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「今度のチェリビダッケはすごすぎ!」

2006年9月9日 (土)

連載 許光俊の言いたい放題 第34回

「今度のチェリビダッケはすごすぎ!」

 いよいよチェリビダッケとミュンヘン・フィルの新セットが発売される。ここのところ解説書執筆のため連日聴いていたら、すっかりヘロヘロのクタクタになってしまった。
 それだけ強烈な演奏が多いのだ。今まで登場したベートーヴェン、ブラームス、ブルックナー集ももちろんよかった。が、私の好みで言えば、今回のセットが一番のお気に入りだ。選び抜かれた衝撃度という点では、今までのセットを軽く凌駕する。詳細は解説書を見ていただくとして、とりあえずさらっと概観してみよう。

 フォーレとモーツァルトの「レクイエム」。この2つは想像を超える凄絶さで、おそらく多くの人が圧倒されてしまう反面、とてもではないが受け入れられないという人も出てくるだろう。
 何せ、フォーレの「レクイエム」と言えば、レクイエム史上もっとも穏やかな美しさを持つと見なされている曲。とんでもない。実は、ヴェルディにもまして陰惨で劇的なレクイエムだったのだ。この曲が激越な心理ドラマであること、緻密な解釈でわからせてくれる。歌詞のひとつひとつ、音符のひとつひとつがものすごい確信に満ちている。フォーレに限らずこんなに密度が高いレクイエム演奏は、他にあるだろうか。

 モーツァルトのほうも、冒頭の数秒で悶絶するはず。超遅いテンポで、深刻、壮大の限りを尽くすのだ。たちまち別世界に連れて行かれる。フーガの立派なこと。横の流れの美しいこと。重層的な響きの明晰なこと。こんな雄大な演奏は他にない。「涙の日」の最後は、天空に吸い込まれるようで、くらくらする。ともかく最初から最後まで、「この曲はこういうものだったのか!」という驚きに満ちている。
 これがクラシック音楽なのだ。こういうものだからこそ、単なる娯楽ではない、人間にとって大事な何かなのだ。
 この2つのレクイエムを聴いて音楽観が変わってしまってもおかしくないし、昨今の腑抜け演奏家のレベルの低さがいやというほどわかるようになるはずだ。それだけに、平和な現状に満足している人、のんびりと音に浸かるのがいい人は、敬して遠ざけるべきである。聴き手をとことん追い込むこんな真剣な音楽が存在する可能性を知るのは、不幸の始まりかもしれないのだから。

 チャイコフスキーの交響曲第4番は第5番や「悲愴」に劣らぬ超深刻にして深い音楽である。特に第1楽章の、これでもかと胸苦しくなるほどに酷薄な闘争はすさまじい。七転八倒するような痛ましさにあふれている。第4楽章で冒頭のファンファーレが戻ってくるところも、戦慄的で打ちのめされる。この瞬間、第4交響曲は第5番、「悲愴」以上に救いようがない暗鬱な音楽だと納得できるはずだ。最後の追い込みも鬼気迫る。

 ショスタコーヴィチの交響曲第1番がまた苦渋に満ち満ちた充実の名演奏。後半の異常な緊張、緊迫感は、最晩年でも特に見事な例だ。オーケストラの渾身の表現力、それが見事に録音として記録されたことは本当にありがたい。ここまでの4曲を聴けば、最晩年のチェリビダッケが、まさに地獄としか言いようがない、デモーニッシュな音楽をやっていたことを改めて思い知らされる。ナイフを胸元に突きつけられるかのような緊張を強いる、こういうタイプの演奏が、どういうわけか今までのチェリビダッケ・エディションには含まれていなかったのだ。

 その反面、陽性のチェリビダッケも楽しめるのが今度のセットのいいところ。

 同じ20世紀音楽でもルーセルやミヨーはからっとした遊び心がいい。こうした音楽がチェリビダッケは非常に得意だった。

 小曲がまた傑作揃い。「ウィリアム・テル」序曲はとにかく表現の幅をめいっぱい取り、華麗にして劇的。ロッシーニの他の曲はとてもユーモラスで上機嫌。度はずれに重々しいブルックナーやチャイコフスキーを演奏していた人が、こんなに軽やかに遊べるなんてと改めてチェリビダッケの二面性に驚く。
 「運命の力」は克明をきわめ、「ローマの謝肉祭」は猛烈に美しい。「モルダウ」は壮大でいながら陰鬱さを持ち、「真夏の夜の夢」は切々とはかない。どれも十分程度の音楽だなんて思えない。まるで長大な音楽を聴いたかのような余韻が残る。
 「ドン・ジョヴァンニ」序曲は、聴いてびっくりのユニークさ。これほどまでに気味悪く演奏されたこともあるまい。全体が遅く奏され、謎めいた雰囲気が濃厚だが、頭の音だけでも不気味さに圧倒されることは間違いない。

 そして、絶対に忘れてはならないのが、バーバーの「弦楽のためのアダージョ」だ。これはぜひとも、最後に聴いていただきたい。あまりに美しく、あまりに悲しく、このあとで他の音楽を聴くなんて、とうてい不可能だからだ。かねてから私が熱愛している演奏である。ケーゲルのアルビノーニ「アダージョ」、スヴェトラーノフの小曲集(『生きていくためのクラシック』という本で詳しく述べた)と並べて、三大アダージョと呼びたい。

