マイラ・ヘス/シューベルト、ブラームス:ピアノ三重奏曲集
マイラ・ヘスと弦楽器奏者達との共演を復刻した「弦のBiddulph」らしいアルバム。ヘスは1916年にロンドンでイェリー・ダラーニと初めて会って意気投合、3歳違いの2人は親友となり、20年以上にわたって共演を重ねました。1928年には「テレグラフ」に「これほど素晴らしいデュオはイザイとブゾーニ以来無かった」と絶賛する記事が出るほどの高い評価を得ています。
このアルバムでは英コロンビアへのピアノ三重奏曲の録音を復刻していますが、チェロ奏者も豪華。シューベルトの第1番ではエルガーのチェロ協奏曲の初演者として知られるフェリックス・サモンド、ブラームスの第2番では日本でもなじみ深いガスパール・カサドが参加しています。両曲とも第1楽章では拍をしっかり刻むヘスのピアノに乗って音楽が堂々と進み、緩徐楽章では夢見るような柔らかな音に変貌、スケルツォは小気味よく弾み、明るく粒のそろったピアノの高音は真珠に例えたくなるほど。シューベルトの終楽章は朗々とした歌が生き生きと紡がれてゆき、ブラームスでは非常にエネルギッシュ。彼女はこの前年に大きな手術をして体調を崩していましたが、それが信じられないほどの燃えようです。ダラーニのテクニックと高音の輝かしさも見事で、特徴的なポルタメントもしっかり録音されています。チェロの2人が彼女らに伍して引けをとらないことは言うまでもありません。ヘスはブラームスの第2番を戦後シゲティ&カザルスと録音しており、そちらが有名になった分、このSP時代の録音はほぼ埋もれた状態でした。このCDは貴重な復刻です。
間にはさまれたシューベルトのピアノ・ソナタは「おまけ」のように見えますが、彼女の演奏を味わうには最適かもしれません。第1楽章はアレグロ・モデラートの指定ながら、ゆったりと優雅な歩みで楽想を愛でてゆくよう。第2楽章アンダンテもほとんどアダージョのようで優美の極み。第3楽章では一転して快速なテンポ。輝くような音色と躍動的な演奏が爽快かつチャーミングです。(輸入元情報)
【収録情報】
● シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番変ロ長調 D.898, Op.99
マイラ・ヘス(ピアノ)
イェリー・ダラーニ(ヴァイオリン)
フェリックス・サモンド(チェロ)
録音(モノラル)/音源(初出盤)
1927年12月28-30日/Columbia C 9509/12 (W 98414/21)
● シューベルト:ピアノ・ソナタ第13番イ長調 D.664, Op.120
マイラ・ヘス(ピアノ)
録音(モノラル)/音源(初出盤)
1928年2月16,17日/Columbia L 2119/21 (W 98460/64)
● ブラームス:ピアノ三重奏曲第2番ハ長調 Op.87
マイラ・ヘス(ピアノ)
イェリー・ダラーニ(ヴァイオリン)
ガスパール・カサド(チェロ)
録音(モノラル)/音源(初出盤)
1935年10月25,27日/Columbia Lx 497/500 (W 7646/53)
復刻プロデューサー:Eric Wen
復刻エンジニア&マスタリング:Ward Marston
収録時間:約80分