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Review List of mari夫 

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  • 7 people agree with this review
     2014/04/06

    「トリスタン」はクナとVPOとニルソンのハイライトで刷り込みが出来た。あれは大海原がうねるようなクレッシェンドが引いていって最後の和声に到達した時に本当の法悦というものを聞いた(バイエルンでの全曲ライブは録音のせいでやや彫りの深さに欠けて聞こえるが、それでもこの路線では比類がない)。その身で初めてこのベーム盤を聞いた時には、強い違和感を覚えた。何しろテンポは一気呵成、響きもクナのような神秘の襞も何もなくセックな響き。寄せては返すクナのダイナミズムとは対照的に、古典音楽のように拍の頭で明確に引っ張る進行。これじゃまるでトリスタン・マーチじゃないか(多分世評に高いフルトヴェングラーの演奏の信奉者からも似たような感想が出てくるのではないか?私にはあれは真骨頂だとは思えなくて、一幕のないベルリン・ライブをこそと思うが)?下での星の少ない方達の評価も概ね同じ感想だろう。しかし聞き返していくうちに、これがヴィーラントとともに新バイロイト様式のパラダイムをつくる革新的で白熱的な演奏であることに気づかされていった。白夜に展開される灼熱の恋愛劇の一瞬たりとも緩まない迫力!ニルソンは上記のクナとの若い時と比べて、輝かしさはともかく、声の柔軟さは失ったと思うが、ベームのこの路線には沿っている。ヴィントガッセンは実演だとニルソンとあまりに声量が違いすぎる(大昔に大阪で聞いた)が、マイクを通せば許容範囲で、むしろとくに三幕の表現の深さに打たれる。生の人間というより象徴劇の主役に相応しい。ルードヴィッヒはニルソンとは対照的に柔らかい声で二重唱の背景を彩る。タラヴェラのあマルケは、いつもの潰れたような声でやや興醒めだが、まぁ仕方ない。

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     2014/04/02

    これはある意味異端の「蝶々夫人」である。異形なあるいは前衛的な再現といっても良い。ただ甘美なだけのプッチーニではない。彼がR.シュトラウスの同時代人であり、ほぼ「サロメ」と同時期の作品であることを思わせる演奏である。もちろんカラヤンが名うてのシュトラウス指揮者である事からも来ているのだろうが、彼にしても、後年のフレーニとの演奏(映像)ではこんなではない(もっと普通の名演という事。ただし一般的には不評なポネルの演出は違うが)。やはりフィーチャーされたヒロインがカラスであったからに違いない。カラスがどう見ても(聞いても)チョウチョウさんのキャラではないことは当然だが、ミミ同様全く巧く化けおおせてる。けれども、化けている事には変わりなく、「普通の」チョウチョウさんが聞きたい人には抵抗があるかもしれない。しかし、ただの異国趣味ではなく世紀末のそれと、モザイクのような和声に彩られたこの作品を聞いていると、この人工臭こそがこの盤の素晴らしさであったと思わざるを得ない。シュトラウスの旋律は、実は無機的で、元帥夫人のメロディもエレクトラのそれも、つまり喜劇の旋律も悲劇の旋律もそれだけ取り出してしまうと似たようなものなのだが、プッチーニもまた同じである(さすがにチョウチョウさんもトゥーランドットも同じだとまでは言わないが)。カラスのチョウチョウさんは(たとえばクリムト風の)仮面をかぶったチョウチョウさんなのだ。そこを捉えた、指揮者と歌手の天才的なセンスの記念碑というべき特殊な演奏。惜しむらくは、一年後だったらステレオになり得た(同じカラヤンの「ファルスタッフ」)のに。あ、でもそれだから、間違って、つまり入門的にこの盤を買おうという人が出にくいというメリットもあるかも。

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     2014/04/02

    カラスのライブものの中でも芳しい音とはいえない。昔のAMラジオで聞いているみたいな貧弱な音(といっても若い人には分からないか?)。それを覚悟の上で聞き進めるなら、これが「椿姫」史上他の追随を許さない名演である事が分かるだろう。ディ・ステファノやバスティアニー二も良いが、何と言ってもカラス、カラス、カラス。とくに二幕のジェルモンとの二重唱は、不安から徐々に深まっていく女の絶望を描き出して比類がない。肺腑をえぐるとはこの事だ。ただの性悪女と思ってやってきたジェルモンの心を動かしてしまうのも当然。あるいはヴェルディの音楽を超えたか?劣悪な音であってもが残されたことは我々にとっての至福だった。ジュリーニの指揮はさすがにこの音で演奏云々を言うのはしんどい。

