作家・平野啓一郎さん インタビュー (2)
Friday, August 21st 2009

- ---最初のお話にマイケル・ジャクソンの名前が出ましたが、『ドーン』には、マイケルに関連する部分が2ヶ所あると、平野さんのブログで拝見しました。1つはエピソード的なわかりやすい部分で、もう1つは設定的な重要な部分、ということですが、1つは「USA for AFRICAのウィー・アー・ザ・ワールド50周年記念」というエピソードですよね。
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ええ。でも、後で考えたら実は3つあって。
1つはその「USA for AFRICA」のところで、あれがちょうど、この設定の年に50周年くらいなので、いいなと思って。
もう1つの設定のところは・・・気が付きました? - --- 最初は《可塑整形》のことかな?と思ったのですが、読んでいくうちに、物語の終盤でのリリアンの決断とマイケルが重なるのかな、と感じました。火星から帰ってきて、社会に影響を与えるようなスーパースターになってしまい、社会全体と関わるための《分人》を手に入れたい、それを世界にひとつ差し出すことを「義務」だと感じているということと、純粋に、世界を変えるために自分が正しいと思う行いをしたい、というリリアンの想いがマイケルと重なるのかな、と思ったのですが・・・違いましたか?(笑)
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そこじゃなかったんですけど(笑)。
でも、マイケル・ジャクソンとは関係のない部分でも、そこは僕が今回考えたことではあったんです。メディアに出る人はそれを考えざるを得ないんだと思うんですよ。影響力を持ってしまうっていうことの裏返しで、責任を負わされるっていうのはあると思うんですよね。
だから大きな意味で言うと、そこも重なってはいるんですけれど、実際は「ドーン」のクルーの1人である、ノノという黒人がゲイリーという町出身なんですが、そこは、マイケル・ジャクソンの生まれ故郷なんです。
ゲイリーって全米の犯罪都市ワースト5くらいにずっと入っている町で、1位だったこともあるんですよ。そういうすごく酷いところから出てきて、スーパースターになって、けれど、その矛盾の中でちょっとおかしくなってしまうという。そういう20世紀後半の黒人って興味があって、マイク・タイソンもニューヨークの当時一番ひどかった少年院出身で、それで何百億って稼いだ後に人生が狂っていきますよね。そういうアメリカの黒人の矛盾みたいなことも描きたかったんです。それであえて、ノノの設定をゲイリー出身にしていたんですよ。そしたら、マイケル・ジャクソンが亡くなってしまってビックリしたんですけれど・・・。
あと、整形の話もちょっと関わっていますね。
みんな、顔とアイデンティティをくっつけるでしょう。IDチェックでも免許証でも。顔が変わったっていうことに関して、マイケル・ジャクソンって必要以上にバッシングされて、彼の場合は人種問題も絡んで、黒人っぽい鼻が白人っぽくなったとか、そういうこともあって、余計にバッシングされたんだと思うんです。
そういう顔の問題も、『ドーン』と関わっているなと思ったんです。
- ---「顔」についての描写が印象的でした。
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結局、人間同士が接する時に、どういう状態がいいのかなって考えると、それぞれの人と接する時にそれぞれの顔があるっていうのはやむを得ないことだけれど、最終的には、信頼している人には、どういう顔で色々な人と接しているのかっていうことを、ある程度お互いに公開し合うのがいいんじゃないかなと思ったんです。そして、その1人の中にある多様性をお互いに尊重し合えるっていうのがいいんじゃないかなぁ、と思っていて。そうすると、会う人ごとに顔を本当に作り変えてしまうっていうよりも、色々な顔が重ねあってチラチラしている方がいいのかなぁ・・・と。ただ、この辺は僕自身が完全に結論を出し切らずに、読者の意見も聞きたいなって思ったんです。相手の中にいくつも《分人》があるというのを前提としつつ、一緒に生きていく人にどこまで公開するのかっていうのは、本当に割り切った考えを突き詰めれば、例えば、何人もの女の人と関係を持っていても、お互いにたくさんの人との関係を持っていても、それはその人ごとの《分人》だからっていう発想にまで行き着くだろうし・・・。
どの程度まで《分人》という考えが受け入れられるのかって、きっと永遠に個人差があるんだと思うんです。 -
--- 『ドーン』というタイトルにこめられた想いは色々とあるのではと感じたのですが、最初タイトルだけを知った時は、「え?平野さんの新刊がドーン?まさかコメディ系?」とびっくりしました。
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「ドーン」ってカタカナで見たら、ほとんどの人は爆発の擬音をイメージすると思うんですよ。あとは、僕っていう作家のイメージもあると思うので、まず読者を引き付けるようなタイトルにして、「え?何なの?今度はどんな小説を書いたの?」と思わせるタイトルにしようと思ったんです。宇宙船の名前が「ドーン」っていうのは最初から決めていたんですけど、どういうタイトルがいいのか、実はすごい悩んで、なかなか決まらなかったんですが、まず最初に関心を持ってもらって、読み終わった後にも、そのタイトルをなるほどって思ってもらえるものにしたかったんです。
- --- 作中に出てくる、ウィキペディアの小説版、《ウィキノヴェル》のタイトルも同じく「ドーン」で、読んでいる途中で、『ドーン』自体が《ウィキノヴェル》なのかと思った瞬間もあったのですが。
