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Review List of 村井 翔 

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     2014/03/07

    このコンビによるシューベルト交響曲録音の第3弾は2番、4番という魅力的な組み合わせ。第2番はインマゼール、ブリュッヘン、ジンマンと聴いてきたが、私にとってはこれが決定打。小編成(弦は8/7/5/4/3)ゆえの身軽さとピリオド的な味の濃さに加えて、この指揮者の旋律の歌わせ方には独特の艶がある。第1楽章第2主題やテンポを落とした第3楽章のトリオなどは、ふるいつきたくなるほど素敵。第1楽章展開部では転調による色合いの変化を繊細な手つきで表出している。第2楽章の変奏曲も歌のしなやかさ、低声部の強調による立体感、どちらも申し分ない。終楽章ではめざましいリズムの弾みを見せるが、ここでも強烈なアクセントの打ち込みの合間に思い切ったピアニッシモで繊細さを見せるところがある。第4番「悲劇的」はマッシヴなド迫力では、これも出たばかりのダウスゴー/スウェーデン室内管の方が上手だが、マナコルダの歌の美しさとデリカシーを聴いてしまうと、ダウスゴーがやや一本調子に聴こえるほど。

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  • 2 people agree with this review
     2014/03/05

    めでたく完結したパーヴォ・ヤルヴィ/ドイツ・カンマーフィルの全曲録音はもちろんシャープで切れのよい精妙さが特徴だが、2番、4番あたりでは意外にロマンティックなふくらみも大事にしているなと感じた。団員は多国籍化しているとはいえ、やはりドイツのオケらしいところがある。このコンピが次にブラームスをやるというのも納得。一方、このネゼ=セガンの録音はいわば無国籍風で、ピリオド・スタイルはさらに急進的だ。特に晦渋な感のあった2番のリニューアルぶり、内声部までのクリアな見通しの良さとその身振りの迅速さ、ロラン・バルトの言う「ラッシュ(急速に)」の精神には驚かされる。ヤルヴィとネゼ=セガンの楽章ごとのタイミングを比べてみると、両者の志向の違いがかいま見れるだろう。
    ヤルヴィ 11:48/7:28/10:00/8:11
    ネゼ=セガン 11:06/6:46/9:33/7:28。
    しかし、ロマンティックなタメが全くないかと言うとそうでもなく、テンポは細かく動くし、たとえば第1番終楽章第2主題の付点リズム動機に不思議に粘着したりするのも面白い。もうこれじゃシューマンじゃないという声も出るだろうが、実に面白い全集だ。ただ一つ惜しいのは、ライヴ録音のため、演奏の精度自体はセッション録音のヤルヴィに及ばないこと。

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     2014/01/02

    アルカント四重奏団がこの曲を録音した時、こういうスタイルになるとイメージしたのだけれど、ピリオド風であるとともに意外にも「古風に」ロマンティックな演奏で、予想とは違っていた。そうしたら、クス四重奏団が彼らのお株を奪って、イメージ通りの演奏をやってしまった。まるでバルトークか現代音楽のような精妙な作りで、第2楽章主部の旋律などもロマンティックな歌ではなく、繊細な手つきでヴェールを一枚一枚、紡いでゆくようなデリケートな演奏。一方、スケルツォの主部や終楽章では一転してリズミックな推進力を見せる。まさしく新世代のシューベルトといった感じだが、第2チェロのペレーニも完全に四重奏団のスタイルに同化している。

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  • 2 people agree with this review
     2014/01/02

    2008年10月の録音がなぜ今まで出なかったのか不思議だが、もともと6番はノット向きの曲だろうと思っていた。全曲で80分台、CD1枚にかろうじて納まるやや速めのテンポで、予想通りの名演。例によって、きわめて精度高く音楽を磨き上げているが、基本的に楽譜に「何も足さない」タイプの演奏なので、バーンスタインやテンシュテットのような「巨匠的」なスタイルを望む人は物足りなく思うかもしれない。でも、すべてが過不足なく行われているという安定感にとどまらぬテンションの高さは、やはり尊重すべきだ。この曲の終楽章は指揮者、オケともに真の実力が問われる修羅場だが、細部まで克明で、かつ最後までまったくスタミナ切れせぬ演奏はお見事。バンベルク響もカイルベルトやシュタインが振っていた頃のひなびた面影はもはやなく、まるでミニ・ベルリン・フィルだ。中間楽章はHMVレビューの通り、スケルツォ/アンダンテの順。