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     2014/04/01

    ゴッビを凌ぐ「リゴレット」無く、カラスに近づく「ジルダ」無く、セラフィンに匹敵する指揮者なし。(EMI)???そらその通りだ。けどピッポはどうした?ピッポは?無視とはあんまりじゃないか?それとも「女心の歌」なくていいというのか、EMIさん(ま、内容のある歌じゃないのは認めるけど)?カプッチルリやグロヴェロヴァは声の威力ではゴッピやカラスを凌ぐとは言えるけど、ディ・ステファノは、(少なくとも)この役だけは比類がない!

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     2014/04/01

    黄金の音と声による響宴(競演)。音とはもちろん壮麗を極めるスカラのオケ(とそれを統率するセラフィン)。声は特にバスティアニー二とコッソット。これ以上の声は望むべくもない。ただしジプシーの老婆にしては美声過ぎるという感想はないではない(この点ではやはりシミオナートだ)が、この美声には抗しがたい、というかイタリア・オペラ・ファンなら抗してはいけないだろう。ステッラは、評価が低すぎと思う。積極的な感情表現はあまりないが、ソフトフォーカスで暗い声は、これまた薄幸の美女として問題はない。ヴィオレッタじゃないので、それで十分。月の光の下で垣間見える美貌を偲ばせていい。問題はベルゴンツィのマンリーコ。パンチ不足かつ律儀で知性的な歌いぶりが、この、どう見ても血の気ばかり多くて知的とは言いがたい連中ばかりの、オペラには相応しくない。この点全編破れかぶれ気味だが圧倒的なコレッリのマンリーコが聞けるシッパーズ盤(正規版なのにこれが現役でないとは信じられない)とどっちがとは決めがたい。

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     2014/03/21

    リヒテルのロシアもので、悪かろうはずはない。多くはモノで、年代並みの音だが演奏を味わえないような音ではない。音源自体は珍しくないとはいえ、プロコフィエフのソナタが5曲も揃っているのは有り難い(後彼が録音を残したのは4番だけ?)。6番とか8番はステレオがあるが、他の曲はこれらを聞くしかないし、それだけのことはある名演奏。珍しいのはショスタコーヴィッチの前奏曲とフーガ。フィリッピスから出ていたステレオ吹き込みとは大分選曲が違っている。こっちはモノで、しかも50年代はともかく、70年代でも音がさっぱり良くなっていないのはがっかりだが、希少性という事で価値がある。演奏は言うまでもない。ムラヴィンスキーとのチャイコフスキーは珍しい音源ではないが、この組み合わせは他にない(最近のブラームスはムラヴィンではないとか)ので希少。私はこの二人とも60年代半ばまでがいいと思うが、この協奏曲は二人の真剣勝負じみていて鬼気迫る。

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     2014/03/16

    往年の大家たちによるブラームスの室内楽である。音は当然時代なりで、それを覚悟して聞かなければならない。四曲のソナタに関していえば、ハイフェッツとフォイアマンのものはあまりに即物主義的で私にはあまり面白くない。メニューイン(初録音)は逆に妹の伴奏を含めて力瘤が入り過ぎ、粘り過ぎでもたれる。カザルスとホルショフスキーのVcソナタの2番のみが、圧倒的な名演。未だにこれをしのぐものはない。ピアノ四重奏曲では、ゼルキンとブッシュの二番はブラームス室内楽の神髄をついたものといえ、もっとあとの一番と双璧である。二楽章のむせるようなロマンティシズムは他に聞けない。ルービンシュタインとプロアルテの一番は出だしが貧弱な音で、これはと思ったが聞き進むとそれほどでなく演奏も熱演である。ただゼルキン・ブッシュには音も含めて及ばない。スターンと40以上も歳の離れたカザルスをフィーチャーした戦後の二曲はともに大貫禄のカザルスを若いスターンがハッシと受け止めるところが聞き物。ヴィオラのカティムスも一歩も譲らない。とくに六重曲はこんなに音が厚く(かつ熱く)ていいのかと思うほどだが、アルゲリッチらのP四重奏曲のように腕のひけらかし合いと言う印象にならない所がさすがで、印象はごく強い。単なる名演という形容を超えた演奏だろう。星一つ足らないのは平均と音質の故。

