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Review List of 遊悠音詩人 

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  • 1 people agree with this review
     2013/08/10

    交響曲第1番の初演の失敗からノイローゼに陥ったラフマニノフが、ダーリ博士の催眠療法によって気力を取り戻し、作曲家として再起を賭けたことで知られるピアノ協奏曲第2番。であるならば、人生の酸いも甘いも表現しつくすかのようなリヒテル盤が名盤の筆頭格になることは疑いがない。ただ、リヒテルを支えるヴィスロツキ&ワルシャワ国立管がいささか力不足で、完全にリヒテルに呑まれている感じは否めない。その盤に併録されたチャイコフスキーになると逆に、カラヤン&ウィーン響がでしゃばりまくり、これまた波長があっていないように感じる。ではクライバーンはどうか。結論からいうと、かなり楽観的な演奏である。曇りがなく明晰で、特にチャイコフスキーは優秀な録音も相俟って名演の一つに数えられよう。一方ラフマニノフになると、陰りの表現に弱いのも事実。バックのライナー&シカゴ響も、上手いのだが今一歩人間味に欠けるところがある。杓子定規な合奏は、ただ楽譜を体よく音に置換しただけ。本来、表現の手段であるべき技術が、完全に目的と化している。これでは本末転倒だ。音質のよさを勘定に入れても、せいぜい“すばらしい”止まり。

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  • 3 people agree with this review
     2013/08/09

    ミケランジェリのピアノの美しさといい年代離れした録音の優秀さといい、素晴らしい。問題はグラチス&フィルハーモニアのバック。完全無欠なミケランジェリを支えるには余りにお粗末なアンサンブルだ。特にラヴェルの方の管楽器が危なっかしくて聴いていられない。フルートやピッコロ、クラリネットのフィンガリングがコケているし、トランペットもモロに音を外している。トロンボーンも響かない。しかもこれらが調和せずでしゃばりあうのが頂けない。ミケランジェリとしては、チェリビダッケをバックにつけたライヴ映像が残っているが、音源の状態が良ければ是非CD化して欲しいと思う。これこそ、完璧なラヴェルと信じているからだ。

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  • 4 people agree with this review
     2013/08/09

    冒頭の一音から、「これぞミケランジェリ!」というべき究極の美音に惚れ惚れ!不純物ゼロの音の結晶であり、ピアノという楽器からここまで繊細至極なニュアンスを引き出し得たミケランジェリ。クリスタルのように煌めく高音から、鐘のように余韻の長い低音まで、隅々までコントロールされ尽くした打鍵。しかも本番一発撮りでこの完成度である。有名なジュリーニとの共演も良かったが、ここでのミケランジェリは更に上をいく。チェリビダッケがこれまた素晴らしい。壮年気ならではの中庸のテンポの中にも、後のミュンヘン時代に極めた精妙さがそこかしこに垣間見える。特に内声部の豊かさは目を見張るばかりで、ここにこんな音が隠れていたのか、こんな響きが作れるのかという驚きの連続である。特に《皇帝》は優秀なステレオ録音も相俟って、ミケランジェリ、チェリビダッケ双方の明晰なアプローチが手に取るように分かり、大満足だ。対するシューマンはモノラルなのが玉に傷だが、第2楽章の繊細さは他の追随を許さないだろう。静的な美しさを持つオケと、官能的な美しさを持つピアノ。芸風こそ違えど、共に完璧を指向する点では一致しているので、破綻するどころか、却ってアンニュイな世界に聴き手を誘ってしまう。稀有な才能だと思う。

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  • 4 people agree with this review
     2013/08/08

    「神が見えた」。胡散臭い言い方かも知れないが、他に言葉が思い浮かばない。聴き終えた瞬間、忘我の境地にいた自分がいた。拍手が始まるまでの長い“間”でようやく我に帰り、ふと「神が見えた」と呟いた。特に終楽章コーダ。一歩一歩踏み締めるような弦の刻みに乗って、金管が虚空めがけ上昇していく。得体の知れない高みに登っていくような、あるいは深遠を覗き込むような、いずれにしても神秘そのものであった。それくらい、スケールの大きな演奏だ。総演奏時間84分、CD2枚組という破格の遅さゆえ、賛否両論は避けがたいかも知れない。しかし、その響きの透明感を、何と評したらよいのだろう。音のいちいちが見えるような、完璧な音程とアンサンブルはもはや神憑り的!そして、一つ一つの音をきっちり鳴らすことによって、それらが音楽理論上どういう意味を持つのかを、明確に示してくれるのだ。つまり、ミクロまでこだわりつつ、総体としてマクロな音の大伽藍を築き上げるというのが、チェリビダッケ&ミュンヘン・フィルなのである。加えてムジークフェライン特有の残響の長い音響特性がプラスに働き、彼らの持つ透明感に磨きをかけている点も忘れてはならない。もっとも、明瞭窮まる音響のため、意外にも粗さを感じる部分も無きにしもあらずで、その点ではEMIの1988年盤に分があるかも知れないが、それを差し引いても、当盤の価値は計り知れない。