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  • 5 people agree with this review
     2013/12/25

    『死の都』通算4つ目の映像ディスクだが、歌手、指揮、演出の総合点ではこれがベストだろう。オリジナルのト書きではその入り口が見えるだけの「亡き妻のための祭壇」の内部、中央にベッドが置かれ、妻の遺品がびっしりと飾られた部屋が最初から最後まで舞台になっている。したがって第2幕「ブリュージュの広場」も主人公の心象風景に過ぎない(舞台奥が開いてミニチュア作りの街が見えるようになるというセットは秀逸)。この演出のミソは最初から舞台上に亡き妻マリーの幻覚(もちろん黙役)がいること。HMVレビューの写真は第1幕の二重唱「マリエッタの歌」の場面だが、手前にマリーがいる。最後には彼女は本物の死体になってしまうのだが、これはなかなか良くできたアイデアだ。フォークトはこの「引きこもり」おじさんを巧みに演じているし、ニルンドも歌、容姿ともにヒロインにふさわしく、両主役がこれだけ揃っているのは得難い。フランクの指揮は少し粗いところもあるが、ノスタルジックな旋律とモダンな要素のコントラストを鋭い緩急のメリハリとともに際立たせていて、CDを含めても、これまでで一番よい指揮だと思う。新国立ではこれだけの歌手陣、指揮者を集めるのは無理だろうから、これで予習してしまうとナマに失望することになるかも。

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  • 4 people agree with this review
     2013/12/25

    ついに最高傑作の第4番に挑戦、ということで周到な準備の上での演奏なのだろう。第1楽章第1主題の「マルカート」の徹底的な表出からして、気合の入り方が尋常ではない。そして終楽章最後の大クライマックスのポリフォニックな見通しの良さに至るまで、隅から隅までまさしく圧倒的な出来ばえ。もちろんコンドラシン/モスクワ・フィルの凄まじいテンションの高さは望めない(これはやはり初演者としてのプライド+60年代特有のもの、ちなみに私がこの曲を最初に聴いたのはLP2枚組のこの演奏だった)。その代わりここには総譜を完全に読み尽くした精緻さがあり、にもかかわらず果敢な表現意欲も少しも後退してはいない。全集1曲目の第11番では線の細さが否めなかったロイヤル・リヴァプール・フィルもこの全集録音を通じて成長したのだろう。この第4番は馬力を誇るソ連/ロシアのオケと比べても遜色ないほどの、堂々たる演奏だ。相変わらず録音も優秀だから、先のコンドラシンは別格として、この曲を初めて聴きたいという人には、ラトル/バーミンガム市響と並んで第一に勧められるディスクと言っていい。

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  • 3 people agree with this review
     2013/11/22

    曲別に言うと1番と2番が★3つ、3番が★5つ。基本的には一発ライヴだが、拍手はカット。ロイヤル・アルバート・ホールでの収録でも、会場ノイズもほとんどなく音はちゃんと録れているが、やや乾いた感じの響きでインバル/都響のような「なまなましさ」は望めない。明らかなミスがあれば修正しただろうけれど、実際には修正の必要はほとんどなかったのではと思われる。常に余裕あるテンポで奏者たちは楽に弾けているからだ。つまり、演奏の様相もインバル/都響とはまさに対照的。インバルは楽員を完全に抑え込んで自分の意のままに動かしているから、凄まじい緊迫感がある反面、悪く言えば窮屈で自発性に乏しいが、今のマゼールとフィルハーモニアの関係は実にゆるい。指揮者は演奏の大枠だけ作って、あとは奏者にかなり自由にやらせている感じだ。その大枠はと言えば、予想通りテンポは遅めで、随所に意外なデフォルメはあるが、そんなにシャカリキになって盛り上げようという気配もない。おかげで本来、マゼール向きと思われる2番も不発気味なのだが、ウィーン・フィルとの録音でもニューヨーク・フィルとの録音(配信のみだが全交響曲のライヴ録音がある)でも断然、面白かった3番だけは今回も素晴らしい。非常に遅いテンポのまま、ほとんど音楽に緩急の落差をつけようとしない演奏で、特に今回、37分46秒を要する第1楽章などは、指揮者が音楽を「作る」ことを放棄したようなレセ・フェール(自由放任)状態。それがまさしく、ここでの作品本来のあり方にとても合っているのだが、もちろんこれはマゼールの戦略なのだろう。テンポが遅いから異常なまでに細部が拡大されて聴こえるが、その細部には結構、細かい仕掛けが施されている。終楽章(25:51)はウィーン・フィル盤より4分ほど速くなって、やや魅力が後退したが、ライヴであのテンポでは金管奏者のブレスがもたないという実用上の必要に迫られてであろう。第1楽章だけなら、これまでのすべての録音の中で一番面白い。

