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橋本徹の続 『素晴らしきメランコリーの世界』対談 【4】

2010年12月24日 (金)

interview

橋本徹の続 『素晴らしきメランコリーの世界』対談

山本:ランブル・フィッシュは優しく穏やかな口笛とハミングから、後半に向けて気分を高揚させるような展開になっていて、いよいよこの辺りからクライマックスですね。ここでマット・デイトンとクリス・シーハンによるベンチ・コネクションも登場します。このアルバムは今年本当に聴きましたよ。

稲葉:元々は2003年のリリースでしたけど、再発見してHMV渋谷で今年だけで100枚以上売ったという。

山本:廃盤かと思っていたら、アーティストがライヴでの販売用に持っていた最後のストックがあったんですよ。

橋本:1年ぐらい前に聴いて大感激して、すぐに山本さんに情報をお伝えしたんですよね。そこからの山本さんの動きが早かった(笑)。それにしても、この素晴らしいアルバムをあのお店で100枚以上売ったというのは、本当に素敵なことだなと思いますよ。

山本:HMV渋谷が閉店するときに、「次はいつ買えるか分からないから」といって何枚かまとめ買いした方もいらっしゃいました。

稲葉:そうしたくなるのも分かるくらいいい作品ですよね。青春とか友情というような言葉が凝縮されたような。

山本:青春といえば、今日はこんなものも持ってきたんですよ(ここで雑誌「SiFT」1996年2月号のために橋本徹が責任編集した特集「Soul Folk In Action」のコピーを取り出す。ベンチ・コネクションのメンバーであり、元マザー・アースのマット・デイトンの当時新譜だったソロ・アルバム『ヴィレジャー』を始め、ニック・ドレイクなどの旧譜まで幅広く紹介した、「すばメラ」のルーツともいえる内容)。

橋本:おおっ! 懐かしい! 僕が昔、責任編集していた連載の特集ページじゃないですか。これはさすがに自分でも忘れていたなあ。『ヴィレジャー』は95年夏の思い出のレコードですよ。今でもベンチ・コネクションと並列して聴けちゃいますね。やっぱり僕はマット・デイトンという男がずっと好きなんだろうな。

山本:この特集は何回も読み返しましたね。ニック・ドレイクもマット・デイトンもここから繋がっていって、英国フォークの伝統というか、「すばメラ」のルーツというか。こういう個人的な思い出もあって、ベンチ・コネクションは特にとても思い入れが深いんです。

橋本:いやぁ、本当にいいものを思い出させていただきました(笑)。でも、こうやって見ると、現在に至るまで、マット・デイトンはずっとマイ・ペースで好きな音楽をやり続けてきたんだなとよく分かるね。彼はマザー・アースで一時代を築いたけど、ライフワークのように好きな音楽を作り続けているだけで。

稲葉:今回のコンピに収録されたアーティストには、そういうスタンスのミュージシャンが多いのも特徴だと思いますね。サン・キル・ムーン名義で活動しているマーク・コゼレクしかり、ウィリアム・フィッツシモンズしかり、ヴィニ・ライリーしかり。

山本:孤高の存在というか。

橋本:うん、孤高は重要ですね。孤高でいることの大変さみたいなものって今すごくあるじゃないですか。そういった人たちを讃えたい、応援したいっていう気持ちはすごくありますね。

稲葉:それは「素晴らしきメランコリーの世界」のコンセプトの基本にある想いのような気がします。そして、現在はこういったアーティストの活動が困難になってきているのもまた現実だと思います。そういった状況の中で、彼らはとても前向きなメッセージを発していますね。さて、最後はフレンチのオースティンの「ドルミール(おやすみ)」です。

橋本:最後の3曲は光というか、希望が見えるような感じにもっていけたらいいなと。「900年のセレナーデ」で始まって「ドルミール(おやすみ)」の親密な男女デュエットで終わることで、心安らぐ感じになればと。

山本:ストーリー性がありますし、ヴァラエティにも富んでいて、こんなコンピなかなか他にはないですよ(笑)。すごい選曲ですよね。

橋本:コンセプトが強いので、アーティストそれぞれはあまり知られていなくても成り立つのかなっていうのが今回はあって。

山本:音楽の知識がない人でも気持ちよく聴いてもらえそうですし、長く聴き続けられますよね。アプレミディ・レコーズのコンピは全てにおいてそういうエヴァーグリーンな魅力がありますけど。

橋本:トレイシー・ソーンのソロやフェルトとか、ギターの残響みたいな音が、17〜18歳くらいのときに聴いていてすごく沁みてきたんですけど、そういう切ない、瑞々しい感覚を大切にしながら、もう40代という(笑)わびさびの意識もまじえて選曲したつもりではありますね。

山本:パット・メセニーやラルフ・タウナーなどのECM系のジャズや、ベン・ワットの『ノース・マリン・ドライヴ』が好きな人にもこのコンピは聴いて欲しいですね。

稲葉:トニーニョ・オルタやエグベルト・ジスモンチなどのブラジル音楽が好きな人もぜひ。

橋本:僕はこのコンピをニック・ドレイクとホセ・ゴンザレスに捧げたいと思います。

素晴らしきメランコリーの世界
〜ギター&フォーキー・アンビエンス
「心の調律師のような音楽」をキーワードに、あらゆるジャンル/年代を越えてグッド・ミュージックを愛し、 必要とする人々によって起こった2010年の静かなるムーヴメントの最後を飾る、橋本徹(サバービア)選曲・監修の究極のメランコリック・コレクションの第2弾!




素晴らしきメランコリーな3枚

「素晴らしきメランコリーな3枚」と題して、橋本徹氏、稲葉昌太氏、山本勇樹が「素晴らしきメランコリーの世界」のコンピレイションには惜しくも収録されなかった作品を中心に、2010年のメランコリックな愛聴盤を選びました。

profile

橋本徹 (SUBURBIA)

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは200枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。

http://www.apres-midi.biz