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『川の底からこんにちは』 石井裕也監督 インタビュー 【2】

2011年2月24日 (木)

interview
石井裕也


昨年飛び込んできた映画界のビックニュースといえば・・・本作の監督、石井裕也氏と主演の満島ひかり氏の電撃結婚でしょう!今の日本映画界にとっても、今後が有望視されるお2人の結婚は他人事ながらとてもうれしい気持ちになりました。末永くお幸せに!そして、今後もさらなるご活躍を!『川の底からこんにちは』がいよいよ2月26日にDVDリリース決定!劇場公開時、石井監督にお話を伺いました。撮る作品ほぼ全てが映画祭などで受賞歴を持つ石井監督の本作は、第19回PFFスカラシップの権利を獲得し完成された作品。このタイトルの奇妙さから惹かれた方もいらっしゃるかもしれませんが・・・毎作品に共通するタイトルのおかしさの由来や本作のテーマの1つにもなっている「粋」とは?そして、ハレの舞台は「なぜ、しじみ工場だったのか?」のぜひ・・・込められたメッセージなど、完全なるオリジナリティを持った弱冠26歳!石井監督の脳内または言語にご注視下さい。きっと、キマス・・・これから石井監督の時代が、「こんにちは」と謳うように。映像を作るにあたり、「刺激を受けるのは映画よりも音楽から」という監督に好きな音楽5タイトルもセレクトして頂きました。INTERVIEW and TEXT and PHOTO: 長澤玲美

開き直った時の凄みってやっぱり、男より女の人の方が出ると思うんですよね。女の人の開き直りってね、もうすごいじゃないですか?「それ言ったらおしまいじゃん」って言うようなことを平気で言ったりするから(笑)。


--- 『ガール・スパークス』の猪股俊明さん(本作では塩田淳三役)や『ばけもの模様』の稲川実代子さん(本作では塩田敏子役)も出演されていてうれしくなりました。強烈な存在感ですよね(笑)。

石井 昔からの馴染みですね。特に稲川さんはここ最近ずっと出てもらっています。


川の底からこんにちは


--- お二人との出会いというのは?

石井 お二方とも人の紹介ですね。『ガール・スパークス』を撮っていた時、僕は22歳でしたが、実績も金もない、よくわからんただの若造が映画を作ろうと思っても、友達は出演してくれるけど、年配の方のキャスティングは結構難しいし、ハードルが高いんですよね。仮に誰か見つかったとしても1人か2人で、到底選べるような状況ではないわけです。そういう中で稲川さんや猪股さんに出会えたのは本当に幸運でした。だから、昔の不遇時代というか、22〜23歳で誰にも褒められることなく映画を作っていた時代に全力で協力してくれた方々は、今でも大事にしています。っていう言い方もアレですけど(笑)。それこそ家族ぐるみの付き合いをさせてもらっていてすごく感謝しているんです。今でも「次やるんだったらまた出させてくれ」っていう風にお二方とも言ってくれるから、今回もお願いしました。

--- お二人に関しては初めの頃から、「この脚本でこの役でお願いします」という風にお話を持って行く感じなんですよね?存在感の魅力も含めてといいますか。

石井 そうですね。主役って例えば、泣いてるシーン、笑ってるシーン、叫んでるシーンとかっていう、ものすごく多面的な魅力を見せなきゃいけないじゃないですか?でもある意味で、脇役は一つの面でいい・・・怖い人とか笑える人とかそれぐらいでいいので、当て書きしやすいし、計算しやすいというか。でも、お二方は今回のことを本当に喜んでくれてますね。僕のことを孫みたいな感じに思ってくれてると思うんですよね、「がんばったね」って。

--- インディーズ時代から出演してもらっていたキャストをメジャーになっても続けて起用していたり、本当にワンシーンの友情出演でも出てもらっている監督さんっていらっしゃいますよね?そういうのを観ているとうれしくなる感覚で、石井さんの作品にお二人がこれからも出ていて欲しいなあと。新井加代子役の子役の相原綺羅ちゃんはすごく演技が上手ですね。オーディションで?

石井 そうです。25〜30人くらいいたんですけど、あの子いいですよね。子役って、親にいろいろスパルタ教育されているから、演技が上手な子はたくさんいます。オーディションでちょっとしたお芝居をやってもらったんですけど、ある女の子が演技をしている時に綺羅ちゃんが隣で見てて、突然感動して泣き出しちゃったんですよ。だから選んだんです、何かおもしろいなあって思って(笑)。

--- 彼女の直接の演技というよりは、その反応を(笑)。

石井 そうです。おもしろいのは、綺羅ちゃんは現場に行っても僕に気を遣ってあんまり話しかけて来ないんです。「今忙しいんだろうな」みたいな。子供って、大人よりもわりと感覚的にその場とかその状況を理解してたりするじゃないですか。


川の底からこんにちは


--- 佐和子の彼氏、新井健一役の遠藤雅さんはダメ男ぶりが素晴らしいですね。編み物が趣味というところが、内藤隆嗣監督の『不灯港』の万造という主人公が刺繍が趣味というところと被りました(笑)。


『不灯港』 内藤隆嗣監督 インタビュー

石井 やってますね、ミシンでね(笑)。

--- 今の時代、女性でもあまりやらないような編み物をあえてやって、それを勝手に相手のためだと思っている、エゴというかオナニーみたいな気持ちはちょっと鬱陶しいし、重いなあと(笑)。ですが、編み物は健一のキャラクターを強調する上でポイントだったんですよね?

