シューリヒトの音楽を「峻烈」と評する人も多いが、私の印象は「競泳選手の筋肉」だ。 体脂肪の少ない、しなやかなで強靭な筋肉。 均整の取れた体つき。アメフト選手のように「重量級」の演奏だってある。 たしかに重戦車がシュバルツバルトの木々をなぎ倒しながら疾走する「凄まじいパワー」で聴き手を圧倒するエロイカ。
それに比べ、シューリヒトは「スマート」だ。 和声の扱いやリズムに感性の閃きを「花火」のように一瞬咲かせる。 それはどこかエスプリに通じる。 そしてその花火を見たいがために彼の音楽に引き込まれる。
音楽はがっしりしているが「大きな質量」を感じさせない。 どこか春風のような「かろやかさ」を秘めている。 それでいてベートーヴェンの音楽をきちんと語りつくしている。 ベートーヴェンだけではない、モーツァルト、シューベルト、ワーグナーもそうだ。
パリ音楽院オケとの全集も大好だが、VPOとのエロイカもまた彼の音楽を十全に語った記録だろう。