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5 people agree with this review 2017/02/25
セルはインタヴューで「シューマンのスコアの改訂は最小限でなければならない」と言っている。しかし、私の知る限り、ステレオ以降のスタジオ録音でセルほどシューマンのスコアをいじった人は他にいない(マーラー版除く)。その改訂も疑問のある部分が多すぎる。例えば、2番第1楽章展開部のトランペットの警告をカットしてしまっているが、これでは荒れ狂うシューマンの心情を表現しているとはとても言えないだろう。私はセルが大好きだが、このシューマンについてはペケだ。またいまだにこの演奏を評価する人が多いのも不思議である。シューマンは揃えばいいというものではないのだ。
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2 people agree with this review 2017/01/28
ショルティといえばワーグナーが有名だが、私はあまり好まない。豪快に鳴るわりに後味は淡泊であり、客観的すぎて毒に欠けると思う。ところが、リヒャルト・シュトラウスではそうした不満は全くない。リヒャルト・シュトラウスの音楽自体がワーグナーのような聴き手を煽るものではなく、その客観性がショルティの持ち味と合っているのだろう。「サロメ」「エレクトラ」は名演として有名だったが、カルショウが自伝で「失敗だった」と語っている「アラベラ」を聴いてみたらこれがとてもよく、次いで聴いた「バラの騎士」も実によい。そこで「影のない女」を購入したのだが、これこそショルティの最高傑作というべきものだった。ホーフマンスタールとシュトラウスの妄想がエスカレートしてとんでもない代物となったこのオペラで、ショルティは細部まで克明に鳴らしその空前の面白さを明らかにする。ドミンゴ、ヴァラディ、ヴァン・ダム、ベーレンスと揃った歌手もベストであり、チョイ役にまでスミ・ジョー、エヴァ・リント、ロバート・ギャンビルらを起用する贅沢さ。ウィーン・フィルの圧倒的な鳴りっぷり。最高である。こんなことならボックスを買えばよかった。ところで、初めてこのオペラを見たのはサヴァリッシュ率いるバイエルン・オペラによる愛知芸術劇場こけら落とし公演だった。私には猿之助による歌舞伎風メイキャップの演出が「ミカド」に見えてしまって馴染めなかったのだが、下には下があるもので、ティーレマンのザルツブルグ公演での演出は呆れるばかりであった。こんな素晴らしいオペラなのにろくな舞台がないのはもったいないかぎり。CDで楽しむのが無難なようだ。
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2 people agree with this review 2017/01/22
マズアの全集の毒にも薬にもならぬ演奏を聴いて、まあメンデルスゾーンはこんなものかな、とも思ったが、レビューを読んでドホナーニ盤に興味を持ち購入。やっぱり違う。音楽の掘り下げが格段に深いし、フレーズが息づいている。私の好きな2番は大編成の合唱を用いているが、本来はもう少し小編成のほうがいいと思う。それでもバラッチュの指導する合唱の迫力は素晴らしくすこぶる聴きごたえがある。ソプラノ2人の声質が均一なのもよい。もともとメンデルスゾーンを聴くことはあまりなく、全集もカラヤン、マークそれに前出のマズアしか持っていないが、その中ではドホナーニ盤が最高だ。往年のデッカ・スタッフ、コリン・ムアフット、ジェイムズ・ロックによる録音もガツンとした実在感がある。
0 people agree with this review 2017/01/13
HMVによると「ディノーラ」はマイアベーアの最も有名なオペラだそうだが本当だろうか。少なくとも私は全曲盤を見るのは初めてだ。かつては内容空虚の代名詞であったマイアベーアだが、近年再評価が進んでいる。このオペラも筋はだめだが音楽は十分に魅力的。13分もかかる序曲の中に合唱が入ってくるなど様々な工夫もあり予想以上の充実。グノーのオペラが好きな方なら気に入ると思う。ディノーラを歌うチオーフィは声の美しさがいまいちなのが惜しいが表現力は立派だし、未知の難曲に挑み続けているのも称賛に価しよう。マッツォーラの指揮はまずまず。オケはやや反応が鈍い。演奏会形式上演のライブなので音質は全く問題ない。