石井 そうですね。僕は実際もらったことはないですけど、例えば女の人から手編みのセーターを貰うのって結構迷惑だと思うんです。もちろん嬉しさがある反面、ですけどね。で、その性別が逆だと、多分もっと迷惑ですよね?でも健一はダメな男だけど、誠意というか、少なくとも「この人のために何かしてあげよう」っていう気持ちを持っているということはちゃんと描きたかった。それがなかったら多分、健一という人物って成立してないですよね。

--- 簡単にイメージだけで田舎暮らしに憧れたり、何かとエコって言葉を使うあの感じがすごく、石井さんの脚本ぽくってよかったです(笑)。今回、「がんばる」という言葉も多用されていて、わたしはすごく嫌いな言葉でもあるんですが、今までの石井さんだったらそんなに使わないような言葉のような気もしていて・・・。

石井  「がんばる」って言葉、僕も本当に嫌いですよ。嫌いな理由を論文に書けるくらい嫌い(笑)。でもそれって、「がんばる」って言葉に疑念を持っているからだと思うんです。誰かに「がんばってね」って言われても、「本当にそんな風に思ってますか?」とか「じゃあ、何をがんばればいいんですか」とか、そういう疑念ってあるじゃないですか?でもそれは、愛とか優しさとか友情とか親切とか約束とか良心とか、そういう言葉にも同じことが言えると思うんです。「この映画は愛についての映画です」って言われても「何だよそれ、本当かよ」みたいな。でもそれって、何でそこまで疑念を持つようになっちゃったかって言うと、例えば、商品広告とか宣伝広告でそういう言葉が多用されているから、みんな聞き飽きているというか、もっと言うと呆れ果てているんだと思うんです。だけど、それは商品を売るためにやっているわけで、今言ったようなものっていうのは本来、人間にとって絶対的に大切なものだと思うんですよね。だから、「やっぱり、愛だよね」って映画の中で誠実にストレートに言えれば、それはちゃんとお客さんに届くと思うし、「がんばれ」っていう言葉も届くと思います。

--- 今作は特に、石井さんは男性なのに女性の生理的な内面みたいなものもすごく捉えられていて驚きもあるんですが、脚本を書かれる際に参考にした女性の表現や普段から考えているような女性に対する思いみたいなものはありますか?

石井 『川の底からこんにちは』を観た知り合いのオジサンに、「いやあ、石井くんって女の気持ち分かってるよね」って言われたんですが、女の気持ちが分かる人なんてそもそもこの世にはいないでしょうね(笑)。それは男の気持ちだって同じで、僕はやっぱり完璧に理解することはできない。結婚している僕の友達が「嫁に浮気されて離婚する」って言ってて、でも「最終的には許した」っていう話を聞いて、「分かる。分かるけど・・・分かんない」っていうか。でも、それってみんなそうですよね?確信持って人の気持ちを「理解しました」なんて言えるわけがない。『川の底からこんにちは』では、正直女性を描くつもりはあまりなかったんです。どっちかって言うと、性別の差は関係なく、開き直った時の人間の凄みとか愛おしさみたいなものを映画にしようと思っていたんです。でも、開き直った時の凄みってやっぱり、男より女の人の方が出ると思うんですよね。女の人の開き直りってね、もうすごいじゃないですか?(笑)。「それ言ったらおしまいじゃん」って言うようなことを平気で言ったりするから(笑)。そういう意味で女性にしたんですけど、意識的に女の人を観察して、女性の心の機微を描こうとかそういうスタンスは正直なところ、あまりないんですよね。

--- 男性が主人公だったら、確かに成立してないかもしれませんね。

石井 実は1回、男を主人公にして脚本は書いていたんです、ストーリーはちょっと違うんですけど。主人公の男が、倒れた父親の会社を継ぐんですけど、そこの会社で働いてる女性にその男が恋しちゃうんです。でもその女性は実は自分の倒れた父親の2号さんでしかも子供がいてっていう、そういう“親子丼”みたいな状況で。「さて、その主人公はどうするんだ?」みたいな話だったんですけど、でもそれってただエグイだけで・・・(笑)。


川の底からこんにちは


--- 今後のご予定としては、『川の底からこんにちは』の公開を記念して特集上映も開催されるんですよね?(5月8日(土)〜14日(金))連日夜21:10より)。石井さんの過去の作品がこうやって並ぶとすごく濃いですね(笑)。短編集の日がすごく気になります。

石井 短編集、僕も気になってます。実験的なものが多いので。

--- 実験的なものというのは?