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  • 1 people agree with this review
     2013/11/11

    来日公演では合唱が客席の後ろから聞こえるなど、劇場全体を縦横に使ったスペクタクルな演出だったが、わが家では5.1チャンネルの再生環境がないのが残念。それでも演奏・舞台作りの両面で非常に要求の高いこの大作の映像としては、ショルティ/フリードリヒ版につぐ完成度と言ってよい。最も高い点がつけられるのは、ゲルギエフの雄弁な指揮。この難しい作品を完全に手の内に入れている。演出は圧倒的に冴えた出来とは言えないにしても、映像の投影も含めて、気が利いている。ロシア人ばかりの歌手陣では、まずフドレイ、セルゲーエワの両ヒロインは及第点以上。サヴォーワ(乳母)は性格表現がもっとシャープであっても良かった。アモーノフ(皇帝)はキャラの設定から言っても、若さが欲しい。

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  • 10 people agree with this review
     2013/11/11

    アバド、シノーポリからルイージ、パッパーノまでイタリア人指揮者の振る6番には一貫して好意的な私だが、残念ながら「シャイー/コンセルトヘボウだけは例外」と付け加えねばならなかった。しかし、このディスクで印象一変。これは実に素晴らしい、最高水準の演奏だ。まず明らかに遅すぎた第1楽章の基本テンポが速くなった。シャイー本人はメンゲルベルクによるメトロノーム数値の書き込みに縛られていたと語っているが、第1楽章とスケルツォの順番が離された結果、両楽章のテンポの対比を狙う必要がなくなったのも大きな理由だろう。ついでにスケルツォ主部のテンポもさらに速くなり、オペラ指揮者の得意とするテンポ変化による迫力更新を有効に使えるようになった。たとえば、第1楽章なら両主題の間の経過部で遅くして、アルマの主題でまた速くなる。スケルツォではトリオで遅くなり、主部に戻る前に少しずつ速くなる。終楽章は基本テンポを少し遅めに設定し、ここぞという所で加速する。両ヴァイオリンを対向配置にし、ぐるっと回ってコントラバスが第一ヴァイオリンの後ろというドイツ伝統の楽器配置。ホルン8、トランペット6以下、ステージを埋めつくす大オーケストラを眺めるだけでも壮観だが、カメラワークが的確で、ハンマーストロークはもとより、管楽器のベルアップ、3人の奏者によるシンバル同時打ちまで見どころが余さずとらえられている。
    なお、マーラー全集の編集主幹ラインホルト・クービクを迎えてのパネル・ディスカッションはそれなりに面白いが、中間楽章の順番については「過去数十年の誤りを正した」と言わんばかりのクービクの自慢話に終始しているのは不快。これは作曲家マーラーの最初のアイデアと指揮者マーラーの現実的な判断のどちらを重んじるかという趣味の問題であって、楽章順に関してはどちらもあり、スケルツォ/アンダンテも「間違い」どころか、十分に正当というのが私の考えだ。

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  • 3 people agree with this review
     2013/11/10