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  • 6 people agree with this review
     2013/08/08

    始めに言っておくが、私は長いこと、数多あるクラシック音楽のうち、唯一、宗教音楽だけは好きになれないでいた。おおよそ「困った時の神頼み」程度の信仰心しか持たない日本人がやるとどうにも胡散臭いし、逆に、余りに信仰心が強すぎる人がやると感情過多になってハーモニーの均衡が崩れる。そんなことがあって、ずっと距離を置いてきた。しかし、最近チェリビダッケ指揮の《第九》を聴いて、合唱の余りの美しさに心奪われてしまった。信仰云々を脇に置いて、純音楽的な美しさを獲得していた。これなら、今まで拒否反応を示してきた宗教音楽も聴けるかも知れないと、意を決して(?)購入。歌詞の内容はさておき、純粋に響きの美しさに酔いしれることが出来た。合唱とオケが一体となって、完璧としか言えないほどのアンサンブルと安定した音程を獲得、その結果として、清浄な世界を創出することに成功している。殊にモーツァルトとフォーレが絶品!併録の序曲では《マイスタージンガー》が白眉の出来で、モチーフの掛け合いなど実に見事だ。金管も咆哮しているにも拘わらず少しも威圧感を感じず、むしろ音の一つ一つが手に取るように分かるほどの透明感を獲得している辺り、さすがチェリビダッケである。それから《ウィリアム・テル》も凄い。冒頭のチェロのソロといい後半の有名なファンファーレといい、よくぞここまでというほどの正確な音程に仰天!《モルダウ》など、メロディの裏を支える細やかな弦がまるで水のうねりのようだし、濁流を過ぎて大海に出る瞬間の音は、視覚的な変化までも表現するかのようだ。遅いテンポに嫌悪感を抱く人もいるだろうが、正しい音と豊かな響きを堪能したいなら、是非お聴き頂きたい。

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  • 11 people agree with this review
     2013/08/01

    ヴァントのブルックナーは精緻である。散りばめられたモチーフにきちんと意味付けをし、終曲にそれらを統合してみせる。個人的には、ヴァントのアプローチは北ドイツ放送響との演奏でフルに発揮されるものだと思うが、このミュンヘン・フィル盤も負けてはいない。もっとも人によっては、ベルリン・ドイツ響とのライヴ盤を高く評価することもあるだろうが、ベルリン・ドイツ響のアンサンブルはやや荒削りであり、覇気には優れているものの、ヴァントが意図したであろう精緻さをどれだけ再現しているのか疑わしいといえる。さて、ミュンヘン・フィルのブルックナーと言えば勿論チェリビダッケの名が挙げられるだろう。EMIから廉価盤BOXが出たし、ALTUSから出ている来日公演盤は名盤として名高い。チェリビダッケのアプローチは、極端に遅いテンポながら音の一つひとつを完璧に鳴らし切ったものだ。とりわけ音程とアンサンブルは、殆ど神業としかいえないほどの正確さだ。それによって、全ての音が見えるほどの透明感が確保され、モチーフの細部まで明瞭に聴き取れるのだ。それでいて響きの重厚感にも事欠かず、殊に金管の咆哮やティンパニの強打が素晴らしい。一方ヴァントはというと、チェリビダッケに比べてややスリムな音響指向である。チェリビダッケのように随所で管楽器を浮かび上がらせるようなことはせず、あくまで弦楽器主体の滑らかな合奏を指向している。テンポ運びもキビキビとしており、とても晩年の人間の業とは思えないほど生き生きとしている。それでいて、音楽作りはあくまで精緻なのだ。恐らくヴァントは、一度全ての音を分解し、それぞれに意味を与えて組み立て直しているのだろう。そうした細かい要求に応えうるには、オケに相当な力量が必要だが、さすがチェリビダッケに鍛え抜かれたオケだけあって、ヴァントの意図を充分に再現してみせていると言えよう。ミュンヘン・フィルを、チェリビダッケと全く違うアプローチでドライヴし、しかも名演を残したヴァント。彼のような人こそ、真の巨匠と言うのであろう。