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     2014/03/12

    バルトークや新ウィーン学派でならした頃とは一変して、ロマンティックなうまさを見せるジュリアード。カルテットの成熟というのか、個々の奏者の歌い回しの巧さで聞かせる。渋さといっても良いくらい。マンの1st Vl.のみでなく、VlaやVcの充実ぶりがこのカルテットの強みだ。ただ星を一つ減らしたのは、ブダペストもそうだけれど(やはり彼らのブラームスSQは、元々その気があるとはいえ、キンキンしすぎて聞いていて苦痛だ。これはそれよりはいい)、CBSの潤いのない音の固さ故。59に彼らが一時的にRCAに移籍していた頃の新ウィーン学派は目の覚めるような名録音で有名だったけれど、それから35年も立っているこっちの方がイマイチとはどういうわけだろう。ワルターのSBMがどうとかいわれるけれど、こっちの方がずっと問題。

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     2014/03/09

    LP時代にワルターのステレオの定番(「田園」とかブラームス1&4とかモーツアルト後期とか)をもっていたものの、若年の身で網羅的に揃えることはないまま、CD時代になると、マーラーとかは別にして、VPOやNYPとのモノ盤に走っていた私のような者には、まさにうってつけの有り難いセット。強いていえば、ステレオ録音は全収録にした方が筋が通るのに、モーツアルトだけ何でモノという疑問は残る(私は両方もっているからどちらでもいいし、確かに疾風怒濤のNYPの方が迫力やエネルギー感ではより優れているとはいえ、ステレオ盤は決して巨匠の名を貶めるような演奏ではない)。それならいっそ、そんなに枚数は増えないだろうし、ベートーヴェンやブラームスもモノと両方つけて(ブラームスは2&3のみならず定評ある1&4もNYPの方をとりたい)ワルターのCBS録音の総集編にしたら良かった。さて、演奏だが、上記の理由で初めて聞くステレオの演奏が多かった次第だが、とかく指摘されがちな、最晩年のコロンビアSOとの演奏はオケも下手だしワルターもいささか「緩い」(きみがある)ということは否定しないけれども、これはこれで落ち着いた中に老巨匠の思いのたけの詰まった演奏で、トスカニーニやフルトヴェングラーがステレオに間に合わなかったのにこれらが残されたのは、やはり我々にとっての僥倖であると感じた。リハの様子でもワルターはごく元気で、老い込んだ感じはしない。確かにヨーロッパ時代の最後(「ワルキューレ」やマーラーの9番!)やここにも入っている終戦後のNYPとの演奏の気合いの充実ぶりはいかにも壮年期の力に満ちており、晩年の演奏にはそれは少ないが、死の前年の「巨人」なんかはオケも大編成で、気力も3年前のNYPとの「復活」(今度聞き返して「緩い」という印象を修正したが)以上とも言っていいくらいだし、同年のドヴォ8も二年前の「新世界より」より遥かに気力充実の名演だから、必ずしも晩年は緩んだとだけ決めつけることは出来ないのではないか?ただ、ステージから引退したワルターがじっくりオケに教え込んだという感じはするものの、当今の古楽器派がやや前のめり気味の進行なのとは対照的に、タメを作りがちで重心の低い音の作り方が若い頃より進行していて、オケの方での自発性が少ない分、「緩んで」聞こえるのかもしれない。でもやはりこの「巨人」、ドヴォ8とか「田園」とか「軍隊」(ハイドンは全部良い!)、「ハイドン・ヴァリエーション」とかはその隙間が感じられない名演中の名演。オケについては酷評されがちだが、アンサンブルの乱れは、もう巨匠が時間/体力の問題とかユニオンの契約上の時間的限界とかもあって、気にしなかったのかもしれないし(BPOの録音だってものによってはある)、響きの薄さと音の生さ加減は編成のせいもあるだろう(VPOだって、クナとのブル5とか「ラインの旅」とかは明らかに小編成の弦で薄い響きなのに誰もいわないのはどうしたわけか)。ソロの各々には妙手もいる。「巨人」3楽章のベースのソロを下手という人がいて驚いたが、あれは意図的にヨレヨレの音を出させたに違いない(フィラデルフィア管の元トップとか)。「うまく」弾いた演奏ではあの雰囲気は出ない。同じ楽章の中間部のオーボエやトランペットのソロもうまい。「田園」の三楽章の大抵弦の刻みと合わないオーボエも概ねしっかりとついているし。逆に第九は終楽章のみNYPだが、目立ってオケが良くなったという感じもなくて、ワルターも「緩んで」いる。老境だしムラがあったということではないか?自分の盤歴のエアポケットに落ちていて今回意外な発見をしたのは概して評判の良くないブルックナーで、実は結構良いと思った。ワグナーにつながる峻厳さではなくて、シューベルトも含んだウィーン古典派につながるなだらかで美しい演奏だ。私にとっては、ベストとはいわないまでも、鈍重な朝比奈や窮屈なヴァントより余程好ましい。それと二曲のR.シュトラウスもステレオがなくてあまりいわれないが、凄い集中度の名演である。でもやはり一番良いのは「大地の歌」だなぁ。これは人類の至宝だ。リマスターについては、このSBMを悪くいう向きもあるようだが、私には問題なく聞こえる。LP時代に日本コロンビアからソニーに移ったとたんに固い音になって閉口したが、少なくともそういう音ではない。長文ごめんなさい。