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読もうと思えば、『ドーン』全部が《ウィキノヴェル》にも読めないこともないように書いたんですよね。
- --- そうだったんですね!「一体この小説には、どれだけ仕掛けがあるんだ!」と思いました。「ウィー・アー・ザ・ワールド」のエピソード以外にも、ヨボヨボのブルース・スプリングスティーンが登場したり(笑)、そういったお楽しみもありました。
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あの場面は、ほんの1、2行なんですけど、あそこが印象に残ったって言う人が意外といます(笑)。
- --- 読み始めは、設定の面白さなどに惹かれてまず物語に入っていきましたが、読んでいくうちに、平野さんの描く深い世界にだんだんと引っ張られて、面白さと、それだけじゃない、両方混ざった興奮を味わって読みました。
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そう言ってもらえると嬉しいです。
今回の作品は、今までの僕の読者にも満足してもらいたかったんですけど、より多くの人に読んでもらいたいと思っていて、これまでの僕の作品よりもかなりエンターティメント色を強くしたんです。未来の話ですが、今に引き付けて読んでもらえると、楽しめるんじゃないかと思います。
『ドーン』を読んで、感想を聞かせてくれた人の中に、「モノや人に対する見方が変わった」とか、「人生観が変わった」と言ってくれる人が多いのですが、自分自身、どんなに面白くても、読む前と読む後で自分に何も変化の起きない本って嫌なんです。
ですから、『ドーン』を読んで、「使用前・使用後」みたいな、「変わった」という感覚や、今の時代に行き詰まりを感じている人に、じゃあどうしていったらいいのかなっていう、考えるヒントみたいなものを感じてもらえればと思っています。
- 新刊『ドーン』 平野啓一郎
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2033年、人類で初めて火星に行った宇宙飛行士6人のうちの1人、佐野明日人。物語の主人公である彼は、2年半におよぶ火星探査ミッションの間に、宇宙船「DAWN(ドーン)」の中で起こったある出来事を、秘密として地球に持ち帰ってくる。 その「秘密」が、アメリカの大統領選挙の最中に大問題になり、やがて様々な事件や人物が複雑に絡みながら物語は進んでいく・・・。
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- ドーン
平野 啓一郎 - 2009年7月(講談社)
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- 決壊 (上・下)
平野 啓一郎 - 2008年6月(新潮社)
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- あなたが、いなかった、あなた
平野 啓一郎 - 2009年7月(新潮社・文庫版)
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- 顔のない裸体たち
平野 啓一郎 - 2008年7月(新潮社・文庫版)
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- 滴り落ちる時計たちの波紋
平野 啓一郎 - 2007年6月(文藝春秋・文庫版)
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- 葬送(全4冊)
平野 啓一郎 - 2005年8月(新潮社・文庫版)
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- 日蝕
平野 啓一郎 - 2002年2月(新潮社・文庫版)
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- TALKIN' ジャズ×文学
平野 啓一郎/小川 隆夫 - 2005年10月(平凡社)
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- マイルス・ディヴィスとは誰か
平野 啓一郎/小川 隆夫 - 2007年9月(平凡社新書)
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- 平野啓一郎と辿るグレン・グールドの軌跡
- 2007年10月

平野啓一郎
1975年、愛知県生まれ。京都大学法学部卒業。大学在学中に発表した『日蝕』で 第120回芥川賞を受賞。
著書に、『一月物語』『葬送』『高瀬川』『滴り落ちる時計たちの波紋』 『あなたがいなかった、あなた』『決壊』などがある。『決壊』で芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。最新作は2009年7月に発売されたばかりの『ドーン』。
小説執筆の傍ら、対談、評論等も行い、音楽に関連する著作としてはジャズジャーナリスト小川隆夫氏との共著『マイルス・ディヴィスとは誰か』『TALKIN’ジャズ×文学』がある。また、『葬送』では、ショパンとドラクロワを主人公に据え、近代ヨーロッパの精神史を2500枚に渡って描き出し、グレン・グールド生誕75周年の企画アルバム『平野啓一郎と辿るグレン・グールドの軌跡』では、グールドの音楽を、文学者ならではの独自の視点で解き明かすなど、音楽への深い造詣がある作家としても知られている。
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