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  • 3 people agree with this review
     2013/08/01

    シューマンの冒頭の一音からして、違う。普通ならティンパニの強打と共に開始されるはずだが、チェリビダッケは出だしの瞬間に僅かなクレッシェンドを施して、ふわりと始める。ティンパニがほんの一瞬遅れて、しかも篭るように打ち鳴らされる。弦の上に浮かび上がるようなフルートが、柔らかな弧を描く。序奏だけで完全にやられてしまった。主部に至ってもテンポは相変わらず遅い。しかも鋭角的なアクセントは皆無といってよく、実に透明感がある。終楽章も驚きで、主題の随所にチェリビダッケ一流の“抜き”の技が見て取れる。フォルテを力任せに鳴らすのではなく、逆に音の最後の瞬間にサッと力を抜くのだ。これによって、大音量ながら威圧感を感じさせず、むしろ豊かな余韻を生み出すことに成功しているのである。ムソルグスキーのほうでもこの技が活きる。有名な冒頭のプロムナードやキエフの大門を聴いて欲しい。金管のアンサンブルが、これほどシルキーに響く演奏が他にあるだろうか。しかも本拠地ガスタイクならいざ知らず、デッドな人見記念講堂でこの響きを作り上げたのである。これは録音の優秀さも手伝ってのこととは思うが、それを差し引いても驚異的である。チェリビダッケ亡き後、ティーレマンの悪趣味によって変質してしまったミュンヘン・フィル。このオケの黄金時代の名演が、我が日本で行われたことを誇りに思いたい。

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  • 2 people agree with this review
     2013/08/01

    マーラーは晩年、精神分析の権威、フロイトのもとを訪れ「崇高な旋律が思い浮かんでも、卑俗な旋律に掻き消される」悩みを打ち明けている。このことを、第3楽章の説明に当て嵌めてみるがよい。私は第3楽章を聴く度に、葬礼の前をチンドン屋が横切る様を思い浮かべるのだが、要は、そういうアンビバレンスな精神状態が既に青年期からあったということなのである。幼少期より相次ぐ身内の死に直面し、生涯に渡ってその恐怖と闘い続けたマーラー。であるならば、畏れおののき苦悩したのちに希望を見出だすさまを、如何にして表現するかが問われているように思えてならない。昨今、マーラー演奏は緻密なオーケストレーションの再現に重きが置かれている。勿論、それはそれで一つの見解である。今まで灰色だった音響が色彩豊かに再現される辺り、新しい発見の連続に驚かされることが多々ある。しかし一方、その手の演奏がマーラーの精神にまで肉薄しているかと問われれば、答えはNOだ。余りに客観的過ぎて、生身の人間マーラーが見えて来ないのだ。そこへいくとテンシュテットは凄い。切れば血が出るほどの真剣白羽、全身全霊の演奏である。特に終楽章の起伏の激しさには言葉を失う。地獄の底へ突き落とされ、のたうちまわり、慰めを見出だし、一条の光明を信じ、やがて運命に打ち勝つ。そんな壮絶なドラマがここにはある。癌に冒され、一度は死の淵を見たテンシュテットだからこそ成し得た、一世一代の大名演といえよう。

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  • 4 people agree with this review
     2013/07/17