 悠久の流れを持つ「シェエラザード」、ルネサンス音楽のような調和の世界「ロ短調ミサ」などはもう海賊盤で有名だから、このセットに興味を持つ人にはいまさら説明するに及ばないだろう。

 つまり、だ。ベートーヴェンやブラームスの場合、チェリビダッケもいいが、他にも立派な演奏が存在する。けれども、今度のセットに収録されている曲の多くは、もう比較するものがないほど隔絶した世界なのである。
 もし、チェリビダッケのセットをどれかひとつだけ買いたいという人がいたら、絶対にこれだと思う。あるいは今までのCDに物足りなさを覚えた人ほど、今度のセットを楽しめるに違いない。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学助教授) 


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輸入ボックス・セット
下記、5578442、5578472、5578482、5578512、5578522、5578532、5578542、5578552、5578562、5578572、5578582という14枚のCDに、5578602をボーナスCDとして封入。

TOCE55661
国内盤ボックス・セット
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5578442(2CD)
■J.S.バッハ:ミサ曲ロ短調
1990年11月
バーバラ・ボニー
コルネリア・ヴルコップ
ペーター・シュライアー
アントン・シャリンガー、他
チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー
5578472
■モーツァルト:レクイエム K.626
1995年2月
カロリーネ・ペトリヒ
クリステル・ボルヒャース
ペーター・シュトラーカ
マティアス・ヘレ
ミュンヘン・フィルハーモニー合唱団
チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー
5578482(2CD)
■ヴェルディ:レクイエム
1993年11月
エレーナ・フィリポワ
ラインヒルト・ルンケル
ペーター・ドヴォルスキー
クルト・リドル
ミュンヘン・フィルハーモニー合唱団
チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー
5578512
■フォーレ:レクイエム
1994年3月
マーガレット・プライス
アラン・タイタス
ミュンヘン・フィルハーモニー合唱団
チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー
■ストラヴィンスキー:詩篇交響曲
1984年1月
ミュンヘン・フィルハーモニー合唱団
チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー
5578522(2CD)
■チャイコフスキー:交響曲第4番
1993年11月
■チャイコフスキー:組曲『くるみ割り人形』
1991年2月
チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー
5578532
■リムスキー=コルサコフ:交響組曲『シェエラザード』
1984年4月
チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー
5578542
■プロコフィエフ:交響曲第1番『古典』
1988年3月
■プロコフィエフ:交響曲第5番
1990年2月
チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー
5578552
■ショスタコーヴィチ:交響曲第1番
1994年5&6月
■ショスタコーヴィチ:交響曲第9番
1990年2月
■バーバー:弦楽のためのアダージョ
1992年1月
チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー
5578562
■ルーセル:小組曲作品39
1990年2月
■ルーセル:組曲ヘ調
1992年9月
■ミヨー:フランス組曲作品248
1991年9月
■ミヨー:マリンバ、ヴィブラフォーンと管弦楽のための協奏曲
ペーター・ザードロ
1992年4月
チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー
5578572
■ロッシーニ:歌劇『ウィリアム・テル』序曲
1993年1月
■ロッシーニ:歌劇『セミラーミデ』序曲
1983年11月

■ロッシーニ:歌劇『絹のはしご』序曲
1992年11月
■ロッシーニ:歌劇『泥棒かささぎ』序曲
1995年4月
■ヴェルディ:歌劇『運命の力』序曲
1989年10月
■モーツァルト:歌劇『ドン・ジョヴァンニ』序曲
1982年11月
チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー
5578582
■ベルリオーズ:序曲『ローマの謝肉祭』
1988年9月
■メンデルスゾーン:序曲『フィンガルの洞窟』
1993年3月
■メンデルスゾーン:劇音楽『真夏の夜の夢』序曲
1992年4月
■シューベルト:『ロザムンデ』間奏曲
1996年6月
チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー
5578602
■ウェーバー:歌劇『オベロン』序曲
1985年3月
■ワーグナー:楽劇『パルシファル』聖金曜日の音楽
1993年1&2月
■ワーグナー:楽劇『トリスタンとイゾルデ』前奏曲と愛の死
1983年12月
チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー
【輸入盤ボックス・セットのボーナス・ディスク】
■ウェーバー:歌劇『オベロン』序曲
1985年3月
■ワーグナー:楽劇『パルシファル』聖金曜日の音楽
1993年1&2月
■ワーグナー:楽劇『トリスタンとイゾルデ』前奏曲と愛の死
1983年12月
チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー
【国内盤ボックス・セットのボーナス・ディスク(対訳はEMIホームページ掲載予定)】
■ウェーバー:歌劇『オベロン』序曲
1985年3月
■ワーグナー:楽劇『パルシファル』聖金曜日の音楽
1993年1&2月
■ワーグナー:楽劇『トリスタンとイゾルデ』前奏曲と愛の死
1983年12月
■モーツァルト:レクィエム〜リハーサル
チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー

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