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     2014/01/24

    最大の失望を味わった一枚。あの精妙鋭利なミケランジェリの美音がベヒシュタインでどう変貌するのか、と誰でも期待するだろうが、聞こえてきたのはSP盤の針音のようなノイズの彼方から聞こえるぼやけた音像。これではベヒシュタインも何もあったものではない。そもそもこれはほんとにステレオですか?間接音が多い(音源から遠い?)ので音楽の表情もバランスが悪く、変に誇張されて聞こえる。確かに演奏自体はミケランジェリに間違いないだろうが、神髄を味わうにはほど遠い。コルトーとかのSP盤なんかの方が遥かに演奏を味わい得る。これらの曲はミケランジェリは他に録音も多い(画像すらある)から、これを買う意味はない。

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     2013/12/20

    クリュイタンス初期のレコーディングを集めたもので『ファウスト』の抜粋以外はモノラル(ハスキルの協奏曲は疑似ステレオっぽいプレザンスあり)です。この点のセットで常に悩むのは既存の盤を何枚かもっているケースですが、クリュイタンスといえばやはりステレオ時代の指揮者というイメージが強いので、これらの演奏は、コアなファン以外には意外に盲点になっているのではないかということ(少なくとも私はもっていなかった)、しかしかなりの曲は、彼の夭逝のために実は再録音がないことによって、本セットはこの手のBOXシリーズのうちでもとくに意義のあるものと思われます。それにこの時期にしてクリュイタンスが既に60年と変わらないレヴェルに到達していたことが、これらを通して確認出来るのも大きな喜びです。また、たとえばパリオペラ座のワグナーでは往年のフランス楽派の甘いホルンが聞けたり(でも決して葬送行進曲での迫力に欠けてはいません)、田園の旧盤ではフルトヴェングラー時代末期の重厚な音が聞けたり(二楽章や三楽章での木管のうまいこと!)、この時期ならではの音が聞ける醍醐味もあります。BPO最初のベト全に起用されたきっかけをなしたであろうのも納得の名演ですね。サンサーンスの協奏曲でカサドゥジュってこんなにヴィルトゥオーゾだっけと思ったら、このページでギレリスだと知って納得したり(交響曲も実に壮麗な名演)、ショスタコーヴィッチの二曲の協奏曲も実にいいし、色々な発見があります。録音は年代に比例するとは限らず、ものによりけりですが概ね演奏を味わうには不足ありません(個人的には「ロメオとジュリエット」がやや劣る音だったのと前述の疑似ステレオがちと残念ー演奏は素晴らしいのに。あと、ラヴェルも古さを隠せない)。ステレオ盤がある「アルルの女」と「幻想」もlこちらはこちらで圧倒的な演奏です。素晴らしいアルバムとして一押ししたい。

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     2013/12/13

    多くの方同様、私もこれが数あるカラヤンの録音の中でも最高峰に属すると思います。素朴な演奏ではないかもしれませんが、田舎風であることがシベリウスの条件だとは思いません。精妙さの点で群を抜いた演奏です。後のEMIへの録音はどうも力づくで、BPOの巨大な音塊が空しく鳴っているようにしか聞こえず、好きになれません(かつてのPOとの初期のEMI録音は良かった)。この演奏は彼のマーラーの9番や新ウィーン楽派の名演に通じる、絶対音楽(要するにオペラのようなものではない抽象的な音楽)としてのオーケストラ演奏を、室内楽的なレヴェルにまで導いた演奏です。モダニストとしてのカラヤンの美学の徹底された例。