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美しいバッハだ。ピアノの音がきれい。録音も良いのだろうが、響きが澄んで柔らかい。スターンの表現も、節度のある中に瑞々しい創意があり魅力的だ。バッハ最高峰の傑作パルティータを少しの気負いもなく紡ぎだした好盤。私はヒューイットよりこちらのほうが好きだ。
4 people agree with this review 2016/12/29
ビーチャムはハイドン、ディーリアスが定番で、EMIならではのぼんやりした音質のおっとりと優雅な演奏という固定観念があり、オペラ以外は食指が伸びなかった。安かったので買ったこのセットで、まずハイドン、ディーリアスの音質を聴いたが、従来盤と変わらず。それ以外の曲目を聴いていくと様相が変わってくる。まずベートーヴェンに驚き。2番第1楽章の史上最速と思われるテンポとコーダの高揚に思わず膝を打った。なんだ、ビーチャム卿、ベートーヴェンは退屈とかいって2番の魅力を知り尽くしてるじゃん。個人的にモントゥー、レイボヴィッツとともにベスト3。7番の第1楽章も速く、リズムもバウンドする。クライバーやブリュッヘンの先駆者だ。ブラームス、リヒャルト・シュトラウスは横綱相撲の堂々たる名演。フランス物がまたいい。下手で有名なフランス国立放送管が見事な演奏を披露しているのを聴くと、ビーチャムの指揮技術の高さを感じる。結局、一番つまらないのはなんとビーチャムの代表盤とされているハイドンとディーリアスだった。評論家によってつまらないものを推薦されていれば、そりゃ日本でビーチャム人気が低いのも当然だろう。録音は総じていまいちだが、これだけワクワクさせる演奏が詰まったセットを満点にしない理由にはならないだろう。
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2 people agree with this review 2016/12/22
2000年に録音された、オペラ「世界の調和」の世界初録音であり、今も唯一のもの。映像もないようだ。交響曲版ではフルトヴェングラーの指揮で聴くと実におどろおどろしい音楽で、またそこがいいのだが、オペラのほうは重厚ではあるが繊細、精緻な面が強く、ヒンデミットらしいハードボイルドな切れ味も加味され少しも退屈しない。というより、私はいたく感動した。天文学者ケプラーの後半生を描くオペラだが、ケプラーの母親が魔女裁判にかけられるエピソードはヒンデミット事件を想起させずにはおかないし、ケプラーの死とともにケプラーを含む登場人物が太陽系の惑星となって、調和の音楽を歌い上げる終幕は2つの大戦を潜り抜けたヒンデミットの平和への渇望に思え心を揺さぶられる。演奏も最高だ。ケプラー役ル・ルーをはじめ歌手は皆好演だし、なによりもヤノフスキの引き出す切れ味を保ちながらも決してドライにならない豊かな響きが充実の極みだ。重要な役割をもつ合唱のベルリン放送合唱団も素晴らしい出来。ベルリン・イエス・キリスト教会でのセッション録音で、現在ではこんなことはもう無理だろう。これほどの傑作が知られていないのは残念だ。
0 people agree with this review 2016/12/19
今年モニク・ド・ラ・ブルショルリを知り、こんな素晴らしいピアニストで未知の人がまだいたんだと思ったが、年末にもうひとり同じフランスのとんでもないピアニストを知ることになった。アニエル・ブンダヴォエト。これまた私にとっては初めて名前を聞く人であり、録音も極めて少ないらしい。しかし、ここで聴ける女流とは思えぬ圧倒的なダイナミズムと切れの良さは先のブルショルリと共通するものであり、驚かずにはいられない。サン=サーンスではもたつくオケを置いて颯爽と駆け抜ける。フランクの深い味わいもいい。フランスからこういうピアニストが消えてしまったのはどうしてだろう。更なる放送録音の復刻をお願いしたい。なお、ハチャトゥリアンのオケはパリ交響楽団ではなく、パリ放送交響楽団である。また、メロクラシックはドイツ人経営者がタイでやっていると聞いた覚えがあるが、解説が仏語だけなのは何故。
0 people agree with this review 2016/12/10
「未完成」は多分数十種持っていると思うが、一番聴くのはワルター/ニューヨーク・フィル盤だ。二つの楽章のテンポが絶妙であり、厳粛と慈愛のバランスが素晴らしい。コロンビア響は決して下手ではないが、ニューヨーク・フィルとはレベルが違うだけに、「未完成」での起用は本当に良かった。オリジナル・ジャケットの復刻も嬉しい。ステレオ初期のジャケットは美しいものが多いが、これもその一つ。
