橋本徹の『チルアウト・メロウ・ビーツ』対談 【3】
Thursday, July 21st 2011
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山本:ジョー・クラウゼル関連の作品がいくつか収められていますけど、彼の作品からも大地や風の流れのようなものを感じるので、きっと彼もこのコンピの流れに共感してくれるでしょうね。
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橋本:うれしい話があって、今回のコンピの選曲のオファーをしたときに、稲葉さんがジョー・クラウゼルに曲目リストと一緒にジャケットのアートワークを送ったら、「きみたちのやりたいことはすべてわかった」と、オファーを快諾してくれたという。
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稲葉:彼サイドからの返信のメールのテンションがいきなり上がりましたからね。スピリチュアリティーまで含めてすべて通じ合った感じでしたね。
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吉本:今回のFJDのアートワークの世界観はメンタル・レメディーのジャケットの世界観にもつながるよね。それに、ボードレールの「夕べのしらべ」の詩の世界にも驚くほど共鳴している。バヤラ・シティズンズの黒人女性が夕陽の中に立つアートワークの原始的な力強さも含めて、ジョー・クラウゼルのジャケットはほんとうに雄弁だね。
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山本:音も含め、まさに桃源郷ですよ。このコンピの前半の音楽からは独特の浮遊感を感じますね。ほんとうに気持ちいいですね。
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橋本:今回も“ゆらぎ”はとても自然に意識したな。
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山本:橋本さんが以前、雑誌「ブルータス」の“Chill-Out”特集の選盤で、アレハンドロ・フラノフの『Khali』とサン・ラの『Sleeping Beauty』を紹介していたじゃないですか。あの感覚とのつながりを感じますね。
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橋本:まさにそうなんだよね。ここであの選盤を思い出してもらえるのはうれしいな。
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吉本:ガール・ウィズ・ザ・ガンからメルツにも自然につながるね。
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橋本:エレクトロニカ以降のアーティストにも自然音や温もりみたいなものを大切にするアーティストが増えているという象徴が、ガール・ウィズ・ザ・ガンやカラオケ・カルクというレーベルだったりするんだよね。
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河野:メルツと同じカラオケ・カルクのパスカル・シェファーの曲は、グラスに飲み物を注ぐ音とか生活音とかをうまく取り入れていますね。
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橋本:そういうヒューマンなエレクトロニカの要素をメロウ・ビーツの中に混ぜたいなと思ったのが『Mellow Beats, Friends & Lovers』だったんだよね。だから今回のコンピもharuka nakamuraの新作と一緒に聴いてもらいたいわけで。
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吉本:パスカル・シェファーもたくさんの似たエレクトロニカ系のアーティストがいる中で、音で個性を残せるというのはやはりすごいことだね。メルツも、ファースト・アルバムに収められたジョン・レノンの詩をモチーフにした「Everyone Had A Hard Year」の流れをくむ完璧なメルツの音がするし、ヴィクセル・ガーランドでもヨルグ・フォラーでもヴンダーでもかならず固有の音がする。
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河野:きっと本人たちはエレクトロニカをやっているという意識はなく、自分たちの音楽をやっているということなんでしょうね。
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橋本:モダンで未来的でもあるんだけど、ノスタルジックな郷愁や人肌の優しさもあるという“Ancient Future”的な世界観。
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稲葉:この後にスウェーデンのリカード・イェーヴェリングが続くんですが、メルツがいい転換のポイントになっていますよ。
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橋本:「The River」から「Sun Valley」というタイトル通りに景色が浮かぶんだよね。
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吉本:彼らのサウンドはバルモレイの風景が浮かぶサウンドにも通じるね。後は、誰もがもっている自分の過去の思い出と重ね合わせるノスタルジーやメランコリーみたいなものを強く感じる。
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稲葉:これらのアーティストは、自分たちの提示する映像や言葉で共感を迫るんではなくて、むしろみんなが持っているそれぞれの風景を思い浮かべて共感してくれたらいいという感じでしょうか。
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山本:「Sun Valley」はほんとうに切ない名曲ですね。特に後半の部分は泣きながら踊るという感じです。橋本さんの選曲をずっと聴いてきた側からすると、今はこういうテイストの音を求めているというのが自然ですし、すごくよくわかる気がします。
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稲葉:別に言葉で伝えなくてもいいんですよね。何を呼び起こすかなんて人それぞれじゃないですか。言葉にできなくても、確かなものが伝えられているという感触があればそれで十分だと思います。
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吉本:言葉じゃないから深く伝わるという面もあると思うんだよね。言葉というのは、ある意味、理性で判断するけれども、音は本能で反応するからね。だから、深く伝わるんだと思うんだ。
- Chill-Out Mellow Beats
〜Harmonie du soir - 橋本徹(サバービア)監修の人気シリーズ「Mellow Beats」からスペシャル・イシュー。「夕べのしらべ」(Harmonie du soir = ドビュッシーの曲名)をテーマに、ドラマティックでロマンティックでスピリチュアルな心に迫る名曲が連なるチルアウト・メロウな一枚が登場!

橋本徹 (SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは200枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。