石井 短編映画を作る時は、自制心とか制約がまるでないので、どんどんいっちゃうんですよね。暴走しちゃってるというか。それはそれで1つの表現として成立していると思うんですけど。

--- そういったものが含まれている作品もあるという。

石井 全部ですね(笑)。短編はわりと踏み外してるものが多いです。だけど、同世代の監督とか映画を作りたい人ってたくさんいるじゃないですか?そういう人達に「あ、あいつ、ここまで冒険してるんだ」みたいな、逆の意味での凄みみたいなものは見てもらいたい感じはありますけどね(笑)。

--- その特集上映と『君と歩こう』が(5月15日(土)からユーロスペースにて)レイトショー上映に加えて、次回作の準備もされているという状況なんですか?

石井 次回作は今3本くらい用意してます。次に撮る予定のものは、さっきお話したような「粋」に今すごく興味があるので、今度はその「粋」をじっくり描こうと思っていて。それに、いわゆる恋愛映画っていうものをやったことがないので、「粋な恋愛映画」を。その次は自分の原点に戻って「男の映画」。あとは原作ものがちらほらですね。形になるかは分からないですけど。

--- そのさらなる3本の新作も完成をたのしみにしてますね。『川の底からこんにちは』が5月1日(土)から渋谷ユーロスペース他にて全国ロードショーされますので、これからご覧になる方に最後に一言お願いします。

増山 多分、今の若い人、僕と同じ世代の人はそうだと思うんですけど、お金をいっぱい稼いでいい車に乗って、いい家に住んでとか、そういう一時代前の人達がやっていたような消費文化というか消費社会みたいなものにあんまり興味がないんじゃないかと思ってるんですよね。所有欲とかもそんなにないし。政治家が経済政策だの何だのって話をしていますけど、正直、僕はそこにあまり興味がありません。で、じゃあ何に興味があるのかとか、何が本当に大切なのかってなった時に、わりとそういう指針がなかったり、ブレてたりして、生きることに悩んだり、生き難いなって感じてる人は僕を含めて、結構多いと思うんですよね。そういう状況の中で、「こういう風に生きていければ、それだけでいいじゃないか」というようなことをこの映画で言ったつもりなので、同世代の人はもちろん、いろいろな世代の方に観て頂きたいと思っています。

--- 本日はありがとうございました。

石井 ありがとうございました。


『川の底からこんにちは』 予告編!



(おわり)



『川の底からこんにちは』 2月26日、DVDリリース決定!


『川の底からこんにちは』 Official Site

【第19回 PFF スカラシップ作品】
第60回 ベルリン国際映画祭フォーラム部門招待作品

監督・脚本:石井裕也
出演:満島ひかり、遠藤雅、相原綺羅、志賀廣太郎、岩松了
2009年 / カラー / 112分


『川の底からこんにちは』 公開&インタビュー記念!石井裕也監督&満島ひかり&遠藤雅 直筆サイン入りポスターを抽選で3名様にプレゼント!


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profile

石井裕也(いしい ゆうや)

1983年生まれ、埼玉県出身。

大阪芸術大学の卒業制作として『剥き出しにっぽん』(91分/16ミリ/2005)を監督。この作品で第24回そつせい祭グランプリ。ぴあフィルムフェスティバル(PFF)2007 グランプリ&音楽賞(TOKYO FM賞)受賞。TAMA シネマフォーラム「ある視点部門」、横濱国際芸術賞2006、中之島映画祭入選。バンクーバー国際映画祭ドラゴン&タイガー・ヤングシネマ・アワード出品。二作目の長編映画『反逆次郎の恋』(89分/DV/2006)は京都国際学生映画祭2006、第8回TAMAシネマフォーラム、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2008に入選。

短編映画では、『東京の空の雲はナタデココ』(20分/16ミリ/2006)が第10回調布映画祭審査員賞。『ラヴ・ジャパン』(27分/DV/2002)が第1回CO2映画祭で審査員奨励賞。『蝉が泣く』(12分/16ミリ/2005)が第9回調布映画祭、横濱国際芸術祭2005入選。『八年目の女二人』(20分/DV/2005)が東京ネットムービーフェスティバルにて優秀作品賞受賞。

また2007年、大阪市の映像文化振興事業として長編映画『ガール・スパークス』(94分/DV/2007)を制作。第3回シネアスト・オーガニゼーション大阪エキシビジョンでPanasonic技術賞とDoCoMo女優賞を受賞。2007年11月末より「ジャック&ベティ」で1週間の一般劇場公開。また、同年に最新長編作『ばけもの模様』(93分/HD/2007)を完成させた。第37回ロッテルダム国際映画祭および第32回香港国際映画祭にて、上記の長編映画全4作品が特集上映され、『ばけもの模様』は香港国際映画祭アジアン・デジタル・アワードにノミネート。さらに香港で開催されるアジアン・フィルム・アワードにて、アジアで最も期待される若手映画監督に贈られる第1回エドワード・ヤン賞を受賞。その後、受賞者を対象として行われる企画コンペにて『川の底からこんにちは』の第19回PFFスカラシップを獲得。