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     2013/12/11

    セットとしては、皆さんおっしゃるように中途半端なセットではある。戦前のVPO録音集成かと思えば、他のオケのものもあり、VPO録音もブラームスの1&3番やギーゼキングとの「皇帝」のように大物が落ちていたり、「亡き子」のように戦後録音もあったりする。
      リマスターについての批判が大きいようだけれども、確かに私のもっている盤だけ言っても「田園」や「プラハ」の蔵盤に比べると、ノイズを消した替わりに楽器の生々しさは後退している。どなたかが書かれていたが、いい復刻が一階席とすればこれは三階席という感じというのは言い得て妙である。ただ、三階席が良くないかと言えば、蔵盤は鮮明だけれどもホールトーンみたいなものがあまり聞き取れず、このEMI復刻は全体的な響きみたいなものはかえって聞き取れる(元々デッカに比べればそれがEMIのサウンドポリシーだろう)。ノイズリダクションのひどいのは弱音がやせ細って聞きづらいが(EMIの初期の復刻ではブッシュのベートーヴェンが酷くて後に買い替えた)、これはそういう感じはしない。そもそも蔵盤一枚でこのセット全体が買えてしまう価格なのだし、どれが復刻のベストなのかを聞き比べるようなマニア向けの商品ではないと思えば、これはこれでいいのではないかと思う。ベストかどうかはともかく、この復刻じゃワルターが分からないというようなろのではないでしょう。                                     50年代のNYPを指揮した油の乗り切った演奏などに比べると、これらは幾分ローカルなルーティーンと言うかのんびりした、あるいはアバウトなところを残している演奏と聞こえるのは、多分復刻の音(のボケ)のせいばかりではないような気がする。けれども、シャンゼリゼでのモツレクで、E.シューマンの巧まざるピュアな声がインティメートな木管と絡んでいく様などを聞くと、これはほんとに古き良き時代の演奏なのだということをつくづく感じる。確かにそれを評価するかどうかは世代的な耳次第なのかもしれないが、私の場合それがまだ残っていると感じるのは幸せである(得したって感じ?損じゃないよね、どうしたって)。
           この意味でもリーフレットの文章がなかなか面白くて、ワルターは謎めいた人物で、R. シュトラウスやホフマンシュタールやクレンペラーなどからすると、ワルターの思い入れたっぷりなゲミュートリッヒカイトは度し難いお気楽さ(insicerity)だが、他の人々にはそれが偉大な人間性の発露ととれるとか(でも、クレンペラーはともかく他の二人の『薔薇の騎士』コンビは、あんたらがそれをいうかという感じだけど)、彼のモーツアルトを、至上の宝とする説と、もはや今日的には美学上の価値を持たない過ぎ去った時代の遺物とする説があるとしながら、たとえば第二主題になるとテンポを落とすのは19世紀的と評する向きもあろうけれども、実はアルノンクールだってそれをやっていると指摘するとか一読に値する。

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     2013/12/08

    技術と録音のバランスから言うと、シゲティのベスト盤の一つではないか?最晩年のステレオ録音こそという意見もあるようだが、さすがにあそこまでいってしまうと常識的にはちょっときつい。これはぐいぐいと切れ込むシゲティの演奏の特徴が技術と音の衰え以前の状態で遺憾なく聞ける。ベートーヴェンの方はワルターの素晴らしいバックと合わせると、ハイフェッツ/トスカニーニと並ぶこの曲のベストの一つだろう。ステレオでこれらに迫る演奏というとシェリング位しか思い当たらない。ブラームスも同様の名演だが、オーマンディの指揮が、うまいことはうまいが、うまい伴奏の域を出ていないところが少々もの足らない。これもワルター(NYフィルとの交響曲全集は、セットとしてのベストだろう)だったら。しかし、ま、それはないものねだりというものだろう。

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     2013/12/01

    愛聴盤です。ルービンシュタインの小曲ばかりのライブですが、本当にすばらしい。
    全く力の抜けた、しかしニュアンスに欠けたところのない名演揃いです。ドビュッシーは彼の他の演奏はモノーラルだったりするのでこれが一番。お国物のシマノフスキーやモダニズムを無理なく打ち出したプロコフィエフなども名人ならでは。そしてアンコールの素敵なこと。最後のアルベニスを巨匠がアナウンスする際の会場の、アルベニスですって、みたいな声のささやきが聞ける雰囲気のアンチームなこと。カーネギーホールがサロンに転じています。愛されていたんだねぇ、巨匠。

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