CD 輸入盤

交響曲第4番『ロマンティック』 クリストフ・エッシェンバッハ&パリ管弦楽団(2003)

ブルックナー (1824-1896)

基本情報

ジャンル
:
カタログNo
:
ODE1030
組み枚数
:
1
レーベル
:
:
Europe
フォーマット
:
CD

商品説明

特別寄稿 許光俊の言いたい放題 第24回
「美女と野獣〜エッシェンバッハ&パリ管のブルックナー」
 エッシェンバッハは日本でもよく知られた音楽家だ。若いピアニスト時代からだから、もう何十年になる?
 彼はいつの間にか世界の名オーケストラをいくつもかけもちできる指揮者になっていた。北ドイツ放送響、パリ管、フィラデルフィア管・・・。すごいじゃないか。一流中の一流のポジションだろう。何もそんなに独り占めしなくたっていいのに。
 CDだって少なくはない。あちこちのオーケストラといろいろな曲を録音してきた。
 それに、この前だって北ドイツ放送響と来日公演を行ったし。

 にもかかわらず、彼はほとんど無視される存在だ。
 なぜ?

 変なんだもの。

 もとから(ピアニスト時代から)、異常に弱音部分にこだわっていた。そういうところではテンポをぐっと落として、病的な美しさを作り出すのが好きだった。
 オーケストラでも同じことをやっている。私の手元には、彼が北ドイツ放送響とやったマーラーの第9番のライヴCDがある。フィナーレなんて30分かかっていて、いつまでたっても終わらない。
 かと思うと、騒がしい部分では、異常なまでに暴力的な音響を繰り出す。日本でもマーラーの「復活」を聴いた人は驚いたんじゃないだろうか。私がドイツで聴いたときには、あまりのうるささに、周囲の客が失笑していたほど。金管楽器、打楽器を補強するなんて・・・。
 こんな演奏家、なかなか、いない。

 分裂、そう言う人もいる。
 躁鬱、そう言う人もいる。

 そんな人が、なぜか古典的バランスを重んじる、というか、自ずとバランスがとれてしまうフランス芸術のひとつの極致、パリ管の監督になった。はっきり言って、

 美女と野獣

 じゃないかと私は思った。悪趣味な指揮者の選択だなと思った。パリ管は、ミュンシュとかバレンボイムとかビシュコフとか、野蛮系指揮者を選びたがることはとうに知っていたけれど。

 ところが、だ。ある日、車の中でFMを聴いていたら、どうにも妙に美しいベートーヴェンをやっている。オーケストラの響きが耽美的なまでにきれいなのだ。
 エッシェンバッハとパリ管だった。あれあれ、オーケストラを壊さないでやっているではないかと驚いた。
 そうしたら、先日輸入盤を扱っている会社キング・インターナショナルが電話をかけてきた。「XXXXがおもしろいから送りますよ」と言う。「えー、そのXXXX,少し前にパリで聴いたけど、全然ダメだよ」なんて話をしていたら、エッシェンバッハのブルックナーもあるという。それそれ、それは結構。おもしろそうだ。「気持ち悪いという声もありますけどね」と言う。いいじゃん、気持ち悪くて。ますますおもしろそう。

 さっそく聴いた。
 予想通りゆっくり始まった。あ、クナッパーツブッシュみたいに、ヴァイオリンの音、上げている。やっぱり耽美的にやりたいんだな。
 丁寧に弾き進むのだが、情感は全然濃くない。第2楽章だって、ほとんど寂しくなんてないんだから。
 パリ管、期待通りにきれい。本当にいいオーケストラだ。弦楽器の澄んだ響き。生半可の腕ではこういう演奏はできない。ヴァイオリンが絹糸みたいなんだもの。なめらかのきわみ。第2楽章の12分あたりなんて、まるでエルメスのスカーフだ。
 むろん管楽器も耳のごちそう。トランペットがパパンなんて簡単な音型を吹いても、ものすごいうまさだと感心させられる。木管が負けていないのは言うまでもない。だけれども、名技をひけらかす演奏では全然ないのだ。ちょっと意外なことに。
 これほどまでにオーケストラの響きのきれいさで聴かせる、聴かせられてしまうブルックナーも珍しい。その響きにいちいちきれいきれいと感心していると、指揮者の解釈に興味が向かない。ところどころ、意表をつくようなテンポの変化や部分的強調があって、油断はできないのだけれど、そんなこと、どうでもよくなってくる。
 第3楽章なんて、オーケストラのための協奏曲状態で、いろいろなチョコレートやケーキやアイスクリームや・・・といった見た目が美しくておいしいデザートが一挙に押し寄せてくるような感じ。ドイツやオーストリアとは全然違う、もちろんイギリスやアメリカやロシアとも全然違うが、申し分なく見事。いや、それ以上。
 フィナーレは、ドイツのオーケストラではないので、低音を土台にして音が積み重なるというピラミッド状の音響にならない。だから、決して軽くはないのに、重量感を押しつけることもない。普段ドイツ系の演奏に耳が慣れているので、ふわふわしているように聞こえておもしろい。
 コーダがまた、猛烈にきれい。雲のように柔らかいホルン、やはり柔らかい明るさのヴァイオリン・・・ほとんどさわやかと言ってもよいような匂い。