    2007年、フィルハーモニア管との来日だけはちょっと忘れたい「黒歴史」だが、基本的にインバルの振る5番に失望したことはない。あらゆる点で曲との相性がきわめて良く、ご本人も5番は自分の名刺代わりぐらいに思っているのではないか。この4度目の録音は、まさしくこれまでの総決算と言えるような鮮やかな出来ばえ。アダージェット楽章に「情緒纏綿」を求める人はこのCDは避けた方が良いが(これはたっぷりと歌うことを避けて、作曲者の頻繁なテンポ変化の指示と細かな強弱変化の指定を忠実に実行しようとした、むしろ神経質な演奏だ)、曲の求めるすべてのファクターを完璧に満たし、速いテンポの中に詰め込めるだけの情報を詰め込んだ上で、それ以外のあらゆる脂肪分を切り捨ててしまった究極の筋肉質の解釈。私はより柔軟で懐の深いチョン・ミョンフンの解釈(2013年6月、N響定期)にも強く惹かれるが、だからといって甘さを排したインバルのハードボイルドな演奏を拒む理由はない。全くテンポを落とさずに突入する第2楽章第2主題の再現などは、鳥肌が立つほどだ。特に勝利のコラールが一瞬にしてパロディに変じてしまうマーラー音楽の変わり身の速さに対する追随力に関しては、今のインバル/都響は群を抜いている。

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  • 6 people agree with this review
     2013/11/09

    ヘアハイム演出と同じ全回想形式。冒頭シーンはオネーギンがタチャーナに手紙を渡した直後、すなわち最終場冒頭で、そこから二人の回想に入ってゆく。回想部分と現実との相互浸食がスリリングなヘアハイムに比べると、主役二人の若い頃の「分身(ダブル)」を一貫して使うホルテン演出はやや凡庸ではあるが、あくまで天才ヘアハイムと比べてのこと。決闘の後、若いオネーギンが現在のオネーギンにピストルを渡す場面などは秀逸。それに続くポロネーズの振付も面白い(死体と踊るコンヴィチュニー演出を少し上品にしたパクリか)し、ラーリナ家の本、レンスキーの死体など過去の残滓が舞台に残ってゆく仕様も良い(幕切れまで退場できないレンスキー役は大変だが)。演奏陣はきわめて強力。キーンリーサイドは期待通りの演唱で、ヘアハイム版のスコウフスと甲乙つけがたい。見た目が老けて見えてしまうのが難点のストヤノヴァも分身を使った演出にうまく救われている。ブレスリクのレンスキーも素晴らしい。ティチアーティの指揮は繊細かつ尖鋭。ヤンソンスに完全に勝っている。ちなみに、演出家自身が語るオーディオ・コメンタリーは、隅々までネタばらししてしまうとはいえ、確かに面白いことは面白い(この部分の英語音声のみ日本語字幕なし)。

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  • 6 people agree with this review
     2013/11/09

    彼女の協奏曲レパートリーの中核である「本命」2曲のカップリング。ラフマニノフはこの曲らしいロマンティシズムやグランド・マナーなところも、もちろん切り捨ててはいないのだが、20世紀の作品らしいモダンな側面の強調を明らかに志向している。ラフマニノフがプロコフィエフに近づいて聴こえるような演奏と言えば分かりやすいだろうか。その点では、ラン・ランがラトル/ベルリン・フィルとの共演(プロコフィエフ3番/バルトーク2番)で彼としても新次元を開くような精緻な演奏に到達したように、むしろセッション録音した方が良かったのではないかと思うが、とりあえず「第1回録音」はこの拍手入りライヴで、というのが彼女の判断なのだろう。共演相手のドゥダメル/シモン・ボリバル響は相変わらず凄まじい爆発力だが、ライヴではやや粗さが目立つ。体格的にはごく普通の東洋人女性である彼女の音は鋭利とはいえ細身なので、この(おそらく4管編成であろう)オケにフルスロットルでがなりたてられると負けてしまうのだが、録音はうまくピアノの音を拾っている。それでも現時点ではプロコフィエフの方が安心して聴ける。ラフマニノフはまだ「進化」の余地があるのではないかな。

