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フードスタイリスト・飯島奈美さん インタビュー(2)

Monday, September 28th 2009

interview
フードスタイリスト飯島奈美さん インタビュー

インタビュー当日は、ちょうど『シネマ食堂』の撮影が行われており、撮影の模様を見学させていただきました。リビングの窓際にテーブルがセッティングされ、グラス、食器などが用意されたところに、飯島さんが出来立ての料理をキッチンから運びます。すかさず、湯気のたっている状態を撮影。穏やかな空気がながれる飯島さんの作業場も、撮影が行われている間は別世界のような緊張感がありました。そして、出来上がったテーブルの様子は、ほんとうに映画の中のよう。
単行本『シネマ食堂』には、そんな飯島さんの作業場から生まれた、66のシーン、70のレシピが掲載されています。

--- 『LIFE』のナポリタンのレシピには、茹でたスパゲッティを置いておくという工程がありますが、あの「のびてしまう?いえ、のばすんです」という一文は衝撃でした。過去、料理本にスパゲッティをのばすという文章が登場したことはあっただろうか!と思いました。

『LIFE』の場合は、当初はもっとざっくりした本を作ろうという話だったんですが、作っているうちに、この通りの味を家で作りたい、再現性を高くしたいということになって、工程が細かくなったんです。今回の『シネマ食堂』は、レシピのスペースが少ないので、作り方はシンプルに載せてありますが、サラっと見ただけでも十分作れるようにしてあります。色々なタイプの本があっていいかなと思います。『シネマ食堂』も、レシピ作りには試行錯誤して「シフォンケーキ」は、薄力粉と強力粉の配分や、卵の量を変えて作っているうちに、17個もできてしまいました。

--- 他にも、試作を繰り返したレシピはありますか。

「ネコムライス」もそうですね。最後にケチャップを加えると子ども用にもなるという味付けなんですが、油は、バターがいいのか、サラダ油がいいのか、オリーブオイルもケチャップと合うし、ごま油もありだし・・・どれがおいしいかなぁって全部作りました。 結局バターにしましたが、どれもおいしかったので、本当は「バター、またはサラダ油、またはオリーブオイル、またはごま油」って書きたかったんですけど(笑)

--- 『シネマ食堂』のレシピの中から、「カレーライス」を家族に作ったのですが、とても好評でした。食べる前は、減量中だから軽くよそってと言っていた兄が、結局おかわりをしていました(笑)今回、特におすすめのレシピ、評判のいいレシピは何ですか。

そうですね、「ネコムライス」「炸醤麺」「あさり焼きそば」・・・そうそう、「お茶漬け」も大好評でした!

--- 『めがね』の「ハマダのちらしずし」のレシピも掲載されていますが、「ふいに訪れた友人を歓迎するためのものだったので、乾物やあり合わせの野菜を具にしました」と書いてあって、あぁなるほど!と思いました。 映画の中で、あのちらしずしが写るのは数秒でしたが、あるものを使ってごちそうを作って迎えたいという気持ちが、料理から伝わるシーンでした。

あそこに、いくらやえびがのっていたら、いかにもちらしずしではあるんですけど、でもあの設定でいくらがのっていたら「いつ買いにいったんだろう」ってなっちゃいますよね。 「おいしそう」という分には、多少は目立ってもいいのかなとは思うんですけど、観客として見ている時に、例えば、食卓を大人数で囲んでいるのに、ごはんの量が少なかったりすると「少なっ!」って思っちゃうんです。 逆に『東京タワー』(オカンとボクと、時々、オトン)の場合は、ふたりであれだけのごはんの量っていうのは、多いということが愛情の表現だったりしますけど、量が少なすぎたり、シーンに合っていないメニューが食卓にあると、映画の流れを崩してしまうと思うので、そういう点はスタイリングする時に気を付けるようにしています。