    チェリビダッケを批判する人の決まり文句は「遅い」だ。確かに、テンポは遅い。チャイコフスキーなど、ムラヴィンスキーに代表される金管炸裂型快速演奏に慣れていると、殆どスローモーションのように感じるだろうし、バルトークだって、フリッツ・ライナーを愛聴している向きには全く別物に聴こえるだろう。ラヴェルの《ボレロ》だって、通常15分前後のところを18分以上もかけている。しかし、ただ遅いと批判するには余りにも勿体ない魅力があるのも事実だ。その魅力を一言でいえば、精妙さである。チェリビダッケは、音の一つひとつをきっちりと鳴らすことによって、音楽構造上それらがどういう役割を果たしているのかを明示してくれる。殊にモチーフの展開に長け、複雑に入り組んだ伏線を解きほぐしてくれるのだ。これはブルックナーにおいて最高潮に発揮されるのだが、ここに収められたフランス物&ロシア物でも充分に活かされている。例えばチャイコフスキーでは、ムラヴィンスキーのような金管強調路線の演奏では聴き取れない、内声部の豊かな響きの変化が、細部まで透けて見えるほどだ。プロコフィエフも、諧謔性を追求する余り稚拙なアンサンブルに陥るケースが多い中、驚異的な合奏能力を見せ付ける辺りさすがとしかいえない。ムソルグスキーの《展覧会の絵》など、1986年来日盤と双璧の超名演!それらがぎっしり詰まってこの価格とは、驚きと感謝しかない。

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  • 12 people agree with this review
     2013/07/17

    ドビュッシーと並び、フランス近代音楽の巨頭として名高いラヴェル。彼を印象派に含めるか否かは、評論家でも意見が割れる。何故なら、ラヴェルの場合、印象派的色彩感覚と古典的造形美が高次で融合しているからだ。ドビュッシーとの最大の相違はここにある。フランソワは表現が即興的であり、それを酒癖の悪さに起因する精神の不均衡だと評する向きもある。しかしながら、音の一つひとつが光彩を放つような感覚は、さすがフランスのエスプリというべきものだ。《夜のガスパール》では怪しげな闇の空気が支配し、《水の戯れ》では飛沫の一粒一粒が光を帯びて煌めく。《優雅で感傷的なワルツ》では頽廃の薫りが立ち込め、《クープランの墓》では緑の微風がそよぎ渡る。これほど、五感をフルに使ってイマジネーションを喚起させるラヴェル演奏は、フランソワ以外にはないであろう。音質も既発盤より格段に向上している。例えば赤黒盤では過剰なノイズ除去によって電子ピアノみたいな平たい音になっていたが、当盤では敢えてノイズを残して生々しさを活かす音作りになっている。もっとも、協奏曲のリマスタリングに関しては、やや音が肥大化している感があり、Art盤のシャープな音作りのほうが好きだが、それも許容範囲だろう。それから、国内盤との音質の差は歴然で、殊にHS2088盤では肥大化した音像に加えて、時折鈴の音のようなノイズが混入していて到底聴くに堪えなかったが、当盤には勿論そんなノイズなど皆無だ。既発盤をお持ちで音質にご不満の方には是非買い替えを薦める。何より、フランソワが残したラヴェル録音をまとめて廉価で聴けることを、大いに喜びたい。

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  • 12 people agree with this review
     2013/07/11

    限りない透明感!チェリビダッケ&ミュンヘン・フィルの個性的な芸風は、しばし批判の対象になりやすい。よく言われるのが「遅い」という言葉だ。確かにテンポは遅い。カラヤンやトスカニーニ、あるいは最近のピリオド演奏に聴き慣れた耳には、おおよそスローモーションのように感じてしまうかも知れない。しかし、それだけでチェリビダッケを毛嫌いするのは余りにも勿体ない。それは、驚異的としか言えないほどのクリアネスの高さがあるからだ。殊にシューマンやブラームスといった分厚い和音が支配する曲では、このクリアネスの高さがものをいう。両者も共に純ドイツ的な「渋さ」があると言われるが、実のところ響きの「濁り」と紙一重と言えなくもない。現に、前者に関しては、古くはマーラーやクレンペラーが改訂版を作り、また、最近ではP.ヤルヴィなどが小編成かつピリオド奏法を取り入れるなどして、響きの混濁を避けるようにしている。後者においても、ジンマンなどがピリオド奏法を採用し、クリアネスの獲得に努めた。つまり、フル・オーケストラで透明感を出すのは至難と思われつづけてきた曲なのだ。ところがチェリビダッケときたら、その至難の業を見事にやってのけているのである。一例を挙げればブラ1の終楽章終結部直前、ここはリズムが取りづらく、響きが混濁するのをティンパニの強打で必死に持ちこたえているような演奏が多い。しかしチェリビダッケは、弦楽§にきっちりとリズムを取らせ、その上に木管§を浮かび上がらせるような、多層的音響を作り上げている。更に最後の和音に僅かなディミヌエンドを施して、余韻を柔らかくする技には驚きである(これは《グレート》でも活かされる)。シューマンの各交響曲においても、これら響きの多層構造を活かし切ることによって、混濁することを知らない透明感に満ちた演奏を披露している。ベートーヴェンやハイドンなども実に個性的であり、それらがぎっしり詰まってこの価格とは、ファン必携だろう。