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     2013/10/22

    既にNHK-BSでも放送済みの映像。演奏自体の水準はきわめて高い。ガッティ指揮のウィーン・フィルはシンフォニックかつ繊細。カラヤン、クライバー級の出来と言っても過言ではない。見た目はかなり太ったが、ネトレプコの歌のみずみずしい情感もまだ健在だ。マチャイゼ、カヴァレッティのコンビもとても良い。ベチャワはビリャソンとは対照的な、折り目正しい「草食系」のロドルフォ。私はフレーニ最初の全曲録音(1963年EMI、シッパース指揮)のお相手、ニコライ・ゲッダに慣れているのでさほど違和感ないが、好みは分かれるかもしれない。さらに好みが分かれそうなのは、舞台を現代に移した演出。このオペラにはあまりふさわしくない祝祭大劇場の大きな空間を逆手にとって、コンクリート打ちっぱなしの殺風景な屋根裏部屋を演出しているが、どうしても現代のパリにしなきゃならない必然性が感じられないのが苦しいところ。映画『インセプション』風にパリの街を折り畳んでみせた第2幕はなかなかの新機軸だが、ちょっと「策におぼれた」感なきにしもあらず。第1幕終わりと幕切れでガラスにMimiの文字を描く「神の手」(?)も普通と違うことをやりたいのは分かるけど、あまり好感が持てない。

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     2013/10/07

    前作のシューベルト弦楽五重奏曲では、このクワルテットらしからぬ「熱さ」に驚くとともに、持ち前の精緻さとのバランスが難しいなとも感じた。しかし、このモーツァルトは凄い。最初のバルトーク、ドビュッシー、ラヴェルの時のイメージが戻ってきた。ガット弦を使用してはいないと思うが、ヴィブラートは必要最小限に抑えられており、かなりピリオド・スタイルに近いが、違うのは従来のピリオドとは全く別世界の驚異的な精度。室内楽の基本ではあるが、これだけきれいに揃った合奏を聴かされると、それだけで惚れ惚れしてしまう。反面、この氷のように冴えた演奏からは、これもまた室内楽の醍醐味であったインティメートな雰囲気はもはや望めないが、それは仕方のないことであろう。クラリネット五重奏曲は従来のようなコンチェルタントな妙味は後退して、クラリネットが弦に組み込まれ、同質化したような印象。ニ短調の四重奏曲もかつてのような「ロマンティックな」劇性の強調はないが、新しい意味での表現主義的な演奏。第1楽章アレグロ・モデラートは限りなく「モデラート」に近く、逆に第2楽章アンダンテは速く、半音階的なパッセージは非常に鋭く弾かれる(ピリオド様式の感覚)。対位法的に骨ばった感じのメヌエットに対し、自在なテンポ・ルバートで拍節感を消し、無重力空間を漂うようなトリオは独特。終楽章の変奏もきわめて克明で、パートの隅々まで表出力が強い。

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     2013/10/07

    EMI時代からご贔屓だったフォークトの最新盤だが、27番は2007年10月、21番は2008年10月の録音。つまり、ボルトン指揮で前に出ていた20番/23番と同時期の録音だ。20番などは日本でやったハーディングとの共演(この時は楽器はモダンだが、スタイルは完全にピリオド)の方が遥かに良かったが、今回の2曲はとても良い。そんなに曲を「こねくりまわす」ような解釈ではないが、自発性は申し分ない。このピアニストの武器である弱音部のニュアンスの豊富さと美しさが大いに生きていて、21番第1楽章での短調のエピソードなどはとても味が濃い。第2楽章は素直に歌っていて、かの名旋律が戻ってくるところでは、旋律装飾の代わりに響きを殺したピアニッシモで始めるというのも、実にいいセンス。この曲での大きな楽しみである両端楽章の自作カデンツァも素晴らしいが、老獪な内田/クリーヴランドなどに比べると、彼はまだ素直だ。アラン・タイソンによる自筆譜研究によれば(まだ定説ではないが)、「最後の年」ではなく1788年、つまり三大交響曲や26番「戴冠式」協奏曲と同じ年の作品だという27番も全くストレートに弾かれていて、ここでも第2楽章では旋律装飾を最小限にとどめている。これはこれでなかなかの見識、やり過ぎよりは遥かに良いと思う。

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