--- これから公開される『のんちゃんのり弁』と『ヴィヨンの妻』でもメニューの提案をされているんですか。

『のんちゃんのり弁』は、台本に細かいメニューが設定されていなかったので、シーンに合わせて色々と提案しました。
『ヴィヨンの妻』の場合は、戦後であまり物資のない時代なので、食材が限られていたんですが、ごはんひとつをとっても、当時はどんな色の、どんなごはんを食べていたのかわからなかったんですね。それで調べていたら、この頃、東京はもう白米だったんです。
でも、貧しいという設定だったので、ごはんの色も茶色っぽい方がいいなぁと思って、麦と白米の比率を変えたものを三つ用意して、監督に「どれがいいですか?ちなみに私のおすすめはこれです」と提案したら「いいね〜!」と言ってくださって。
なんとなくという提案では、「もうちょっとないの?」って言われた時に、返せなくなってしまいますよね、それでは駄目で、やっぱり、「いいね」って言ってもらうための努力というか、私はこう考えて、こう調べて、それでこういう風にしましたっていう自分なりの理由を持つようにしています。

--- 飯島さんご自身の、思い出のごはんシーン、思い出の味は何ですか。

そうですね、やっぱり運動会の時とかの「おにぎり・唐揚げ・ウィンナー」とか、そういう定番のものって、毎回嬉しかったですね。
やっぱり、おにぎりってすごいですよね。私もよく、朝、旦那におにぎりを作って置いてくるんですけど、いつもすごく喜んでくれます。

--- わぁ〜すてきですね。では最後に、飯島さんがごはんを作る時に大切にしていることを教えていただけますか。

そうですね〜、何だろう・・・改めて聞かれると困ったなぁ(笑)
 「ていねいに作る」ということでしょうか。よく言うことではありますけど、簡単なものほどていねいに作れば、それがちょっとしたごちそうになったりしますよね。
例えば目玉焼きも、「あの目玉焼きおいしそう!」って言われるような目玉焼きを普段焼いているのかと言われると、していなかったりしますよね。でも本当は、卵さえあれば、おいしい目玉焼きも焼けるし、きんぴらでもおひたしでも、何でもそうだと思うんです。
それぞれの素材の一番いい引き出し方とか、おいしく作るポイントを適当にしない、簡単なものでも、そういうことをちゃんとやると違うんじゃないかな、と思います。 それをふまえた上で、出来上がったものに対して、今度はこうしてみようとか、おいしく出来た時も、次も今日みたいにこれくらい炒めようとか、自分の中に基準を持つことは大切だと思います。

--- どうもありがとうございました。「ネコムライス」も、「お茶漬け」も作ってみます!

はい。是非作ってみて下さい。どうもありがとうございました。

『シネマ食堂』 飯島奈美
新刊『シネマ食堂』 飯島奈美
 
2007年8月にはじまった、週刊誌「AERA」の人気連載『シネマ食堂』をもとに新しく構成したものが一冊の本に。
『かもめ食堂』のシナモンロールや『南極料理人』の唐揚げ、『プール』の揚げバナナなど、飯島さんの携わった映画をはじめ、名画、小説、漫画に登場するメニューまで、様々な食卓が登場!
ちなみに、インタビュー中に出てくる「ネコムライス」は、漫画『きょうの猫村さん』に出てくる、猫の家政婦・猫村さんの得意料理。飯島さんのレシピでは、猫まんま風に、ある隠し味が! 作りたくなるレシピが満載です!

profile

飯島奈美
1969年、東京都生まれ。
CM広告を中心に、食に関するさまざまな分野で活躍。
2006年、荻上直子監督作『かもめ食堂』をきっかけに『めがね』『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』『歓喜の歌』『南極料理人』『プール』など数多くの映画のフードスタイリングを手掛ける。
著書に『LIFE なんでもない日、おめでとうのごはん。』、『朝ごはんの献立 12のシーンとおいしいごはん』などがある。

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