橋本徹の『チルアウト・メロウ・ビーツ』対談 【2】
Thursday, July 21st 2011
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山本:橋本さんの選曲には、『Jazz Supreme』にエリオット・スミスが入ったり、『Free Soul』に白人SSWやネオアコが入ったりするところに新鮮なサプライズがあって、自分が欲しているものに自由に出会えるというところが大きな魅力だと思うんですね。そういう観点から言えば、今回のコンピはその集大成というか、僕たちが聴きたかったコンピの究極の形だということを感じましたね。
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橋本:かなりダイナミックにそういう横断的な選曲ができた感じはあるな。
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山本:前回の『素晴らしきメランコリーのアルゼンチン』からの流れも含めてですけど、今回のコンピは橋本さんが一番つくりたかったものだったんじゃないかなということを正直に思いましたね。
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橋本:正直な話、地味に思われるんじゃないかと思っていた『素晴らしきメランコリーのアルゼンチン』が予想を超えて評価されたことも大きくて。今回はよりロマンティックでドラマティックな選曲だけど、最後の3曲なんて、完全にその延長で純粋に自分が一番聴きたいテイストだし、ガール・ウィズ・ザ・ガンの「Fix The Stars」なんかもそうだしね。
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吉本:ジョー・クラウゼルとアンドレス・ベエウサエルトがつながったことが、ひとつの核融合というか、あそこからアルゼンチン音楽などのすべてがつながった感じがあるな。
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河野:ほんとうに『美しき音楽のある風景〜素晴らしきメランコリーのアルゼンチン〜』の反響は大きかったですね。音楽でしっかりと深い反応がきているなと。
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山本:「長く音楽を聴いているけれど、こんなに感動したのは初めてです」とか、「ここから新しい音楽の扉が開いた」だとか。
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河野:アルゼンチン音楽にはまってしまって「仕事が手につかない」(笑)といううれしい反応も寄せられたり。HMV渋谷店ではじわじわと、確実に毎日売れていて、決して派手な売れ方はしないのですが、1日たりとも売れない日はないんですよ。
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稲葉:中原仁さんなどブラジル音楽に深く携わる方がすごくほめてくださったという話を聞いたり、いままでアルゼンチン系の音楽で成しえていなかったことができたというポジティヴな反応を感じます。
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吉本:前回のライナーでも触れたんだけど、「アルゼンチン・フォルクロリック・ジャズと呼ばれる音楽の繊細な側面と、アルゼンチン音響派と呼ばれる音楽の静謐な側面を結んで、新たな音の地平を切り開き、それは、まるで行き場のない魂を鎮めるレクイエムのようであり、寂寞とした心を癒すセラピー・ミュージックのようであり、言わば“心の調律師”によって奏でられる音楽とも言える雰囲気を湛えている」というように、ほんとうにスピリチュアルな要素が美しくあぶりだされていたね。
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稲葉:そうなんですよ。いわゆる“アルゼンチン音響派”というと、音そのものを規定してしまうところがあるんですけれど、あのコンピはスピリチュアルとかメディテイティヴというテイストの観点でまとめられていたことが新鮮だったんだと思います。
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橋本:聴後感というか、聴いていて心が鎮まる感じということで、素朴な音楽もハイブリッドな音楽もひとつの流れの中で調和したからね。
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稲葉:今回のコンピもジャンルは違えど、そういう視点でまとめられていますね。特にオープニングからの5曲のつながりは、メロウ・ビーツといいながらもわかりやすいビートがないという展開で印象的ですね。
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吉本:1曲目はテキサスのバルモレイの子供の遊ぶ声を収めたフィールド・レコーディングのオープニングで、ほんとうにノスタルジックで奇跡的な音だと思うな。この曲は「bar buenos aires」でかけてもすごく反応があったよね。
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山本:イントロの海辺の風景は、ビル・エヴァンスの「Children's Play Song」にもつながりますね。
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河野:この1曲目は象徴的な曲ですよ。「bar buenos aires」のフライヤーのヴィジュアルにもなりましたしね。ほんとうに映像が浮かぶようです。
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橋本:バルモレイにしてもガール・ウィズ・ザ・ガンにしても、なんかネオアコ心に響くロマンティシズムがあるんだよね。
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吉本:「bar buenos aires」でもジョー・クラウゼルからガール・ウィズ・ザ・ガン、カルロス・アギーレという流れを提示したけれど、自分たちの中でもほんとうに耳で聴いて気持ちいいと思える曲を自然につなげていったんだ。
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河野:ガール・ウィズ・ザ・ガンなんて、すごくマイナーなイタリアのアーティストですが、いわゆる“エレクトロニカ”以降の音に収まらないような魅力があって、こういうCDに入ることで、ようやくそのよさが伝わる気がします。
- Chill-Out Mellow Beats
〜Harmonie du soir - 橋本徹(サバービア)監修の人気シリーズ「Mellow Beats」からスペシャル・イシュー。「夕べのしらべ」(Harmonie du soir = ドビュッシーの曲名)をテーマに、ドラマティックでロマンティックでスピリチュアルな心に迫る名曲が連なるチルアウト・メロウな一枚が登場!

橋本徹 (SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは200枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。