 しかし、世界は不思議だ。どう見ても、エッシェンバッハは指揮が下手だ。どう聴いても、相当異常だ。なのに、各地で評判がそれなりによくて、いいポストも持っていて、相変わらず奇怪な演奏をしている。その奇怪な演奏がときどき、突然変異のように美しくて、何度も聴いてしまったりするのだ。もしかして、月に一度こういう演奏を聴いていると、すっかり洗脳されちゃうのだろうか? そういう予感がする。

 妖しい、実に妖しい音楽家ではないか。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学助教授) 


収録曲   

ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 『ロマンティック』(ノヴァーク版)[72:57]</b><br>クリストフ・エッシェンバッハ 指揮 パリ管弦楽団<br>2003年2月、パリ、モガドール劇場におけるライヴ録音

  • 01. I Bewegt, nicht zu schnell (22:33)
  • 02. II Andante quasi Allegretto (16:57)
  • 03. III Scherzo (Bewegt) (10:34)
  • 04. IV Finale (Bewegt, doch nicht zu schnell) (22:53)

総合評価

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さて、みなさまのレビューを拝見しても誉め...

投稿日:2012/03/30 (金)

さて、みなさまのレビューを拝見しても誉めてるんだかけなしてるんだかよくわからないのが多いですな。ある種の「とまどい」を感じてらっしゃるのでしょうか。それなら私も同感です。ブルックナー演奏には、本家(?)ドイツで継承されてきた「様式」があるのかなあと勝手に思っております。叩き上げ的職人指揮者のブルックナーには共通点があって、「とにかくオーケストラをよく鳴らす」ということです。ベームやヴァントのフルパワー、コンヴィチュニーやヨッフムおじさんでも強烈、想い起せばフルトヴェングラーの演奏もかなりの「爆演」になっております。シャルクらの改訂も、これらの様式も、要はブルックナーの音楽は生半可には緊張を維持し聴衆の耳を引き付けられない、ということかなあと憶測いたします。そこから抜け出て独自のスタイルを求めた(あるいは楽譜通りに演奏する勇気を持った)のがチェリビダッケかな。このエッシェンバッハもそういう感じでしょう。第1楽章では、上記指揮者たちが豪快に鳴らすティンパニが相当抑えられ、弦と管による合奏のよう。そうした傾向は第4楽章でようやく変わり(さすがにここでティンパニを抑えたら弛緩する)、全曲のまとめに向かいますが、そこまでの間、迫力的な「物足りなさ」を覚える方がいても不思議はないな。いかにも近年のエッシェンバッハさんが聴かせるタイプの、一種茫洋とした世界であります。物足りないような、でもこれはこれで堪能できる(オケは美しい)、個性的な不思議演奏。ま、興味のある方には一聴をお勧めしましょう。ただ、過大な期待は禁物ですぜ。(-_-;)

ほんず内閣総理大臣 さん | 北海道 | 不明

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あくまでも私見ですが、これぞブルックナー...

投稿日:2012/02/06 (月)

あくまでも私見ですが、これぞブルックナー!と大声で叫びたい。4番の理想の形です。某誌だと、準推薦か無印だろうし、ブルックナー信者の方からはお叱りを受けると思いますが。盤歴40年で一番気に入った4番です。

淳メーカー さん | 愛知県 | 不明

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通常は弾き飛ばしてしまう経過部分に徹底的...

投稿日:2011/01/04 (火)

通常は弾き飛ばしてしまう経過部分に徹底的にこだわったユニークな演奏。そのためテンポは遅くなり演奏時間も異様に長い。ブルックナーでこんなことをすると、重く間延びした音楽になりそうだが、オケの軽目で明るい音も幸いしてか、美しい歌に満ちた独自の魅力を獲得している。先入観に囚われずに聴くと、「なるほどそこはそう気分が変わってそう繋がるのか。」と改めて気付く点も多い。 録音は間接音中心で音量も低く、弱音部の綺麗さに焦点を合わせたこれまた独自のアプローチ。金管群の咆哮は頼りないが指揮者の意図には適っているのだろう。スタンダードとして常備するようなディスクではないが、聴き慣れた曲に新しい光を当てる一枚としてはお勧め。

kurokage さん | 千葉県 | 不明

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人物・団体紹介

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ブルックナー (1824-1896)

1824年:オーストリアのアンスフェルデンでヨーゼフ・アントン・ブルックナー誕生。 1845年:聖フローリアン修道院の助教師に就任。 1856年:リンツ聖堂及び教区教会のオルガン奏者に就任。 1866年:交響曲第1番完成。 1868年:音楽大学の教授に就任。 1869年:交響曲第0番完成。 1872年:交響曲第2番完成。 1873年

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