1 people agree with this review 2016/11/11
グリュミオーのベートーヴェンは3種ともどれもよいが、ベストはこのガリエラとの共演盤だと思う。また、ベートーヴェンのコンチェルトとしても最高の演奏のひとつといっていい。グリュミオーの嫋やかな美音と気品高い表現は全く素晴らしく、ここでは彼の芸風の絶頂を聴く思いがする。ガリエラの指揮も実に雄弁で、ニュー・フィルハーモニアもコンセルトヘボウに見劣りしない。ガリエラが2流の伴奏指揮者というイメージが強いため地味な位置付けの当盤だが、ヴィオッティとの魅力的なカプリングもあり(こちらも名演)音質も良好、世評に惑わされずお聴きいただきたい。
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6 people agree with this review 2016/11/09
メンブランは激安が魅力だが、復刻は当たり外れが激しい。オークレール・ボックスではフィリップス録音の音がよろしくない。特にブラームスは途中で音質が変わるのが残念。ディスコフィル・フランセのアランとのバッハももうひとつ。聴きものはレミントンの3枚。盤質が悪いことで有名なレミントンらしくサーファスノイズはかなりだし音も割れるが、ここでのオークレールの圧倒的な美音と凄まじいパッションには魅了されずにはいられない。グリュミオーとヌヴーを足した感じ。この3枚がこの価格で手に入るならば納得。
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0 people agree with this review 2016/10/20
ドヴォルザークの交響曲全集はケルテスとロヴィツキがぶっちぎりだと思っている。ローカルな郷愁と洗練が絶妙なケルテスに対し、ロヴィツキは金管を咆哮させてよりアグレッシブで土俗的な音楽を作っている。冗長で退屈しがちな1番、2番をこんなに面白く聴かせてくれる演奏はないし、後期も生気溢れる気合の入ったものでワクワクさせる。本場チェコの指揮者が人気のようだが、ノイマンは地味すぎて初期がつまらなく、クーベリックは7番、8番以外はベルリン・フィルの共感の薄さがわかってしまう。ケルテス、ロヴィツキどちらを選ばれても後悔しないと思います。
0 people agree with this review 2016/10/06
長らく国内外で入手困難だったもの。マイケル・マクドナルドの、否AORの最高傑作といってもいいと思ってるんだけど人気ないのかな。どのナンバーも最高だが、さらにスティーヴ・ガッド、ポーカロ兄弟、エドガー・ウィンターら豪華極まりないバックミュージシャンのプレイも楽しさ一杯。車で聴いても爽快だし、夜聴くのにも合っている。
4 people agree with this review 2016/10/05
交響曲は、速めのテンポによる覇気に満ちた素晴らしい演奏である。このテンポでも表現は充分練りこまれ、オケのアンサンブルも良く、ソロも皆うまい。ベイヌム/コンセルトヘボウの名演を思い起こさせる。終楽章コーダでバーンスタインは大暴れするが、それが彼の若さの刻印となっている。多くのリスナーは、ラトルやヤンソンスよりもこういうブラームスが聴きたいんじゃないだろうか。
11 people agree with this review 2016/09/27
指揮者の音楽性、オケの表現力、録音の良さからして、これを上回るものは当分でないんじゃないかと思うほどの全集。2006年から初稿シリーズとして2番、3番、4番、8番とどんどん評価を上げたのだが、ここで初稿も一段落、ヤングもリンク・チクルス等活躍も広がり、ブルックナーの後続の話題は減ったように感じた。ところが実際には次に出た1番が曲の評価すら変える空前の名演となり、このコンビはさらに高いステージに立つことになる。ヴァージョン問題のない、0番、5番、6番、7番、9番ではヤング/ハンブルク・フィルの表現はより大胆になり聴き手を圧倒する。5番のスケルツォのこんなに荒ぶった演奏は聴いたことがない。正直4番は最終稿の演奏も聴きたいが、習作交響曲も入ってこの価格なら、文句をいうどころかオーエムの太っ腹に感謝あるのみ。大絶賛したい。
11 people agree with this review
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