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  • 2 people agree with this review
     2013/07/04

    ドビュッシーは色彩の魔術師だと思う。音楽における印象派の先鋒として知られるドビュッシー。印象派といえばもともと絵画の分野の言葉であり、マネ、モネ、ルノワールらが著名だ。彼らの絵画には、輪郭を溶かしこみ、光と影のコントラストのみで被写体を浮かび上がらせる特長がある。ドビュッシーの場合もそうで、右手=メロディー/左手=伴奏という主従関係から脱却し、より純化された響きのコントラストで音楽世界を描き出そうとしている。であるならば、演奏者にはより一層の色彩感覚が求められているわけなのだ。“音が見える”という感覚を聴き手にもたらすという意味において、フランソワの右に出るものはいないだろう。軽妙洒脱にして繊細なタッチは、さすがフランスのエスプリというべきもの。色彩のみならず薫り立つものすら感じられ、まさに五感で味わう至芸といえよう。音質も、赤黒盤より格段に向上しており、それでこの廉価とは有り難い。

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  • 7 people agree with this review
     2013/07/04

    ミクロとマクロの高次の融合!ブルックナーは、とにかく一曲が長い。それに加えて、チェリビダッケのテンポが余りに遅いために、嫌悪感を抱く人がいるのも無理はない。しかし、ブルックナーの作品は、各主題の提示→展開→再現という流れと、断片的なモチーフの提示と応用という、二重三重の伏線が張り巡らされている。そのために、微細レベルで主題やモチーフを活かしつつ、総体として壮大な音響の伽藍を築き上げるという、ミクロとマクロの両視点が不可欠となる。加えて、それらを充分に再現するためには、例えどんなに小さなモチーフでも克明に聴き取れるほどの響きのクリアネスが必要である。この意味において、チェリビダッケ&ミュンヘン・フィルこそ、ミクロとマクロが高次に融合した演奏を聴かせているといえよう。ミュンヘン・フィルの高度なアンサンブルは、もはや神業といっていい。完璧としか言えないピッチ、空間性を感じる“間”の取り方、なかんずく、ffでの全合奏ですら威圧感を感じず、むしろ無限の透明感すら覚えさせるバランスの良さ!これらによって、ただ長いだけに思われていたブルックナー観が一変、幽玄なる美しさの中にも確固とした構成を意識させるような、実に充実した演奏である。それがこの安さとは、買いだろう。

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     2013/06/18

    正直申し上げれば、かなりミスタッチが散見される。勿論、戦時下の本番一発撮りのライヴに完璧を求めるだけ野暮かも知れないが、それを差し引いてもミスだらけだ。だが、それでも評価したいのは、第3楽章のロマンティシズムである。幽玄なる息遣いの中に、諦観が垣間見えるような、これぞブラームスというべき世界がそこにある。ここばかりは、バックハウスといえども及ばない。音質はさすがに限度があり、特に終楽章で揺れが顕著だが、絶美な第3楽章だけでも、この盤の存在価値は充分だ。

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     2013/06/17

    マーラーのアダージェットが絶品!テンポこそ速いが、その分濃厚なポルタメントが連綿と続き、官能と頽廃の薫りが見事に同居した音楽を作り上げる。マーラー自身、自作の指揮に当たっては、愛弟子ワルターよりも、むしろメンゲルベルクのほうを高く評価していたという。そのメンゲルベルクであるが、マーラーの録音は1939年にライヴ収録された第4番と、このアダージェットしか現存していない。ゆえに極めて貴重な音源といえよう。1926年の録音のため、優秀な復刻をもってしてもさすがに音質には限度があるが、マーラー大絶賛の解釈による演奏を聴ける喜びに、ただただ浸っていたい。他にはリヒャルトの《ドン・ファン》が絶品!これまた作曲者自身が太鼓判を押す演奏である。有名な《英雄の生涯》と併せて、一押しの名演といえよう。ワーグナーも年代を考慮すると良好な音質で、滑らかさとゴツゴツ感を使い分けた絶妙な演奏が味わえる。

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