノペディ」の旋律を元にしているというのもあって、今回の選曲コンセプトに相応しい曲ですね。
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橋本:ロング・ロストにはエクスペリメンタルな要素もあって、そういう曲があることによって80分間の構成が締まるというのもありますしね。ガール・ウィズ・ザ・ガンも同じような構造のアーティストで、メロディアスなセンスと温もりのあるエレクトロニクスの使い方が絶妙で。
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山本:これはイタリアのジョルジオ・トゥマの作品ですが、彼自身も自分が書いた一番美しい曲だと言ってますね。
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稲葉:ガール・ウィズ・ザ・ガンからピッポ・スペラへいくところも素晴らしい流れですね。浮遊感というか、白昼夢感があって。
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橋本:ここは驚くほどよく合いましたね。自分でもこの時空を越えた相性のよさをひらめいたときは嬉しかったです。
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山本:浮遊感というのは今すごく重要ですよね。ヴァシュティ・バニヤンがアシッド・フォークとして再評価されたのも、もしかするとあの浮遊感を指して言われているのかもしれません。ソフト・サイケにも通じるような。
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稲葉:『ピアノ&クラシカル・アンビエンス』では透明感というキーワードがしっくりきましたけど、今回はギターをフィーチャーすることで本当に浮遊感が際立ちましたね。
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橋本:確かに、揺らぎとか、歪みみたいなものが気持ちいいという感覚はとても重要だと思います。目の前の風景が揺らぐ感じというか、白昼夢的な幻想感。やっぱり対談はやってみるもんですね(笑)、色々と意識してなかったことが見えてきました。
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稲葉:続くアーリー・ソングスとドゥルッティ・コラムの相性も抜群ですね。
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橋本:この2曲は、20年の時を超えて兄弟のような雰囲気がありますね。
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稲葉:スコットランドとイングランドということで、アメリカとは違う温度感の低い牧歌的な感じがあります。
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橋本:川のせせらぎや田園風景なんですよね。それと、ドゥルッティ・コラムのヴィニ・ライリーって曲によってはノイジーだったりピアノをメインにしたりするじゃないですか。そういう感覚もドールボーイやロング・ロストとかガール・ウィズ・ザ・ガンやアーリー・ソングスの先輩格と捉えられるかなと。高校生の頃ライヴを観に行って40分で終わったことがあったのも懐かしい思い出ですけど(笑)。
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稲葉:ヴィニ・ライリーは30年続けていて創作活動のペースが落ちないのもすごいところですね。
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橋本:彼の曲のタイトルにはよく「スケッチ」という言葉が使われるけど、そういう感覚で音楽を日記のように記録している気もする。SSWと同じような感覚で、日常を音楽で綴る、みたいな。
- 素晴らしきメランコリーの世界
〜ギター&フォーキー・アンビエンス - 「心の調律師のような音楽」をキーワードに、あらゆるジャンル/年代を越えてグッド・ミュージックを愛し、 必要とする人々によって起こった2010年の静かなるムーヴメントの最後を飾る、橋本徹(サバービア)選曲・監修の究極のメランコリック・コレクションの第2弾!
素晴らしきメランコリーな3枚
「素晴らしきメランコリーな3枚」と題して、橋本徹氏、稲葉昌太氏、山本勇樹が「素晴らしきメランコリーの世界」のコンピレイションには惜しくも収録されなかった作品を中心に、2010年のメランコリックな愛聴盤を選びました。
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- 素晴らしきメランコリーの世界
〜ギター&フォーキー・アンビエンス - 2010年12月29日発売

橋本徹 (SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは200枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。



